第121話 新月
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「土井先生達、大丈夫かな…」
私は忍術学園の自室で一人ため息をついた。
土井先生、利吉さん、石川さんの3人を見送ったあと、私はここで暫く待機するよう山田先生に言われていたのだ。
じっと障子を見つめ、先刻のことを思い返す。
「いってくるよ。」と微笑む土井先生の目はいつものように穏やかだった。
何事でもないかのように普段と同じ笑顔。
でもその手首には私が彼の誕生日に贈った…カエルを刺繍した半手甲が巻かれていて。
彼は「必ずたまみのもとに帰るから安心して。」と、刺繍のカエルを優しく撫でて微笑んだ…。
「…大丈夫、信じよう。考えても、いまできることはない…。」
私は大きく息を吐いた。
そう、今すべきことはきっと他にある。
…もしも土井先生の言う通りここにタソガレドキ忍者が来たらどうするか…山田先生は待機しているだけでいいと言ったけれどどういうことなのだろう。
詳しく聞いてみたけれど、任せろと笑って詳細を教えてくれなかった。
「たまみさん、失礼します。」
障子の向こうから善法寺くんの声が聞こえた。
「はい」と答えると障子があけられ、そこにはなんと……
「!?」
わ、私…!?
廊下には、私そっくりな人物が6人並んで立っていた。
顔は全員同じ…!
私に似ているというか私そのものだ。
ただ全員身長は高く、体格もいいというか…
「鉢屋に変装させてもらったんです。」
「!!…その声は、食満くん…!?な、なんで私に…!?」
すると、六人の後ろから伝子さんがニコニコしながら現れた。
「木を隠すなら森のなか、ってことよ。今日は忍術学園全体で女装大会…もとい変装大会を開くことにしたの。生徒全員、たまみちゃんに変装してもらって誰が一番そっくりか本人に決めてもらうというものよ。」
「ええぇっ…!?」
な、何それ!?
みんなが私に変装!??
「これなら、どれが本物のたまみちゃんか分かりにくいでしょう?」
伝子さんが片目を閉じてウインクした。
もはやどこからツッコミをいれたらいいのか分からなくて私は苦笑した。
木を隠すなら森のなか?
たしかに私のそっくりさんがたくさんいたら敵は迷うかもしれないけど…。
それってでももしかして、どさくさに紛れて女装大会をしたかっただけでは…!?
皆には何て説明を…!?というか、なんと多大なご迷惑を…!
私が反対すると思ったから山田先生は事前に私に黙っていたのかしら…それとも私を驚かして緊張をほぐそうとか……いやでもこれは…勘違いで他の生徒を危険な目にあわせてしまうのでは…!?
一瞬で色んな考えが頭を巡り、山田先生と六年生の皆をオロオロと眺めてしまった。
「ビックリしたでしょう。」
声からして善法寺くんと思われる「私」が、苦笑しながら説明してくれた。
「僕たち六年生だけは鉢屋三郎にメイクをしてもらったんです。」
「ああ、それでそんなにそっくりに…!」
「はい。それから、僕たちにはもうひとつ目的があって…」
「たまみさんの近くで、警護をすることです。」
「!」
食満くんが一歩前に出て拳をパシンと鳴らした。
「タソガレドキがたまみさんを誘拐しに来るかもしれないと聞きました。俺達が必ず守りますので、大船に乗った気持ちで安心してください!」
返り討ちにしてやる、と呟く私の顔。
頼もしく勇ましいような、姿と声と仕草が噛み合わないような不思議な感覚に陥りながらも、私は深々と頭を下げた。
「ありがとう…、でもみんな怪我はしないでね…」
「細かいことは気にしないでくたさい!なんだかこれ面白いし!」
「小平太、たまみさんの姿で変なポーズをするな。」
「留三郎、そんなこと言ってたら肝心なときに戦えんぞ。いついかなるときもどんな姿でもギンギンに全力で応戦できるようにしておけ。」
「おい文次郎、だからといって足を開いてあぐらで座っていたら、本物じゃないことが一目でバレて変装している意味がないぞ。」
「仙三、炮烙火矢を手にしているのも一目で本物じゃないとバレると思うぞ。」
「…もそ……」
いつものようにわぁわぁと話し出す6人。
先程までの不安も吹き飛び、いったいどうしたものかと言葉を探していたそのとき。
「やあ、今宵は何のお祭りかな。」
「「「「「!!」」」」」
聞き覚えのある声。
場の空気が一瞬でピリッと凍りついた。
振り向くとそこには。
暗い忍装束の男が、廊下の闇に溶け込むように立っていた。
「何の用かしら、雑渡昆奈門。」
伝子さんがスッと苦無を構えて前に立ち、その後ろで善法寺くん達が私を隠すように立ち塞がった。
「言わずとも分かっているでしょう、彼女を貰い受けにきただけですよ。」
包帯から覗く鋭い目が私を見た。
「彼女は忍術学園の一員よ。黄昏甚兵衛は忍術学園全体を敵に回すつもり?」
「先にこちらに仕掛けてきたのはそちらでしょう。今頃土井先生達はうちの城で捕まって…」
「ハッタリもほどほどになさい。」
「保健委員会の子達から今日は女装大会があると聞きましてね。今夜は新月だし、土井先生と縁ある天下の大泥棒をけしかけた日から考えてもちょうどよい頃合いですから…」
雑渡さんが不意に懐に手を入れ、全員が一瞬身構えた。
けれど、そこから出てきたのは武器でも何でもなく…
「念のため、狙われそうなものは私がここに持ってきたのですよ。」
「「!!!」」
その手には、一本の巻物。
ゾクリ
全身の血の気がひいた。
…本物、だ………!!
なぜかそのとき直感した。
そう、それは、いま土井先生達が探しにいっているはずのもの…!
「さて。きみにならこれが本物かどうか…分かるかな?」
雑渡さんの鋭い目が試すように私を覗き込む。
と、次の瞬間。
「ッ!!!!?」
雑渡さんの手のなかの巻物が、突如青白い炎で燃え上がった。
炎に怯んだその僅かな隙を逃さず、六年生全員が雑渡さんに飛びかかって…
「炎に臆したか雑渡昆奈門!」
「ッ、誰が…!」
バシッッ!!
一瞬の隙をつき、巻物が縄鏢に弾き落とされた。
畳を転がる巻物。
私の足元の近くにきたそれを、反射的に拾おうと触れた、その瞬間。
「!!!!!」
青白い炎が一瞬にして私の全身を包み込んだ。
熱くはない…けれどこの感触を、私は知っている…!!
「あ……!!」
視界が、白く霞む。
「ッ、いや……っ!」
炎を消そうとパニックになって手を振り払う。
全身にまとわりつく青白い炎は、全く消えなかった。
「あぁ…っ!!」
いやだ、消えたくない…!
土井先生…!!!
ガシッ
強く腕を捕まれる感触。
薄れ行く意識のなかで目の前に現れたのは…
「逃がさん…!!!」
包帯の間から鋭く睨む細い目だった。
私は忍術学園の自室で一人ため息をついた。
土井先生、利吉さん、石川さんの3人を見送ったあと、私はここで暫く待機するよう山田先生に言われていたのだ。
じっと障子を見つめ、先刻のことを思い返す。
「いってくるよ。」と微笑む土井先生の目はいつものように穏やかだった。
何事でもないかのように普段と同じ笑顔。
でもその手首には私が彼の誕生日に贈った…カエルを刺繍した半手甲が巻かれていて。
彼は「必ずたまみのもとに帰るから安心して。」と、刺繍のカエルを優しく撫でて微笑んだ…。
「…大丈夫、信じよう。考えても、いまできることはない…。」
私は大きく息を吐いた。
そう、今すべきことはきっと他にある。
…もしも土井先生の言う通りここにタソガレドキ忍者が来たらどうするか…山田先生は待機しているだけでいいと言ったけれどどういうことなのだろう。
詳しく聞いてみたけれど、任せろと笑って詳細を教えてくれなかった。
「たまみさん、失礼します。」
障子の向こうから善法寺くんの声が聞こえた。
「はい」と答えると障子があけられ、そこにはなんと……
「!?」
わ、私…!?
廊下には、私そっくりな人物が6人並んで立っていた。
顔は全員同じ…!
私に似ているというか私そのものだ。
ただ全員身長は高く、体格もいいというか…
「鉢屋に変装させてもらったんです。」
「!!…その声は、食満くん…!?な、なんで私に…!?」
すると、六人の後ろから伝子さんがニコニコしながら現れた。
「木を隠すなら森のなか、ってことよ。今日は忍術学園全体で女装大会…もとい変装大会を開くことにしたの。生徒全員、たまみちゃんに変装してもらって誰が一番そっくりか本人に決めてもらうというものよ。」
「ええぇっ…!?」
な、何それ!?
みんなが私に変装!??
「これなら、どれが本物のたまみちゃんか分かりにくいでしょう?」
伝子さんが片目を閉じてウインクした。
もはやどこからツッコミをいれたらいいのか分からなくて私は苦笑した。
木を隠すなら森のなか?
たしかに私のそっくりさんがたくさんいたら敵は迷うかもしれないけど…。
それってでももしかして、どさくさに紛れて女装大会をしたかっただけでは…!?
皆には何て説明を…!?というか、なんと多大なご迷惑を…!
私が反対すると思ったから山田先生は事前に私に黙っていたのかしら…それとも私を驚かして緊張をほぐそうとか……いやでもこれは…勘違いで他の生徒を危険な目にあわせてしまうのでは…!?
一瞬で色んな考えが頭を巡り、山田先生と六年生の皆をオロオロと眺めてしまった。
「ビックリしたでしょう。」
声からして善法寺くんと思われる「私」が、苦笑しながら説明してくれた。
「僕たち六年生だけは鉢屋三郎にメイクをしてもらったんです。」
「ああ、それでそんなにそっくりに…!」
「はい。それから、僕たちにはもうひとつ目的があって…」
「たまみさんの近くで、警護をすることです。」
「!」
食満くんが一歩前に出て拳をパシンと鳴らした。
「タソガレドキがたまみさんを誘拐しに来るかもしれないと聞きました。俺達が必ず守りますので、大船に乗った気持ちで安心してください!」
返り討ちにしてやる、と呟く私の顔。
頼もしく勇ましいような、姿と声と仕草が噛み合わないような不思議な感覚に陥りながらも、私は深々と頭を下げた。
「ありがとう…、でもみんな怪我はしないでね…」
「細かいことは気にしないでくたさい!なんだかこれ面白いし!」
「小平太、たまみさんの姿で変なポーズをするな。」
「留三郎、そんなこと言ってたら肝心なときに戦えんぞ。いついかなるときもどんな姿でもギンギンに全力で応戦できるようにしておけ。」
「おい文次郎、だからといって足を開いてあぐらで座っていたら、本物じゃないことが一目でバレて変装している意味がないぞ。」
「仙三、炮烙火矢を手にしているのも一目で本物じゃないとバレると思うぞ。」
「…もそ……」
いつものようにわぁわぁと話し出す6人。
先程までの不安も吹き飛び、いったいどうしたものかと言葉を探していたそのとき。
「やあ、今宵は何のお祭りかな。」
「「「「「!!」」」」」
聞き覚えのある声。
場の空気が一瞬でピリッと凍りついた。
振り向くとそこには。
暗い忍装束の男が、廊下の闇に溶け込むように立っていた。
「何の用かしら、雑渡昆奈門。」
伝子さんがスッと苦無を構えて前に立ち、その後ろで善法寺くん達が私を隠すように立ち塞がった。
「言わずとも分かっているでしょう、彼女を貰い受けにきただけですよ。」
包帯から覗く鋭い目が私を見た。
「彼女は忍術学園の一員よ。黄昏甚兵衛は忍術学園全体を敵に回すつもり?」
「先にこちらに仕掛けてきたのはそちらでしょう。今頃土井先生達はうちの城で捕まって…」
「ハッタリもほどほどになさい。」
「保健委員会の子達から今日は女装大会があると聞きましてね。今夜は新月だし、土井先生と縁ある天下の大泥棒をけしかけた日から考えてもちょうどよい頃合いですから…」
雑渡さんが不意に懐に手を入れ、全員が一瞬身構えた。
けれど、そこから出てきたのは武器でも何でもなく…
「念のため、狙われそうなものは私がここに持ってきたのですよ。」
「「!!!」」
その手には、一本の巻物。
ゾクリ
全身の血の気がひいた。
…本物、だ………!!
なぜかそのとき直感した。
そう、それは、いま土井先生達が探しにいっているはずのもの…!
「さて。きみにならこれが本物かどうか…分かるかな?」
雑渡さんの鋭い目が試すように私を覗き込む。
と、次の瞬間。
「ッ!!!!?」
雑渡さんの手のなかの巻物が、突如青白い炎で燃え上がった。
炎に怯んだその僅かな隙を逃さず、六年生全員が雑渡さんに飛びかかって…
「炎に臆したか雑渡昆奈門!」
「ッ、誰が…!」
バシッッ!!
一瞬の隙をつき、巻物が縄鏢に弾き落とされた。
畳を転がる巻物。
私の足元の近くにきたそれを、反射的に拾おうと触れた、その瞬間。
「!!!!!」
青白い炎が一瞬にして私の全身を包み込んだ。
熱くはない…けれどこの感触を、私は知っている…!!
「あ……!!」
視界が、白く霞む。
「ッ、いや……っ!」
炎を消そうとパニックになって手を振り払う。
全身にまとわりつく青白い炎は、全く消えなかった。
「あぁ…っ!!」
いやだ、消えたくない…!
土井先生…!!!
ガシッ
強く腕を捕まれる感触。
薄れ行く意識のなかで目の前に現れたのは…
「逃がさん…!!!」
包帯の間から鋭く睨む細い目だった。
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