第121話 新月
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新月の夜。
静寂のなか、風に揺れる乾いた葉音がザワザワと響く。
気配を殺して物音もたてずひたすら駆ける。
そう…ここは敵地、タソガレドキ城の敷地内。
そして、今は雲で星明かりも見えない全くの暗闇。
…好都合だ。
感覚を研ぎ澄ませて細心の注意を払いつつ、最小の動きで城内に侵入した。
私のすぐ後ろには利吉くんと石川が続いて並走している。
見張りの位置や人数は、利吉くんの調べた詳細な地図や情報の通りだった。
あらかじめ考えていた道順で、退路も確認しながら見張りを避ける。
どうしても邪魔な見張りは、一人ずつ背後から手刀で静かに昏倒させていく。
確実に、冷静に、一撃で仕留めて…
移動速度は落ちないように素早く…
気配を完全に消してひたすら先を急いで……
「……さすが土井先生…」
利吉くんが小さく呟いた。
先頭をきっていた私は肩越しに彼を振り返った。
目線で何のことか問うと、利吉くんは周囲に気を配りながら端的に答えた。
「大胆かつ素早い動き……さすがです。」
すると石川も小さく頷いた。
「チョークなんぞ装備してるから心配したが、腕が落ちてなくてよかった。」
「はは…一年は組の担任をするにはこれぐらいできなくてはね…」
今までの数々の苦労…熊や猪に追いかけられたり生徒が敵に誘拐されたり色んなハプニングに巻き込まれたり…そんな日々が脳裏を掠めて苦笑すると、石川が少し驚いた。
「忍術学園は一年からそんなに指導が厳しいのか。」
「いや、そうじゃなくて…別の意味でキビしいというか……」
現場を知る利吉くんは苦笑いを浮かべた。
悠長に話している場合でもないが、こうして話す余裕をもっている二人もさすが現役のプロ忍と大泥棒…場慣れしている。
背後を任せられる仲間がいることに感謝しかない。
「あの辺りですね。」
利吉くんがスッと指を指した。
それは地図で何度も確認した、巻物が保管されていた部屋。
ここまでは難なく辿り着くことができた。
…そう、あっさりと。
「…ちょっとおかしくないかい?」
あまりにも手薄な気がする。
これではまるで…
「やはり罠かもしれんな。奥まで踏み込ませて囲んで捕まえるとか…。」
石川も厳しい顔つきで周囲を警戒している。
…なにか妙だ。
「確かに、見張りの位置と時間を考えて避けてはいますが…人の気配がなさすぎますね…。」
利吉くんも潜入調査をしていたときとの違いに違和感を感じているようだ。
しかし迷う間もなく目的地の部屋…巻物が保管されている部屋の真上の天井裏にたどり着いた。
部屋の中に人の気配はない。
風が雲を流したのか、星明かりが窓の隙間から微かに入り込んでいる。
だが、天井板の隙間から下を覗き込んでみるも詳細まではどうなっているのかよく見えない。
しかし…たとえ罠がはられていたとしても、ここは進むしかないな…。
私が部屋に降りようとすると、利吉くんがそれを制した。
「私が。援護をお願いします。」
「…わかった。」
私は短く頷き、周囲の気配に神経を集中させた。
利吉くんが気配を消して静かに部屋に降り立つ。
瞬時に部屋を見渡した彼が、ある一点を見つめて動きを止めた。
天井裏からでは見えない角度だ。
やがて利吉くんがこちらを一瞥したので、私は石川と目見合わせて部屋に降りた。
闇に目を凝らし、利吉くんの視線の先をよく見てみると…。
「…これは……!」
そこには、狙いの巻物と同じ色形の巻物が大量に山積みにされていた。
「……土井、どれか分かるか?」
「……………」
幾つかの巻物を手に取ってみた。
どれも同じ手触り、同じ物のように見える。
何か手がかりがないかと糸をほどき中身を見てみるも、どれも白紙だった。
この色形はよくあるものではない…珍しい巻物だ。
にもかかわらずこれだけの量があるということは…。
「やはり罠だ、ここに来ると予想され…」
言いかけた刹那、空を切る気配がして反射的に身を伏せた。
手裏剣が壁に刺さる音がすると同時に、投げられてきた方向にチョークを投げる。
バチッ!
チョークが弾かれる音と気配。
次の瞬間、
ギンッッ!!
苦無がぶつかり合う音が響いた。
間髪を容れず攻め込んだ利吉くんが敵とせめぎ合う気配。
星明かりが再び射し込み、微かに照らし出されたのは複数の影。
「尊奈門、まだ手を出すなとあれほど…!」
「すみません高坂さん…しかしこの闇と逃げ場のない密室…こんなチャンスをみすみす…!」
高坂陣内左衛門が、尊奈門くんを庇うように利吉くんの苦無を受け部屋の入り口に立っていた。
「…本物の巻物はどこだ?」
単刀直入に聞くと高坂陣内左衛門が静かに答えた。
「言うわけないだろう。」
彼の合図とともに、部屋の外からタソガレドキ忍軍が数人入ってきた…外はもう囲まれているようだ。
「…」
矢羽根で石川と利吉くんに撤退の合図を送った。
想定の範囲内。
あらかじめ決めていた通り、窓から退くべく煙玉をなげようとした瞬間…
「待て待て。交渉しようじゃないか。」
やや高い落ち着いた声が響いた。
タソガレドキ忍軍がザッと跪き頭を下げる。
灯りとともにゆっくりと足音が響いた。
…黄昏甚兵衛だ。
その斜め後ろには小頭の山本陣内が控えている。
「殿…わざわざ出向ずとも我々が捕獲して御前に連れて参りましたのに。」
高坂陣内左衛門はそう言うと山本陣内を見た。
その目線に答えるように首をふる小頭。
…どうやら段取りが変わったようだ。
「そうだな、しかしやはり私から誠意を見せた方がよいかと思ってな。」
灯りに照らし出される黄昏甚兵衛は無表情だ。
その目が私を捉えて向き直った。
「忍術学園の土井半助、だな。そなた、このタソガレドキ城で働かないか?」
「…は?」
「夢のお告げでは『巻物と夢に出てきた少女を手に入れると城が栄える』と言っていた。考えたのだが、配下として手に入れるだけでもいいのではないかと思ってな。」
黄昏甚兵衛がこちらの様子を伺うように言葉を止めた。
真っ直ぐにこちらを見据える眼差しに揺らぎはなく、本気のように見えた。
「聞けば、そなたたち将来を誓った仲なのだろう?だからことごとく私の邪魔をすると。ならば…もし、そなたが私に忠誠を誓うなら、そなたが例の少女とともにここで働くなら、私は一切の危害を加えないことを約束しよう。そなたは優秀な忍者だと聞いている。給料も今の倍出そう。」
「何を世迷言を。そんな話、鵜呑みにするとでも?」
「信じてもらう他無い。だからこうして私が出向いたのだ。」
「もしそれが本気だとしても断る。私も彼女も、タソガレドキに行くつもりなどない!」
シンッと部屋が静寂に包まれた。
やがて黄昏甚兵衛がゆっくりと口を開く。
「…断るとどうなるか、賢明な君なら分かるだろう。せっかく譲歩してやっているのだぞ。」
怒気をはらんだ有無を言わせぬ口調。
控えているタソガレドキ忍軍からピリッと殺気がはしる。
「何が譲歩だ。そちらこそいい加減諦めろ。」
「そうか…残念だ。」
黄昏甚兵衛が片手を上げた。
「……?」
暫しの沈黙の後、黄昏甚兵衛が山本陣内を見た。
困惑した様子のタソガレドキ忍軍に、私の背後の石川がクスリと笑った。
「罠ならもう動かないぜ。話が長すぎるんだよ、お殿様。」
石川が手のなかの長い針をチラリと見せた。
部屋の幾つかの場所に、その針が刺さっている。
捕獲用の仕掛けが施されていたのか、縄のようなものも僅かに見えた。
「この程度見抜けないようじゃ大泥棒の名がすたる。」
「石川五十ヱ門…聞きしに勝る早業だな。そなたには此度のきっかけになればと期待していただけだが、なかなかどうして……一緒に我が城に来てくれたら待遇は保証するぞ?」
「そりゃどうも。だが俺は自由が好きで…ッ!」
石川が言いかけた瞬間、何かが飛んできた。
反射的に出席簿で弾くと、刺さっていたのは吹き矢…おそらく毒でも塗っているのだろう…だった。
「残念だ、生きて捕らえよ。」
「「「「はっ!」」」」
声と同時に多くの手裏剣が飛んできた。
利吉くんがいち早く飛び退き窓を蹴破る。
同時に私が煙玉で煙幕をはった。
利吉くん、石川に次いで私も勢いよく窓の外に跳んだ。
ここは相当な高さで下は何もない砂地。
瞬時に鉤縄を取り出し遠心力で城壁の上に引っかけて落下をふせぐ。
……と、いう手はずを予定していた。
しかし………
ピュンッ!
城壁の上から、さらに横の茂みからも弓矢が降ってきた。
咄嗟に出席簿で弓矢を弾くも、落下を止めることが出来ない…!!
星明かりに照らされた城壁を瞬時に見渡す。
縄をかけられそうな凹凸がない!
「くッ!!」
咄嗟に苦無を岩の間に投げて突き刺し、鉤縄を投げつけ引っかけた。
腕に全負荷がかかり痛みが走る。
何とか落下は止まったが、弓矢が次々と飛んでくる。
「石川ッ!!利吉くんッ!!」
暗闇のなか、片手で弓矢を弾きながら二人を確認することができない!
「…ッ!」
しかも、さっき黄昏甚兵衛の傍にはあいつが居なかった。
つまりそれは……
ブツンッ!
どこからか苦無が投げつけられ鉤縄が切れた。
暗闇のなか落下していく…!!
苦無を岩間に突き刺そうとしたそのとき。
「ッッッ!!!?」
突如、視界が真っ白になった。
そして次の瞬間、私は意識を失った。
静寂のなか、風に揺れる乾いた葉音がザワザワと響く。
気配を殺して物音もたてずひたすら駆ける。
そう…ここは敵地、タソガレドキ城の敷地内。
そして、今は雲で星明かりも見えない全くの暗闇。
…好都合だ。
感覚を研ぎ澄ませて細心の注意を払いつつ、最小の動きで城内に侵入した。
私のすぐ後ろには利吉くんと石川が続いて並走している。
見張りの位置や人数は、利吉くんの調べた詳細な地図や情報の通りだった。
あらかじめ考えていた道順で、退路も確認しながら見張りを避ける。
どうしても邪魔な見張りは、一人ずつ背後から手刀で静かに昏倒させていく。
確実に、冷静に、一撃で仕留めて…
移動速度は落ちないように素早く…
気配を完全に消してひたすら先を急いで……
「……さすが土井先生…」
利吉くんが小さく呟いた。
先頭をきっていた私は肩越しに彼を振り返った。
目線で何のことか問うと、利吉くんは周囲に気を配りながら端的に答えた。
「大胆かつ素早い動き……さすがです。」
すると石川も小さく頷いた。
「チョークなんぞ装備してるから心配したが、腕が落ちてなくてよかった。」
「はは…一年は組の担任をするにはこれぐらいできなくてはね…」
今までの数々の苦労…熊や猪に追いかけられたり生徒が敵に誘拐されたり色んなハプニングに巻き込まれたり…そんな日々が脳裏を掠めて苦笑すると、石川が少し驚いた。
「忍術学園は一年からそんなに指導が厳しいのか。」
「いや、そうじゃなくて…別の意味でキビしいというか……」
現場を知る利吉くんは苦笑いを浮かべた。
悠長に話している場合でもないが、こうして話す余裕をもっている二人もさすが現役のプロ忍と大泥棒…場慣れしている。
背後を任せられる仲間がいることに感謝しかない。
「あの辺りですね。」
利吉くんがスッと指を指した。
それは地図で何度も確認した、巻物が保管されていた部屋。
ここまでは難なく辿り着くことができた。
…そう、あっさりと。
「…ちょっとおかしくないかい?」
あまりにも手薄な気がする。
これではまるで…
「やはり罠かもしれんな。奥まで踏み込ませて囲んで捕まえるとか…。」
石川も厳しい顔つきで周囲を警戒している。
…なにか妙だ。
「確かに、見張りの位置と時間を考えて避けてはいますが…人の気配がなさすぎますね…。」
利吉くんも潜入調査をしていたときとの違いに違和感を感じているようだ。
しかし迷う間もなく目的地の部屋…巻物が保管されている部屋の真上の天井裏にたどり着いた。
部屋の中に人の気配はない。
風が雲を流したのか、星明かりが窓の隙間から微かに入り込んでいる。
だが、天井板の隙間から下を覗き込んでみるも詳細まではどうなっているのかよく見えない。
しかし…たとえ罠がはられていたとしても、ここは進むしかないな…。
私が部屋に降りようとすると、利吉くんがそれを制した。
「私が。援護をお願いします。」
「…わかった。」
私は短く頷き、周囲の気配に神経を集中させた。
利吉くんが気配を消して静かに部屋に降り立つ。
瞬時に部屋を見渡した彼が、ある一点を見つめて動きを止めた。
天井裏からでは見えない角度だ。
やがて利吉くんがこちらを一瞥したので、私は石川と目見合わせて部屋に降りた。
闇に目を凝らし、利吉くんの視線の先をよく見てみると…。
「…これは……!」
そこには、狙いの巻物と同じ色形の巻物が大量に山積みにされていた。
「……土井、どれか分かるか?」
「……………」
幾つかの巻物を手に取ってみた。
どれも同じ手触り、同じ物のように見える。
何か手がかりがないかと糸をほどき中身を見てみるも、どれも白紙だった。
この色形はよくあるものではない…珍しい巻物だ。
にもかかわらずこれだけの量があるということは…。
「やはり罠だ、ここに来ると予想され…」
言いかけた刹那、空を切る気配がして反射的に身を伏せた。
手裏剣が壁に刺さる音がすると同時に、投げられてきた方向にチョークを投げる。
バチッ!
チョークが弾かれる音と気配。
次の瞬間、
ギンッッ!!
苦無がぶつかり合う音が響いた。
間髪を容れず攻め込んだ利吉くんが敵とせめぎ合う気配。
星明かりが再び射し込み、微かに照らし出されたのは複数の影。
「尊奈門、まだ手を出すなとあれほど…!」
「すみません高坂さん…しかしこの闇と逃げ場のない密室…こんなチャンスをみすみす…!」
高坂陣内左衛門が、尊奈門くんを庇うように利吉くんの苦無を受け部屋の入り口に立っていた。
「…本物の巻物はどこだ?」
単刀直入に聞くと高坂陣内左衛門が静かに答えた。
「言うわけないだろう。」
彼の合図とともに、部屋の外からタソガレドキ忍軍が数人入ってきた…外はもう囲まれているようだ。
「…」
矢羽根で石川と利吉くんに撤退の合図を送った。
想定の範囲内。
あらかじめ決めていた通り、窓から退くべく煙玉をなげようとした瞬間…
「待て待て。交渉しようじゃないか。」
やや高い落ち着いた声が響いた。
タソガレドキ忍軍がザッと跪き頭を下げる。
灯りとともにゆっくりと足音が響いた。
…黄昏甚兵衛だ。
その斜め後ろには小頭の山本陣内が控えている。
「殿…わざわざ出向ずとも我々が捕獲して御前に連れて参りましたのに。」
高坂陣内左衛門はそう言うと山本陣内を見た。
その目線に答えるように首をふる小頭。
…どうやら段取りが変わったようだ。
「そうだな、しかしやはり私から誠意を見せた方がよいかと思ってな。」
灯りに照らし出される黄昏甚兵衛は無表情だ。
その目が私を捉えて向き直った。
「忍術学園の土井半助、だな。そなた、このタソガレドキ城で働かないか?」
「…は?」
「夢のお告げでは『巻物と夢に出てきた少女を手に入れると城が栄える』と言っていた。考えたのだが、配下として手に入れるだけでもいいのではないかと思ってな。」
黄昏甚兵衛がこちらの様子を伺うように言葉を止めた。
真っ直ぐにこちらを見据える眼差しに揺らぎはなく、本気のように見えた。
「聞けば、そなたたち将来を誓った仲なのだろう?だからことごとく私の邪魔をすると。ならば…もし、そなたが私に忠誠を誓うなら、そなたが例の少女とともにここで働くなら、私は一切の危害を加えないことを約束しよう。そなたは優秀な忍者だと聞いている。給料も今の倍出そう。」
「何を世迷言を。そんな話、鵜呑みにするとでも?」
「信じてもらう他無い。だからこうして私が出向いたのだ。」
「もしそれが本気だとしても断る。私も彼女も、タソガレドキに行くつもりなどない!」
シンッと部屋が静寂に包まれた。
やがて黄昏甚兵衛がゆっくりと口を開く。
「…断るとどうなるか、賢明な君なら分かるだろう。せっかく譲歩してやっているのだぞ。」
怒気をはらんだ有無を言わせぬ口調。
控えているタソガレドキ忍軍からピリッと殺気がはしる。
「何が譲歩だ。そちらこそいい加減諦めろ。」
「そうか…残念だ。」
黄昏甚兵衛が片手を上げた。
「……?」
暫しの沈黙の後、黄昏甚兵衛が山本陣内を見た。
困惑した様子のタソガレドキ忍軍に、私の背後の石川がクスリと笑った。
「罠ならもう動かないぜ。話が長すぎるんだよ、お殿様。」
石川が手のなかの長い針をチラリと見せた。
部屋の幾つかの場所に、その針が刺さっている。
捕獲用の仕掛けが施されていたのか、縄のようなものも僅かに見えた。
「この程度見抜けないようじゃ大泥棒の名がすたる。」
「石川五十ヱ門…聞きしに勝る早業だな。そなたには此度のきっかけになればと期待していただけだが、なかなかどうして……一緒に我が城に来てくれたら待遇は保証するぞ?」
「そりゃどうも。だが俺は自由が好きで…ッ!」
石川が言いかけた瞬間、何かが飛んできた。
反射的に出席簿で弾くと、刺さっていたのは吹き矢…おそらく毒でも塗っているのだろう…だった。
「残念だ、生きて捕らえよ。」
「「「「はっ!」」」」
声と同時に多くの手裏剣が飛んできた。
利吉くんがいち早く飛び退き窓を蹴破る。
同時に私が煙玉で煙幕をはった。
利吉くん、石川に次いで私も勢いよく窓の外に跳んだ。
ここは相当な高さで下は何もない砂地。
瞬時に鉤縄を取り出し遠心力で城壁の上に引っかけて落下をふせぐ。
……と、いう手はずを予定していた。
しかし………
ピュンッ!
城壁の上から、さらに横の茂みからも弓矢が降ってきた。
咄嗟に出席簿で弓矢を弾くも、落下を止めることが出来ない…!!
星明かりに照らされた城壁を瞬時に見渡す。
縄をかけられそうな凹凸がない!
「くッ!!」
咄嗟に苦無を岩の間に投げて突き刺し、鉤縄を投げつけ引っかけた。
腕に全負荷がかかり痛みが走る。
何とか落下は止まったが、弓矢が次々と飛んでくる。
「石川ッ!!利吉くんッ!!」
暗闇のなか、片手で弓矢を弾きながら二人を確認することができない!
「…ッ!」
しかも、さっき黄昏甚兵衛の傍にはあいつが居なかった。
つまりそれは……
ブツンッ!
どこからか苦無が投げつけられ鉤縄が切れた。
暗闇のなか落下していく…!!
苦無を岩間に突き刺そうとしたそのとき。
「ッッッ!!!?」
突如、視界が真っ白になった。
そして次の瞬間、私は意識を失った。