第119話 水面に落ちた雫
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
久しぶりに会った土井は元気そうでよかった。
もとより戦忍には向いていないと思っていたが、こうして忍術学園で教師然としている姿を見ると天職かもしれないと思った。
土井は優しすぎるから、敵に手裏剣を投げるより子ども相手にチョークを投げている方があいつらしくていい。
それにしても、色恋に疎い土井が選んだ女とは一体どんな奴なのか。
随分ご執心のようで興味がわいた。
しかも、タソガレドキ城主も夢のお告げに出てきたとするほどの女だ…きっと何かあるのではないか。
先ほど少し見た感じでは、小柄で可愛らしい雰囲気だった。
鋭さは感じられないが真面目な印象だ。
土井が生徒に呼ばれた隙に、俺は早速食堂へ行ってみた。
さほど迷うこともなく先ほどの女を見つけたが、向こうはこちらにきづくこともなく大量の食器を洗っていた。
「よお。ちょいと聞きたいことがあるんだが…」
「!?」
急に背後から話しかけたせいか、女はビクッと肩を揺らし食器を落とした。
「あ!」
「うぉっ!!?」
反射的に皿が落ちないよう掴んだ。
間一髪、地面に落ちる手前で間に合った。
「すっ、すみません!」
「いや、驚かせて悪かった。」
皿を渡すと女は失敗を誤魔化すように笑った。
なるほど庇護欲をそそるか…それともむしろ加虐心を煽るといったところか…。
「そういえば、石川さんはもうお昼ごはんは食べましたか?」
「ん?いや、食べていないが…」
「それなら、ちょうどまだ煮物があるんです。よかったら召し上がりませんか?」
「なら有り難く頂戴しようか。」
「はい、じゃあそこに座って待っててもらえますか。」
言われた通りに椅子に座ると、女は慣れた手つきで白米と煮物と味噌汁を持ってきてくれた。
遠慮なくそれを頂戴する。
「…ん、美味いな!これはあんたが作ったのか?」
「はい、その煮物は私が作りました。ここの食堂のおばちゃんはとっても美味しいお料理を作るので、私も教えてもらってるんです。」
嬉しそうに笑う笑顔がとても素直そうに感じられた。
裏表のある人物ではなさそうだ。
土井が腹黒い女に騙されているわけではなさそうで安心した。
…というか、本当に飯が美味い。
これは土井も胃袋を掴まれたってところか。
いやしかし、『食堂のおばちゃん』とやらはもっと美味い飯を作るのか…ここの生徒はどれだけ恵まれているんだ。
…って、いや違う、いま着目すべきはそこじゃなかった。
「しかしあんたは忍者でもないのに、どうして忍術学園で働いているんだ?」
何か事情があるのか。
それが例の、女と巻物で一攫千金という話と関係あるのか。
食べながら、警戒されないようさりげなく聞いてみる。
「色々ありまして…学園長先生のご好意でこちらで雇ってもらったんです。」
女は目をそらしてためらいがちにそう答えた。
ふーん、言えない理由があるということか。
「そうか、あんたも大変だったんだな。」
適当に労ってみると、女は眉をハの字にして微笑んだ。
「土井先生が支えてくれて…ここまでくることができました。」
その少し困ったような笑い方は、土井によく似ていた。
俺は湯呑みを机に置いてニヤリと笑った。
「土井のどこに惚れたんだ?」
「えっ?」
これは単なる興味本位。
あとで土井をからかってやろう。
「どこに、と言われましても…たくさんありまして……」
「へぇ、例えば?」
「えっと………すごく優しくて、強くて頼もしくて、思慮深くて思いやりがあって、たまにお茶目だったりするのも可愛くて、生徒にも優しく厳しく見守りながら素敵すぎる先生って感じで、凛として格好いいし、笑顔は可愛いし、頬っぺたも可愛いし、声も素敵すぎるし、字も綺麗だし、すごく博学で知的で……」
「あー、わかった、わかった。もういい。」
女は頬を染めながら嬉しそうに土井の良いところを延々と並べ立てた。
土井をからかうつもりだったが、これではただ惚気られているだけで終わりが見えない。
自分から聞いておいて何だが俺は手を上げて遮った。
女は気を悪くすることもなく「あ、すみません…つい」と照れて頭をかいた。
…とりあえず、土井が本気で愛されていることは十分に分かった。
「まぁ、あれだ。俺から言えることは…そうだな……あんたは土井より長生きしてくれよ。」
すると女は一瞬きょとんとしたあと、静かに頷いた。
「………そうですね…。」
女は悲しげに目を伏せた。
その瞳は…その沈黙は、いずれ来る寿命を漠然と思っているのではなさそうだった。
何かを思い出しているような眼差し。
…ああ、もう知っているのか。
あいつの過去のことも、もう聞いているのだな。
「あんたまで、土井の前から消えてくれるなよ。あいつはもう…多くのものを失ったからな。」
「はい、…できるなら、共に」
「共に死のうなんて願うなよ。人は生まれるときも死ぬときも所詮一人だ。」
「あぁ、いえ、…共に生きて最期のときに幸せだったなぁって思えるような…そんな時間を、土井先生と重ねていきたいなと…。」
そう語る声からは、確固たる意志が感じられた。
…芯がある。
見た目より苦労をしてきているのかもしれない。
「……まぁ、シケた話はここまでだ。それよりあんた…」
「?」
「…………いや、何でもない。」
タソガレドキや巻物についても色々と聞きたいことはあったが、俺はその言葉を飲み込んだ。
「…嬢ちゃん、名は何だったか。」
「?…たまみです。」
「たまみ、か。」
気に入った。
いくら土井の頼みでも、気に入らない奴の為に動くつもりはなかったからな。
「まぁ、一攫千金ももしかしたらあり得るかもしれないしな。」
俺はそう呟きながら食堂を後にし、今後の身の振り方について考えることにした。
もとより戦忍には向いていないと思っていたが、こうして忍術学園で教師然としている姿を見ると天職かもしれないと思った。
土井は優しすぎるから、敵に手裏剣を投げるより子ども相手にチョークを投げている方があいつらしくていい。
それにしても、色恋に疎い土井が選んだ女とは一体どんな奴なのか。
随分ご執心のようで興味がわいた。
しかも、タソガレドキ城主も夢のお告げに出てきたとするほどの女だ…きっと何かあるのではないか。
先ほど少し見た感じでは、小柄で可愛らしい雰囲気だった。
鋭さは感じられないが真面目な印象だ。
土井が生徒に呼ばれた隙に、俺は早速食堂へ行ってみた。
さほど迷うこともなく先ほどの女を見つけたが、向こうはこちらにきづくこともなく大量の食器を洗っていた。
「よお。ちょいと聞きたいことがあるんだが…」
「!?」
急に背後から話しかけたせいか、女はビクッと肩を揺らし食器を落とした。
「あ!」
「うぉっ!!?」
反射的に皿が落ちないよう掴んだ。
間一髪、地面に落ちる手前で間に合った。
「すっ、すみません!」
「いや、驚かせて悪かった。」
皿を渡すと女は失敗を誤魔化すように笑った。
なるほど庇護欲をそそるか…それともむしろ加虐心を煽るといったところか…。
「そういえば、石川さんはもうお昼ごはんは食べましたか?」
「ん?いや、食べていないが…」
「それなら、ちょうどまだ煮物があるんです。よかったら召し上がりませんか?」
「なら有り難く頂戴しようか。」
「はい、じゃあそこに座って待っててもらえますか。」
言われた通りに椅子に座ると、女は慣れた手つきで白米と煮物と味噌汁を持ってきてくれた。
遠慮なくそれを頂戴する。
「…ん、美味いな!これはあんたが作ったのか?」
「はい、その煮物は私が作りました。ここの食堂のおばちゃんはとっても美味しいお料理を作るので、私も教えてもらってるんです。」
嬉しそうに笑う笑顔がとても素直そうに感じられた。
裏表のある人物ではなさそうだ。
土井が腹黒い女に騙されているわけではなさそうで安心した。
…というか、本当に飯が美味い。
これは土井も胃袋を掴まれたってところか。
いやしかし、『食堂のおばちゃん』とやらはもっと美味い飯を作るのか…ここの生徒はどれだけ恵まれているんだ。
…って、いや違う、いま着目すべきはそこじゃなかった。
「しかしあんたは忍者でもないのに、どうして忍術学園で働いているんだ?」
何か事情があるのか。
それが例の、女と巻物で一攫千金という話と関係あるのか。
食べながら、警戒されないようさりげなく聞いてみる。
「色々ありまして…学園長先生のご好意でこちらで雇ってもらったんです。」
女は目をそらしてためらいがちにそう答えた。
ふーん、言えない理由があるということか。
「そうか、あんたも大変だったんだな。」
適当に労ってみると、女は眉をハの字にして微笑んだ。
「土井先生が支えてくれて…ここまでくることができました。」
その少し困ったような笑い方は、土井によく似ていた。
俺は湯呑みを机に置いてニヤリと笑った。
「土井のどこに惚れたんだ?」
「えっ?」
これは単なる興味本位。
あとで土井をからかってやろう。
「どこに、と言われましても…たくさんありまして……」
「へぇ、例えば?」
「えっと………すごく優しくて、強くて頼もしくて、思慮深くて思いやりがあって、たまにお茶目だったりするのも可愛くて、生徒にも優しく厳しく見守りながら素敵すぎる先生って感じで、凛として格好いいし、笑顔は可愛いし、頬っぺたも可愛いし、声も素敵すぎるし、字も綺麗だし、すごく博学で知的で……」
「あー、わかった、わかった。もういい。」
女は頬を染めながら嬉しそうに土井の良いところを延々と並べ立てた。
土井をからかうつもりだったが、これではただ惚気られているだけで終わりが見えない。
自分から聞いておいて何だが俺は手を上げて遮った。
女は気を悪くすることもなく「あ、すみません…つい」と照れて頭をかいた。
…とりあえず、土井が本気で愛されていることは十分に分かった。
「まぁ、あれだ。俺から言えることは…そうだな……あんたは土井より長生きしてくれよ。」
すると女は一瞬きょとんとしたあと、静かに頷いた。
「………そうですね…。」
女は悲しげに目を伏せた。
その瞳は…その沈黙は、いずれ来る寿命を漠然と思っているのではなさそうだった。
何かを思い出しているような眼差し。
…ああ、もう知っているのか。
あいつの過去のことも、もう聞いているのだな。
「あんたまで、土井の前から消えてくれるなよ。あいつはもう…多くのものを失ったからな。」
「はい、…できるなら、共に」
「共に死のうなんて願うなよ。人は生まれるときも死ぬときも所詮一人だ。」
「あぁ、いえ、…共に生きて最期のときに幸せだったなぁって思えるような…そんな時間を、土井先生と重ねていきたいなと…。」
そう語る声からは、確固たる意志が感じられた。
…芯がある。
見た目より苦労をしてきているのかもしれない。
「……まぁ、シケた話はここまでだ。それよりあんた…」
「?」
「…………いや、何でもない。」
タソガレドキや巻物についても色々と聞きたいことはあったが、俺はその言葉を飲み込んだ。
「…嬢ちゃん、名は何だったか。」
「?…たまみです。」
「たまみ、か。」
気に入った。
いくら土井の頼みでも、気に入らない奴の為に動くつもりはなかったからな。
「まぁ、一攫千金ももしかしたらあり得るかもしれないしな。」
俺はそう呟きながら食堂を後にし、今後の身の振り方について考えることにした。