第104話 言葉の真意
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えええええええっ!!
半助さんと八方斎さんの話が気になって、厨房の角からこっそり聞き耳を立てていた私は驚きのあまり息を止めた。
永久就職!?
えっ、それってあれ!?
お、お嫁さん的なあれですか…っ!?
ちょっ、いつの間にそんな話に…え、忍術学園を辞めたらって…え、そうだったの!?
驚きと興奮でその場から動けなくなった。
半助さんと一緒になりたいとずっと願ってきたけれど、ちゃんとはっきり言葉で言って貰ってはなかったから…。
う、嬉しい…!!
半ば混乱しつつ泣きそうな私をよそに、二人の会話は途切れることなく続いた。
「ほう。しかし自分の弱みとなるものを話せばつけこまれると思わなかったのか。」
ダンッ
半助さんが片手を机に叩きつけた。
「勘違いするな。つまり、彼女に手を出せば…」
静かな声。
なのに、ぞくりとする響き。
「あらゆる手段を使って…ドクタケを潰す。」
……!!
見たこともないほど冷たい目つき。
か、かっこいい…!!!
私のことで怒ってくれているのに不謹慎かもしれない。
でも、格好良すぎて心臓が止まるかと思った…!
「ぬぬ…!」
八方斎さんが表情を険しくする。
横の風鬼さんがやや青ざめて八方斎さんに声をかけた。
「八方斎さま、この男ならやり遂げかねません…!」
「うむむ、確かに…。」
半助さんがよしよしと頷いた。
……私を守ろうとしてくれている…。
…あれ、じゃあさっきの言葉も私を守るため…?
その時、一瞬だけ八方斎さんがこちらに視線を向けた。
目があって、心臓が跳ねる。
「ちなみにその話、本人の了承はもう得ているのか?」
私の表情を読み取ったのか、八方斎さんが疑わしげに半助さんを睨んだ。
「あ…当たり前だ!」
僅かに動揺する半助さん。
本当は了承なんてまだ求められたこともないというか初耳なのですが…。
でも今ここで全力で了承しているので問題ありません…!!
「ほお~。まぁいい、美味しい食事を作れる人材は他にもいるだろう。ここで不要に敵を作ることもない。」
「それはお互いにとって何よりだ。さ、それならさっさと食べて…」
「だがな、土井半助!!」
「な…、なんだ!?」
八方斎さんがお蕎麦のお椀をぐっと握りしめて脅すように言った。
「これだけは人生の先輩として言わせてもらおう!!」
「人生の先輩…?」
「そうだ。」
「別にアドバイスは求めてないからお引き取り願…」
「待て待て待て待てそう言うな!」
「…何なんだ一体……」
「オホン!えー…私の妻は美人なのだが…」
「自慢話なら部下にでも…」
「人の話は最後まで聞きなさい!えー、それでだな、実は私は婿養子に入ったわけなのだが…。」
「はぁ。」
「家事やら洗濯やら妻に奉仕すれど報われることがない日々が続き、疲れはてた結果今のように単身赴任するに至ったのだ。」
意外なお話。
あの八方斎さんが奥さんに献身的に尽くしてあげく疲れはててしまうなんて。
気の毒にと思いはしたけれど、半助さんの反応はとても冷ややかなものだった。
「…だから?」
「つまりだ!独身の頃は色々と夢を描き結婚したとしても、実際生活が始まってみれば辛いことも多いということだ。」
「それで?」
「いま、『自分達はそうならない。』と思っただろう。」
八方斎さんが半助さんを指差した。
「みんなまさか自分がそんな目に遭うとは思わないのだ。私だってこんなことになるとは思いもしなかった。」
苦々しげに、しかしどこか意地悪に笑う八方斎さん。
「今のうちにせいぜい楽しんでおくんだな。」
半助さんが眉間にシワを寄せながらため息をついた。
「わかったわかった、色々苦労したんだな。でもほら、今はイイ部下に恵まれているんだからいいじゃないか。」
半助さんが風鬼さん達の方をちらりと見た。
イイ部下と言われた彼らの表情が曇る。
「ほら、もっとその苦労話を聞きたいと言ってるぞ。」
「えええ!?い、言ってない言ってない…!!」
「なに!?そうか聞いてくれるか…!いやー、実は先日もこんなことがあってな…!」
八方斎がしみじみと語り始め、半助さんが風鬼さんに何か小声で耳打ちしたように見えた。
とたん、風鬼さんが急いでおそばを食べ始めた。
あ、早く食べてお店を出ないと延々聞かされるぞとかそんなことを言ったのかな。
「嬢ちゃん、今の兄ちゃんの話は初耳なのかい?」
「え?」
気づけば、厨房の人達が手を止めて私と同じように盗み聞きしていた。
何だか生ぬるい視線を一身に浴びてとても居心地悪くなる。
「え、えーと…」
「もしそうなら、今の話は聞かなかったことにしといてやんな。」
え、なぜ?
今すぐにでも「聞いてしまったのですが今の本当ですか?」って問い詰めたいのに。
「ほら、あれだよ。男にも色々準備とか…さ。わかるだろ?」
店長さんがそわそわしながら私を諭す。
すると奥さんと思われる厨房の女性が横から割り込んできた。
「あんた、そんな無責任なこと言って…。いい機会だから正直に聞いてみたらいいのさ。戦乱の時代に悠長に構えることないんだよ、女だって待つばかりでなく大事なものは全力でとりに行かなきゃ。」
「ハッ、余計なでしゃばりを…」
「なんですってぇ!?」
「あ、あの、落ち着いてください…!」
なぜか夫婦喧嘩が始まりそうになり慌てた。
そのときちょうど半助さんが戻ってきた。
「あ!半助さんかわってもらってすみませんでした…!」
「うん、とりあえずこれで早く帰ってくれると思うけど。」
先程とはうってかわって優しい眼差し。
本当は八方斎さんよりも、さっきの永久就職という言葉が気になって気になって仕方がないんだけど…。
ちゃんとはっきり言葉にして私に言ってほしい。
でも、促して言わせるのも何だか違う気がする…。
結局、店主さんの言葉も気になって、私はそのことには触れず何も聞かなかったことにしたのだった。
半助さんと八方斎さんの話が気になって、厨房の角からこっそり聞き耳を立てていた私は驚きのあまり息を止めた。
永久就職!?
えっ、それってあれ!?
お、お嫁さん的なあれですか…っ!?
ちょっ、いつの間にそんな話に…え、忍術学園を辞めたらって…え、そうだったの!?
驚きと興奮でその場から動けなくなった。
半助さんと一緒になりたいとずっと願ってきたけれど、ちゃんとはっきり言葉で言って貰ってはなかったから…。
う、嬉しい…!!
半ば混乱しつつ泣きそうな私をよそに、二人の会話は途切れることなく続いた。
「ほう。しかし自分の弱みとなるものを話せばつけこまれると思わなかったのか。」
ダンッ
半助さんが片手を机に叩きつけた。
「勘違いするな。つまり、彼女に手を出せば…」
静かな声。
なのに、ぞくりとする響き。
「あらゆる手段を使って…ドクタケを潰す。」
……!!
見たこともないほど冷たい目つき。
か、かっこいい…!!!
私のことで怒ってくれているのに不謹慎かもしれない。
でも、格好良すぎて心臓が止まるかと思った…!
「ぬぬ…!」
八方斎さんが表情を険しくする。
横の風鬼さんがやや青ざめて八方斎さんに声をかけた。
「八方斎さま、この男ならやり遂げかねません…!」
「うむむ、確かに…。」
半助さんがよしよしと頷いた。
……私を守ろうとしてくれている…。
…あれ、じゃあさっきの言葉も私を守るため…?
その時、一瞬だけ八方斎さんがこちらに視線を向けた。
目があって、心臓が跳ねる。
「ちなみにその話、本人の了承はもう得ているのか?」
私の表情を読み取ったのか、八方斎さんが疑わしげに半助さんを睨んだ。
「あ…当たり前だ!」
僅かに動揺する半助さん。
本当は了承なんてまだ求められたこともないというか初耳なのですが…。
でも今ここで全力で了承しているので問題ありません…!!
「ほお~。まぁいい、美味しい食事を作れる人材は他にもいるだろう。ここで不要に敵を作ることもない。」
「それはお互いにとって何よりだ。さ、それならさっさと食べて…」
「だがな、土井半助!!」
「な…、なんだ!?」
八方斎さんがお蕎麦のお椀をぐっと握りしめて脅すように言った。
「これだけは人生の先輩として言わせてもらおう!!」
「人生の先輩…?」
「そうだ。」
「別にアドバイスは求めてないからお引き取り願…」
「待て待て待て待てそう言うな!」
「…何なんだ一体……」
「オホン!えー…私の妻は美人なのだが…」
「自慢話なら部下にでも…」
「人の話は最後まで聞きなさい!えー、それでだな、実は私は婿養子に入ったわけなのだが…。」
「はぁ。」
「家事やら洗濯やら妻に奉仕すれど報われることがない日々が続き、疲れはてた結果今のように単身赴任するに至ったのだ。」
意外なお話。
あの八方斎さんが奥さんに献身的に尽くしてあげく疲れはててしまうなんて。
気の毒にと思いはしたけれど、半助さんの反応はとても冷ややかなものだった。
「…だから?」
「つまりだ!独身の頃は色々と夢を描き結婚したとしても、実際生活が始まってみれば辛いことも多いということだ。」
「それで?」
「いま、『自分達はそうならない。』と思っただろう。」
八方斎さんが半助さんを指差した。
「みんなまさか自分がそんな目に遭うとは思わないのだ。私だってこんなことになるとは思いもしなかった。」
苦々しげに、しかしどこか意地悪に笑う八方斎さん。
「今のうちにせいぜい楽しんでおくんだな。」
半助さんが眉間にシワを寄せながらため息をついた。
「わかったわかった、色々苦労したんだな。でもほら、今はイイ部下に恵まれているんだからいいじゃないか。」
半助さんが風鬼さん達の方をちらりと見た。
イイ部下と言われた彼らの表情が曇る。
「ほら、もっとその苦労話を聞きたいと言ってるぞ。」
「えええ!?い、言ってない言ってない…!!」
「なに!?そうか聞いてくれるか…!いやー、実は先日もこんなことがあってな…!」
八方斎がしみじみと語り始め、半助さんが風鬼さんに何か小声で耳打ちしたように見えた。
とたん、風鬼さんが急いでおそばを食べ始めた。
あ、早く食べてお店を出ないと延々聞かされるぞとかそんなことを言ったのかな。
「嬢ちゃん、今の兄ちゃんの話は初耳なのかい?」
「え?」
気づけば、厨房の人達が手を止めて私と同じように盗み聞きしていた。
何だか生ぬるい視線を一身に浴びてとても居心地悪くなる。
「え、えーと…」
「もしそうなら、今の話は聞かなかったことにしといてやんな。」
え、なぜ?
今すぐにでも「聞いてしまったのですが今の本当ですか?」って問い詰めたいのに。
「ほら、あれだよ。男にも色々準備とか…さ。わかるだろ?」
店長さんがそわそわしながら私を諭す。
すると奥さんと思われる厨房の女性が横から割り込んできた。
「あんた、そんな無責任なこと言って…。いい機会だから正直に聞いてみたらいいのさ。戦乱の時代に悠長に構えることないんだよ、女だって待つばかりでなく大事なものは全力でとりに行かなきゃ。」
「ハッ、余計なでしゃばりを…」
「なんですってぇ!?」
「あ、あの、落ち着いてください…!」
なぜか夫婦喧嘩が始まりそうになり慌てた。
そのときちょうど半助さんが戻ってきた。
「あ!半助さんかわってもらってすみませんでした…!」
「うん、とりあえずこれで早く帰ってくれると思うけど。」
先程とはうってかわって優しい眼差し。
本当は八方斎さんよりも、さっきの永久就職という言葉が気になって気になって仕方がないんだけど…。
ちゃんとはっきり言葉にして私に言ってほしい。
でも、促して言わせるのも何だか違う気がする…。
結局、店主さんの言葉も気になって、私はそのことには触れず何も聞かなかったことにしたのだった。