今日は山田先生と生徒達のおかげで、かなり早く掃除を終えることがてきた。
さらにたまみがたけのこを持ってきてくれて、思いがけずみんなで楽しく美味しい昼食をとることもできた。

しかし…

気になる。
利吉くんが来てから、隣のおばちゃんと大家さんが去り際に見せたあの微妙な表情…。
応援しているようで野次馬的な生ぬるい視線…。
あれだ、きっとすぐにご近所さん達の噂になること間違いない…。

…まぁ、外野のことはもうどうしようもないし放っておくとして。
気がかりなのは、先程のたまみの言葉。

『こんな可愛い子ども達と素敵なお父さんがいたら、毎日楽しい大家族になりそうですね。』

本人は気づいていないのかもしれないが、その目には憧れと羨望がまざっていた。

身よりのない彼女は、大家族とかそういう賑やかな温かさに憧れているのだろうか。
もし、たまみが利吉くんのところに嫁いだとしたら…私のもとに来るよりも、幸せな普通のお嫁さんになれるのではないだろうか。

そう考えた瞬間、衝動的にたまみを路地裏へ連れ込み口づけていた。

いやだ…誰にも渡さない。
たとえそれが、彼女の描く理想とは異なるものだとしても…もう手離せない。

「…大家族がいいなら、頑張るから……。」

そうだ。
頑張ってお金を貯めて…子どもをたくさん…。

あれ。

ふと、たまみが貯金している理由を聞いたときのことを思い出した。
たしか、お金がある方が選択肢が増えるとか言ってたよな。

もしかして…選択肢って……そういう…？

まさか、そんな先のことまで見据えてあんなに無理してバイトを…？

いやいや、まさかそんな。
そんなわけ…あるはずが……。
…いやしかし、たまみは結構想像力逞しいというか色々考えるたちだから…。
もしかすると、本当にそうなのかもしれない…。

じっと見つめると、たまみは私の腕のなかで赤くなりながら頷いた。

…うん、頑張ろう。

私は彼女を強く抱きしめ、暫く青い空を眺めていた。