休日。

今日は節分なのでランチをのり巻き定食にするべく、食堂のおばちゃんと私はのり巻きを大量に作っていた。

「美味しそうですねぇ。何かもう食べちゃいたいくらいです。」

「あらあら、たまみちゃんもうお腹すいたの？じゃあ味見ってことで少しだけ食べてもいいわよ。」

「ありがとうございます！」

食堂のお手伝いをしているとたまにこんなラッキーなことがある。
しんべヱくんが知ったらよだれを垂らして羨ましがられてしまいそう。
でも調子に乗って食べすぎて太らないようにしなくては。
おばちゃんの作るものはどれも本当に美味しくて、胃袋を掴まれるとはこういうことを言うのだろうと思った。

私も半助さんの胃袋を掴めるように頑張ろう…！

そう、そのためにも休日である今日は料理の技術が上がりそうなバイトを入れてみたのだ。
生徒や先生達が嬉しそうに巻き寿司を食べてくれるのを満足な気持ちで眺めた後、私は食堂の片付けが終わるとバイトに向かおうとした。
エプロンを外したとき、入り口から声がした。

「すみません、ランチまだありますか？」

半助さんが疲れた顔で入ってきた。

「あら土井先生、ちゃんと巻き寿司とってありますよ。」

「ありがとうございます。」

ふーっと息をつきながら席に座る彼に熱いお茶を入れた。

「遅かったですね、何かあったんですか？」

「そうなんだよ、今日が期限の報告書をさっき小松田くんから受け取って…。」

「そ、それは…とりあえず、期限が過ぎてから受け取らなくてよかったですね。」

「まあね…。」

トホホと苦笑する半助さんに巻き寿司ランチを渡す。
パッと表情が明るくなってくれて私も嬉しくなった。

「美味しそうだね。そうか、今日は節分だったな。」

「土井先生、たまみちゃんが一生懸命作ってくれたんだから味わってくださいよ。」

食堂のおばちゃんがにこにこと私達を見る。
何だか恥ずかしくて「お口に合えばいいのですが…」と頭をかくと、半助さんは嬉しそうに巻き寿司を眺めて笑った。

「いただきます。」

真っ先に巻き寿司から、大きな口を開けてぱくりと食べてくれた。
もぐもぐと味わうように咀嚼し、ゆっくり飲み込む。

「うん、美味しい。」

ニコリと向けられた爽やかな笑顔。

ああ、頑張って巻き寿司たくさん作ってよかった…！

出会ってから未だに、彼の笑顔に胸がドキドキしてしまう。
半助さんに喜んで貰うために私もっと頑張る…！

さっきまで疲れた様子だった彼が、美味しそうにご飯を食べて元気になってくれたようで私も嬉しかった。
半ば見とれるように食べる姿を眺めていると、食堂のおばちゃんに声をかけられた。

「たまみちゃん、アルバイト行かなくて時間大丈夫？」

「あっ！そうでした！！」

何かあるとすぐに他のことを忘れてしまう私。
半助さんも思い出したように私を見た。

「そういえば今日はアルバイトがあると言ってたね。どこに行くんだっけ？」

「最近人気のお蕎麦屋さんです。節分なので、今日はお客さんが多いらしくて。」

話してなかったかな？と思いつつ説明すると、半助さんの表情が曇った。

「接客？」

「いえ、厨房のお手伝いなので配膳じゃないですよ。」

接客はお客さんに絡まれるからやめるよう以前半助さんに言われたことを思い出した。
今回は厨房のお手伝いということで裏方だから止められないはず。
そして目的はお蕎麦の作り方を少しでも学ぶこと…何としても人気のお蕎麦屋さんのお蕎麦作りを見てみたかった。

「ふうん。……お蕎麦屋さんの厨房…。」

半助さんがお味噌汁のお椀を飲み干し、お膳をカウンターに返した。

「ごちそうさまでした。」

くるりと私に向き直ると、半助さんが私の肩に手を置いた。

「私も一緒に行こう。」

「えっ！？」

「節分の蕎麦屋は混雑するし、人手がもし足りないなら私も手伝おう。」

「でも、さっき今日締切の報告書がって…」

「今夜中に提出すればいいから大丈夫。それよりきみの方が心配だ。」

半助さんが眉間にシワを寄せて私を見つめた。

心配性過ぎるんじゃないかな…。

そう思う反面、少しでも一緒に居られることに嬉しく感じる自分もいた。

「あらあら、土井先生は過保護ですね。」

食堂のおばちゃんがクスクスと苦笑いしながら手を振ってくれた。
私は苦笑を返しながら、それでも異を唱えることもなく半助さんの後についていった。