第123話 実
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「石川…!お前、何を……」
不敵に笑う石川は巻物をトントンと叩いてみせた。
「燃やすなんて勿体ない。こんな珍しい代物、売ればかなりの金額になるぞ。」
「なっ…!?」
「こいつは俺が貰い受けよう。」
ニヤリと口端を上げた石川は、巻物を懐にしまいこんだ。
「石川…!」
止めようと一歩踏み出した瞬間。
凍るような殺気を感じて身構えた。
「…そう簡単に逃げきれるとでも?」
包帯から覗く細い目が鋭く光り、低い声が静かに闇に響いた。
だが石川はフッと鼻で笑いとばすと早口に答えた。
「あんた怪我してるだろ?後から追手をよこしたとして唐や天竺までは追ってこれまい?そもそも城が栄えるとかどうとかスケールが小さいんだよ。もっとこう、天下をとるとか大きなことに目を向けろとお殿様に伝えておいてくれ。」
「泥棒が何を偉そうに。」
「俺は『天下の』大泥棒だぜ?」
ザザッ!
石川は私を一瞥すると勢いよく闇の中へと駆け出して行った。
「待て、石川…ッ!」
自分の声が暗闇に響く。
だが、追いかけようとした私の視界の端にたまみの姿が映った。
ここに彼女を置いていくわけには…!
「土井先生、私が。」
スッと私の前を横切ったのは利吉くんだった。
彼は石川の後を同じ俊敏さで追いかけて行き、すぐに二人の気配は感じられなくなった。
「…………」
雑渡は無言のまま木にもたれかかり腕を組んでいた。
なぜ石川達を追いかけないのか。
奴の今の狙いは巻物よりもたまみであるのか…それとも手負いで追いかけることが出来ないのか、それともあるいは…
「なぜ私が追わないのかって?」
雑渡が目を細めて私を見た。
その言葉に肯定も否定もせず表情を観察していると、雑渡はたまみをじっと見据えて聞いた。
「それより、きみは何者なんだ?信じ難いが…ここに私を連れてきたのは…瞬間移動させる能力か何かなのか?」
「………」
たまみは答えなかった。
というよりも、それはむしろ彼女自身が聞きたいことだ。
無言の彼女に、雑渡は言葉を続けた。
「意図的には使えないようだな。自在に瞬間移動できるなら戦でもかなり有効だが…敵の頭を暗殺すれば戦の必要もない。簡単に領土を広げて…城が更に栄えるとはそういう意味かもしれないな。」
探るようにこちらを見る目。
たまみが怯えるように私の斜め後ろに隠れた。
私はその細い肩をぐっと掴み雑渡を睨んだ。
「彼女にそんな力はない!」
「今は、ね。しかし鍛えればあるいは一万の軍にも勝るやも…」
「タソガレドキは婦女子を道具に使わないと勝てない弱小なのか。」
「…なんだと。」
互いの言葉に反発し、同時に苦無を構えて臨戦態勢をとった。
張りつめた空気。
冷たい風が頬に当たる。
……やがて、沈黙を破ったのは向こうだった。
「やめよう。私は事実を確認したいだけだ。」
雑渡は構えていた手を降ろし苦無をひいた。
本当に敵意がない…というよりは、先刻より微かに呼吸が浅くなってきている気がする。
もしや結構な深手なのか…
「彼女は諸刃の剣だな。」
「なに?」
「自在に力が使えるようになれば強力だが、逆に敵を自軍に招き破滅させることもできる…長年にわたり裏切らぬよう繋ぐのも色々と面倒だな。」
人を道具のように…!
私はグッと拳を握りしめ怒りを抑えて言った。
「…ならば諦めてそっとしておいてくれ。」
「でもねぇ、土井先生なら分かると思うけどそんな能力、敵に回したらこわいよね?」
だから今ここでその芽を摘んでおこうか、とでも言いたげな物言い。
危険因子は早目に殺してしまおう、ということか…!?
「手に入らないならいっそここで……」
ダンッ!!
手裏剣が、雑渡の頬を掠めて深く木に突き刺さった。
私は次に投げる手裏剣を構えて敵を睨み付け、怒りを込めて告げた。
「潰す…!」
こちらを見て微動だにしない雑渡に、私はさらに続けた。
「彼女に手を出せば、タソガレドキを潰す!!必ず!あらゆる手段で、必ずだ!私だけじゃない、忍術学園も黙ってないぞ…!」
これは脅しではない。
本気の威嚇だ。
あらゆる手段を講じてどんな手を使ってでも…
「……本来…」
雑渡は大きく息を吐いて呟いた。
「そういう判断をするのは殿なんだけどねぇ。」
雑渡は深く息を吐いて目を伏せ、小さく呟いた。
「この件に関しては…少々、殿の執心が過ぎる……」
雑渡は再び大きく息を吐き木にもたれた。
闇の中で包帯に隠れた表情は読み取りにくいが、やはりかなり深い傷を負っているのかもしれない。
「だから」
そう言って雑渡は私の懐を指差した。
「私の考えが変わらないうちに、早くそれを持って去るがいい。」
「!」
……気づかれていた…!
実は、本物の巻物は。
私が未だ持っているということに。
たまみがどういう意味かと不思議そうな顔で私を見てくる。
私は自分の懐に手を当て苦笑した。
「本物の巻物は、まだ私が持っているんだよ。」
「えっ?!」
たまみが驚きの声をあげた。
念のために、私はタソガレドキ城から偽物の巻物を1本持ってきていた。
本物の巻物に危害を加えると何が起きるか分からないので、先程はその偽物に火をつけたのだ。
そして、石川はその火のついた巻物を盗った。
…いや、盗ったフリをした。
石川は私と同じく偽物の巻物を拝借してきていたようで、私から巻物を奪ったように見せかけて実は私の袖口に火のついた方の巻物を押し込んで隠した。
あいつが盗ったようにみせかけたのは、石川自身がタソガレドキ城から持ってきた偽物だ。
おそらくあいつは、自分に敵の目を向けようとわざとああしたのだ。
自分が囮になっている隙に、本物を処分するよう時間をかせいでくれたのだ。
単純に燃やすだけで片付くのなら、とっくにそうしているはずだと…察してくれたのかもしれない。
タソガレドキ忍軍の組頭にはさすがに見抜かれたが…。
雑渡はたまみの顔をじっと見たあと、静かに告げた。
「殿への報告は……『巻物は人を瞬間移動させる力があるが、炎とともに焼失。そしてきみは巻物なしには何もできない。』…ということにしておこう。」
たまみが驚いて口に手を当てた。
「これで追われることもなくなるだろう。」
「…あ……ありがとうございます…!」
たまみが当惑しながらも頭を下げた。
そもそも向こうが勝手に言いがかりで追いかけてきてただけなので、お礼を言うのが相応しいのか微妙ではあるが…。
だが確かにそういうことにすれば、今後たまみを誘拐しようとすることもなくなりそうだ。
「わかった。ではこちら側もそれで話を合わせておこう。」
私がそう答えると、雑渡は頷きその場にゆっくり座り込んだ。
「…大丈夫か?」
「問題ない。」
顔色は分からないが、やはり具合が悪そうだ。
我々を油断させて後から襲うつもりではないかとも疑ったが、これは演技ではないようだ。
「…応急手当てだけでも…」
「必要ない。」
億劫そうに早く行けと促す雑渡。
するとたまみは警戒しながら雑渡の前にサッと小瓶を置いた。
あれは、伊作の作った軟膏…止血薬だ。
「ちゃんとお城に戻って……先ほどの話、お殿様に伝えてくださいね。」
たまみはそう言うと、自身の頭巾を外して雑渡の目をじっと見た。
雑渡は数度瞬きすると不要だと言わんばかりに手を払い、「当然だ。」と頷いた。
私はたまみの背中を押し、彼女の手をとるとそのまま山道を歩き始めた………。
不敵に笑う石川は巻物をトントンと叩いてみせた。
「燃やすなんて勿体ない。こんな珍しい代物、売ればかなりの金額になるぞ。」
「なっ…!?」
「こいつは俺が貰い受けよう。」
ニヤリと口端を上げた石川は、巻物を懐にしまいこんだ。
「石川…!」
止めようと一歩踏み出した瞬間。
凍るような殺気を感じて身構えた。
「…そう簡単に逃げきれるとでも?」
包帯から覗く細い目が鋭く光り、低い声が静かに闇に響いた。
だが石川はフッと鼻で笑いとばすと早口に答えた。
「あんた怪我してるだろ?後から追手をよこしたとして唐や天竺までは追ってこれまい?そもそも城が栄えるとかどうとかスケールが小さいんだよ。もっとこう、天下をとるとか大きなことに目を向けろとお殿様に伝えておいてくれ。」
「泥棒が何を偉そうに。」
「俺は『天下の』大泥棒だぜ?」
ザザッ!
石川は私を一瞥すると勢いよく闇の中へと駆け出して行った。
「待て、石川…ッ!」
自分の声が暗闇に響く。
だが、追いかけようとした私の視界の端にたまみの姿が映った。
ここに彼女を置いていくわけには…!
「土井先生、私が。」
スッと私の前を横切ったのは利吉くんだった。
彼は石川の後を同じ俊敏さで追いかけて行き、すぐに二人の気配は感じられなくなった。
「…………」
雑渡は無言のまま木にもたれかかり腕を組んでいた。
なぜ石川達を追いかけないのか。
奴の今の狙いは巻物よりもたまみであるのか…それとも手負いで追いかけることが出来ないのか、それともあるいは…
「なぜ私が追わないのかって?」
雑渡が目を細めて私を見た。
その言葉に肯定も否定もせず表情を観察していると、雑渡はたまみをじっと見据えて聞いた。
「それより、きみは何者なんだ?信じ難いが…ここに私を連れてきたのは…瞬間移動させる能力か何かなのか?」
「………」
たまみは答えなかった。
というよりも、それはむしろ彼女自身が聞きたいことだ。
無言の彼女に、雑渡は言葉を続けた。
「意図的には使えないようだな。自在に瞬間移動できるなら戦でもかなり有効だが…敵の頭を暗殺すれば戦の必要もない。簡単に領土を広げて…城が更に栄えるとはそういう意味かもしれないな。」
探るようにこちらを見る目。
たまみが怯えるように私の斜め後ろに隠れた。
私はその細い肩をぐっと掴み雑渡を睨んだ。
「彼女にそんな力はない!」
「今は、ね。しかし鍛えればあるいは一万の軍にも勝るやも…」
「タソガレドキは婦女子を道具に使わないと勝てない弱小なのか。」
「…なんだと。」
互いの言葉に反発し、同時に苦無を構えて臨戦態勢をとった。
張りつめた空気。
冷たい風が頬に当たる。
……やがて、沈黙を破ったのは向こうだった。
「やめよう。私は事実を確認したいだけだ。」
雑渡は構えていた手を降ろし苦無をひいた。
本当に敵意がない…というよりは、先刻より微かに呼吸が浅くなってきている気がする。
もしや結構な深手なのか…
「彼女は諸刃の剣だな。」
「なに?」
「自在に力が使えるようになれば強力だが、逆に敵を自軍に招き破滅させることもできる…長年にわたり裏切らぬよう繋ぐのも色々と面倒だな。」
人を道具のように…!
私はグッと拳を握りしめ怒りを抑えて言った。
「…ならば諦めてそっとしておいてくれ。」
「でもねぇ、土井先生なら分かると思うけどそんな能力、敵に回したらこわいよね?」
だから今ここでその芽を摘んでおこうか、とでも言いたげな物言い。
危険因子は早目に殺してしまおう、ということか…!?
「手に入らないならいっそここで……」
ダンッ!!
手裏剣が、雑渡の頬を掠めて深く木に突き刺さった。
私は次に投げる手裏剣を構えて敵を睨み付け、怒りを込めて告げた。
「潰す…!」
こちらを見て微動だにしない雑渡に、私はさらに続けた。
「彼女に手を出せば、タソガレドキを潰す!!必ず!あらゆる手段で、必ずだ!私だけじゃない、忍術学園も黙ってないぞ…!」
これは脅しではない。
本気の威嚇だ。
あらゆる手段を講じてどんな手を使ってでも…
「……本来…」
雑渡は大きく息を吐いて呟いた。
「そういう判断をするのは殿なんだけどねぇ。」
雑渡は深く息を吐いて目を伏せ、小さく呟いた。
「この件に関しては…少々、殿の執心が過ぎる……」
雑渡は再び大きく息を吐き木にもたれた。
闇の中で包帯に隠れた表情は読み取りにくいが、やはりかなり深い傷を負っているのかもしれない。
「だから」
そう言って雑渡は私の懐を指差した。
「私の考えが変わらないうちに、早くそれを持って去るがいい。」
「!」
……気づかれていた…!
実は、本物の巻物は。
私が未だ持っているということに。
たまみがどういう意味かと不思議そうな顔で私を見てくる。
私は自分の懐に手を当て苦笑した。
「本物の巻物は、まだ私が持っているんだよ。」
「えっ?!」
たまみが驚きの声をあげた。
念のために、私はタソガレドキ城から偽物の巻物を1本持ってきていた。
本物の巻物に危害を加えると何が起きるか分からないので、先程はその偽物に火をつけたのだ。
そして、石川はその火のついた巻物を盗った。
…いや、盗ったフリをした。
石川は私と同じく偽物の巻物を拝借してきていたようで、私から巻物を奪ったように見せかけて実は私の袖口に火のついた方の巻物を押し込んで隠した。
あいつが盗ったようにみせかけたのは、石川自身がタソガレドキ城から持ってきた偽物だ。
おそらくあいつは、自分に敵の目を向けようとわざとああしたのだ。
自分が囮になっている隙に、本物を処分するよう時間をかせいでくれたのだ。
単純に燃やすだけで片付くのなら、とっくにそうしているはずだと…察してくれたのかもしれない。
タソガレドキ忍軍の組頭にはさすがに見抜かれたが…。
雑渡はたまみの顔をじっと見たあと、静かに告げた。
「殿への報告は……『巻物は人を瞬間移動させる力があるが、炎とともに焼失。そしてきみは巻物なしには何もできない。』…ということにしておこう。」
たまみが驚いて口に手を当てた。
「これで追われることもなくなるだろう。」
「…あ……ありがとうございます…!」
たまみが当惑しながらも頭を下げた。
そもそも向こうが勝手に言いがかりで追いかけてきてただけなので、お礼を言うのが相応しいのか微妙ではあるが…。
だが確かにそういうことにすれば、今後たまみを誘拐しようとすることもなくなりそうだ。
「わかった。ではこちら側もそれで話を合わせておこう。」
私がそう答えると、雑渡は頷きその場にゆっくり座り込んだ。
「…大丈夫か?」
「問題ない。」
顔色は分からないが、やはり具合が悪そうだ。
我々を油断させて後から襲うつもりではないかとも疑ったが、これは演技ではないようだ。
「…応急手当てだけでも…」
「必要ない。」
億劫そうに早く行けと促す雑渡。
するとたまみは警戒しながら雑渡の前にサッと小瓶を置いた。
あれは、伊作の作った軟膏…止血薬だ。
「ちゃんとお城に戻って……先ほどの話、お殿様に伝えてくださいね。」
たまみはそう言うと、自身の頭巾を外して雑渡の目をじっと見た。
雑渡は数度瞬きすると不要だと言わんばかりに手を払い、「当然だ。」と頷いた。
私はたまみの背中を押し、彼女の手をとるとそのまま山道を歩き始めた………。