第109話 幽霊
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眠りながら歩くしんべヱを起こし、他にも眠りそうな生徒が数人いたので声をかけて回った。
さて、これで隊列も乱れず歩けるようになったと思い振り返った瞬間。
「…たまみ?」
全身の血がザッと逆流するような感覚。
最後尾にいるはずの
たまみが……いない…!
「?…どうした半助?」
「たまみさんが…いない!!」
「なにっ!?」
「探してきますっ!!」
山田先生の返事も聞かず、私は慌てて元来た道を戻った。
まだ手を離してからさほど経っていない…
そんなに離れてはいないはずだ…!
彼女の手の感触が残る左手をグッと握りしめた。
落ち着け…落ち着くんだ…。
暗闇に目を凝らし、耳をすませる。
気配がしないかと全身の感覚を研ぎ澄ませる。
…もっと戻るか…!
なぜたまみは列を離れた?
何かに気をとられているうちに皆を見失った?
それとも誰かに…私や山田先生も気づかないような手練れに拐かされた…?
まさかまたタソガレドキの雑渡が…?
暗闇を駆けながら、冷静に色んな可能性を考えようとしたが…気ばかりが焦った。
どこに…どこにいる…っ!?
遠くで野犬の遠吠えが聞こえた。
早く見つけなければ…もし何かに襲われでもしたら……!!
大声で呼びかけ探したかったが、万が一何者かが誘拐した可能性も考えると、こちらの居場所が知られて逃げられるかもしれない…!
くそっ、こんなときこそあの笛を吹いてくれたら…!
私が作って渡していたあの笛…今日も持ってきていたはずだ。
それを吹くこともできない状況なのか、笛を忘れてしまう程の何かがあったか…!?
どこまでも続く暗闇がもどかしかった。
地面に転がる石に気づかず蹴躓きそうになる。
たまみ…どこだ……っ!?
「!」
いた!!
暗闇のなかに立ちすくむ彼女の姿。
見つけた瞬間、加速して後ろから思いきり抱きしめた。
「たまみっ!!」
「!!!!!!!!?」
彼女は恐怖からか固まって声も出ないようだった。
「よかった…!!大丈夫か?!」
震えるたまみを強く抱きしめた。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
そっと頬を撫でると、みるみる涙が溢れてきた。
「…ぁ………」
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙。
震える手で私にしがみつき、声を押し殺して泣くたまみ。
きつくきつく抱きしめて、その背を撫でた。
「可哀想に…こわかったな。もう大丈夫だから…手を離して悪かった。」
自分の声も震えている気がした。
もう大丈夫だと安心させたくてきつく抱きしめているつもりだったが、むしろ自分が彼女の無事に安堵し腕の中から離したくなかった。
「あ…あれ……」
「ん?」
腕の中の彼女が横を指差した。
その先に目を向けると…
「!?」
そこには、白いぼんやりとしたものが微かに揺れていた。
ま…さか。
幽霊など…いるはずが……。
ありえない。
もっとよく見ようと暗闇に目を凝らした。
しかし、ここからではよく見えなかった。
「…ちょっと確かめてくる。」
気味が悪くないわけではない。
が、しかしこのまま見過ごすわけにもいかない。
何かの冗談だと思っていたが…真の目的は夜間訓練でしかないと思っていたが……今夜の忍務は「幽霊の調査をすること」なのだ。
たまみの肩に手を置いて、「すぐに戻るからここで待ってて。」と言うと彼女は激しく首を振った。
「ぃや…!!一緒に……!」
「…しかし……」
幽霊などいない。
そう頭で考える反面、万が一何かよくないものであったら…たまみを危険に晒すようなことだけはしたくなかった。
たまみが震える手で私の忍び装束を掴む。
「一人に…しないで…!」
「…たまみ……」
少し考え、私はその手をそっと包んだ。
「分かった。…一緒に確かめに行こうか。」
「………はい。」
たまみは恐怖に震えながらも頷いた。
彼女もあれをそのままに帰ることはできないと考えているようだ。
たまみの前に立ち、ゆっくりと白い光に近づいていく。
「こ…これは……!」
近くに寄ってみると、その一帯だけ木が生えず月明かりが差し込んでいた。
そして、白いものが浮いていると思ったそれは…
「花だ…!」
それは手のひらよりも大きな花。
月光を浴びて風になびき、ゆらゆらと白く揺れていた。
「すごい…」
神秘的な光景だった。
暗闇のなかそこにだけ光が差し込み、たった一輪だけが美しく花開いていた。
先程まで震えていたたまみも、私の後ろから顔を出してその花をじっと見つめた。
「きれい…」
まだ涙に濡れている瞳が、白く月明かりを受ける花を映して光り揺らめいた。
「私、てっきり幽霊だと思いました…。」
「はは…、幽霊とかそういうのは大体こんなオチだよ。」
今回は私もちょっと驚いたけど。
安心させるようにわざとのんきに言ってのけると、たまみがクスクスと笑いだした。
よかった、ようやく落ち着いてくれたようだ。
私も事ここに至ってようやくホッと落ち着いた。
「さ、早くみんなを追いかけて報告しよう。」
「はい!…えっ?!」
私はたまみを横抱きに抱えて足早に歩いた。
もうこれ以上怖い思いをさせたくなかった。
いや、むしろ、私がもう彼女を確実につかまえておきたかった。
「じ、自分で歩けますよ…!?」
「…こうしてる方が安心するだろう?」
お互いに。
これなら離れることはない。
「でも重たいのに…!」
「全然。ほら、しっかりつかまって。」
そう言いきると、たまみは少しためらってから私の首に腕を回した。
温かい腕の感触。
…本当に、無事でよかった。
すると、たまみが申し訳なさそうに呟いた。
「…お手間をかけてしまってすみません。」
「心配はしたけど手間なんかじゃないよ。…さっきのあれに気を取られて止まっているうちにみんなが進んでしまったのかい?」
「はい。迷子になった子どもの気持ちが分かりました…。」
「そうだなぁ…こんなこともうあってほしくないけど、次何かあればあの笛を吹いてくれ。」
「あ!忘れてました!!」
「だと思った…。」
たまみが胸元から笛を取り出した。
やはり持ってきていたのに肝心なときに忘れているとは…なんとも彼女らしい。
「でもまぁ…たまみのおかげで幽霊の正体も分かったし……よかったんじゃないかな。」
そう優しく微笑みかけると、たまみが私の耳元に口を寄せて囁いた。
「さっきはあんなに怖かったのに…土井先生と…半助さんと一緒なら、全然怖くなくなりました……」
彼女の頬が私の頬に触れる。
「…このまま、朝まで一緒にいてくれますか…?」
「!」
私は彼女を持ち上げる手に力を入れた。
「…一人で寝れなくなるくらい、怖かった?」
「はい…」
「………………うーん、それじゃあ…、しかたない、かな…?」
私は暫し黙考して彼女の耳元に囁き返した。
「…でも、ほら、逆に…もっと寝れなくなってもしらないよ…?」
ちらりとたまみを伺い見ると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「全く…世話がかかるんだから…。」
そう呟いた自分の顔はきっと苦笑しつつも緩んでいて…。
暗くて見られないのが丁度よかった。
そうして私達はさっきまでの焦りが嘘のようにニコニコと皆の元に戻ったのだった。
さて、これで隊列も乱れず歩けるようになったと思い振り返った瞬間。
「…たまみ?」
全身の血がザッと逆流するような感覚。
最後尾にいるはずの
たまみが……いない…!
「?…どうした半助?」
「たまみさんが…いない!!」
「なにっ!?」
「探してきますっ!!」
山田先生の返事も聞かず、私は慌てて元来た道を戻った。
まだ手を離してからさほど経っていない…
そんなに離れてはいないはずだ…!
彼女の手の感触が残る左手をグッと握りしめた。
落ち着け…落ち着くんだ…。
暗闇に目を凝らし、耳をすませる。
気配がしないかと全身の感覚を研ぎ澄ませる。
…もっと戻るか…!
なぜたまみは列を離れた?
何かに気をとられているうちに皆を見失った?
それとも誰かに…私や山田先生も気づかないような手練れに拐かされた…?
まさかまたタソガレドキの雑渡が…?
暗闇を駆けながら、冷静に色んな可能性を考えようとしたが…気ばかりが焦った。
どこに…どこにいる…っ!?
遠くで野犬の遠吠えが聞こえた。
早く見つけなければ…もし何かに襲われでもしたら……!!
大声で呼びかけ探したかったが、万が一何者かが誘拐した可能性も考えると、こちらの居場所が知られて逃げられるかもしれない…!
くそっ、こんなときこそあの笛を吹いてくれたら…!
私が作って渡していたあの笛…今日も持ってきていたはずだ。
それを吹くこともできない状況なのか、笛を忘れてしまう程の何かがあったか…!?
どこまでも続く暗闇がもどかしかった。
地面に転がる石に気づかず蹴躓きそうになる。
たまみ…どこだ……っ!?
「!」
いた!!
暗闇のなかに立ちすくむ彼女の姿。
見つけた瞬間、加速して後ろから思いきり抱きしめた。
「たまみっ!!」
「!!!!!!!!?」
彼女は恐怖からか固まって声も出ないようだった。
「よかった…!!大丈夫か?!」
震えるたまみを強く抱きしめた。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
そっと頬を撫でると、みるみる涙が溢れてきた。
「…ぁ………」
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙。
震える手で私にしがみつき、声を押し殺して泣くたまみ。
きつくきつく抱きしめて、その背を撫でた。
「可哀想に…こわかったな。もう大丈夫だから…手を離して悪かった。」
自分の声も震えている気がした。
もう大丈夫だと安心させたくてきつく抱きしめているつもりだったが、むしろ自分が彼女の無事に安堵し腕の中から離したくなかった。
「あ…あれ……」
「ん?」
腕の中の彼女が横を指差した。
その先に目を向けると…
「!?」
そこには、白いぼんやりとしたものが微かに揺れていた。
ま…さか。
幽霊など…いるはずが……。
ありえない。
もっとよく見ようと暗闇に目を凝らした。
しかし、ここからではよく見えなかった。
「…ちょっと確かめてくる。」
気味が悪くないわけではない。
が、しかしこのまま見過ごすわけにもいかない。
何かの冗談だと思っていたが…真の目的は夜間訓練でしかないと思っていたが……今夜の忍務は「幽霊の調査をすること」なのだ。
たまみの肩に手を置いて、「すぐに戻るからここで待ってて。」と言うと彼女は激しく首を振った。
「ぃや…!!一緒に……!」
「…しかし……」
幽霊などいない。
そう頭で考える反面、万が一何かよくないものであったら…たまみを危険に晒すようなことだけはしたくなかった。
たまみが震える手で私の忍び装束を掴む。
「一人に…しないで…!」
「…たまみ……」
少し考え、私はその手をそっと包んだ。
「分かった。…一緒に確かめに行こうか。」
「………はい。」
たまみは恐怖に震えながらも頷いた。
彼女もあれをそのままに帰ることはできないと考えているようだ。
たまみの前に立ち、ゆっくりと白い光に近づいていく。
「こ…これは……!」
近くに寄ってみると、その一帯だけ木が生えず月明かりが差し込んでいた。
そして、白いものが浮いていると思ったそれは…
「花だ…!」
それは手のひらよりも大きな花。
月光を浴びて風になびき、ゆらゆらと白く揺れていた。
「すごい…」
神秘的な光景だった。
暗闇のなかそこにだけ光が差し込み、たった一輪だけが美しく花開いていた。
先程まで震えていたたまみも、私の後ろから顔を出してその花をじっと見つめた。
「きれい…」
まだ涙に濡れている瞳が、白く月明かりを受ける花を映して光り揺らめいた。
「私、てっきり幽霊だと思いました…。」
「はは…、幽霊とかそういうのは大体こんなオチだよ。」
今回は私もちょっと驚いたけど。
安心させるようにわざとのんきに言ってのけると、たまみがクスクスと笑いだした。
よかった、ようやく落ち着いてくれたようだ。
私も事ここに至ってようやくホッと落ち着いた。
「さ、早くみんなを追いかけて報告しよう。」
「はい!…えっ?!」
私はたまみを横抱きに抱えて足早に歩いた。
もうこれ以上怖い思いをさせたくなかった。
いや、むしろ、私がもう彼女を確実につかまえておきたかった。
「じ、自分で歩けますよ…!?」
「…こうしてる方が安心するだろう?」
お互いに。
これなら離れることはない。
「でも重たいのに…!」
「全然。ほら、しっかりつかまって。」
そう言いきると、たまみは少しためらってから私の首に腕を回した。
温かい腕の感触。
…本当に、無事でよかった。
すると、たまみが申し訳なさそうに呟いた。
「…お手間をかけてしまってすみません。」
「心配はしたけど手間なんかじゃないよ。…さっきのあれに気を取られて止まっているうちにみんなが進んでしまったのかい?」
「はい。迷子になった子どもの気持ちが分かりました…。」
「そうだなぁ…こんなこともうあってほしくないけど、次何かあればあの笛を吹いてくれ。」
「あ!忘れてました!!」
「だと思った…。」
たまみが胸元から笛を取り出した。
やはり持ってきていたのに肝心なときに忘れているとは…なんとも彼女らしい。
「でもまぁ…たまみのおかげで幽霊の正体も分かったし……よかったんじゃないかな。」
そう優しく微笑みかけると、たまみが私の耳元に口を寄せて囁いた。
「さっきはあんなに怖かったのに…土井先生と…半助さんと一緒なら、全然怖くなくなりました……」
彼女の頬が私の頬に触れる。
「…このまま、朝まで一緒にいてくれますか…?」
「!」
私は彼女を持ち上げる手に力を入れた。
「…一人で寝れなくなるくらい、怖かった?」
「はい…」
「………………うーん、それじゃあ…、しかたない、かな…?」
私は暫し黙考して彼女の耳元に囁き返した。
「…でも、ほら、逆に…もっと寝れなくなってもしらないよ…?」
ちらりとたまみを伺い見ると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「全く…世話がかかるんだから…。」
そう呟いた自分の顔はきっと苦笑しつつも緩んでいて…。
暗くて見られないのが丁度よかった。
そうして私達はさっきまでの焦りが嘘のようにニコニコと皆の元に戻ったのだった。