第112話 風に揺れて
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翌日の午後。
きり丸が珍しいバイトを引き受けてきた。
「ふうたく?風鈴じゃなくて?」
「はい、ふうたく…風鐸と言ってました。」
「珍しいな。それで、風鐸の梱包のアルバイト?」
「はい。暑さしのぎに怪談が流行っているらしくて。そのせいで魔除けの風鐸に注文が殺到したそうです。」
きり丸が風呂敷に包まれた大きな箱を2つ机に置いた。
「これが、ふうたく?」
箱の中にズラリと並ぶ鐘を、たまみが繁々と眺めた。
小さな青銅の鐘。
その中から小さな板状の青銅が吊るされている。
「その飾りが風を受けて揺れて、鐘を鳴らすんだ。こんな感じで。」
手に持ってフーッと吹いてみると、鐘が小さな音を鳴らした。
「魔除けに飾られたりするんだよ。」
「そうなんですか、ちょっと涼しげでいいですね。」
たまみが箱の中の材料に目を落とす。
鐘を包む布と、御札のような紙とこより。
「これはいつまでに?」
「明日の午前中です。あ、こっちの箱は依頼主のおっちゃんがたまみさんにって。」
きり丸がたまみにもう一つの箱を差し出した。
「たまみさん、知り合いなんですか?」
「?ううん…?なんだろう。」
たまみが不思議そうに箱を開けようとする。
「待った。」
その手をサッと押さえて止めた。
「私が確認しよう。」
なぜ風鐸職人がたまみに?
何となく嫌な予感がし、私は彼女の手から箱をとりあげた。
仕掛けがないか外から調べてみる。
なんの変哲もないただの木箱のようだ。
「きり丸、依頼主は他に何も言ってなかったか?」
「はい、ただこれを渡すようにとだけ。」
「そうか。」
危険な仕掛けはなさそうで、私は木箱を机上に置きそっと開けてみた。
中には、一通の手紙だけが入っていた。
「手紙…?」
「あー!もしかして恋文ですか~!?」
きり丸がニヤニヤとこちらを見てくるのでジロリと目で黙らせた。
恋文だと…?
これまでたまみに言い寄ってきた男共を思い出した。
確かにありえる…たまみは可愛らしいからな。
しかし…だが、このような形で文を託してきたことに若干の違和感を感じた。
…本当に恋文の類いなのか…?
「…たまみ、開けてもいいかい?」
「土井先生ってば人の恋文を読んじゃっていいんですか~?」
「うるさい!何か良くないものかもしれないだろう。」
タソガレドキやドクタケが、何らかの脅迫文か何かを送ってくる可能性もある。
そう考えると、私が先に確認した方がいいかもしれない。
「えー、土井先生考えすぎなんじゃ…。」
「あの、半助さん何か気になるところがあるんですか?」
「うーん、何となくだけど……」
「ただのやきもちじゃないですかぁ~?」
ごつん!
きり丸の頭に拳骨を落とすと、たまみが苦笑しながら「どうぞ開けてください」と言った。
一つ咳払いをして手紙を広げてみる。
「……………。」
そこには、『麗しの君へ』という言葉に始まり男の恋情が事細かに書かれていた。
………いや、恋情ではない。
読み進むと、それは生々しい変態的な文章に変わっていき、とてもじゃないが女性に見せられるような内容ではなかった。
変質者が己の欲情を綴ったような異質な文。
思わずぐしゃりと握り潰してしまった。
「たまみ、これは読まない方がいい。」
「えっ、何が書かれていたんですか?」
「…世迷い言。」
「……あの、何か悪いお手紙だったんですか?」
たまみが心配そうに眉をひそめた。
「あ、いや、悪い手紙というか……うん、ちょっと変質者かもしれん。」
「えっ。」
「とりあえず、たまみは読まなくていい。」
私の雰囲気を察したのか、たまみはそれ以上聞かずひとまず納得してくれたようだ。
「きり丸、この仕事が終わったら二度とそこには行くな。たまみを連れて近くを歩くのもだめだからな。たまみも暫く気をつけて…くれぐれも一人で出歩かないように。」
「アルバイトを引き受けたときは普通の人に見えたんですけどねぇ。」
「人は見かけによらないものだ。きり丸も引き受ける前にもっとよく注意して…」
「土井先生、たまみさんが可愛いすぎるのも心配事が多くて大変ですね?」
「きり丸、他人事のように言うんじゃない。そもそも私の心配事の多くはお前達一年は組の…!」
「あ~はい、わかりました!でも依頼主に納品するとき、手紙のこと聞かれたら何て答えたらいいですか?」
「そうだな…」
こういう変質的な輩はどうすればきっちり諦めてくれるのか。
握り潰した文をもう一度見てみた。
「……ん?」
少し冷静になって読むと、この長ったらしい文章のなかにところどころおかしな文字があることに気づいた。
最初は誤字だと思ったが、これはもしかすると…
何かの暗号文か?
それならばこの異質で変質的な文にも納得がいく。
内容的に印象の強い恋文を装った暗号文。
私は手紙の入っていた木箱をもう一度よく調べてみた。
……少し重い。
底板の端を押してみると、ぐっとへこんで反対側が上がった。
二重底…!
底板を開けてみると、そこには金貨が入っていた。
音が出ないよう布に包まれて。
きり丸とたまみには見えないようにそれを確認すると、私は箱を元に戻した。
「…きり丸、この箱は依頼主から直接受け取ったのか?」
「はい、手渡されました。」
「他に似たような箱とか包みとかは周りになかったか?」
「材料を並べてる棚には同じような木箱がいくつかありましたけど…。」
「…そうか。」
もしかすると、どこぞへ渡す予定の賄賂か何かを、間違ってきり丸に渡したのだろうか。
だとすると、たまみには本当は何を渡そうとしていたのか…?
依頼主がもしこの小判箱が無くなっていることに気付けば、きり丸にあらぬ疑いがかけられるかもしれない…。
箱を間違えたのなら、本来渡すはずだったものがまだその場に残っているかもしれない。
「…きり丸、この店の場所と依頼主の特徴を教えてくれ。」
不思議そうにするたまみときり丸。
「土井先生、まさか殴り込みに…」
「ちがう!そうじゃなくて…!」
つい説明しかけてしまったが、私はすぐ口を閉ざした。
万が一にも二人に追手のようなものが来た場合。
下手に知っていれば身に危険があるかもしれない。
「…いや、うん、そうだな。殴りはしないが一応どんな奴か確かめておこうと思って…な。」
「土井先生はたまみさんのことになると、ほんと心配性ですねぇ。」
呆れ顔で苦笑するきり丸。
しかし、全部説明することもできず私は黙殺しておくことにした。
何はともあれ、とりあえず今夜確認してみよう。
私は二人が寝静まったのをみはからい、そっと家を抜け出した。
きり丸が珍しいバイトを引き受けてきた。
「ふうたく?風鈴じゃなくて?」
「はい、ふうたく…風鐸と言ってました。」
「珍しいな。それで、風鐸の梱包のアルバイト?」
「はい。暑さしのぎに怪談が流行っているらしくて。そのせいで魔除けの風鐸に注文が殺到したそうです。」
きり丸が風呂敷に包まれた大きな箱を2つ机に置いた。
「これが、ふうたく?」
箱の中にズラリと並ぶ鐘を、たまみが繁々と眺めた。
小さな青銅の鐘。
その中から小さな板状の青銅が吊るされている。
「その飾りが風を受けて揺れて、鐘を鳴らすんだ。こんな感じで。」
手に持ってフーッと吹いてみると、鐘が小さな音を鳴らした。
「魔除けに飾られたりするんだよ。」
「そうなんですか、ちょっと涼しげでいいですね。」
たまみが箱の中の材料に目を落とす。
鐘を包む布と、御札のような紙とこより。
「これはいつまでに?」
「明日の午前中です。あ、こっちの箱は依頼主のおっちゃんがたまみさんにって。」
きり丸がたまみにもう一つの箱を差し出した。
「たまみさん、知り合いなんですか?」
「?ううん…?なんだろう。」
たまみが不思議そうに箱を開けようとする。
「待った。」
その手をサッと押さえて止めた。
「私が確認しよう。」
なぜ風鐸職人がたまみに?
何となく嫌な予感がし、私は彼女の手から箱をとりあげた。
仕掛けがないか外から調べてみる。
なんの変哲もないただの木箱のようだ。
「きり丸、依頼主は他に何も言ってなかったか?」
「はい、ただこれを渡すようにとだけ。」
「そうか。」
危険な仕掛けはなさそうで、私は木箱を机上に置きそっと開けてみた。
中には、一通の手紙だけが入っていた。
「手紙…?」
「あー!もしかして恋文ですか~!?」
きり丸がニヤニヤとこちらを見てくるのでジロリと目で黙らせた。
恋文だと…?
これまでたまみに言い寄ってきた男共を思い出した。
確かにありえる…たまみは可愛らしいからな。
しかし…だが、このような形で文を託してきたことに若干の違和感を感じた。
…本当に恋文の類いなのか…?
「…たまみ、開けてもいいかい?」
「土井先生ってば人の恋文を読んじゃっていいんですか~?」
「うるさい!何か良くないものかもしれないだろう。」
タソガレドキやドクタケが、何らかの脅迫文か何かを送ってくる可能性もある。
そう考えると、私が先に確認した方がいいかもしれない。
「えー、土井先生考えすぎなんじゃ…。」
「あの、半助さん何か気になるところがあるんですか?」
「うーん、何となくだけど……」
「ただのやきもちじゃないですかぁ~?」
ごつん!
きり丸の頭に拳骨を落とすと、たまみが苦笑しながら「どうぞ開けてください」と言った。
一つ咳払いをして手紙を広げてみる。
「……………。」
そこには、『麗しの君へ』という言葉に始まり男の恋情が事細かに書かれていた。
………いや、恋情ではない。
読み進むと、それは生々しい変態的な文章に変わっていき、とてもじゃないが女性に見せられるような内容ではなかった。
変質者が己の欲情を綴ったような異質な文。
思わずぐしゃりと握り潰してしまった。
「たまみ、これは読まない方がいい。」
「えっ、何が書かれていたんですか?」
「…世迷い言。」
「……あの、何か悪いお手紙だったんですか?」
たまみが心配そうに眉をひそめた。
「あ、いや、悪い手紙というか……うん、ちょっと変質者かもしれん。」
「えっ。」
「とりあえず、たまみは読まなくていい。」
私の雰囲気を察したのか、たまみはそれ以上聞かずひとまず納得してくれたようだ。
「きり丸、この仕事が終わったら二度とそこには行くな。たまみを連れて近くを歩くのもだめだからな。たまみも暫く気をつけて…くれぐれも一人で出歩かないように。」
「アルバイトを引き受けたときは普通の人に見えたんですけどねぇ。」
「人は見かけによらないものだ。きり丸も引き受ける前にもっとよく注意して…」
「土井先生、たまみさんが可愛いすぎるのも心配事が多くて大変ですね?」
「きり丸、他人事のように言うんじゃない。そもそも私の心配事の多くはお前達一年は組の…!」
「あ~はい、わかりました!でも依頼主に納品するとき、手紙のこと聞かれたら何て答えたらいいですか?」
「そうだな…」
こういう変質的な輩はどうすればきっちり諦めてくれるのか。
握り潰した文をもう一度見てみた。
「……ん?」
少し冷静になって読むと、この長ったらしい文章のなかにところどころおかしな文字があることに気づいた。
最初は誤字だと思ったが、これはもしかすると…
何かの暗号文か?
それならばこの異質で変質的な文にも納得がいく。
内容的に印象の強い恋文を装った暗号文。
私は手紙の入っていた木箱をもう一度よく調べてみた。
……少し重い。
底板の端を押してみると、ぐっとへこんで反対側が上がった。
二重底…!
底板を開けてみると、そこには金貨が入っていた。
音が出ないよう布に包まれて。
きり丸とたまみには見えないようにそれを確認すると、私は箱を元に戻した。
「…きり丸、この箱は依頼主から直接受け取ったのか?」
「はい、手渡されました。」
「他に似たような箱とか包みとかは周りになかったか?」
「材料を並べてる棚には同じような木箱がいくつかありましたけど…。」
「…そうか。」
もしかすると、どこぞへ渡す予定の賄賂か何かを、間違ってきり丸に渡したのだろうか。
だとすると、たまみには本当は何を渡そうとしていたのか…?
依頼主がもしこの小判箱が無くなっていることに気付けば、きり丸にあらぬ疑いがかけられるかもしれない…。
箱を間違えたのなら、本来渡すはずだったものがまだその場に残っているかもしれない。
「…きり丸、この店の場所と依頼主の特徴を教えてくれ。」
不思議そうにするたまみときり丸。
「土井先生、まさか殴り込みに…」
「ちがう!そうじゃなくて…!」
つい説明しかけてしまったが、私はすぐ口を閉ざした。
万が一にも二人に追手のようなものが来た場合。
下手に知っていれば身に危険があるかもしれない。
「…いや、うん、そうだな。殴りはしないが一応どんな奴か確かめておこうと思って…な。」
「土井先生はたまみさんのことになると、ほんと心配性ですねぇ。」
呆れ顔で苦笑するきり丸。
しかし、全部説明することもできず私は黙殺しておくことにした。
何はともあれ、とりあえず今夜確認してみよう。
私は二人が寝静まったのをみはからい、そっと家を抜け出した。