第119話 水面に落ちた雫
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「土井先生、お客様が来てますよ~。」
職員室で土井先生のお手本通りに資料を作っていると、小松田さんの声がした。
お客様とは珍しい。
誰だろう。
しかしあいにく、土井先生は山田先生と裏山で授業中。
代わりに対応しなくてはと思い、私は障子を開けた。
「土井先生は裏山で授業中です。もうすぐ戻ると思いますけど…。」
廊下を見ると、小松田さんの後ろには長身の男性が立っていた。
ぼさぼさの髪をひとつに束ね、赤く丸い耳飾りと黒く横長な色眼鏡、黒と山吹色の装束を身につけていて…少し風変わりな出で立ちをしている。
ドクタケの眼鏡と違い、横に細長い黒眼鏡が、いかにも悪人ぽい印象だった。
小松田さんは入門票に名前さえ書けば誰でも入れてしまうけれど、この人は大丈夫なのかな…というか本当に土井先生のお知り合いなのだろうか。
不審に思い、じろじろと見てしまった。
小松田さんは私のそんな様子を気にするでもなく、男性にのほほんと告げる。
「ではこちらでゆっくりお待ちください。僕お茶を持ってきますね。」
「えっ、ちょっ、小松田さんっ…!?」
こんないかつい男性と二人きりに?!
せ、せめて他に誰か一緒に居てほしい…!
目で訴えたけれど全く伝わらず。
男性は促されるまま職員室に入って座り、小松田さんはその場を離れた。
さすがに障子は閉めないが、私はこの強面の男性と二人きりになってしまった…。
一体何者で、どんな用件なのだろう……。
恐る恐る見上げると、彼は部屋の中をきょろきょろと見渡していた。
とりあえず、一年は組の補佐としてしっかり不在対応をしなくては。
「えーっと…、土井先生はもうすぐ戻ると思いますが、今日はどのような…」
「あんた、ここの先生なのか?」
「えっ?」
急に視線を向けられ、予想外に質問されて面食らった。
少しぶっきらぼうではあるけれど、見た目よりも柔らかく優しい口調だった。
「あ、はい、先生というか…先生の補佐をしたり食堂のお手伝いをしたりしています。」
「ふーん、確かにくノ一のようには見えないな。」
じっと私を観察するような鋭い目。
この短いやりとりのなかだけで、くノ一かどうか分かるとは何者だろう。
「えと、それで…今日はどのようなご用件で…?」
「ただ土井の顔を見に来ただけだ。」
有無を言わせぬ口調に、それ以上立ち入るなという雰囲気を感じた。
土井と呼び捨てにしているけれど、どんな関係なのだろう。
気になってついじっと見つめてしまった。
すると男性は部屋を見渡しながらぽつりと呟いた。
「土井は…あいつは元気でやっているのか。」
その目は、土井先生の書きかけのプリントを見つめていた。
「はい、忙しい毎日ではありますが元気に過ごされていますよ。」
「そうか…。」
低く優しい響き。
もしかすると恐いのは見た目だけで優しい人なのかもしれない。
でも、黒眼鏡のせいで感情が読み取れない。
私は何と言葉を続けたらいいのか分からなくなってしまった。
重い沈黙にどうすべきかと迷っているところに小松田さんが戻ってきた。
「お茶をお持ちしまし…わぁっ!!」
小松田さんがいきなり盛大につまずいた。
お盆に乗せていた急須と湯呑みが宙に舞う。
「危なっ…!」
こぼれる!!
と、思った瞬間。
男性が物凄い俊敏な動きで、落下する急須と湯呑みを掴んだ。
「すっ、すみませぇん!」
「いや、大丈夫だ。怪我はないか。」
彼は事も無げに急須と湯呑みを下に置き座った。
下には一滴もこぼれていない。
この動き、この人も忍者……!?
でもその割には服装が派手な気が。
あ、でも魔界之先生も派手か…。
一体どこの忍者さんだろう…。
すると、廊下から声が聞こえた。
「小松田くん?こんなところで何をしてるんだ。」
土井先生!
やっと帰ってきてくれたー!
「お客様にお茶をだそうとしたのですがつまずいちゃって。」
「お客さま…?」
土井先生がひょいと顔を覗かせた。
その表情が驚きに固まる。
「石川!?」
「よお。久しぶりだな。」
男性はニヤリと笑って土井先生を見た。
「突然どうしたんだ?」
土井先生は嬉しそうな笑顔であぐらをかいて座った。
何だかずいぶん親しいようだ。
「ちょっと近くに来たから。お前の仕事ぶりを見に来たのさ。」
「仕事ぶりって。毎日子ども達を相手に振り回される日々さ。」
「そうか、その様子だと楽しくやってるようだな。」
「ああ。お前も元気そうでよかったよ。」
そう笑う土井先生はとても嬉しそうだった。
利吉さんと話すときとはまた違う。
くだけた感じのその様子に、お友達なのかなと思った。
改めてお茶を横に差し出すと、男性が私を見た。
土井先生がその目線に気づいてそっと私の背を押した。
「ああ、紹介が遅れたな。彼女は私のクラスの補佐をしてくれているたまみさんだ。」
次に土井先生は男性の肩にポンと手を乗せた。
「たまみさん、彼は私の修行時代の友人、石川五十ヱ門だ。昔は忍者会のスーパースターなんて言われてて、唐や天竺にまで行ったりしたすごい奴なんだよ。」
そう説明してくれる土井先生は嬉しそうだった。
修行時代の友人…!
土井先生にそんな方がいたなんて。
見た目は土井先生とは随分印象が違うけれど…けっこう悪人ぽく見えるけど…きっと心根の優しい人なのだろう。
土井先生にとって大事な人なのなら、私もちゃんとご挨拶しなくては。
「申し遅れました、たまみと申します。」
畳に指をついてスッと頭を下げると、石川さんは私を不思議そうに見た。
「へぇ…」
彼が私の顎に手をかけ上を向かせた。
「よく見るとなかなか可愛いな。」
石川さんがカチャリと黒眼鏡を外した。
目の周りには朱色の化粧のような線が塗られていて、やっぱりちょっと個性的な印象…。
「石川!彼女は…!」
土井先生が慌てて割って入った。
すると、石川さんは驚いたあとクククッと笑いだした。
「あんた、土井の女なのか?」
「「えっ」」
土井先生と私の反応に、石川さんはハハハと大笑いした。
「土井、お前分かりやすすぎるぞ。そうかそうか、お前がな…いや、よかったじゃないか。」
からかうような石川さんに、土井先生は咳払いをして答えた。
「からかわないでくれ。…それで?何かあるから来たんじゃないのか?」
「ああ。ちょいと気になる噂を聞いてな。」
「噂?」
「そうだ、次の獲物にしようと思って情報を集めている。」
獲物?
ということは、石川さんは狩人?
「仕事の話か…」
土井先生が私をちらりと見た。
「あ…私、そろそろ食堂のお手伝いに行かなくてはいけないので、ここで失礼させていただきますね。」
私がここに居ては話しにくい空気を感じた。
土井先生も頷いたので、私はそのまま職員室を退室した。
職員室で土井先生のお手本通りに資料を作っていると、小松田さんの声がした。
お客様とは珍しい。
誰だろう。
しかしあいにく、土井先生は山田先生と裏山で授業中。
代わりに対応しなくてはと思い、私は障子を開けた。
「土井先生は裏山で授業中です。もうすぐ戻ると思いますけど…。」
廊下を見ると、小松田さんの後ろには長身の男性が立っていた。
ぼさぼさの髪をひとつに束ね、赤く丸い耳飾りと黒く横長な色眼鏡、黒と山吹色の装束を身につけていて…少し風変わりな出で立ちをしている。
ドクタケの眼鏡と違い、横に細長い黒眼鏡が、いかにも悪人ぽい印象だった。
小松田さんは入門票に名前さえ書けば誰でも入れてしまうけれど、この人は大丈夫なのかな…というか本当に土井先生のお知り合いなのだろうか。
不審に思い、じろじろと見てしまった。
小松田さんは私のそんな様子を気にするでもなく、男性にのほほんと告げる。
「ではこちらでゆっくりお待ちください。僕お茶を持ってきますね。」
「えっ、ちょっ、小松田さんっ…!?」
こんないかつい男性と二人きりに?!
せ、せめて他に誰か一緒に居てほしい…!
目で訴えたけれど全く伝わらず。
男性は促されるまま職員室に入って座り、小松田さんはその場を離れた。
さすがに障子は閉めないが、私はこの強面の男性と二人きりになってしまった…。
一体何者で、どんな用件なのだろう……。
恐る恐る見上げると、彼は部屋の中をきょろきょろと見渡していた。
とりあえず、一年は組の補佐としてしっかり不在対応をしなくては。
「えーっと…、土井先生はもうすぐ戻ると思いますが、今日はどのような…」
「あんた、ここの先生なのか?」
「えっ?」
急に視線を向けられ、予想外に質問されて面食らった。
少しぶっきらぼうではあるけれど、見た目よりも柔らかく優しい口調だった。
「あ、はい、先生というか…先生の補佐をしたり食堂のお手伝いをしたりしています。」
「ふーん、確かにくノ一のようには見えないな。」
じっと私を観察するような鋭い目。
この短いやりとりのなかだけで、くノ一かどうか分かるとは何者だろう。
「えと、それで…今日はどのようなご用件で…?」
「ただ土井の顔を見に来ただけだ。」
有無を言わせぬ口調に、それ以上立ち入るなという雰囲気を感じた。
土井と呼び捨てにしているけれど、どんな関係なのだろう。
気になってついじっと見つめてしまった。
すると男性は部屋を見渡しながらぽつりと呟いた。
「土井は…あいつは元気でやっているのか。」
その目は、土井先生の書きかけのプリントを見つめていた。
「はい、忙しい毎日ではありますが元気に過ごされていますよ。」
「そうか…。」
低く優しい響き。
もしかすると恐いのは見た目だけで優しい人なのかもしれない。
でも、黒眼鏡のせいで感情が読み取れない。
私は何と言葉を続けたらいいのか分からなくなってしまった。
重い沈黙にどうすべきかと迷っているところに小松田さんが戻ってきた。
「お茶をお持ちしまし…わぁっ!!」
小松田さんがいきなり盛大につまずいた。
お盆に乗せていた急須と湯呑みが宙に舞う。
「危なっ…!」
こぼれる!!
と、思った瞬間。
男性が物凄い俊敏な動きで、落下する急須と湯呑みを掴んだ。
「すっ、すみませぇん!」
「いや、大丈夫だ。怪我はないか。」
彼は事も無げに急須と湯呑みを下に置き座った。
下には一滴もこぼれていない。
この動き、この人も忍者……!?
でもその割には服装が派手な気が。
あ、でも魔界之先生も派手か…。
一体どこの忍者さんだろう…。
すると、廊下から声が聞こえた。
「小松田くん?こんなところで何をしてるんだ。」
土井先生!
やっと帰ってきてくれたー!
「お客様にお茶をだそうとしたのですがつまずいちゃって。」
「お客さま…?」
土井先生がひょいと顔を覗かせた。
その表情が驚きに固まる。
「石川!?」
「よお。久しぶりだな。」
男性はニヤリと笑って土井先生を見た。
「突然どうしたんだ?」
土井先生は嬉しそうな笑顔であぐらをかいて座った。
何だかずいぶん親しいようだ。
「ちょっと近くに来たから。お前の仕事ぶりを見に来たのさ。」
「仕事ぶりって。毎日子ども達を相手に振り回される日々さ。」
「そうか、その様子だと楽しくやってるようだな。」
「ああ。お前も元気そうでよかったよ。」
そう笑う土井先生はとても嬉しそうだった。
利吉さんと話すときとはまた違う。
くだけた感じのその様子に、お友達なのかなと思った。
改めてお茶を横に差し出すと、男性が私を見た。
土井先生がその目線に気づいてそっと私の背を押した。
「ああ、紹介が遅れたな。彼女は私のクラスの補佐をしてくれているたまみさんだ。」
次に土井先生は男性の肩にポンと手を乗せた。
「たまみさん、彼は私の修行時代の友人、石川五十ヱ門だ。昔は忍者会のスーパースターなんて言われてて、唐や天竺にまで行ったりしたすごい奴なんだよ。」
そう説明してくれる土井先生は嬉しそうだった。
修行時代の友人…!
土井先生にそんな方がいたなんて。
見た目は土井先生とは随分印象が違うけれど…けっこう悪人ぽく見えるけど…きっと心根の優しい人なのだろう。
土井先生にとって大事な人なのなら、私もちゃんとご挨拶しなくては。
「申し遅れました、たまみと申します。」
畳に指をついてスッと頭を下げると、石川さんは私を不思議そうに見た。
「へぇ…」
彼が私の顎に手をかけ上を向かせた。
「よく見るとなかなか可愛いな。」
石川さんがカチャリと黒眼鏡を外した。
目の周りには朱色の化粧のような線が塗られていて、やっぱりちょっと個性的な印象…。
「石川!彼女は…!」
土井先生が慌てて割って入った。
すると、石川さんは驚いたあとクククッと笑いだした。
「あんた、土井の女なのか?」
「「えっ」」
土井先生と私の反応に、石川さんはハハハと大笑いした。
「土井、お前分かりやすすぎるぞ。そうかそうか、お前がな…いや、よかったじゃないか。」
からかうような石川さんに、土井先生は咳払いをして答えた。
「からかわないでくれ。…それで?何かあるから来たんじゃないのか?」
「ああ。ちょいと気になる噂を聞いてな。」
「噂?」
「そうだ、次の獲物にしようと思って情報を集めている。」
獲物?
ということは、石川さんは狩人?
「仕事の話か…」
土井先生が私をちらりと見た。
「あ…私、そろそろ食堂のお手伝いに行かなくてはいけないので、ここで失礼させていただきますね。」
私がここに居ては話しにくい空気を感じた。
土井先生も頷いたので、私はそのまま職員室を退室した。