第112話 風に揺れて
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風鐸職人の居場所はすぐに分かった。
忍び装束を纏い闇夜に紛れて侵入し、同じような箱が並ぶ部屋を見つけた。
そこはまだ灯りがついていて、依頼主らしき男が何やらそわそわした様子で座っている。
私は天井裏から静かに観察した。
「ちゃんと届いただろうか…。」
男は頭を抱えてため息をついたりゴロゴロと身悶えたりしていた。
それはまるで恋する乙女のような動きで…
なんだこいつ。
まさかたまみのことを考えてるんじゃないだろうな。
よく分からない怒りのような嫌悪感のようなものを感じた。
もう暫く様子を探ってみてもよかったのだが、見ていると何故かイライラしてきた。
私は念のために目以外顔を全て隠し、男の後ろに降り立った。
「静かに。」
「ヒッ!?」
背後から男の首に苦無をつきつけた。
声も普段と変えて、いつどこですれ違ってもバレないように慎重に振る舞う。
「この手紙を知っているな?」
単刀直入に、例の手紙を男に見せた。
「こ、これは…!なぜこれを…!?」
「私の質問にだけ答えろ。これはどこに宛てた暗号文だ?」
「暗号…?」
「嘘だと判断すれば即刻首を切る。」
「まっ、待ってくれ!訳が分からない!」
男は心底焦っているようだった。
この感じ、隠れ忍等ではなく本当にただの一般人のようだ。
「それは私が書いた恋文だ!暗号などではない!」
「では二重底の金貨は?」
「それは…彼女はお金に苦労しているようだったから、少しでも役に立てて貰えたらと…」
「それにしては額が大きすぎる。そもそも二重底とか…普通気づかないだろう。」
「それは手紙にちゃんと書いたから気づいてもらえるはず…」
「そんな文面あったか?」
「あんた、中身読んだのか!?」
「いいから質問に答えろ。」
「ひぃっ!……『私の海の底より深い愛を探って見てください。』と書いたから、気づいてもらえるかと…」
書き方が詩的すぎるわっ!!
思わずいつものノリで突っ込みそうになるのをグッとこらえた。
苦無をさらに突きつけ、説明の先を無言で促す。
「き、金額については…大金にしといたら彼女がきっと受け取れないと直接返しに来てくれるんじゃないかと思ったんだ。あ、もちろん全額渡すつもりだったからそのまま受け取ってくれてもよかったんだけど、…彼女と直接話すきっかけになるかなって……」
「なぜそんな回りくどいことを?」
「……だって、恥ずかしくて……。」
乙女か!?
いいオッサンがなに頬を赤らめているんだ!?
色んな事態を想定していた自分が段々バカらしくなってきた。
タソガレドキやドクタケが絡んでいてたまみをおびきだして誘拐するような作戦ではないかとか、たまみを人質にして夏休みで手薄な忍術学園に何か企てようとしているのではないかとか…考えすぎだったか。
男の言葉に嘘は無さそうで、これは正真正銘ただの恋文のようだ…。
いやそれはそれで問題ではあるが。
「そうか、話はわかった…。しかしお前の想いが届くことはない。諦めろ。」
すげなく言い放つと、男はうろたえた。
「な、何であんたにそんなこと言われなきゃならないんだ。あんた何者なんだ…!?」
当然の質問だ。
私はあらかじめ考えていたシナリオを口にした。
「私は通りすがりの盗人だ。」
「盗人!?」
「そうだ。たまたま盗んだこの木箱、金貨だけをくすねてもよかったが…暗号めいた手紙にちょっと興味がわいたからこうしてわざわざ来てやったのさ。」
「なっ……では、この手紙は彼女には…」
「届いてない。」
がっくりと項垂れる男。
悪いがあの変質的な文章が本気の恋文だったとか、本人のもとに届かなかったことを逆に感謝してもらいたいくらいだ。
男が読むに耐えないと思う卑猥な文を、女性が読んでドン引きしないわけがない。
しかし、直接会いに行くのも恥ずかしいと思うような輩が何をどうしたらあんな文章を書けるのか…それを渡そうと思うに至るのか…ちょっと心配になってきた。
もうひと押し、念押ししておくか…。
「そもそも、あんたが手紙を出したのはもう人妻だ。ちょっかいかけたら腕っぷしの強い亭主に殺されるぞ。」
嘘も方便。
これぐらい脅しておけばいいだろう。
忠告はしたしそろそろ引き上げようかと思ったとき。
「人妻…そうか、それはそれでまたそそるものが…」
「?!」
な、なにぃーっ!?
この男どういう了見だー!?!?
「亭主…どんな奴なのだろう。あの長身な彼女にみあう程の逞しい男なのだろうか…。」
長身?
一瞬、聞き流してはいけないことを聞いた気がした。
「…ちょっと待て、その手紙は誰に宛てたんだ?」
「誰って…きり丸くんのお姉さんだ。」
「あの少年に姉はいないはずだが。」
「姉じゃないのか…?前に茶店でバイトをしていた女性で一目惚れしたのだが…きり丸くんと仲良さそうに晩御飯をイナゴにするとか何か話していたからてっきり姉かと…。」
…ちょ、ちょっと待て……
「そう、ちょうどあんたぐらいの背の高い美人で…」
そ れ は 私 だ … !!!
思い出した。
きり丸にどうしてもと頼みこまれて、一度だけ女装して茶店のバイトを手伝ったことがある。
そのときやたらと見てきた男がいたが…こいつか!!
というか、つまりこの手紙は…
たまみではなく私に宛てたものだったのかあああああ!!
目眩で倒れそうになった。
もはや何をどこからどうつっこんだらよいのか。
「きり丸くんに『君のお姉さんに渡してくれ』と頼んだら特に変な顔はされなかったんだけどなぁ。」
きり丸…それでたまみ宛だと勘違いしたんだな。
姉ではないときちんと確認してくれ…!
いや、しかしそうなると「ではどういう関係なのか」とかたまみのことを詳しく聞かれたときにややこしいのか…。
「い…いずれにしても、だ。悪いがあんたの想いは一億分の一にも届くことはない。断言する。他の女にしておけ。…これも返しておく。」
後からゴタゴタ言われることのないよう、木箱に金貨と手紙をきっちり戻して男に渡した。
落胆する男。
全く同情する気になれず、私はそのままその場を後にして静かに闇夜へと姿を消した。
忍び装束を纏い闇夜に紛れて侵入し、同じような箱が並ぶ部屋を見つけた。
そこはまだ灯りがついていて、依頼主らしき男が何やらそわそわした様子で座っている。
私は天井裏から静かに観察した。
「ちゃんと届いただろうか…。」
男は頭を抱えてため息をついたりゴロゴロと身悶えたりしていた。
それはまるで恋する乙女のような動きで…
なんだこいつ。
まさかたまみのことを考えてるんじゃないだろうな。
よく分からない怒りのような嫌悪感のようなものを感じた。
もう暫く様子を探ってみてもよかったのだが、見ていると何故かイライラしてきた。
私は念のために目以外顔を全て隠し、男の後ろに降り立った。
「静かに。」
「ヒッ!?」
背後から男の首に苦無をつきつけた。
声も普段と変えて、いつどこですれ違ってもバレないように慎重に振る舞う。
「この手紙を知っているな?」
単刀直入に、例の手紙を男に見せた。
「こ、これは…!なぜこれを…!?」
「私の質問にだけ答えろ。これはどこに宛てた暗号文だ?」
「暗号…?」
「嘘だと判断すれば即刻首を切る。」
「まっ、待ってくれ!訳が分からない!」
男は心底焦っているようだった。
この感じ、隠れ忍等ではなく本当にただの一般人のようだ。
「それは私が書いた恋文だ!暗号などではない!」
「では二重底の金貨は?」
「それは…彼女はお金に苦労しているようだったから、少しでも役に立てて貰えたらと…」
「それにしては額が大きすぎる。そもそも二重底とか…普通気づかないだろう。」
「それは手紙にちゃんと書いたから気づいてもらえるはず…」
「そんな文面あったか?」
「あんた、中身読んだのか!?」
「いいから質問に答えろ。」
「ひぃっ!……『私の海の底より深い愛を探って見てください。』と書いたから、気づいてもらえるかと…」
書き方が詩的すぎるわっ!!
思わずいつものノリで突っ込みそうになるのをグッとこらえた。
苦無をさらに突きつけ、説明の先を無言で促す。
「き、金額については…大金にしといたら彼女がきっと受け取れないと直接返しに来てくれるんじゃないかと思ったんだ。あ、もちろん全額渡すつもりだったからそのまま受け取ってくれてもよかったんだけど、…彼女と直接話すきっかけになるかなって……」
「なぜそんな回りくどいことを?」
「……だって、恥ずかしくて……。」
乙女か!?
いいオッサンがなに頬を赤らめているんだ!?
色んな事態を想定していた自分が段々バカらしくなってきた。
タソガレドキやドクタケが絡んでいてたまみをおびきだして誘拐するような作戦ではないかとか、たまみを人質にして夏休みで手薄な忍術学園に何か企てようとしているのではないかとか…考えすぎだったか。
男の言葉に嘘は無さそうで、これは正真正銘ただの恋文のようだ…。
いやそれはそれで問題ではあるが。
「そうか、話はわかった…。しかしお前の想いが届くことはない。諦めろ。」
すげなく言い放つと、男はうろたえた。
「な、何であんたにそんなこと言われなきゃならないんだ。あんた何者なんだ…!?」
当然の質問だ。
私はあらかじめ考えていたシナリオを口にした。
「私は通りすがりの盗人だ。」
「盗人!?」
「そうだ。たまたま盗んだこの木箱、金貨だけをくすねてもよかったが…暗号めいた手紙にちょっと興味がわいたからこうしてわざわざ来てやったのさ。」
「なっ……では、この手紙は彼女には…」
「届いてない。」
がっくりと項垂れる男。
悪いがあの変質的な文章が本気の恋文だったとか、本人のもとに届かなかったことを逆に感謝してもらいたいくらいだ。
男が読むに耐えないと思う卑猥な文を、女性が読んでドン引きしないわけがない。
しかし、直接会いに行くのも恥ずかしいと思うような輩が何をどうしたらあんな文章を書けるのか…それを渡そうと思うに至るのか…ちょっと心配になってきた。
もうひと押し、念押ししておくか…。
「そもそも、あんたが手紙を出したのはもう人妻だ。ちょっかいかけたら腕っぷしの強い亭主に殺されるぞ。」
嘘も方便。
これぐらい脅しておけばいいだろう。
忠告はしたしそろそろ引き上げようかと思ったとき。
「人妻…そうか、それはそれでまたそそるものが…」
「?!」
な、なにぃーっ!?
この男どういう了見だー!?!?
「亭主…どんな奴なのだろう。あの長身な彼女にみあう程の逞しい男なのだろうか…。」
長身?
一瞬、聞き流してはいけないことを聞いた気がした。
「…ちょっと待て、その手紙は誰に宛てたんだ?」
「誰って…きり丸くんのお姉さんだ。」
「あの少年に姉はいないはずだが。」
「姉じゃないのか…?前に茶店でバイトをしていた女性で一目惚れしたのだが…きり丸くんと仲良さそうに晩御飯をイナゴにするとか何か話していたからてっきり姉かと…。」
…ちょ、ちょっと待て……
「そう、ちょうどあんたぐらいの背の高い美人で…」
そ れ は 私 だ … !!!
思い出した。
きり丸にどうしてもと頼みこまれて、一度だけ女装して茶店のバイトを手伝ったことがある。
そのときやたらと見てきた男がいたが…こいつか!!
というか、つまりこの手紙は…
たまみではなく私に宛てたものだったのかあああああ!!
目眩で倒れそうになった。
もはや何をどこからどうつっこんだらよいのか。
「きり丸くんに『君のお姉さんに渡してくれ』と頼んだら特に変な顔はされなかったんだけどなぁ。」
きり丸…それでたまみ宛だと勘違いしたんだな。
姉ではないときちんと確認してくれ…!
いや、しかしそうなると「ではどういう関係なのか」とかたまみのことを詳しく聞かれたときにややこしいのか…。
「い…いずれにしても、だ。悪いがあんたの想いは一億分の一にも届くことはない。断言する。他の女にしておけ。…これも返しておく。」
後からゴタゴタ言われることのないよう、木箱に金貨と手紙をきっちり戻して男に渡した。
落胆する男。
全く同情する気になれず、私はそのままその場を後にして静かに闇夜へと姿を消した。