第122話 青い焔
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「おい、土井!しっかりしろ、目を覚ませ!!」
パチンと頬を叩かれて目が覚めた。
暗闇のなか、石川の安堵する声がした。
「よし起きたな。怪我は?痛むところは?!」
「………いや、大丈夫だ。」
横たわっていた体を起こし、手足の感覚を確認する。
どこにも痛みはなく感覚もある。
手のひらに砂と草の感触。
城壁の下に落ちたのかと思ったが、それにしては草木の匂いと風に揺れる木々の音が大きくて……まるで夜の森のようにどこからか鳥の鳴き声が微かに聞こえた。
「石川、ここはどこだ?」
意識を失った瞬間を思い出す。
あのとき何が…
「ここはどこかの森のなかですね。」
利吉くんの声が聞こえた。
闇に目が慣れてきてその声の方に振り向くと、彼は周囲を調べていたのか木の上から降り立った。
「小僧、森の中なんてのは見れば分かる。どこなのかって話だ。」
「山奥のようで…星もありませんし日が昇るまで位置の特定は難しいかと。…というかどうしてそんなに偉そうに言われなきゃいけないんですか。」
「まぁまぁ利吉くん、落ち着いて…。それより、何がどうなったか教えてくれないか。山奥って、2人が私を運んでくれたのかい?」
聞くと、利吉くんと石川は目を見合わせて困った顔をした。
「順を追って話そう。まず、俺が苦無で城壁にぶら下がっていたらお前が上から落ちてきた。」
「えっ、ああ…ごめん、突然目の前が真っ白になって意識がなくなってしまって…。」
「…胸は大丈夫か?」
胸?
何かあったのかと俯いて確認したが、何も変わったところはなかった。
触っても痛くないし何ともない。
「胸が燃えていたぞ。」
「えっ?!」
「ぶつかったとき、お前の胸に青い炎がついていて…てっきり火矢で射られたかと。」
「青い炎…?」
「お前の火薬武器か何かか?」
「…………いや、そんなものは…。」
「そうか…見間違いではないと思うが。まぁとにかくそれで、落ちてきた土井を掴もうとしたら城壁に刺していた苦無が抜けて俺も一緒に落下して…」
石川の目線が利吉くんに向けられた。
利吉くんは頷きその場にしゃがみこんだ。
「私も城壁に掴まっていたのですが、お二人が上から落ちてきて。苦無一本でお二人を支えられるはずもなく、飛んでくる弓矢に気を取られてお二人に気づくのも一瞬遅れて…そのときですね。」
「…そのとき?」
利吉くんが神妙な面持ちで私を見た。
「土井先生の全身が青白い炎に包まれまして…」
「青白い炎?」
「…はい。確かにこの目で見ました。」
「その炎が俺達三人に燃え広がって…気づけばここに居たってわけだ。幸い火傷もなかったが…あれは一体なんだったんだ?」
「………」
青白い炎…。
そう聞いてまず思い浮かんだのは、たまみがこの世界に初めて現れたときの光景だった。
巻物が姿を消した瞬間の、印象的な青白い焔。
まさか私に、それと同じ炎が…?
そして石川と利吉くんをも巻き添えにして…ここに飛ばされたということか?
「!」
ふと何かの気配がして私は頭上を見上げた。
私の視線に、石川と利吉くんも目線を上げる。
「…これは……!?」
木々の間に大きな光が現れ、やがてそれは大きくなり…そして………。
ドサドサッ!!
大きな影が、光の中から地面に落ちた。
影はふたつ。
……人間だ。
一人は受け身をとって着地し、もう一人は尻餅をついて地面に倒れて…。
「!!」
考えるより先に身体が動いた。
私は倒れている彼女に駆け寄り抱き起こした。
「たまみ!!?」
俯いて朦朧としている。
頰に手を当てこちら向かせると…たまみが、ハッと驚いて私を見上げた。
揺れる瞳が私を凝視する。
「…どい、せんせ……!?」
まるで確かめるように、掠れた声で私の名を呼んだ。
私の腕を掴む手は冷たく震えている。
頷いて目を見つめると、たまみは私にきつくしがみついた。
「…はんすけさん…?!」
「ああ、私だ。」
震える小さな手に手を重ねた。
ぐっと力を込めて抱きしめると、たまみが目に浮かべていた涙をこぼした。
「もう…会えないかと…!」
「!」
絞り出すように呟かれた声。
もう会えない…とは。
私が死んだと思ったか…いや、彼女自身が死を覚悟するような恐い目に……いいや、違う。
彼女の手に握りしめられてる巻物。
私は先程光った空間を一瞥した。
なぜここに、とか。
今の光は一体、とか。
何をそんなに怯えているのか…会えないとはどういうことか…、とか。
それらは彼女の手のなかにある巻物と先程の光から推測できた。
この巻物が彼女を…我々をここに飛ばしたのだろう。
しかしなぜ、私や利吉くん達まで…?
だがもし……、もしも、飛ばされた先が同じ場所ではなかったら………彼女の元の世界や、異なる世界に飛ばされていたら………
私は反射的に彼女の手から巻物を奪って懐に入れた。
これが…これのせいで…!
たまみと二度と会えなくなるなんて………!!
ピリッ!
刹那、突然鋭い視線を感じて身構えた。
暗闇に低い声が響く。
「…これはどういうことだ?」
咄嗟に構えた苦無に、いつの間にか現れた月の光が反射した。
たまみを背に庇う私の前には、既に利吉くんが身構えて立っていた。
その声の主は、彼女と共に現れた男…雑渡昆奈門だ。
雑渡は状況を把握すべく周囲を見渡していた。
その僅かな動きに違和感を覚える…どこか怪我をしているようだ。
手負いと悟られぬようにしているが…たまみと現れたということは、もしや山田先生と戦闘になったのか。
タソガレドキ城内に雑渡の姿がなかったので忍術学園に行ったのではないかと危惧していたが、やはりそうだったか…。
「…その巻物…、まさか本当に不思議な力があったとは。」
私とたまみ、そして石川と利吉くんを順に眺めると、雑渡昆奈門は確かめるように呟いた。
「土井先生達はタソガレドキ城へ侵入中だと思っていたが…こんな森の中で何を?」
「教える義理はない。」
すげなく突っぱねると、彼は目を細めてたまみを見た。
「巻物を使って幻術でも…?」
「そんなわけないだろう。」
私はたまみを背に隠すように庇いながら雑渡を睨み付けた。
「いい加減、彼女と巻物のことは諦めろ。」
そう言うと同時に。
私は懐から巻物を取り出し袖火で即座に火をつけた。
暗闇のなか、赤い炎が風に微かに揺れる。
「「「「!!」」」」
「これで巻物はなくなる。どんな力があったとしてももう…」
ドシンッ!
背後から不意をつかれた。
私を突き飛ばし、不敵な笑みを浮かべたのは…
石川だった。
「おいおい、燃やすなんて勿体ない。半信半疑だったがこいつは金になりそうじゃねぇか。」
その手には、火の消えた巻物が握られていた。
パチンと頬を叩かれて目が覚めた。
暗闇のなか、石川の安堵する声がした。
「よし起きたな。怪我は?痛むところは?!」
「………いや、大丈夫だ。」
横たわっていた体を起こし、手足の感覚を確認する。
どこにも痛みはなく感覚もある。
手のひらに砂と草の感触。
城壁の下に落ちたのかと思ったが、それにしては草木の匂いと風に揺れる木々の音が大きくて……まるで夜の森のようにどこからか鳥の鳴き声が微かに聞こえた。
「石川、ここはどこだ?」
意識を失った瞬間を思い出す。
あのとき何が…
「ここはどこかの森のなかですね。」
利吉くんの声が聞こえた。
闇に目が慣れてきてその声の方に振り向くと、彼は周囲を調べていたのか木の上から降り立った。
「小僧、森の中なんてのは見れば分かる。どこなのかって話だ。」
「山奥のようで…星もありませんし日が昇るまで位置の特定は難しいかと。…というかどうしてそんなに偉そうに言われなきゃいけないんですか。」
「まぁまぁ利吉くん、落ち着いて…。それより、何がどうなったか教えてくれないか。山奥って、2人が私を運んでくれたのかい?」
聞くと、利吉くんと石川は目を見合わせて困った顔をした。
「順を追って話そう。まず、俺が苦無で城壁にぶら下がっていたらお前が上から落ちてきた。」
「えっ、ああ…ごめん、突然目の前が真っ白になって意識がなくなってしまって…。」
「…胸は大丈夫か?」
胸?
何かあったのかと俯いて確認したが、何も変わったところはなかった。
触っても痛くないし何ともない。
「胸が燃えていたぞ。」
「えっ?!」
「ぶつかったとき、お前の胸に青い炎がついていて…てっきり火矢で射られたかと。」
「青い炎…?」
「お前の火薬武器か何かか?」
「…………いや、そんなものは…。」
「そうか…見間違いではないと思うが。まぁとにかくそれで、落ちてきた土井を掴もうとしたら城壁に刺していた苦無が抜けて俺も一緒に落下して…」
石川の目線が利吉くんに向けられた。
利吉くんは頷きその場にしゃがみこんだ。
「私も城壁に掴まっていたのですが、お二人が上から落ちてきて。苦無一本でお二人を支えられるはずもなく、飛んでくる弓矢に気を取られてお二人に気づくのも一瞬遅れて…そのときですね。」
「…そのとき?」
利吉くんが神妙な面持ちで私を見た。
「土井先生の全身が青白い炎に包まれまして…」
「青白い炎?」
「…はい。確かにこの目で見ました。」
「その炎が俺達三人に燃え広がって…気づけばここに居たってわけだ。幸い火傷もなかったが…あれは一体なんだったんだ?」
「………」
青白い炎…。
そう聞いてまず思い浮かんだのは、たまみがこの世界に初めて現れたときの光景だった。
巻物が姿を消した瞬間の、印象的な青白い焔。
まさか私に、それと同じ炎が…?
そして石川と利吉くんをも巻き添えにして…ここに飛ばされたということか?
「!」
ふと何かの気配がして私は頭上を見上げた。
私の視線に、石川と利吉くんも目線を上げる。
「…これは……!?」
木々の間に大きな光が現れ、やがてそれは大きくなり…そして………。
ドサドサッ!!
大きな影が、光の中から地面に落ちた。
影はふたつ。
……人間だ。
一人は受け身をとって着地し、もう一人は尻餅をついて地面に倒れて…。
「!!」
考えるより先に身体が動いた。
私は倒れている彼女に駆け寄り抱き起こした。
「たまみ!!?」
俯いて朦朧としている。
頰に手を当てこちら向かせると…たまみが、ハッと驚いて私を見上げた。
揺れる瞳が私を凝視する。
「…どい、せんせ……!?」
まるで確かめるように、掠れた声で私の名を呼んだ。
私の腕を掴む手は冷たく震えている。
頷いて目を見つめると、たまみは私にきつくしがみついた。
「…はんすけさん…?!」
「ああ、私だ。」
震える小さな手に手を重ねた。
ぐっと力を込めて抱きしめると、たまみが目に浮かべていた涙をこぼした。
「もう…会えないかと…!」
「!」
絞り出すように呟かれた声。
もう会えない…とは。
私が死んだと思ったか…いや、彼女自身が死を覚悟するような恐い目に……いいや、違う。
彼女の手に握りしめられてる巻物。
私は先程光った空間を一瞥した。
なぜここに、とか。
今の光は一体、とか。
何をそんなに怯えているのか…会えないとはどういうことか…、とか。
それらは彼女の手のなかにある巻物と先程の光から推測できた。
この巻物が彼女を…我々をここに飛ばしたのだろう。
しかしなぜ、私や利吉くん達まで…?
だがもし……、もしも、飛ばされた先が同じ場所ではなかったら………彼女の元の世界や、異なる世界に飛ばされていたら………
私は反射的に彼女の手から巻物を奪って懐に入れた。
これが…これのせいで…!
たまみと二度と会えなくなるなんて………!!
ピリッ!
刹那、突然鋭い視線を感じて身構えた。
暗闇に低い声が響く。
「…これはどういうことだ?」
咄嗟に構えた苦無に、いつの間にか現れた月の光が反射した。
たまみを背に庇う私の前には、既に利吉くんが身構えて立っていた。
その声の主は、彼女と共に現れた男…雑渡昆奈門だ。
雑渡は状況を把握すべく周囲を見渡していた。
その僅かな動きに違和感を覚える…どこか怪我をしているようだ。
手負いと悟られぬようにしているが…たまみと現れたということは、もしや山田先生と戦闘になったのか。
タソガレドキ城内に雑渡の姿がなかったので忍術学園に行ったのではないかと危惧していたが、やはりそうだったか…。
「…その巻物…、まさか本当に不思議な力があったとは。」
私とたまみ、そして石川と利吉くんを順に眺めると、雑渡昆奈門は確かめるように呟いた。
「土井先生達はタソガレドキ城へ侵入中だと思っていたが…こんな森の中で何を?」
「教える義理はない。」
すげなく突っぱねると、彼は目を細めてたまみを見た。
「巻物を使って幻術でも…?」
「そんなわけないだろう。」
私はたまみを背に隠すように庇いながら雑渡を睨み付けた。
「いい加減、彼女と巻物のことは諦めろ。」
そう言うと同時に。
私は懐から巻物を取り出し袖火で即座に火をつけた。
暗闇のなか、赤い炎が風に微かに揺れる。
「「「「!!」」」」
「これで巻物はなくなる。どんな力があったとしてももう…」
ドシンッ!
背後から不意をつかれた。
私を突き飛ばし、不敵な笑みを浮かべたのは…
石川だった。
「おいおい、燃やすなんて勿体ない。半信半疑だったがこいつは金になりそうじゃねぇか。」
その手には、火の消えた巻物が握られていた。
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