「痛ッ…！！」

物凄い力で、腕を掴まれた。
雑渡さんの大きな手。
反射的に振り払おうとするもびくともしない。
あまりの痛みに顔をゆがめた、その、瞬間。

ボボボッッ！

「！！！」

私を包む炎が、雑渡さんの腕に勢いよく燃え移った。

「うぉぉ…ッ！！？？」

瞬時に燃え広がる炎。
熱くはないけれど視覚的に戦慄し混乱した。

炎に対する恐怖
殺気立つ男に腕を掴まれている恐怖
そして…直感的に感じた、消えてしまう恐怖

パニックになり言葉も出せなかった。
包帯の隙間から覗く鋭い目と目があったほんの一瞬がひどく長く感じられた。

「その手を離せ…ッ！！！」

伝子さんが地声で怒鳴り雑渡さんの腕を苦無で切りつけた。
空を切る音がして、雑渡さんが後ろに飛び退き私から離れた。
けれど、彼の右手には既に炎が引火していて…

「ッ！！！」

いつも飄然としている雑渡さんの姿からは想像出来ないほどの動揺が見えた。
激しく手を振り払ってもその炎は消えず、一瞬にして彼を包み込んだ。

「こ…これはっ……！！？？」

狼狽える彼。
その姿に私も焦った。

私だけでなく…触れた人も共に消される…！？
巻き添えにしてしまった…！！？

そして、半ば無意識に伸ばした自らの手に、固まった。

指先が、消えている…！！！

「たまみくん…っ！！」

伝子さんが私に布を被せて火を消そうとしたので、私は手でそれを遮った。

「ダメです！……触れては…！」

山田先生まで消えてしまう…！！！

消えた指先を見えるように前に突き出す。
伝子さんが目を見開き固まった。
立花くんが「水を！」と声をあげ即座に七松くん達が駆け出して行く。

目線を手に戻したときには、もう手首まで見えなくなっていた。

身体が、消えていく…！！

助けを乞うように伝子さんを見た。
けれど、伝子さんの表情に、私は自分が助からないと悟った。

なら、最後に、なにか言わなくては…！

いつかこんなときが来るかもしれないと覚悟はしていたのに。
全く想定していなかったわけではないのに。
いざとなると言葉が出なくて…！

脳裏を掠める土井先生の笑顔。

……半助さん……ッ！！！！！

涙で景色が霞んだ。
伝子さんがグッと唇を噛む。

「すまん、半助…！」

伝子さんが私に背を向け、雑渡さんに斬りかかった。

「せめてこいつは…！同じところへ行かぬよう…息の根を…ッ！！」

声が、遠く聞こえた。
霞む視界のなかで、雑渡さんの身体が消えた気がした。

「………！！」

そして、伝子さんの背中を見つめたまま、私の意識はそこで途切れた。