第110話 演技指導
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なんということだ。
台本なしで全員の動きを誘導しながら話を進めるのは難しいと思っていた。
しかしまさか、こんな序盤でこのような展開になるとは。
さすがの私も、突然全員につかみかかられて素に戻ってしまった。
山田先生が苦笑しながら歩み寄ってくる。
「迫真の演技だったな。」
「いやぁ、役になりきる見本をみせようと思ったのですが…」
私はしりもちをついた腰をなでながら立ち上がった。
「実際にこういう場面もあるかもしれませんしね。」
そう、さっきのは決してただの芝居ではない。
捕虜として捕まること。
それを救出すべく潜入し正体がばれ危険にさらされること。
配下として潜伏すること。
…あの子達が演じた役は、どれも忍として今後ありうる状況ばかりだ。
「そうだな。まぁしかし…あそこまで恐がらせるのもな…。ほら、みんな教室の端っこで怯えているぞ。」
山田先生の目線を追うと、確かに全員一ヶ所にかたまって未だ私の様子を怯えた目で伺っている。
いや、何もそこまで真に受けなくても…。
ある意味素直な子ども達だと思う半面、これでは自分達が人を騙せるほどに演技できるのは遠い先のことだなと思った。
「たまみくんも……」
あ…。
しまった。
そこまで考えていなかった。
つい教師として、いかに生徒の今後のためになる授業をするかということしか考えていなかった。
山田先生の指摘に、少し離れた彼女を振り返った。
もしかして、たまみも私に怯えてしまったのか…
「……かっこいい……!」
「え」
たまみは教室の端で恍惚と私を眺めていた。
頬を染め、潤んだ瞳で口元に手を当ててぽーっとしている。
…えーと、これは一体…。
そんな彼女を見て生徒達が口々に話し始める。
「たまみさん、さっきの土井先生に見惚れて未だ夢心地みたいだね。」
「普段とのギャップが素敵!みたいな?」
「僕ほんとーに恐かったんだけど…!」
「ほんとほんと!」
「みんな、助けてくれてありがとう。僕も本当にやられちゃうと思ったよ。」
「とても演技には見えなかったよね!」
「ねぇ、もしかして土井先生、こっちが素なんじゃ…。」
「えっ!?じゃあ、普段の優しい土井先生は演技ってこと?」
「えーっ、じゃあこれから悪い成績とったらさっきみたいに怒られる…!?」
「そ、そんなぁ…!!」
は組の生徒が全員後ずさって私を恐る恐る見上げる。
私は慌てて作り笑いを浮かべて頭をかいた。
「お前達、さっきのはあくまで芝居だ。忍者たるもの、変装はもちろんあれぐらいなりきって演じられないといかんからな!」
まだ疑うように、じとーっと私を眺める生徒達。
私はオホンと咳払いして教師らしく続けた。
「それにしても何ださっきのは!全員自分の役どころを忘れて動いていたじゃないか。実践ではそんなこと許されないんだぞ…!」
じーーーーっ
未だ生徒達は私の様子を伺うように遠巻きに眺めている。
「…………。」
やりすぎたか…!?
どうしたものかと困って山田先生に目で助けを求めてみる。
「まったくもう…しょうがないわねぇ。」
すると、山田先生が一瞬で伝子さんに早変わりした。
「女装も変装のうちよ。女装したときは心まで女性になるきるでしょう。他の変装も同じこと。私や土井先生ほどの演技力がなくても、敵に正体を知られないよう役になりきることはとても大事よ。分かるわね?」
伝子さんがそう言ってウインクすると、なぜか妙な説得力があった。
生徒達も何となく納得できたようで、表情をゆるめてくれた。
「さ、それじゃあ気分を変えてここからは女装の練習をしましょうか。身も心も女性になりきって…。」
全員の顔がまたひきつった。
先ほどとは別の恐怖にかられて。
「はい、じゃあ土井先生も半子になって見本を…」
「もう勘弁してくださーい!!」
心からそう叫ぶと、生徒達が笑い出した。
こうして演技指導は何だかうやむやに終了し、肝心の学芸会の題目も決まらないままとなったのだった。
台本なしで全員の動きを誘導しながら話を進めるのは難しいと思っていた。
しかしまさか、こんな序盤でこのような展開になるとは。
さすがの私も、突然全員につかみかかられて素に戻ってしまった。
山田先生が苦笑しながら歩み寄ってくる。
「迫真の演技だったな。」
「いやぁ、役になりきる見本をみせようと思ったのですが…」
私はしりもちをついた腰をなでながら立ち上がった。
「実際にこういう場面もあるかもしれませんしね。」
そう、さっきのは決してただの芝居ではない。
捕虜として捕まること。
それを救出すべく潜入し正体がばれ危険にさらされること。
配下として潜伏すること。
…あの子達が演じた役は、どれも忍として今後ありうる状況ばかりだ。
「そうだな。まぁしかし…あそこまで恐がらせるのもな…。ほら、みんな教室の端っこで怯えているぞ。」
山田先生の目線を追うと、確かに全員一ヶ所にかたまって未だ私の様子を怯えた目で伺っている。
いや、何もそこまで真に受けなくても…。
ある意味素直な子ども達だと思う半面、これでは自分達が人を騙せるほどに演技できるのは遠い先のことだなと思った。
「たまみくんも……」
あ…。
しまった。
そこまで考えていなかった。
つい教師として、いかに生徒の今後のためになる授業をするかということしか考えていなかった。
山田先生の指摘に、少し離れた彼女を振り返った。
もしかして、たまみも私に怯えてしまったのか…
「……かっこいい……!」
「え」
たまみは教室の端で恍惚と私を眺めていた。
頬を染め、潤んだ瞳で口元に手を当ててぽーっとしている。
…えーと、これは一体…。
そんな彼女を見て生徒達が口々に話し始める。
「たまみさん、さっきの土井先生に見惚れて未だ夢心地みたいだね。」
「普段とのギャップが素敵!みたいな?」
「僕ほんとーに恐かったんだけど…!」
「ほんとほんと!」
「みんな、助けてくれてありがとう。僕も本当にやられちゃうと思ったよ。」
「とても演技には見えなかったよね!」
「ねぇ、もしかして土井先生、こっちが素なんじゃ…。」
「えっ!?じゃあ、普段の優しい土井先生は演技ってこと?」
「えーっ、じゃあこれから悪い成績とったらさっきみたいに怒られる…!?」
「そ、そんなぁ…!!」
は組の生徒が全員後ずさって私を恐る恐る見上げる。
私は慌てて作り笑いを浮かべて頭をかいた。
「お前達、さっきのはあくまで芝居だ。忍者たるもの、変装はもちろんあれぐらいなりきって演じられないといかんからな!」
まだ疑うように、じとーっと私を眺める生徒達。
私はオホンと咳払いして教師らしく続けた。
「それにしても何ださっきのは!全員自分の役どころを忘れて動いていたじゃないか。実践ではそんなこと許されないんだぞ…!」
じーーーーっ
未だ生徒達は私の様子を伺うように遠巻きに眺めている。
「…………。」
やりすぎたか…!?
どうしたものかと困って山田先生に目で助けを求めてみる。
「まったくもう…しょうがないわねぇ。」
すると、山田先生が一瞬で伝子さんに早変わりした。
「女装も変装のうちよ。女装したときは心まで女性になるきるでしょう。他の変装も同じこと。私や土井先生ほどの演技力がなくても、敵に正体を知られないよう役になりきることはとても大事よ。分かるわね?」
伝子さんがそう言ってウインクすると、なぜか妙な説得力があった。
生徒達も何となく納得できたようで、表情をゆるめてくれた。
「さ、それじゃあ気分を変えてここからは女装の練習をしましょうか。身も心も女性になりきって…。」
全員の顔がまたひきつった。
先ほどとは別の恐怖にかられて。
「はい、じゃあ土井先生も半子になって見本を…」
「もう勘弁してくださーい!!」
心からそう叫ぶと、生徒達が笑い出した。
こうして演技指導は何だかうやむやに終了し、肝心の学芸会の題目も決まらないままとなったのだった。