第104話 言葉の真意
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やはりついてきてよかった。
たまみは蕎麦屋の厨房手伝いだと言っていたが、いざ行ってみると配膳担当が風邪で休んでいるらしく、たまみの風貌を見た店主は配膳担当を手伝ってくれないかと頼んできた。
「配膳ですか?…でも…、その……」
私に接客のバイトはしないように言われているからか、たまみがしぶってオドオドとした。
混雑する店内をちらりと見てみると、客層は家族連れが多かった。
人気の店とあって、家族で節分の蕎麦を食べに来ているお客さんが多いのか。
若い男に絡まれる雰囲気ではなさそうだ。
「そんで、お連れさんも手伝いに来てくれたのかい?」
店主の男性が私をじろじろと見た。
「混んでますね。必要なら手伝いますよ。」
「ありがたい。こんな日に限って急に欠員が出たから困ってたんだ。じゃああんたは厨房、お嬢さんは配膳で頼むよ。」
店主が急いで仕事場に入った。
たまみは困った顔をしている。
「たまみ、大丈夫だ。ここは悪い雰囲気の店じゃなさそうだから、安心していいよ。私も裏方から目を光らせるようにしておくし…。」
「あ…、そうじゃなくて……」
「?」
「おーい!早く来なさい!」
店主に急かされ慌てて中に入った。
たまみは何かためらっていたようだが、ポンポンととぶ指示に追われてそのまま仕事をこなしていった。
蕎麦を作るのは生地をこねたり沢山の麺を湯切りしたり水を汲んできたり、思いのほか力仕事が多かった。
これは小柄なたまみがするには少ししんどかったのではないかと思うほどで、私が代わってやることができてよかった。
人気店だけあって、生地や蕎麦つゆの作り方にこだわりが強い。
秘伝の配合とやらは他の店員にも秘密にしているようだが、店主は親分肌のようで忙しい合間に色々とコツを教えてくれた。
蕎麦作りも中々に奥が深い…。
作業をしながらも、店の中の声に耳を傾ける。
賑やかな店内で、注文を受けるたまみの可愛らしい声に無意識に惹きつけられていた。
「いらっしゃいま……」
突然、たまみの声が途切れた。
何事かと気になり覗いてみると…。
「八方斎…!?」
店の入り口には、風鬼を連れた八方斎が立っていた。
「おや、この女は…」
「い、いらっしゃいませ…」
たまみがお盆で顔を隠しながら対応している。
私は慌てて店主に断った。
「すみません、ちょっと行きます。」
「え、どうしたんだ!?」
店主の質問には答えず、八方斎とたまみの間に割り込んだ。
「何の用だ、八方斎。」
「お、お前は土井半助…!!」
八方斎が驚いて私を見上げた。
背中の後ろにたまみを庇い、小声で「厨房に下がって。」と伝える。
たまみは戸惑いながらも頷き、小走りに厨房へと逃げた。
「私はただ蕎麦を食べに来たたけだ。お前こそ何故こんなところにいるんだ。」
八方斎の目線が厨房に向けられた。
「ということは…さっきのはやはり一度うちに連れてきたことのある女だな…」
「八方斎さま、確かたまみという名で土井半助の恋人です。」
風鬼がこそっと耳打ちをした。
恋人と言われると何だか照れるな…。
いや、というか恋仲であることは秘密だと魔界之先生に言っておいたのに…ごまかしきれなかったのか。
まいったな…しかし、今はそんなことを考えてはいられない。
私はあえて風鬼の言葉を無視することにした。
八方斎が探るようにこちらを睨み質問してくる。
「二人揃ってなぜ蕎麦屋でアルバイトを?」
「…お前には関係ない。」
「そうか、忍術学園の給料じゃ足りないんだろう。」
「は?」
「安心しなさい、あの長屋は私が代わりに使ってやるから…」
「金欠ではないし家を出るつもりもない!!」
「そいつは残念。まあいい、今は私はただの客だ。早く蕎麦を持ってくるんだな。」
どかっと椅子に座る八方斎。
できればお引き取り願いたいところだったが、こうなってしまっては他の客の目もありどうしようもなかった。
さっさと食べて帰ってもらうしかないな…。
しかしこのままたまみに配膳をさせていたら八方斎にどう目をつけられるか分からない。
奴らが帰るまでは仕事を替わってもらおう。
「すみません店長、以前彼女に言いがかりをつけてきた男が来てまして。また難癖をつけられても困るので、少し私が配膳をしていてもいいですか。」
全くの嘘ではない話で店主に相談すると、彼は私とたまみを交互に見比べ頷いた。
「あの男か、確かに悪そうな顔つきだな。いいだろう、揉めて評判が落ちても困るから穏便にやり過ごしてくれ。」
職人風の気難しそうな店主も、八方斎の顔を見るなりすぐ承諾してくれた。
「半助さん、すみません…」
たまみが心配そうに私を見つめた。
一瞬、たまみがドクタケに誘拐されたときのことが脳裏を掠めた。
もうきみに指一本触れさせるものか…。
にこりと笑顔を作り、安心するように柔らかい口調で頭を撫でた。
「大丈夫。たまみは厨房で頑張って。」
「!…はい!」
たまみは何故か嬉しそうに返事をした。
店頭より厨房の方が好きなのだろうか。
力仕事が結構あるので少し心配だったが、八方斎と話させるわけにもいかないし…。
私は他のお客さんの対応をしながら八方斎が妙な動きをしないか目を光らせた。
「…お待たせしました。」
結局特に変わったこともなく、八方斎と風鬼に蕎麦を出した。
本当に食べに来ただけなのか。
訝しく思い観察していると、八方斎がこちらを睨んだ。
「何をじろじろ見ている。」
「いや、本当に食べに来ただけなのかと。」
「私だってたまには人気の店で食べたい。そちらも忍務ではなさそうだな。」
「………。」
「こんなところで働いているということは、お金が必要なのだろう?うちに来たら給料ははずむぞ?」
「断る。」
「そう邪険にするな。…そうだ、さっきの彼女だけでも構わん。」
「…は?」
「同じように料理を作っているだけで給料が何倍にもなるんだ。真面目でなかなかいい腕だと聞いたし悪い話ではないだろう。」
「彼女がドクタケに行くことは永遠にない!」
一体何を言い出すのか。
強い口調できっぱりと言いきると、八方斎が怪訝そうに首を傾げた。
「本人でもないのに何故そう言いきれる?人生何があるか分からんし、忍術学園を辞める可能性だってあるだろう。」
そりゃあ先の話なんて分からない。
いつか忍術学園を辞めるような日もくるのかもしれない。
しかしここで八方斎を言い負かせておかなければ、いつかたまみに手を出すことがあるかもしれない…!
無意識にぐっと拳を握った。
「……もし…」
ここで、こいつらが二度とたまみに手を出さないようにしておかなくては。
「もし、彼女が忍術学園をやめたとしても、その次の就職先は決まっている。」
「他からも呼ばれているのか?」
「……いや…」
「?」
「私だ。」
「なに?」
訝しげにこちらを見る八方斎。
私は息を止めて目を細めた。
「彼女は、私のもとに永久就職することになっている。」
たまみは蕎麦屋の厨房手伝いだと言っていたが、いざ行ってみると配膳担当が風邪で休んでいるらしく、たまみの風貌を見た店主は配膳担当を手伝ってくれないかと頼んできた。
「配膳ですか?…でも…、その……」
私に接客のバイトはしないように言われているからか、たまみがしぶってオドオドとした。
混雑する店内をちらりと見てみると、客層は家族連れが多かった。
人気の店とあって、家族で節分の蕎麦を食べに来ているお客さんが多いのか。
若い男に絡まれる雰囲気ではなさそうだ。
「そんで、お連れさんも手伝いに来てくれたのかい?」
店主の男性が私をじろじろと見た。
「混んでますね。必要なら手伝いますよ。」
「ありがたい。こんな日に限って急に欠員が出たから困ってたんだ。じゃああんたは厨房、お嬢さんは配膳で頼むよ。」
店主が急いで仕事場に入った。
たまみは困った顔をしている。
「たまみ、大丈夫だ。ここは悪い雰囲気の店じゃなさそうだから、安心していいよ。私も裏方から目を光らせるようにしておくし…。」
「あ…、そうじゃなくて……」
「?」
「おーい!早く来なさい!」
店主に急かされ慌てて中に入った。
たまみは何かためらっていたようだが、ポンポンととぶ指示に追われてそのまま仕事をこなしていった。
蕎麦を作るのは生地をこねたり沢山の麺を湯切りしたり水を汲んできたり、思いのほか力仕事が多かった。
これは小柄なたまみがするには少ししんどかったのではないかと思うほどで、私が代わってやることができてよかった。
人気店だけあって、生地や蕎麦つゆの作り方にこだわりが強い。
秘伝の配合とやらは他の店員にも秘密にしているようだが、店主は親分肌のようで忙しい合間に色々とコツを教えてくれた。
蕎麦作りも中々に奥が深い…。
作業をしながらも、店の中の声に耳を傾ける。
賑やかな店内で、注文を受けるたまみの可愛らしい声に無意識に惹きつけられていた。
「いらっしゃいま……」
突然、たまみの声が途切れた。
何事かと気になり覗いてみると…。
「八方斎…!?」
店の入り口には、風鬼を連れた八方斎が立っていた。
「おや、この女は…」
「い、いらっしゃいませ…」
たまみがお盆で顔を隠しながら対応している。
私は慌てて店主に断った。
「すみません、ちょっと行きます。」
「え、どうしたんだ!?」
店主の質問には答えず、八方斎とたまみの間に割り込んだ。
「何の用だ、八方斎。」
「お、お前は土井半助…!!」
八方斎が驚いて私を見上げた。
背中の後ろにたまみを庇い、小声で「厨房に下がって。」と伝える。
たまみは戸惑いながらも頷き、小走りに厨房へと逃げた。
「私はただ蕎麦を食べに来たたけだ。お前こそ何故こんなところにいるんだ。」
八方斎の目線が厨房に向けられた。
「ということは…さっきのはやはり一度うちに連れてきたことのある女だな…」
「八方斎さま、確かたまみという名で土井半助の恋人です。」
風鬼がこそっと耳打ちをした。
恋人と言われると何だか照れるな…。
いや、というか恋仲であることは秘密だと魔界之先生に言っておいたのに…ごまかしきれなかったのか。
まいったな…しかし、今はそんなことを考えてはいられない。
私はあえて風鬼の言葉を無視することにした。
八方斎が探るようにこちらを睨み質問してくる。
「二人揃ってなぜ蕎麦屋でアルバイトを?」
「…お前には関係ない。」
「そうか、忍術学園の給料じゃ足りないんだろう。」
「は?」
「安心しなさい、あの長屋は私が代わりに使ってやるから…」
「金欠ではないし家を出るつもりもない!!」
「そいつは残念。まあいい、今は私はただの客だ。早く蕎麦を持ってくるんだな。」
どかっと椅子に座る八方斎。
できればお引き取り願いたいところだったが、こうなってしまっては他の客の目もありどうしようもなかった。
さっさと食べて帰ってもらうしかないな…。
しかしこのままたまみに配膳をさせていたら八方斎にどう目をつけられるか分からない。
奴らが帰るまでは仕事を替わってもらおう。
「すみません店長、以前彼女に言いがかりをつけてきた男が来てまして。また難癖をつけられても困るので、少し私が配膳をしていてもいいですか。」
全くの嘘ではない話で店主に相談すると、彼は私とたまみを交互に見比べ頷いた。
「あの男か、確かに悪そうな顔つきだな。いいだろう、揉めて評判が落ちても困るから穏便にやり過ごしてくれ。」
職人風の気難しそうな店主も、八方斎の顔を見るなりすぐ承諾してくれた。
「半助さん、すみません…」
たまみが心配そうに私を見つめた。
一瞬、たまみがドクタケに誘拐されたときのことが脳裏を掠めた。
もうきみに指一本触れさせるものか…。
にこりと笑顔を作り、安心するように柔らかい口調で頭を撫でた。
「大丈夫。たまみは厨房で頑張って。」
「!…はい!」
たまみは何故か嬉しそうに返事をした。
店頭より厨房の方が好きなのだろうか。
力仕事が結構あるので少し心配だったが、八方斎と話させるわけにもいかないし…。
私は他のお客さんの対応をしながら八方斎が妙な動きをしないか目を光らせた。
「…お待たせしました。」
結局特に変わったこともなく、八方斎と風鬼に蕎麦を出した。
本当に食べに来ただけなのか。
訝しく思い観察していると、八方斎がこちらを睨んだ。
「何をじろじろ見ている。」
「いや、本当に食べに来ただけなのかと。」
「私だってたまには人気の店で食べたい。そちらも忍務ではなさそうだな。」
「………。」
「こんなところで働いているということは、お金が必要なのだろう?うちに来たら給料ははずむぞ?」
「断る。」
「そう邪険にするな。…そうだ、さっきの彼女だけでも構わん。」
「…は?」
「同じように料理を作っているだけで給料が何倍にもなるんだ。真面目でなかなかいい腕だと聞いたし悪い話ではないだろう。」
「彼女がドクタケに行くことは永遠にない!」
一体何を言い出すのか。
強い口調できっぱりと言いきると、八方斎が怪訝そうに首を傾げた。
「本人でもないのに何故そう言いきれる?人生何があるか分からんし、忍術学園を辞める可能性だってあるだろう。」
そりゃあ先の話なんて分からない。
いつか忍術学園を辞めるような日もくるのかもしれない。
しかしここで八方斎を言い負かせておかなければ、いつかたまみに手を出すことがあるかもしれない…!
無意識にぐっと拳を握った。
「……もし…」
ここで、こいつらが二度とたまみに手を出さないようにしておかなくては。
「もし、彼女が忍術学園をやめたとしても、その次の就職先は決まっている。」
「他からも呼ばれているのか?」
「……いや…」
「?」
「私だ。」
「なに?」
訝しげにこちらを見る八方斎。
私は息を止めて目を細めた。
「彼女は、私のもとに永久就職することになっている。」