第118話 微笑みの理由
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
新学期。
俺は土井先生の授業を聞きながら、さっき食堂で乱太郎としんべヱが思い出し笑いをしていた理由が気になった。
休みの間にそんなに面白いことがあったのかな。
……そうだ、思い出し笑いといえば………
俺は春休みのことを思い出した。
土井先生の家で造花作りのアルバイトをしているとき。
昼ごはんを作ってくれているたまみさんの動きが、視界の端で突然止まった。
「?…どうかしたんですか?」
虫でも出たのかなと聞いてみた。
でも、返事はなくたまみさんの動きは止まったままだった。
何かあったのかと、俺は造花を机に置いて体を反らして覗いた。
「…たまみさん?」
たまみさんはボーッと……いや、ニヤニヤと自分の手のひらを見つめていた。
「…?」
何をニヤニヤしているのだろう。
俺は立ち上がって彼女の視線の先…手のなかを見た。
そこには…
あー。
また見てる。
彼女の視線の先には、一本の簪。
春休み前から、たまみさんはときどきその簪を見てはニヤニヤしたり嬉しそうにため息をついたりしていた。
「たまみ、お鍋が焦げるよ?」
井戸から水を汲んで戻った土井先生が、ひょいと後ろからたまみさんに歩み寄った。
彼女はやっと我にかえって慌ててお鍋をかき混ぜた。
「ぁっ、すみません!ちょっとボーッとしてましま…っ!」
言葉を噛み、あははと笑って恥ずかしそうにごまかそうとしている。
「うん、見てた。」
土井先生はポンとたまみさんの頭の上に手を乗せて穏やかに笑い返した。
その表情は、どこか照れたように嬉しそうで。
…うん、間違いない。
あれはきっと、土井先生がたまみさんに贈ったんだ。
喜ぶたまみさんを見て、土井先生も嬉しくなっているんだ。
そういえばあの青い飾りは土井先生の小袖の色に似ているような…。
俺は何となく思った。
まるで猫に首輪をつけて自分の猫だと主張しているみたいだ。
「ほら、貸して。」
土井先生はたまみさんの手から簪を取り、くるりと彼女の髪を結って上手に挿した。
頬を染め嬉しそうに見つめ合う二人。
あーあ、また二人の世界に入っちゃった…。
そのとき、俺はふと思い出した。
前に俺がたまみさんに櫛を渡したとき、土井先生から櫛を贈る意味を聞いた。
櫛と簪…どちらも髪を飾るもの…。
あれ、もしかして、簪にも同じような意味があったりして…?
「えっ、土井先生とたまみさん、もしかして結婚するの?」
驚きのあまり、つい疑問が口をついて出てしまった。
土井先生とたまみさんもびっくりしたように俺を見た。
その表情から、しまった違っていたのかと焦ったけど、土井先生はすぐに頭をかいて照れたように笑った。
「あー、いや、実は……その、いつ結婚するとか決めたわけではないんだが……婚約、したんだ。」
「婚約?」
「ああ。きり丸にも話そうと思ってたんだが…何で分かったんだ?」
「いえ、なんかこう、嬉しそうというか…」
「そ、そうか…?」
土井先生はたまみさんと目をあわせて照れ笑いをした。
本人達は気づいていなかったのかな。
「それに、簪にも櫛みたいに何か意味があるのかなって。」
「ああ…簪には『あなたを守ります』って意味がある。」
するとたまみさんが驚いた顔で土井先生を見上げた。
「そうなんですか?」
「あれ、言わなかったっけ?」
「簪にそういう意味があるとは聞いてないです。」
「はは、まぁとにかくそういうことだ。」
嬉しそうなたまみさんに土井先生が頭をかいて照れている。
あーはいはい、もう分かったからどうぞお二人でご自由に。
鍋が焦げないか気になったが、俺は机の造花に目線を戻した。
…それにしても。
婚約……?
何でわざわざそんな回りくどいことを?
二人とももういい年齢だし、何か体面的に色々あるような身分でもないし、挨拶とか許しをこう相手もいないのに……
理由を聞こうと口を開きかけた瞬間、俺はふと思い出した。
そうだ、たまみさんは戦で記憶がなくなったんだった。
誰も何も言わないから今までフツーに過ごしていたけど…。
それが、すぐにたまみさんをお嫁にしない理由と関係あるのかな……。
でももしそうなら、土井先生は何かを知っていて……
「きりちゃん」
突然ふってわいた疑問にグルグル考えていると、たまみさんがいつの間にか俺の隣に座って微笑んでいた。
「これからも、よろしく。」
ふわりと抱きしめられた。
ぴたりと止まる思考。
温かくて柔らかくて、お日様のいい匂いがした。
「こ…こちらこそ、よろしくお願いします。」
どう返してよいのか分からず、俺はうつ向いて小さくそう答えた。
嬉しそうに微笑むたまみさんを見た瞬間、さっき頭をよぎった疑問は消し飛んだ。
…きっと、大丈夫だ。
詳しいことは分からないけど、たまみさんはこれからも俺達と一緒に居てくれる……。
消えた記憶になにかあるのだとしても、土井先生がきっと、何とかしてくれる。
「あれ、きりちゃん背伸びたね?」
たまみさんが俺の足元を見た。
「また丈直ししなきゃ。」
そう言って微笑む目はとても優しくて。
俺の成長を心から喜んでくれている気がして。
俺は何だか嬉しくなって頷いた………
「…りまる、きり丸!」
「ッはい!?」
ハッと我に返ると目の前に土井先生の怒り顔。
そうだ、俺いま授業中で…!
「何をニヤニヤしている?授業に集中しなさい!」
土井先生は呆れ顔で黒板の前に戻った。
ニヤニヤ、って、俺、笑ってたのか…!?
これじゃ食堂での乱太郎達と同じじゃないか。
「きり丸、何か良いことあったの?」
乱太郎が小声で尋ねてきた。
俺は何だかこっ恥ずかしくなって「なんでもない!」と小声で返した。
俺は土井先生の授業を聞きながら、さっき食堂で乱太郎としんべヱが思い出し笑いをしていた理由が気になった。
休みの間にそんなに面白いことがあったのかな。
……そうだ、思い出し笑いといえば………
俺は春休みのことを思い出した。
土井先生の家で造花作りのアルバイトをしているとき。
昼ごはんを作ってくれているたまみさんの動きが、視界の端で突然止まった。
「?…どうかしたんですか?」
虫でも出たのかなと聞いてみた。
でも、返事はなくたまみさんの動きは止まったままだった。
何かあったのかと、俺は造花を机に置いて体を反らして覗いた。
「…たまみさん?」
たまみさんはボーッと……いや、ニヤニヤと自分の手のひらを見つめていた。
「…?」
何をニヤニヤしているのだろう。
俺は立ち上がって彼女の視線の先…手のなかを見た。
そこには…
あー。
また見てる。
彼女の視線の先には、一本の簪。
春休み前から、たまみさんはときどきその簪を見てはニヤニヤしたり嬉しそうにため息をついたりしていた。
「たまみ、お鍋が焦げるよ?」
井戸から水を汲んで戻った土井先生が、ひょいと後ろからたまみさんに歩み寄った。
彼女はやっと我にかえって慌ててお鍋をかき混ぜた。
「ぁっ、すみません!ちょっとボーッとしてましま…っ!」
言葉を噛み、あははと笑って恥ずかしそうにごまかそうとしている。
「うん、見てた。」
土井先生はポンとたまみさんの頭の上に手を乗せて穏やかに笑い返した。
その表情は、どこか照れたように嬉しそうで。
…うん、間違いない。
あれはきっと、土井先生がたまみさんに贈ったんだ。
喜ぶたまみさんを見て、土井先生も嬉しくなっているんだ。
そういえばあの青い飾りは土井先生の小袖の色に似ているような…。
俺は何となく思った。
まるで猫に首輪をつけて自分の猫だと主張しているみたいだ。
「ほら、貸して。」
土井先生はたまみさんの手から簪を取り、くるりと彼女の髪を結って上手に挿した。
頬を染め嬉しそうに見つめ合う二人。
あーあ、また二人の世界に入っちゃった…。
そのとき、俺はふと思い出した。
前に俺がたまみさんに櫛を渡したとき、土井先生から櫛を贈る意味を聞いた。
櫛と簪…どちらも髪を飾るもの…。
あれ、もしかして、簪にも同じような意味があったりして…?
「えっ、土井先生とたまみさん、もしかして結婚するの?」
驚きのあまり、つい疑問が口をついて出てしまった。
土井先生とたまみさんもびっくりしたように俺を見た。
その表情から、しまった違っていたのかと焦ったけど、土井先生はすぐに頭をかいて照れたように笑った。
「あー、いや、実は……その、いつ結婚するとか決めたわけではないんだが……婚約、したんだ。」
「婚約?」
「ああ。きり丸にも話そうと思ってたんだが…何で分かったんだ?」
「いえ、なんかこう、嬉しそうというか…」
「そ、そうか…?」
土井先生はたまみさんと目をあわせて照れ笑いをした。
本人達は気づいていなかったのかな。
「それに、簪にも櫛みたいに何か意味があるのかなって。」
「ああ…簪には『あなたを守ります』って意味がある。」
するとたまみさんが驚いた顔で土井先生を見上げた。
「そうなんですか?」
「あれ、言わなかったっけ?」
「簪にそういう意味があるとは聞いてないです。」
「はは、まぁとにかくそういうことだ。」
嬉しそうなたまみさんに土井先生が頭をかいて照れている。
あーはいはい、もう分かったからどうぞお二人でご自由に。
鍋が焦げないか気になったが、俺は机の造花に目線を戻した。
…それにしても。
婚約……?
何でわざわざそんな回りくどいことを?
二人とももういい年齢だし、何か体面的に色々あるような身分でもないし、挨拶とか許しをこう相手もいないのに……
理由を聞こうと口を開きかけた瞬間、俺はふと思い出した。
そうだ、たまみさんは戦で記憶がなくなったんだった。
誰も何も言わないから今までフツーに過ごしていたけど…。
それが、すぐにたまみさんをお嫁にしない理由と関係あるのかな……。
でももしそうなら、土井先生は何かを知っていて……
「きりちゃん」
突然ふってわいた疑問にグルグル考えていると、たまみさんがいつの間にか俺の隣に座って微笑んでいた。
「これからも、よろしく。」
ふわりと抱きしめられた。
ぴたりと止まる思考。
温かくて柔らかくて、お日様のいい匂いがした。
「こ…こちらこそ、よろしくお願いします。」
どう返してよいのか分からず、俺はうつ向いて小さくそう答えた。
嬉しそうに微笑むたまみさんを見た瞬間、さっき頭をよぎった疑問は消し飛んだ。
…きっと、大丈夫だ。
詳しいことは分からないけど、たまみさんはこれからも俺達と一緒に居てくれる……。
消えた記憶になにかあるのだとしても、土井先生がきっと、何とかしてくれる。
「あれ、きりちゃん背伸びたね?」
たまみさんが俺の足元を見た。
「また丈直ししなきゃ。」
そう言って微笑む目はとても優しくて。
俺の成長を心から喜んでくれている気がして。
俺は何だか嬉しくなって頷いた………
「…りまる、きり丸!」
「ッはい!?」
ハッと我に返ると目の前に土井先生の怒り顔。
そうだ、俺いま授業中で…!
「何をニヤニヤしている?授業に集中しなさい!」
土井先生は呆れ顔で黒板の前に戻った。
ニヤニヤ、って、俺、笑ってたのか…!?
これじゃ食堂での乱太郎達と同じじゃないか。
「きり丸、何か良いことあったの?」
乱太郎が小声で尋ねてきた。
俺は何だかこっ恥ずかしくなって「なんでもない!」と小声で返した。