第114話 そんなあなたも好きだから
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あー、びっくりした。
急に土井先生にあんなことをされて、利吉さんに見つかりそうになって…。
肝を冷やすとはこのことだ。
しかも土井先生が利吉さんと部屋を出た後。
押入れから出ようとしているときに善法寺くんの声がして心臓が止まりかけた。
身なりは整えたつもりだったけれど、顔だけでなく髪にも付いていたから…。
善法寺くんには何だか気づかれそうな気がして焦ってしまった。
でも土井先生が止めてくれたみたいで部屋には誰も来ず一安心した。
頃合いをみて私はこっそりと自室へ戻り、なるべく誰にも会わないように急ぎ足でお風呂に向かった。
「…っ!!」
髪を洗いながら色々思い出して顔が赤くなる。
『人目をぬすんで愛でてください』ってお願いしたのは私だけれど。
ちょっと予想外すぎたというかなんというか…。
色んな意味でドキドキしすぎてもうこれちょっとどうしよう。
嫌、ではなかった。
土井先生にされて嫌なことなんてない…あ、嘘、放置されるとか怒られるとかはイヤ。
でも基本的には、どんな風に愛でられても私は嬉しい…。
うん、嬉しい……んだけど。
ちょっとこれは危なすぎる……!
私はサッとお風呂を済ませ、着替えると懐から一枚の紙を取り出した。
先ほど土井先生が落としていったと思われる1枚の紙片。
これは食堂のおばちゃんから預かった買い物リストではないだろうか。
土井先生に確認しようと職員室に行ってみても誰も居なかった。
迷った挙げ句、急ぐものだといけないので食堂のおばちゃんに確認することにした。
「食堂のおばちゃん、このメモなんですけど…」
調理場ではおばちゃんが食材の準備をしていたが、私の手元を見て瞬きした。
「あらやだ、土井先生に渡したんだけどまだ買いに出てなかったのかしら。」
「これってお急ぎの買い出し分ですか?」
「そうなのよ。今晩の準備で使おうと思って。」
「そうですか…あ、土井先生はお忙しいかもしれないので…私買ってきますね!」
メモを拾った経緯を聞かれると困るので、私はそそくさと食堂を出ようとした。
「ごめんなさいね、夕方までには戻ってね。」
「わかりました!」
笑顔で食堂を後にしようとしたとき、ぽんと肩に手を置かれた。
「たまみさん、いつも一人で学園の外に出ているのですか。」
「り、利吉さん!」
振り返ると、利吉さんが真っ直ぐに私を見つめていた。
先程の押入れでのことが脳裏を掠め、思わず目をそらしてしまった。
「えーっと、いえ、いつもは土井先生が一緒に来てくれるんですけど…」
「土井先生が忙しいときは?」
「誰かにお願いしてご一緒して頂いてます。」
「では今日は私が一緒に…」
「利吉さんお仕事は…?」
「今日の分は終わりました。」
そう言うと利吉さんは私の顔をじっと見た。
何だろうと身構えると。
「…石鹸の香りがしますね。」
「!」
無意識に髪を触った瞬間、パッと頭巾を外された。
「髪もまだ濡れて…こんな昼間にお風呂ですか?」
利吉さんが私の髪に手を伸ばす。
まだ乾いていない髪をするりと撫でられた。
「あ、これは…その…っ」
咄嗟にうまく言えずしどろもどろに言い淀む。
すると、利吉さんは目を細めて私の耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「……さっき、押入れに居ましたね?」
「!!!!!」
驚いて固まってしまった。
それを是ととらえられたのか、利吉さんが重ねて問う。
「何故そんなところに?」
「や…その、違うんです、これは…」
「毒蛇を探してたんですか?」
毒蛇??
何のことかと利吉さんを見上げた瞬間。
バチッと目が合って外せなくなった。
直感的に、試されていると感じて鼓動が早くなる。
毒蛇を探して…ってどういうこと?
土井先生がそう説明したってこと?
これは、そうですと頷くべき…?
それとも、何かカマをかけられている…?
まさか、押入れでの情事を見透かされてる…?!
瞬間的に色んな考えが頭をよぎり、動揺してしまった。
でも………
「はい、そうなんです。」
利吉さんは、嘘で私を試すような人じゃない…と思う……たぶん。
私がドキドキしながら返事をすると、利吉さんはスッと目を細めた。
「毒蛇はもう捕まえたので安心していいですよ。」
「え…」
「諸泉尊奈門が土井先生に奇襲をしかけるために持っていました。」
「えっ!?」
「まぁそんな手にひっかかる土井先生ではありませんが…とりあえず飼い主の手元に戻ったのでもう大丈夫です。」
「そ…そうですか。」
えーと、今一つ状況がつかめないけれど、とにかく土井先生が無事ということは分かった。
「しかし、何故さっきたまみさんも一緒に押入れから出てこなかったんですか?」
う…!
利吉さんの探るような視線。
どう返すべきか迷い、私は若干涙目になり俯いた。
そして、咄嗟に出した返事は…
「く…クモの巣が、髪について……」
「え?」
「クモ自体も自分についてないかなって、取り乱してしまって…ちょっと、その…脱いで確認したりしていたので……」
「………」
「それで髪を洗うために、今お風呂に入ってきたんです。」
自分的には割と信憑性のある言い訳だった。
実際、土井先生の家で背中に蛾が入り込んだときもそんな感じだった気がする。
でも、利吉さんが信じてくれるかどうか……。
私は恐る恐る利吉さんを見上げた。
「ああ…なるほど、それで土井先生が必死に隠していたのですね…。」
呆れたように苦笑する利吉さん。
どうやら彼のなかで辻褄があったらしい。
「てっきり、たまみさんが押入れで土井先生によからぬことをされてたんじゃないかと邪推してしまいました。」
「そっ!そんな訳ないでしょうっ!な、何を考えてるんですか!?」
あ、当たってるー!!
色んな意味で真っ赤になって否定すると、利吉さんがクスリと笑った。
「すみません。そうですよね、まさか生徒の押入れでなんて。」
「あ、当たり前じゃないですか!!変なこと言わないでください!!」
怒ったふりをしつつ、心中かなり動揺してしまった。
これ以上突き詰められると隠し通せる気がしない…!!
「いや、それにしてもクモですか……。いつぞやバッタが頭についていたときを思い出しますね…。」
利吉さんは面白そうに口を押さえてクククと笑った。
「あぁ、懐かしいなぁ…。」
スウッと声のトーンが変わった。
利吉さんの手がゆっくりと頬に触れる。
しゅるり
私の髪紐がほどかれ、はらりと髪が落ちた。
「あのとき……」
微かに苦味を含む微笑。
「そう、あのとき……私はあなたに………」
真っ直ぐに向けられる真剣な眼差し。
長い指が、私の髪をすくう。
「…心奪われて………」
消えるように囁かれた声。
私の髪をするりと指に絡める。
そしてそのまま…そっとその髪に口づけした。
「あ…あの…っ!」
慌てて身を離そうとすると視線で制された。
「あのときのこと、覚えてますか?」
「えっ…」
あのとき、とは……たしか、初めて利吉さんに会ったとき?
バッタが私の頭巾にとまっていて、私がパニックになって…。
「は、はい。頭にバッタがとまったのなんて、あのときくらいですから。」
真面目にそう返すと、利吉さんが声を出して笑った。
「な、何で笑うんですか!?」
「いえ、あはは…!ほんと、面白いですね。」
小馬鹿にされているのか何なのか分からず、どう返そうかと迷っていると。
「そこで何をしている。」
すぐ後ろからドスのきいた声がした。
「あ、土井先生…!」
振り返ると、眉間にシワを寄せて怒っている土井先生がいた。
利吉さんが私の髪から手を離し距離をとる。
「またいいところで邪魔をするんですから…」
「何がいいところだ!ほんっとーに君というやつは油断も隙もないな…!!」
土井先生が怒って利吉さんの手から髪紐を取り返した。
私の髪を雑に束ねてくくり、頭巾を乱暴に被せる。
「ちゃんと隠しておきなさい。」
また睨み合う土井先生と利吉さん。
どうしようかと迷っていると、突然食堂のおばちゃんがパンパンと手を叩いた。
「はいはい、それくらいにしてちょうだい。早くおつかいに行ってくれないとみんな晩ごはん無しですよ!?」
さすが食堂のおばちゃん。
一言でその場はおさまり、結局私と土井先生が大急ぎでおつかいに行くことになったのだった。
急に土井先生にあんなことをされて、利吉さんに見つかりそうになって…。
肝を冷やすとはこのことだ。
しかも土井先生が利吉さんと部屋を出た後。
押入れから出ようとしているときに善法寺くんの声がして心臓が止まりかけた。
身なりは整えたつもりだったけれど、顔だけでなく髪にも付いていたから…。
善法寺くんには何だか気づかれそうな気がして焦ってしまった。
でも土井先生が止めてくれたみたいで部屋には誰も来ず一安心した。
頃合いをみて私はこっそりと自室へ戻り、なるべく誰にも会わないように急ぎ足でお風呂に向かった。
「…っ!!」
髪を洗いながら色々思い出して顔が赤くなる。
『人目をぬすんで愛でてください』ってお願いしたのは私だけれど。
ちょっと予想外すぎたというかなんというか…。
色んな意味でドキドキしすぎてもうこれちょっとどうしよう。
嫌、ではなかった。
土井先生にされて嫌なことなんてない…あ、嘘、放置されるとか怒られるとかはイヤ。
でも基本的には、どんな風に愛でられても私は嬉しい…。
うん、嬉しい……んだけど。
ちょっとこれは危なすぎる……!
私はサッとお風呂を済ませ、着替えると懐から一枚の紙を取り出した。
先ほど土井先生が落としていったと思われる1枚の紙片。
これは食堂のおばちゃんから預かった買い物リストではないだろうか。
土井先生に確認しようと職員室に行ってみても誰も居なかった。
迷った挙げ句、急ぐものだといけないので食堂のおばちゃんに確認することにした。
「食堂のおばちゃん、このメモなんですけど…」
調理場ではおばちゃんが食材の準備をしていたが、私の手元を見て瞬きした。
「あらやだ、土井先生に渡したんだけどまだ買いに出てなかったのかしら。」
「これってお急ぎの買い出し分ですか?」
「そうなのよ。今晩の準備で使おうと思って。」
「そうですか…あ、土井先生はお忙しいかもしれないので…私買ってきますね!」
メモを拾った経緯を聞かれると困るので、私はそそくさと食堂を出ようとした。
「ごめんなさいね、夕方までには戻ってね。」
「わかりました!」
笑顔で食堂を後にしようとしたとき、ぽんと肩に手を置かれた。
「たまみさん、いつも一人で学園の外に出ているのですか。」
「り、利吉さん!」
振り返ると、利吉さんが真っ直ぐに私を見つめていた。
先程の押入れでのことが脳裏を掠め、思わず目をそらしてしまった。
「えーっと、いえ、いつもは土井先生が一緒に来てくれるんですけど…」
「土井先生が忙しいときは?」
「誰かにお願いしてご一緒して頂いてます。」
「では今日は私が一緒に…」
「利吉さんお仕事は…?」
「今日の分は終わりました。」
そう言うと利吉さんは私の顔をじっと見た。
何だろうと身構えると。
「…石鹸の香りがしますね。」
「!」
無意識に髪を触った瞬間、パッと頭巾を外された。
「髪もまだ濡れて…こんな昼間にお風呂ですか?」
利吉さんが私の髪に手を伸ばす。
まだ乾いていない髪をするりと撫でられた。
「あ、これは…その…っ」
咄嗟にうまく言えずしどろもどろに言い淀む。
すると、利吉さんは目を細めて私の耳元に顔を近づけ、小声で囁いた。
「……さっき、押入れに居ましたね?」
「!!!!!」
驚いて固まってしまった。
それを是ととらえられたのか、利吉さんが重ねて問う。
「何故そんなところに?」
「や…その、違うんです、これは…」
「毒蛇を探してたんですか?」
毒蛇??
何のことかと利吉さんを見上げた瞬間。
バチッと目が合って外せなくなった。
直感的に、試されていると感じて鼓動が早くなる。
毒蛇を探して…ってどういうこと?
土井先生がそう説明したってこと?
これは、そうですと頷くべき…?
それとも、何かカマをかけられている…?
まさか、押入れでの情事を見透かされてる…?!
瞬間的に色んな考えが頭をよぎり、動揺してしまった。
でも………
「はい、そうなんです。」
利吉さんは、嘘で私を試すような人じゃない…と思う……たぶん。
私がドキドキしながら返事をすると、利吉さんはスッと目を細めた。
「毒蛇はもう捕まえたので安心していいですよ。」
「え…」
「諸泉尊奈門が土井先生に奇襲をしかけるために持っていました。」
「えっ!?」
「まぁそんな手にひっかかる土井先生ではありませんが…とりあえず飼い主の手元に戻ったのでもう大丈夫です。」
「そ…そうですか。」
えーと、今一つ状況がつかめないけれど、とにかく土井先生が無事ということは分かった。
「しかし、何故さっきたまみさんも一緒に押入れから出てこなかったんですか?」
う…!
利吉さんの探るような視線。
どう返すべきか迷い、私は若干涙目になり俯いた。
そして、咄嗟に出した返事は…
「く…クモの巣が、髪について……」
「え?」
「クモ自体も自分についてないかなって、取り乱してしまって…ちょっと、その…脱いで確認したりしていたので……」
「………」
「それで髪を洗うために、今お風呂に入ってきたんです。」
自分的には割と信憑性のある言い訳だった。
実際、土井先生の家で背中に蛾が入り込んだときもそんな感じだった気がする。
でも、利吉さんが信じてくれるかどうか……。
私は恐る恐る利吉さんを見上げた。
「ああ…なるほど、それで土井先生が必死に隠していたのですね…。」
呆れたように苦笑する利吉さん。
どうやら彼のなかで辻褄があったらしい。
「てっきり、たまみさんが押入れで土井先生によからぬことをされてたんじゃないかと邪推してしまいました。」
「そっ!そんな訳ないでしょうっ!な、何を考えてるんですか!?」
あ、当たってるー!!
色んな意味で真っ赤になって否定すると、利吉さんがクスリと笑った。
「すみません。そうですよね、まさか生徒の押入れでなんて。」
「あ、当たり前じゃないですか!!変なこと言わないでください!!」
怒ったふりをしつつ、心中かなり動揺してしまった。
これ以上突き詰められると隠し通せる気がしない…!!
「いや、それにしてもクモですか……。いつぞやバッタが頭についていたときを思い出しますね…。」
利吉さんは面白そうに口を押さえてクククと笑った。
「あぁ、懐かしいなぁ…。」
スウッと声のトーンが変わった。
利吉さんの手がゆっくりと頬に触れる。
しゅるり
私の髪紐がほどかれ、はらりと髪が落ちた。
「あのとき……」
微かに苦味を含む微笑。
「そう、あのとき……私はあなたに………」
真っ直ぐに向けられる真剣な眼差し。
長い指が、私の髪をすくう。
「…心奪われて………」
消えるように囁かれた声。
私の髪をするりと指に絡める。
そしてそのまま…そっとその髪に口づけした。
「あ…あの…っ!」
慌てて身を離そうとすると視線で制された。
「あのときのこと、覚えてますか?」
「えっ…」
あのとき、とは……たしか、初めて利吉さんに会ったとき?
バッタが私の頭巾にとまっていて、私がパニックになって…。
「は、はい。頭にバッタがとまったのなんて、あのときくらいですから。」
真面目にそう返すと、利吉さんが声を出して笑った。
「な、何で笑うんですか!?」
「いえ、あはは…!ほんと、面白いですね。」
小馬鹿にされているのか何なのか分からず、どう返そうかと迷っていると。
「そこで何をしている。」
すぐ後ろからドスのきいた声がした。
「あ、土井先生…!」
振り返ると、眉間にシワを寄せて怒っている土井先生がいた。
利吉さんが私の髪から手を離し距離をとる。
「またいいところで邪魔をするんですから…」
「何がいいところだ!ほんっとーに君というやつは油断も隙もないな…!!」
土井先生が怒って利吉さんの手から髪紐を取り返した。
私の髪を雑に束ねてくくり、頭巾を乱暴に被せる。
「ちゃんと隠しておきなさい。」
また睨み合う土井先生と利吉さん。
どうしようかと迷っていると、突然食堂のおばちゃんがパンパンと手を叩いた。
「はいはい、それくらいにしてちょうだい。早くおつかいに行ってくれないとみんな晩ごはん無しですよ!?」
さすが食堂のおばちゃん。
一言でその場はおさまり、結局私と土井先生が大急ぎでおつかいに行くことになったのだった。