第117話 約束
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結局。
乱太郎達は何とか補習で術名を答えられるようになり、私はたまみと出掛けることができた。
誕生日…彼女がここに来て初めて我々が出会った日…に何が欲しいかと尋ねたとき、彼女が目を輝かせてねだった『1日デート』。
とりあえず約束を果たすことができてよかった。
「昼間は日差しが温かくなってきたね。」
たまみと二人、河原の土手に座り手を重ねてそよ風を感じる。
草が風に揺れる音。
まだ冷たい澄んだ水が流れる川のせせらぎ。
時折聞こえる春の野鳥の鳴き声。
日常の喧騒が嘘のような…全てが心地好い、穏やかで満たされるひととき。
「そうですねぇ、もうすぐ春だから…。」
「ああ、時が経つのは早いな。」
たまみは頷き、そっと私の腕にもたれかかった。
身体寄せあい触れた腕に温もりが生まれる。
……可愛い。
重ねた彼女の手をギュッと握る。
小さく柔らかい温かな手。
「…たまみ」
「はい?」
私を見上げようとする彼女の額に優しく口づけた。
愛しさが募り、そのまま頭を抱き寄せ胸にそっと抱きしめる。
「………こんなに心惹かれることがあるなんて、思いもしなかった…」
本当に。
これほどまでに恋い焦がれる相手に出会えるとは想像もできなかった。
彼女の小柄な身体に回した腕に自然と力が入った。
半ば無意識にぎゅっと強く抱きしめる。
「……好きだ…」
気持ちが溢れて自然と言葉になる。
周囲に気配がないことは確認しているが、誰にも聞こえないように小さく耳元で囁いた。
たまみは嬉しそうに微笑み甘えた声で返した。
「私もです…」
私を抱きしめ返す華奢な腕。
決して離れないという気持ちを込めて、更に強く腕のなかに閉じ込めた。
静かな二人だけの時間に響く春風の音。
……渡すなら、今しかない。
私は一瞬固く目を閉じ、そしてぐっと覚悟を決めて懐からひとつの包みを取り出した。
「…たまみ」
不思議そうに私を見る彼女の手に、包みを渡す。
「………これを、きみに…」
「?…開けてもいいですか?」
頷くと、彼女は包みの布をそっと開けた。
「わぁ…可愛い…っ!!!」
それは一本の簪。
黒く塗られた細い木に、たまみが私の色だと言ってくれた青空色の布でできた丸い飾りが付いている。
「すごく嬉しい…!ありがとうございます!!」
満面の笑みで嬉しそうに簪を胸に抱くたまみ。
彼女は知っているのだろうか。
男が簪を贈る意味を…。
じっと彼女の瞳を…表情を見つめた。
そこには、ただ純粋に喜んでくれている気持ちだけがあった。
たまみは早速自らの髪に挿そうと手を伸ばしたが、簪を挿したことがない彼女は上手く出来ずに四苦八苦している。
「…貸してごらん。」
私とのお出掛けの為に着飾り普段より高く結いあげている髪を調整し、スッと簪を挿した。
私を連想させるという青空のような青色の飾りが小さく揺れる。
「うん、よく似合う。」
「えへへ、ありがとうございます。」
彼女の髪を優しく撫で、そっと簪に触れた。
迷いに迷い、逡巡に逡巡を重ね、ようやく決めたのだ。
生涯を共にするのは彼女しかいないと、その心はとっくに決まっていたのだが、問題はそのタイミングで。
以前、私は彼女が安心してこの世界で暮らすことが出来るように例の巻物にカタをつけてからに求婚しようと決意した。
しかし、具体的に巻物をどうするか考えれば考えるほどに…何か行動することでたまみが元の世界に戻ってしまったらどうしようかと…彼女によくない影響が出たらどうしようかと恐くなってしまい、結局現状に甘んじて今日まで過ごしてしまった。
だがそうやって手をこまねいているうちに、利吉くんみたいな輩がたまみにちょっかいをだし続けて…。
どうしても、どうしても。
彼女は私のものだから手を出すなと明示したかった。
だから今日、誕生日という名目で簪を贈り、そして……
我が儘な自己満足かもしれない。
他の男が寄り付かないように牽制しておいて、なのにまだ結婚には踏み切らないなんて。
中途半端だと思われるかもしれない。
それでも…
「ふふ、なんだか…」
「え?」
不意にたまみが私の手をとり、そっと頬にあてた。
「…青空色の簪、『半助さんのもの!』って感じですね?」
「!」
たまみが嬉しそうに私の目を見つめた。
…私の言葉を、待っている?
「…たまみ」
「……」
「………もう少し…」
「?」
「もう少しだけ、待ってほしい。」
真っ直ぐに向けられる瞳に、私も真っ直ぐに見つめ返す。
「…時が来たら、必ずきちんと言うから…。…だから、その…もし、私と一緒になってくれるなら……。婚約の証として、受け取ってもらえないだろうか…。」
あんなに色々と言い回しを考えていたのに、しどろもどろと迷いのある口調になってしまった。
時が来たらとか誤魔化すような言い方をしたが、しかしたまみを少しでも不安にさせるような言葉は言いたくなかった。
たまみはどう受け取るだろう。
彼女の表情を伺い見る。
すると、その瞳から見る間にぽろぽろと涙が溢れ落ちた。
「!…たまみ……?」
「うれしい…!」
たまみは私に抱きつき泣き顔を見せないように私の胸に顔を押しつけた。
「嬉しい…!!」
「…たまみ………」
彼女をそっと抱きしめると、簪の青い飾りが小さく揺れた。
たまみが顔をあげ、私の頬にそっと口づける。
「大好き。」
そう微笑む彼女の頬を涙が伝う。
…こんなに美しい涙を、私は見たことがなかった。
「…愛してる。」
彼女の頬を伝う涙を拭い、優しく口づけた。
何だかつられて泣きそうになってくる。
「…これ、ずっと付けててもいいんですか?」
「ああ。きみがもう私のものだと示すために付けててくれ。」
たまみは「なるほど」と可笑しそうに微笑んだ。
そんな心配する必要ないのに、とその目が語る。
「…たまみが可愛すぎるのが悪い。」
ちょっと恥ずかしくなってきてぶっきらぼうに返すと、彼女は嬉しそうに笑った。
「私の心も身体も…全て、半助さんのものですよ。」
「…たまみ……」
…そんな風に言われたら。
私はスッと立ち上がり彼女を横抱きに抱えて土手を登った。
「ど、どうしたんですか?」
「家に帰ろう。」
「え?」
驚いて目を丸くする彼女。
私は唐突に深く口づけ、じっとその目を見つめた。
「…………」
「…!」
私の意図を察したたまみ。
照れたように微笑み頷く彼女に、私もまた微笑み返した。
こうして結局、予定していた甘味屋は持ち帰りにすることにして、たまみも持ち帰って甘く甘く頂戴して…甘くて幸せな1日を過ごしたのだった。
乱太郎達は何とか補習で術名を答えられるようになり、私はたまみと出掛けることができた。
誕生日…彼女がここに来て初めて我々が出会った日…に何が欲しいかと尋ねたとき、彼女が目を輝かせてねだった『1日デート』。
とりあえず約束を果たすことができてよかった。
「昼間は日差しが温かくなってきたね。」
たまみと二人、河原の土手に座り手を重ねてそよ風を感じる。
草が風に揺れる音。
まだ冷たい澄んだ水が流れる川のせせらぎ。
時折聞こえる春の野鳥の鳴き声。
日常の喧騒が嘘のような…全てが心地好い、穏やかで満たされるひととき。
「そうですねぇ、もうすぐ春だから…。」
「ああ、時が経つのは早いな。」
たまみは頷き、そっと私の腕にもたれかかった。
身体寄せあい触れた腕に温もりが生まれる。
……可愛い。
重ねた彼女の手をギュッと握る。
小さく柔らかい温かな手。
「…たまみ」
「はい?」
私を見上げようとする彼女の額に優しく口づけた。
愛しさが募り、そのまま頭を抱き寄せ胸にそっと抱きしめる。
「………こんなに心惹かれることがあるなんて、思いもしなかった…」
本当に。
これほどまでに恋い焦がれる相手に出会えるとは想像もできなかった。
彼女の小柄な身体に回した腕に自然と力が入った。
半ば無意識にぎゅっと強く抱きしめる。
「……好きだ…」
気持ちが溢れて自然と言葉になる。
周囲に気配がないことは確認しているが、誰にも聞こえないように小さく耳元で囁いた。
たまみは嬉しそうに微笑み甘えた声で返した。
「私もです…」
私を抱きしめ返す華奢な腕。
決して離れないという気持ちを込めて、更に強く腕のなかに閉じ込めた。
静かな二人だけの時間に響く春風の音。
……渡すなら、今しかない。
私は一瞬固く目を閉じ、そしてぐっと覚悟を決めて懐からひとつの包みを取り出した。
「…たまみ」
不思議そうに私を見る彼女の手に、包みを渡す。
「………これを、きみに…」
「?…開けてもいいですか?」
頷くと、彼女は包みの布をそっと開けた。
「わぁ…可愛い…っ!!!」
それは一本の簪。
黒く塗られた細い木に、たまみが私の色だと言ってくれた青空色の布でできた丸い飾りが付いている。
「すごく嬉しい…!ありがとうございます!!」
満面の笑みで嬉しそうに簪を胸に抱くたまみ。
彼女は知っているのだろうか。
男が簪を贈る意味を…。
じっと彼女の瞳を…表情を見つめた。
そこには、ただ純粋に喜んでくれている気持ちだけがあった。
たまみは早速自らの髪に挿そうと手を伸ばしたが、簪を挿したことがない彼女は上手く出来ずに四苦八苦している。
「…貸してごらん。」
私とのお出掛けの為に着飾り普段より高く結いあげている髪を調整し、スッと簪を挿した。
私を連想させるという青空のような青色の飾りが小さく揺れる。
「うん、よく似合う。」
「えへへ、ありがとうございます。」
彼女の髪を優しく撫で、そっと簪に触れた。
迷いに迷い、逡巡に逡巡を重ね、ようやく決めたのだ。
生涯を共にするのは彼女しかいないと、その心はとっくに決まっていたのだが、問題はそのタイミングで。
以前、私は彼女が安心してこの世界で暮らすことが出来るように例の巻物にカタをつけてからに求婚しようと決意した。
しかし、具体的に巻物をどうするか考えれば考えるほどに…何か行動することでたまみが元の世界に戻ってしまったらどうしようかと…彼女によくない影響が出たらどうしようかと恐くなってしまい、結局現状に甘んじて今日まで過ごしてしまった。
だがそうやって手をこまねいているうちに、利吉くんみたいな輩がたまみにちょっかいをだし続けて…。
どうしても、どうしても。
彼女は私のものだから手を出すなと明示したかった。
だから今日、誕生日という名目で簪を贈り、そして……
我が儘な自己満足かもしれない。
他の男が寄り付かないように牽制しておいて、なのにまだ結婚には踏み切らないなんて。
中途半端だと思われるかもしれない。
それでも…
「ふふ、なんだか…」
「え?」
不意にたまみが私の手をとり、そっと頬にあてた。
「…青空色の簪、『半助さんのもの!』って感じですね?」
「!」
たまみが嬉しそうに私の目を見つめた。
…私の言葉を、待っている?
「…たまみ」
「……」
「………もう少し…」
「?」
「もう少しだけ、待ってほしい。」
真っ直ぐに向けられる瞳に、私も真っ直ぐに見つめ返す。
「…時が来たら、必ずきちんと言うから…。…だから、その…もし、私と一緒になってくれるなら……。婚約の証として、受け取ってもらえないだろうか…。」
あんなに色々と言い回しを考えていたのに、しどろもどろと迷いのある口調になってしまった。
時が来たらとか誤魔化すような言い方をしたが、しかしたまみを少しでも不安にさせるような言葉は言いたくなかった。
たまみはどう受け取るだろう。
彼女の表情を伺い見る。
すると、その瞳から見る間にぽろぽろと涙が溢れ落ちた。
「!…たまみ……?」
「うれしい…!」
たまみは私に抱きつき泣き顔を見せないように私の胸に顔を押しつけた。
「嬉しい…!!」
「…たまみ………」
彼女をそっと抱きしめると、簪の青い飾りが小さく揺れた。
たまみが顔をあげ、私の頬にそっと口づける。
「大好き。」
そう微笑む彼女の頬を涙が伝う。
…こんなに美しい涙を、私は見たことがなかった。
「…愛してる。」
彼女の頬を伝う涙を拭い、優しく口づけた。
何だかつられて泣きそうになってくる。
「…これ、ずっと付けててもいいんですか?」
「ああ。きみがもう私のものだと示すために付けててくれ。」
たまみは「なるほど」と可笑しそうに微笑んだ。
そんな心配する必要ないのに、とその目が語る。
「…たまみが可愛すぎるのが悪い。」
ちょっと恥ずかしくなってきてぶっきらぼうに返すと、彼女は嬉しそうに笑った。
「私の心も身体も…全て、半助さんのものですよ。」
「…たまみ……」
…そんな風に言われたら。
私はスッと立ち上がり彼女を横抱きに抱えて土手を登った。
「ど、どうしたんですか?」
「家に帰ろう。」
「え?」
驚いて目を丸くする彼女。
私は唐突に深く口づけ、じっとその目を見つめた。
「…………」
「…!」
私の意図を察したたまみ。
照れたように微笑み頷く彼女に、私もまた微笑み返した。
こうして結局、予定していた甘味屋は持ち帰りにすることにして、たまみも持ち帰って甘く甘く頂戴して…甘くて幸せな1日を過ごしたのだった。