第117話 約束
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急に職員室を出て、一体たまみは何をするつもりなのだろう。
たまに突拍子もないことをするからなぁ…。
気になりつつも雑務を片付けていく。
火薬委員の仕事も終わり煙硝蔵から戻る途中、たまみの声が聞こえて足を止めた。
中庭に目を向けると、彼女は乱太郎達を昼寝から起こし、やがてそのまま木陰で授業を始めた。
…補習の補習の予習とは…。
気配を消し、木の上からじっとその様子を眺めた。
たまみは言葉巧みに三人のやる気を引き出し、乱太郎達も集中して聞いている。
その風景にうんうんと頷いていると。
「土井先生によく似ているな。」
「山田先生!」
山田先生が隣に現れてニヤリと笑んだ。
「口調は違うが説明の仕方がよく似ている…普段からだいぶ熱心に授業を見ているようだな。」
からかうように口端をあげて腕を組む山田先生。
私は何と返してよいか分からず、頭をかいて苦笑した。
授業中の彼女の熱い視線には気づいていたが、このように似るほどまで熱心に見ていたとは…。
「ああやって一生懸命なところとかもお前さんにそっくりだ。」
「あはは、そ…そうでしょうか。」
「うむ。…忍者の人形や忍術の名前を書いた紙を用意して実際に生徒にやらせてみせたり…自分なりに工夫もしている。」
「そうですね…。補佐というよりも、一人の教育者としてよく頑張ってくれていると思います。」
「まぁ、覚えたらお菓子とか褒美をやるというのはどうかと思うがな…。」
「うーん、それはきっと…あいつらが覚えるまで毎日補習すると私が言ったから…、だと思います…。」
「ほう。毎日補習だと何か困ることでも…」
と、その時。
下から聞き慣れた声がして山田先生との会話が途切れた。
足音もなく笑顔で颯爽と現れたのは…
「「「「利吉さん!」」」」
「やぁ、こんにちは。」
彼は爽やかに微笑み足を止めた。
たまみが教材を置いて笑いかけると、利吉くんは嬉しそうに破顔した。
…うーん、ただ挨拶しているだけなのに…何だか腹が立つのはなぜだろう。
「今日はどうされたんですか?」
「春休みに父が帰るようにと母から手紙を託されまして…」
そういえば山田先生、この休みも帰らないとか仰っていたな…。
私はたまみ達から目線を外さないまま、小声で隣の山田先生に話しかけてみた。
「山田先生、そろそろ一度帰られたら…って、いない!?」
隣を見ると既に山田先生の姿はなくなっていた。
利吉くんの用件を察して早々に逃げたな…。
あ、利吉くんもこちらの気配に気づいていたのか私の横を一瞥して溜め息をついた。
山田先生が逃げたことに気づいたか…。
しかしたまみはそんな攻防を知るよしもなく会話を続ける。
「いま、補習の補習の予習をしてるんです。」
「補習の補習の予習…?」
利吉くんが不思議な顔をする。
たまみは苦笑しながら忍者の人形をひらひらと動かした。
「乱太郎くん達がこのままじゃ毎日補習になりそうだったので……ちょっと一緒に予習してみようかなって。」
「…なるほど……」
一拍おいて、利吉くんがちらりとこちらに目線をよこした。
その鋭い視線が、『どうせそれは乱太郎達の為ではなく土井先生の為に、でしょう。そしてそんな彼女の思いやりを嬉しそうに木の上で眺めているとかいい身分ですね!?』と語りかけてくる。
いやぁ、私の労を思いやってというよりは私とデートしたいが為だと思うのだが…。
まぁそれも私を想ってのことだから、利吉くんに睨まれても仕方ないといえば仕方ないか。
返す言葉もなく苦笑すると、利吉くんがフッと一瞬目を閉じてたまみに笑いかけた。
「何だか楽しそうですね。それ、私も参加していいですか?」
「えっ!?もしかしてプロの実体験をまじえて忍術の覚え方を話してくれたり…?!」
「いえ、私も生徒として。」
「え?」
ポカンとするたまみ達四名、および私。
すると、利吉くんはニヤリと妖しげな笑みを浮かべて片目を閉じた。
「私も是非授業を聞いてみたいなぁ…、たまみセ、ン、セ?」
なっ…!!!?
ぬっ、ぬわぁぁにが「たまみセンセ?」だあっっっ!!
無邪気そうな笑顔で生徒の横に座って甘えてみせるとは…ちょっ、ちょこざいなっ………!!!
しかもなんだあれは!!
たまみのやつ、ちょっとまんざらでもなさそうに笑ってないか!?
くうぅっ、たまみの弱点を…甘えられるとつい甘やかしてしまうのを、ついに見抜かれたか…!??
というか利吉くんの無邪気そうな顔を久しぶりに見たがこれは何か企んでいるときの顔だぞ…!
「邪魔はしませんので、私は空気と思って気にせず授業を続けてください。」
ニコリと授業を促す利吉くん。
おいおいおい!
気にするなというほうが無理だろう!
乱太郎達もどうして邪魔しないんだ!?
何だかんだとグダグダにもっていくいつものノリはどうしたぁっ!?
「でも私、利吉さんの前で授業できるほどの知識も経験もないので…ちょっと恐れ多いというか恥ずかしいというか…」
「たまみさんの生徒になるというだけで楽しいので大丈夫です。」
そう言うと利吉くんはチラリとこちらを一瞥した。
その目は優越感に満ちていて、『どうです、たまみさんの生徒とか…羨ましいでしょう?』という悪意がひしひしと伝わってきた。
グッと怒りを抑え、そして同時に想像してしまった。
もしもたまみが教師で私が子どもで生徒だったら…
きっと少しどんくさい可愛い先生を優等生の私が支えて放課後も色々手伝ったりして…それがいつしか禁断の恋に……
ハッ!
いかん、一瞬だけあらぬ妄想の世界に入り込みかけた。
利吉くんは満足そうにニコニコと座っている。
「たまみさぁーん、すみません僕やっぱりそろそろバイトの…」
きり丸が足元に置いていた箱を抱えて立ち上がった。
よおーし!
きり丸、ナイスだ!!
そのまま授業をうやむやに…って、アレ、それだとせっかくの補習の補習の予習が…
「きりちゃん、授業が終わったら私も手伝うからもうちょっと待って?」
「でももう時間なんですよぉ。」
「んー、どうしてもと言うなら、私を倒してから行きなさい!!」
「えぇーっ!?」
たまみが少し怒って私の台詞を真似してみせた。
私は胃痛に倒れたところを乱太郎達に『倒した』と言われたが、彼女ならそんなことにはならないはずだ。
「ほら、荷物を置いて座っ…」
そのとき。
たまみがきり丸の持つ箱を下に降ろそうとすると、フタがひっかかって外れた。
「ッッッ、ぉぅわあぁぁッ!!!???」
!?
たまみが変な声で叫びながら後ずさった。
目を凝らして箱の中身を見ると、そこには。
「……カイコ…?」
箱の中には大きなイモムシ…カイコがたくさん蠢いていた。
「僕、こいつらに葉っぱのエサやったりお世話しなきゃいけなくて。たまみさん虫嫌いだし、これは手伝えないでしょ?」
「ッう…、それ、は……」
動揺したたまみが後退った瞬間。
足元の石にかかとをぶつけて、そのまま後ろに転びかけた。
「ぅわッ!?」
「っと!」
利吉くんが咄嗟にたまみの身体を支えた。
頭を打ち付けないよう腕を回して抱え込む。
そしてそのまま彼女の耳元に口を寄せて…
「『私を押し倒していきなさい』ですか?」
「!?!?ち、違っ……!」
バチッ!!!
全員が音のした方角…塀を見た。
硬い壁には、白いチョークがぶつかり粉砕した跡がついている。
「利吉くん、手を離しなさい。」
「…土井先生、さすがチョークでも凄い威力ですね。」
利吉くんは、チョークがかすってヒリつく頬を撫でながら顔をひきつらせた。
わざと外したが、本気で当てればチョークでもそこそこの威力はある。
「たまみの頑張ろうという気持ちを尊重して静観していたが、利吉くん、君ってやつは…!」
「転びそうなところを助けただけですよ。」
「それだけじゃないだろう!」
「何か証拠でも?」
私と利吉くんが睨みあってバチバチやっていると、たまみが私の袖を引いた。
「あの、土井せんせ…みんな行っちゃいました。」
「え」
見れば、乱太郎達はこの隙にと言わんばかりの勢いで走り去っていった。
ちゃっかりお菓子もなくなっている。
後に残ったのは我々三人だけで…。
「「「………………」」」
結局、こうして補習の補習の予習はグダグダのうちにあっけなく解散となったのだった。
たまに突拍子もないことをするからなぁ…。
気になりつつも雑務を片付けていく。
火薬委員の仕事も終わり煙硝蔵から戻る途中、たまみの声が聞こえて足を止めた。
中庭に目を向けると、彼女は乱太郎達を昼寝から起こし、やがてそのまま木陰で授業を始めた。
…補習の補習の予習とは…。
気配を消し、木の上からじっとその様子を眺めた。
たまみは言葉巧みに三人のやる気を引き出し、乱太郎達も集中して聞いている。
その風景にうんうんと頷いていると。
「土井先生によく似ているな。」
「山田先生!」
山田先生が隣に現れてニヤリと笑んだ。
「口調は違うが説明の仕方がよく似ている…普段からだいぶ熱心に授業を見ているようだな。」
からかうように口端をあげて腕を組む山田先生。
私は何と返してよいか分からず、頭をかいて苦笑した。
授業中の彼女の熱い視線には気づいていたが、このように似るほどまで熱心に見ていたとは…。
「ああやって一生懸命なところとかもお前さんにそっくりだ。」
「あはは、そ…そうでしょうか。」
「うむ。…忍者の人形や忍術の名前を書いた紙を用意して実際に生徒にやらせてみせたり…自分なりに工夫もしている。」
「そうですね…。補佐というよりも、一人の教育者としてよく頑張ってくれていると思います。」
「まぁ、覚えたらお菓子とか褒美をやるというのはどうかと思うがな…。」
「うーん、それはきっと…あいつらが覚えるまで毎日補習すると私が言ったから…、だと思います…。」
「ほう。毎日補習だと何か困ることでも…」
と、その時。
下から聞き慣れた声がして山田先生との会話が途切れた。
足音もなく笑顔で颯爽と現れたのは…
「「「「利吉さん!」」」」
「やぁ、こんにちは。」
彼は爽やかに微笑み足を止めた。
たまみが教材を置いて笑いかけると、利吉くんは嬉しそうに破顔した。
…うーん、ただ挨拶しているだけなのに…何だか腹が立つのはなぜだろう。
「今日はどうされたんですか?」
「春休みに父が帰るようにと母から手紙を託されまして…」
そういえば山田先生、この休みも帰らないとか仰っていたな…。
私はたまみ達から目線を外さないまま、小声で隣の山田先生に話しかけてみた。
「山田先生、そろそろ一度帰られたら…って、いない!?」
隣を見ると既に山田先生の姿はなくなっていた。
利吉くんの用件を察して早々に逃げたな…。
あ、利吉くんもこちらの気配に気づいていたのか私の横を一瞥して溜め息をついた。
山田先生が逃げたことに気づいたか…。
しかしたまみはそんな攻防を知るよしもなく会話を続ける。
「いま、補習の補習の予習をしてるんです。」
「補習の補習の予習…?」
利吉くんが不思議な顔をする。
たまみは苦笑しながら忍者の人形をひらひらと動かした。
「乱太郎くん達がこのままじゃ毎日補習になりそうだったので……ちょっと一緒に予習してみようかなって。」
「…なるほど……」
一拍おいて、利吉くんがちらりとこちらに目線をよこした。
その鋭い視線が、『どうせそれは乱太郎達の為ではなく土井先生の為に、でしょう。そしてそんな彼女の思いやりを嬉しそうに木の上で眺めているとかいい身分ですね!?』と語りかけてくる。
いやぁ、私の労を思いやってというよりは私とデートしたいが為だと思うのだが…。
まぁそれも私を想ってのことだから、利吉くんに睨まれても仕方ないといえば仕方ないか。
返す言葉もなく苦笑すると、利吉くんがフッと一瞬目を閉じてたまみに笑いかけた。
「何だか楽しそうですね。それ、私も参加していいですか?」
「えっ!?もしかしてプロの実体験をまじえて忍術の覚え方を話してくれたり…?!」
「いえ、私も生徒として。」
「え?」
ポカンとするたまみ達四名、および私。
すると、利吉くんはニヤリと妖しげな笑みを浮かべて片目を閉じた。
「私も是非授業を聞いてみたいなぁ…、たまみセ、ン、セ?」
なっ…!!!?
ぬっ、ぬわぁぁにが「たまみセンセ?」だあっっっ!!
無邪気そうな笑顔で生徒の横に座って甘えてみせるとは…ちょっ、ちょこざいなっ………!!!
しかもなんだあれは!!
たまみのやつ、ちょっとまんざらでもなさそうに笑ってないか!?
くうぅっ、たまみの弱点を…甘えられるとつい甘やかしてしまうのを、ついに見抜かれたか…!??
というか利吉くんの無邪気そうな顔を久しぶりに見たがこれは何か企んでいるときの顔だぞ…!
「邪魔はしませんので、私は空気と思って気にせず授業を続けてください。」
ニコリと授業を促す利吉くん。
おいおいおい!
気にするなというほうが無理だろう!
乱太郎達もどうして邪魔しないんだ!?
何だかんだとグダグダにもっていくいつものノリはどうしたぁっ!?
「でも私、利吉さんの前で授業できるほどの知識も経験もないので…ちょっと恐れ多いというか恥ずかしいというか…」
「たまみさんの生徒になるというだけで楽しいので大丈夫です。」
そう言うと利吉くんはチラリとこちらを一瞥した。
その目は優越感に満ちていて、『どうです、たまみさんの生徒とか…羨ましいでしょう?』という悪意がひしひしと伝わってきた。
グッと怒りを抑え、そして同時に想像してしまった。
もしもたまみが教師で私が子どもで生徒だったら…
きっと少しどんくさい可愛い先生を優等生の私が支えて放課後も色々手伝ったりして…それがいつしか禁断の恋に……
ハッ!
いかん、一瞬だけあらぬ妄想の世界に入り込みかけた。
利吉くんは満足そうにニコニコと座っている。
「たまみさぁーん、すみません僕やっぱりそろそろバイトの…」
きり丸が足元に置いていた箱を抱えて立ち上がった。
よおーし!
きり丸、ナイスだ!!
そのまま授業をうやむやに…って、アレ、それだとせっかくの補習の補習の予習が…
「きりちゃん、授業が終わったら私も手伝うからもうちょっと待って?」
「でももう時間なんですよぉ。」
「んー、どうしてもと言うなら、私を倒してから行きなさい!!」
「えぇーっ!?」
たまみが少し怒って私の台詞を真似してみせた。
私は胃痛に倒れたところを乱太郎達に『倒した』と言われたが、彼女ならそんなことにはならないはずだ。
「ほら、荷物を置いて座っ…」
そのとき。
たまみがきり丸の持つ箱を下に降ろそうとすると、フタがひっかかって外れた。
「ッッッ、ぉぅわあぁぁッ!!!???」
!?
たまみが変な声で叫びながら後ずさった。
目を凝らして箱の中身を見ると、そこには。
「……カイコ…?」
箱の中には大きなイモムシ…カイコがたくさん蠢いていた。
「僕、こいつらに葉っぱのエサやったりお世話しなきゃいけなくて。たまみさん虫嫌いだし、これは手伝えないでしょ?」
「ッう…、それ、は……」
動揺したたまみが後退った瞬間。
足元の石にかかとをぶつけて、そのまま後ろに転びかけた。
「ぅわッ!?」
「っと!」
利吉くんが咄嗟にたまみの身体を支えた。
頭を打ち付けないよう腕を回して抱え込む。
そしてそのまま彼女の耳元に口を寄せて…
「『私を押し倒していきなさい』ですか?」
「!?!?ち、違っ……!」
バチッ!!!
全員が音のした方角…塀を見た。
硬い壁には、白いチョークがぶつかり粉砕した跡がついている。
「利吉くん、手を離しなさい。」
「…土井先生、さすがチョークでも凄い威力ですね。」
利吉くんは、チョークがかすってヒリつく頬を撫でながら顔をひきつらせた。
わざと外したが、本気で当てればチョークでもそこそこの威力はある。
「たまみの頑張ろうという気持ちを尊重して静観していたが、利吉くん、君ってやつは…!」
「転びそうなところを助けただけですよ。」
「それだけじゃないだろう!」
「何か証拠でも?」
私と利吉くんが睨みあってバチバチやっていると、たまみが私の袖を引いた。
「あの、土井せんせ…みんな行っちゃいました。」
「え」
見れば、乱太郎達はこの隙にと言わんばかりの勢いで走り去っていった。
ちゃっかりお菓子もなくなっている。
後に残ったのは我々三人だけで…。
「「「………………」」」
結局、こうして補習の補習の予習はグダグダのうちにあっけなく解散となったのだった。