第106話 これからは
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翌日。
朝食後、きり丸が乱太郎のところへ元気に遊びに出かけたあと私達も家を出た。
「どこに行くんですか?」
「着いてからのお楽しみ。」
細い山道を手を繋ぎゆっくり歩いていく。
途中でワラビや山菜を見つけると、たまみは嬉しそうに手にとった。
「色々採れてワクワクしますね!」
「水辺の生き物探しだけじゃなくて、植物を探すのも好きなんだな。」
「そうですねぇ、なんかこうお宝発見!みたいで楽しいです。」
「はは、きり丸みたいだな。」
「私は目を小銭にしませんよ?」
「いやぁ、なかなか目的地に辿り着かないところとか、似たようなもんだよ。」
「えー!」
少しからかってじゃれあうのも楽しい。
何だか可愛らしくて頭をぽんぽんと撫でてみた。
「子ども扱いしないでくださいー。」
「あはは、ごめんごめん。」
ぎゅっと手を繋いで歩き始めると、たまみは嬉しそうに握り返して歩きだした。
ほんと、何から何まで可愛らしい…。
ザッザッザッ…
緩やかな坂道を二人で歩く。
暫くみちなりに進んでいくと、やがて視界が開けてきた。
「ここだよ。」
「わぁ…!」
そこには、色とりどりの花が咲く花畑が広がっていた。
黄色い菜の花や白爪草、名も知らぬ桃色や薄紫色の小さな花が一面に咲いている。
今は桜も綺麗な時期だが、人混みに行くと誰かに出くわしてしまいそうなのであえて山奥の花畑に来ることにした。
予想通り花畑には誰もおらず、私達は一番見晴らしがいい倒木の上に腰かけた。
「足、疲れてない?」
「はい。あ、お茶飲みますか?」
「うん、ありがとう。」
穏やかな風が吹き、草花が風になびく音と鳥のさえずりが聞こえる。
暖かい日溜まりのなか、二人並んで肩を寄せあい、のんびりとした時間に癒された。
何を話すでもなく、ただ手を繋いで目の前の綺麗な景色を眺める。
それはとても穏やかで幸せな時間だった。
「きれいですねぇ。」
「そうだなぁ。」
きっと彼女も同じ気持ちで、穏やかな笑みを浮かべながら目の前に広がる花畑を眺めていた。
どれくらいそうしていただろう。
やがて、たまみが私の名を呼んだ。
「…半助さん」
「ん?」
「私、しあわせです…。」
「…私もだよ。」
一緒にのんびりと過ごすこの一時に、とても心が満たされた。
愛おしくてそっと髪を撫でると、たまみは嬉しそうに目を細めた。
「いつも『みんなの土井先生』で忙しい半助さんが、今は私だけをみてくれているのが…独り占めできるのが嬉しいです…。」
「たまみ…」
彼女の頭をぐっと抱き寄せて胸に抱きしめた。
「…私こそ、もっときみを独り占めしたい…。」
「半助さんが…私を?」
「うん。たまみだって何だかんだと忙しくしているし学園でも色んな男と話してるし…。いっそ閉じ込めて私だけのものにすることができたらいいのになんて考えてしまうよ。」
たまみは驚いたようで目をぱちぱちとしばたかせた。
「ほんとに?」
「ああ。」
たまみに出会うまで、自分がこんなに独占欲の強い男だとは知らなかった。
誰かを閉じ込めて自分だけのものにしてしまいたいと思うなんて…。
「…あ、いや、別に監禁しようとかそんなつもりはないけど……」
たまみがあんまり驚いているので、ひかれてしまったのではないかと慌てて付け加えた。
すると彼女は私の手をぎゅっと握って微笑んだ。
「嬉しいです。」
「え?」
「半助さんが、そこまで私を想ってくれてるんだなって。」
「……ずっと想ってるよ。」
いつからかは分からない。
しかし、毎晩眠る前に思い浮かぶのはきみのことばかりで…。
「…半助さん」
「ん?」
「すき……」
猫のように甘えた声でぴたりと寄り添ってくる。
私は返事の代わりに、その顎に手をかけゆっくり顔を近づけた。
「…ん……」
彼女の柔らかい唇を食むように何度も優しくついばんだ。
「……愛してる…」
自然と口をついて出た言葉。
半ば無意識に呟くと、たまみが私の背に腕を回して抱きしめた。
「私も、あいしてる…」
全てを受け入れてくれるかのような甘い声に、思わず強く抱きしめた。
「…あんまり可愛いことを言うと…ここで襲ってしまうよ…?」
そう囁いて首筋に口付けると、彼女の身体がぴくりと動いた。
「…いいですよ…?」
「えっ」
「私は…ここでも………」
目を伏せたその艶っぽい表情にどきりとした。
思わずゴクリと唾を飲み込む。
え…!?
いや…いやいや…!
ほんとにここで……?!
半分冗談で言ったのに思わぬ返事が返ってきて焦った。
一瞬、花に囲まれたこの開放的すぎる場所で恥ずかしがりながらも私を感じる彼女を想像してしまい、鼓動が速くなった。
しかし頭の片隅で、ここの地形を冷静に分析する自分がいて…僅かに理性が勝利した。
私は大きく息を吐くと彼女の肩に頭をもたげた。
「……またそうやって私を惑わせて……」
おでことおでこをコツンとくっつけ、私は名残惜しく笑った。
「お楽しみは…夜にとっておこうかな…。」
小さく呟いてそのまま額に口づけ、ぽんぽんと頭を撫でた。
これ以上こんな話をしていると本当に変な気を起こしてしまいそうだ。
私は話をそらすように自分の荷をほどいた。
「そうだ、これ。全然たいしたものじゃないんだけど…前にたまみがいいなぁって言ってたから。」
「!!…これ……!」
彼女の手に渡したのは一枚の風呂敷。
薄黄色の生地に、黒糸で簡単に格子状の刺繍を施したもの。
それはいつぞや私が自分ときり丸に作った風呂敷と同じものであり、たまみが「二人でお揃いの風呂敷いいなぁ」と言っていたものだった。
「まだ布が残っていたから作ったんだ。」
「嬉しい…!!ありがとうございます。」
たまみは風呂敷を青空に掲げて眺めたあと大事そうに抱きしめた。
「私もお揃いにしてもらえて嬉しいです…!」
心から嬉しそうな笑顔。
たいしたものを贈ったわけではないのだが、その喜びように私の顔も綻んだ。
「誕生日、おめでとう。」
心からの愛情をこめて優しく囁く。
彼女の長い髪が柔らかく風に揺れた。
「ありがとうございます…大事に使いますね。」
そう言って風呂敷を見つめる瞳はほんの少し潤んでいるようにも見えた。
こんなものくらいでそこまで喜んでもらえるなんて…なんとなく逆に申し訳ないような気持ちになったとき。
「何だか、家族の一人になったみたい…」
たまみがぽつりと呟いた。
「…みたい、じゃなくて……」
「え?」
「…いや、その………えーっと……」
まだ言うことができないその先の言葉が宙に浮く。
私をじっと見つめる視線に、何か期待されているのを感じながらも…私は目をそらした。
「そ、そういえば、きり丸ももうすぐ誕生日なんだ。」
「えっ、きりちゃんが?」
「うん。二人からって形で何か渡す?」
「そうですね…きりちゃんが喜びそうなもの、何かなぁ…。」
「あとで町に寄ったときに見てみようか。」
「はい!」
真剣に思案する彼女に頷くと、私は持ってきた笹包みを取り出して膝に置いた。
「じゃあ、ちょっと早いけど…今日はかやくご飯のおにぎりを持ってきたんだ。」
「私、半助さんの作ってくれるおにぎり大好きです!」
「たくさんあるから好きなだけ食べていいよ。」
「えへへ、嬉しい」
お昼ご飯には少し早いが、二人微笑みながらおにぎりを頬張った。
「町へ行ったら小間物屋と…あと餡蜜も食べたいって言ってたよね。」
「はい!」
口元にご飯粒をつけながら嬉しそうに微笑む彼女に心が和んだ。
気のきいたデートコースとかそんなものはよく分からないが、どうやら喜んでもらえたようでよかった。
彼女の笑顔に、私もまた心から嬉しく思った。
町に着くとたまみの気の赴くままに店を覗いた。
普段あまりこうして二人であてもなく出歩くことはないから新鮮な感じがする。
たまみもはしゃいでいるようで、真剣に色々な小物を手にとってはあちこち見て回った。
すると、とあるお店で彼女の足が止まった。
店頭に並んでいる鍋を手に取り、横から見たり下から見たり繁々と観察している。
「半助さん…この土鍋、すごく色合いもいいしお花の模様も可愛いくて大きさも丁度いいし…これ買ってもいいですか?」
「うん、いいよ。」
うちの台所はもうきみのものだから…などと心のなかで思いつつ、微笑んで頷いた。
「これは家用だから、別にたまみの欲しいものも選ぶんだぞ。」
「え、風呂敷ももらったのにそんな…」
「あれはおまけみたいなものだよ。」
「じゃあ、このお鍋を誕生日の記念にってことにしてください。」
「自分のものでなくていいのかい?」
「はい、あとあんみつが食べられたら、私もう幸せすぎるので…!」
「欲がないなぁ。」
「あはは、色々見るのはとても楽しいんですけど、迷いすぎて買えないとか…ほんときりちゃんに影響されすぎかもですね。」
「はは、まぁまたこうやってたまには一緒に買い物に来たらいいさ。」
「はい!」
そうして彼女の選んだ土鍋を片手に、前から気になっていたという甘味処に立ち寄った。
彼女は桜と抹茶のあんみつを食べて幸せそうな顔をしている。
「桜のほんのり甘い風味と、あんこと黒蜜の甘さ、それに抹茶の苦味が合わさって最高すぎます…!桃色と緑色との色合いも季節感あってお洒落ですし、寒天の食感ともちもちした白玉と…もう止まらないですね…!」
ほんと嬉しそうに食べるなぁ。
もしここに乱太郎が居たら、この可愛らしい表情を…仕草を絵にして残して欲しいくらいだ。
もくもくと頬張る彼女を、私はほくほくした気持ちで眺めていた。
朝食後、きり丸が乱太郎のところへ元気に遊びに出かけたあと私達も家を出た。
「どこに行くんですか?」
「着いてからのお楽しみ。」
細い山道を手を繋ぎゆっくり歩いていく。
途中でワラビや山菜を見つけると、たまみは嬉しそうに手にとった。
「色々採れてワクワクしますね!」
「水辺の生き物探しだけじゃなくて、植物を探すのも好きなんだな。」
「そうですねぇ、なんかこうお宝発見!みたいで楽しいです。」
「はは、きり丸みたいだな。」
「私は目を小銭にしませんよ?」
「いやぁ、なかなか目的地に辿り着かないところとか、似たようなもんだよ。」
「えー!」
少しからかってじゃれあうのも楽しい。
何だか可愛らしくて頭をぽんぽんと撫でてみた。
「子ども扱いしないでくださいー。」
「あはは、ごめんごめん。」
ぎゅっと手を繋いで歩き始めると、たまみは嬉しそうに握り返して歩きだした。
ほんと、何から何まで可愛らしい…。
ザッザッザッ…
緩やかな坂道を二人で歩く。
暫くみちなりに進んでいくと、やがて視界が開けてきた。
「ここだよ。」
「わぁ…!」
そこには、色とりどりの花が咲く花畑が広がっていた。
黄色い菜の花や白爪草、名も知らぬ桃色や薄紫色の小さな花が一面に咲いている。
今は桜も綺麗な時期だが、人混みに行くと誰かに出くわしてしまいそうなのであえて山奥の花畑に来ることにした。
予想通り花畑には誰もおらず、私達は一番見晴らしがいい倒木の上に腰かけた。
「足、疲れてない?」
「はい。あ、お茶飲みますか?」
「うん、ありがとう。」
穏やかな風が吹き、草花が風になびく音と鳥のさえずりが聞こえる。
暖かい日溜まりのなか、二人並んで肩を寄せあい、のんびりとした時間に癒された。
何を話すでもなく、ただ手を繋いで目の前の綺麗な景色を眺める。
それはとても穏やかで幸せな時間だった。
「きれいですねぇ。」
「そうだなぁ。」
きっと彼女も同じ気持ちで、穏やかな笑みを浮かべながら目の前に広がる花畑を眺めていた。
どれくらいそうしていただろう。
やがて、たまみが私の名を呼んだ。
「…半助さん」
「ん?」
「私、しあわせです…。」
「…私もだよ。」
一緒にのんびりと過ごすこの一時に、とても心が満たされた。
愛おしくてそっと髪を撫でると、たまみは嬉しそうに目を細めた。
「いつも『みんなの土井先生』で忙しい半助さんが、今は私だけをみてくれているのが…独り占めできるのが嬉しいです…。」
「たまみ…」
彼女の頭をぐっと抱き寄せて胸に抱きしめた。
「…私こそ、もっときみを独り占めしたい…。」
「半助さんが…私を?」
「うん。たまみだって何だかんだと忙しくしているし学園でも色んな男と話してるし…。いっそ閉じ込めて私だけのものにすることができたらいいのになんて考えてしまうよ。」
たまみは驚いたようで目をぱちぱちとしばたかせた。
「ほんとに?」
「ああ。」
たまみに出会うまで、自分がこんなに独占欲の強い男だとは知らなかった。
誰かを閉じ込めて自分だけのものにしてしまいたいと思うなんて…。
「…あ、いや、別に監禁しようとかそんなつもりはないけど……」
たまみがあんまり驚いているので、ひかれてしまったのではないかと慌てて付け加えた。
すると彼女は私の手をぎゅっと握って微笑んだ。
「嬉しいです。」
「え?」
「半助さんが、そこまで私を想ってくれてるんだなって。」
「……ずっと想ってるよ。」
いつからかは分からない。
しかし、毎晩眠る前に思い浮かぶのはきみのことばかりで…。
「…半助さん」
「ん?」
「すき……」
猫のように甘えた声でぴたりと寄り添ってくる。
私は返事の代わりに、その顎に手をかけゆっくり顔を近づけた。
「…ん……」
彼女の柔らかい唇を食むように何度も優しくついばんだ。
「……愛してる…」
自然と口をついて出た言葉。
半ば無意識に呟くと、たまみが私の背に腕を回して抱きしめた。
「私も、あいしてる…」
全てを受け入れてくれるかのような甘い声に、思わず強く抱きしめた。
「…あんまり可愛いことを言うと…ここで襲ってしまうよ…?」
そう囁いて首筋に口付けると、彼女の身体がぴくりと動いた。
「…いいですよ…?」
「えっ」
「私は…ここでも………」
目を伏せたその艶っぽい表情にどきりとした。
思わずゴクリと唾を飲み込む。
え…!?
いや…いやいや…!
ほんとにここで……?!
半分冗談で言ったのに思わぬ返事が返ってきて焦った。
一瞬、花に囲まれたこの開放的すぎる場所で恥ずかしがりながらも私を感じる彼女を想像してしまい、鼓動が速くなった。
しかし頭の片隅で、ここの地形を冷静に分析する自分がいて…僅かに理性が勝利した。
私は大きく息を吐くと彼女の肩に頭をもたげた。
「……またそうやって私を惑わせて……」
おでことおでこをコツンとくっつけ、私は名残惜しく笑った。
「お楽しみは…夜にとっておこうかな…。」
小さく呟いてそのまま額に口づけ、ぽんぽんと頭を撫でた。
これ以上こんな話をしていると本当に変な気を起こしてしまいそうだ。
私は話をそらすように自分の荷をほどいた。
「そうだ、これ。全然たいしたものじゃないんだけど…前にたまみがいいなぁって言ってたから。」
「!!…これ……!」
彼女の手に渡したのは一枚の風呂敷。
薄黄色の生地に、黒糸で簡単に格子状の刺繍を施したもの。
それはいつぞや私が自分ときり丸に作った風呂敷と同じものであり、たまみが「二人でお揃いの風呂敷いいなぁ」と言っていたものだった。
「まだ布が残っていたから作ったんだ。」
「嬉しい…!!ありがとうございます。」
たまみは風呂敷を青空に掲げて眺めたあと大事そうに抱きしめた。
「私もお揃いにしてもらえて嬉しいです…!」
心から嬉しそうな笑顔。
たいしたものを贈ったわけではないのだが、その喜びように私の顔も綻んだ。
「誕生日、おめでとう。」
心からの愛情をこめて優しく囁く。
彼女の長い髪が柔らかく風に揺れた。
「ありがとうございます…大事に使いますね。」
そう言って風呂敷を見つめる瞳はほんの少し潤んでいるようにも見えた。
こんなものくらいでそこまで喜んでもらえるなんて…なんとなく逆に申し訳ないような気持ちになったとき。
「何だか、家族の一人になったみたい…」
たまみがぽつりと呟いた。
「…みたい、じゃなくて……」
「え?」
「…いや、その………えーっと……」
まだ言うことができないその先の言葉が宙に浮く。
私をじっと見つめる視線に、何か期待されているのを感じながらも…私は目をそらした。
「そ、そういえば、きり丸ももうすぐ誕生日なんだ。」
「えっ、きりちゃんが?」
「うん。二人からって形で何か渡す?」
「そうですね…きりちゃんが喜びそうなもの、何かなぁ…。」
「あとで町に寄ったときに見てみようか。」
「はい!」
真剣に思案する彼女に頷くと、私は持ってきた笹包みを取り出して膝に置いた。
「じゃあ、ちょっと早いけど…今日はかやくご飯のおにぎりを持ってきたんだ。」
「私、半助さんの作ってくれるおにぎり大好きです!」
「たくさんあるから好きなだけ食べていいよ。」
「えへへ、嬉しい」
お昼ご飯には少し早いが、二人微笑みながらおにぎりを頬張った。
「町へ行ったら小間物屋と…あと餡蜜も食べたいって言ってたよね。」
「はい!」
口元にご飯粒をつけながら嬉しそうに微笑む彼女に心が和んだ。
気のきいたデートコースとかそんなものはよく分からないが、どうやら喜んでもらえたようでよかった。
彼女の笑顔に、私もまた心から嬉しく思った。
町に着くとたまみの気の赴くままに店を覗いた。
普段あまりこうして二人であてもなく出歩くことはないから新鮮な感じがする。
たまみもはしゃいでいるようで、真剣に色々な小物を手にとってはあちこち見て回った。
すると、とあるお店で彼女の足が止まった。
店頭に並んでいる鍋を手に取り、横から見たり下から見たり繁々と観察している。
「半助さん…この土鍋、すごく色合いもいいしお花の模様も可愛いくて大きさも丁度いいし…これ買ってもいいですか?」
「うん、いいよ。」
うちの台所はもうきみのものだから…などと心のなかで思いつつ、微笑んで頷いた。
「これは家用だから、別にたまみの欲しいものも選ぶんだぞ。」
「え、風呂敷ももらったのにそんな…」
「あれはおまけみたいなものだよ。」
「じゃあ、このお鍋を誕生日の記念にってことにしてください。」
「自分のものでなくていいのかい?」
「はい、あとあんみつが食べられたら、私もう幸せすぎるので…!」
「欲がないなぁ。」
「あはは、色々見るのはとても楽しいんですけど、迷いすぎて買えないとか…ほんときりちゃんに影響されすぎかもですね。」
「はは、まぁまたこうやってたまには一緒に買い物に来たらいいさ。」
「はい!」
そうして彼女の選んだ土鍋を片手に、前から気になっていたという甘味処に立ち寄った。
彼女は桜と抹茶のあんみつを食べて幸せそうな顔をしている。
「桜のほんのり甘い風味と、あんこと黒蜜の甘さ、それに抹茶の苦味が合わさって最高すぎます…!桃色と緑色との色合いも季節感あってお洒落ですし、寒天の食感ともちもちした白玉と…もう止まらないですね…!」
ほんと嬉しそうに食べるなぁ。
もしここに乱太郎が居たら、この可愛らしい表情を…仕草を絵にして残して欲しいくらいだ。
もくもくと頬張る彼女を、私はほくほくした気持ちで眺めていた。