第103話 新雪
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その日の夕暮れ時。
橙色の夕陽が雪をキラキラと輝かせている。
職員室に戻ろうと歩いていると、たまみが廊下で立ち止まっていた。
昼間五年生が作っていた大きなかまくらを遠くから眺めているようだ。
「どうしたんだい?」
「!…はん…土井先生。」
声をかけるとたまみは驚いたのか肩をびくりとさせて振り向いた。
咄嗟に私の名前を呼びかけて言い直す。
「あの中はどうなってるのかなって見てたんです。」
「ああ、兵助達が昼間作ってたかまくらだね。」
「はい。」
興味津々といった表情で頷くたまみ。
雪に反射した夕陽のせいか、その瞳は子どものようにキラキラと輝いてみえた。
「…入ってみる?」
「え?」
自然と言葉が口をついて出た。
本来なら学園の敷地内で…生徒からも見えるこのような場所で…二人の仲がバレてしまいそうなことはすべきでないのだが…。
そんな顔をされたら、見せてあげたくなるじゃないか。
私は返事を待たずして彼女の背と膝に手を伸ばした。
おもむろに横抱きに抱えると、予想外だったのかたまみが驚いて首にしがみついてきた。
こんなところを誰かに見られたら…。
一瞬そんな考えが頭をよぎったが、それよりもたまみを喜ばせたくて、私はそのままかまくらの入り口まで跳躍した。
たまみが雪で濡れぬよう、そのままゆっくりとかまくらの前に降ろす。
「ほら、入ってごらん。」
「……わぁ……」
たまみが感嘆の声をもらす。
狭い入り口をくぐると、そこは風も音もなくとても静かな空間だった。
踏み固めた雪の上にゴザを敷き、その上に長方形のスノコを置いて椅子がわりにしている。
中央に丸い七輪を置き、それを囲むようにスノコが三つ。
六人位は過ごすことが出来そうな造りだ。
たまみは雪の壁を物珍しそうに触っている。
キョロキョロ見回し観察している姿がまるで子どもみたいだ。
……可愛いな…もっと喜ばせてみたい…。
私は火打ち石を取り出して七輪に火をおこしてみた。
…ぱち……
静かな空間に炭のはぜる音が小さく響く。
ゆらゆらと揺れる小さな火がたまみの顔を優しく照らす。
「…素敵……」
たまみがうっとりと呟いた。
とても静かで、まるで二人だけの空間のように感じた。
ここが忍術学園の敷地内であることを忘れそうになる。
外から見えにくい位置に腰かけると、たまみも私の隣にぴたりと寄り添ってきた。
「寒くない?」
彼女の手をとると、その指先は冷たくなっていた。
ぎゅっと手の中に包み込み温める。
たまみは嬉しそうに微笑んだ。
「土井先生の手、あったかい。」
そのまま私の腕にすり寄るたまみ。
甘えた猫のような仕草に、知らず口元がゆるんでいた。
「ここで温かいものを食べたら楽しそうですね。」
「そうだね、兵助のことだから湯豆腐とかしようと思って七輪を置いたんじゃないかな。」
「お豆腐パーティー、いいですね。」
想像して楽しげに微笑むたまみ。
ふと、五年生とともに鍋を囲む彼女を思い浮かべてしまった。
空想の中の楽しそうな彼女。
チクリと胸が痛んだ。
「……一応言っておくけど…」
「?」
「……誘われても参加しないように。」
「何でですか?」
「………教えたはずだ。」
まだ分からないかな…と半ば呆れるようにじと目でたまみを見やる。
不思議そうにする彼女も私のその視線にやっと意味を理解したようで「あ」と小さく言った。
「もしかして、やきもちですか?」
……いや、まぁそうといえばそうなんだけど…。
正面きってそう言われると…。
しかし私の気持ちなどお構いなしに嬉しそうに私の言葉を期待するたまみ。
私はその小さな手を握る力をぐっと強め、憮然と答えた。
「こんな狭いところで男に囲まれて座るとか…たまみはやっぱりその辺の意識が甘すぎる……」
「ふふふ、子どもにもやきもちやいて大変ですね?」
「子どもといっても五年生だぞ…」
「私は土井先生しか見てないですよ?」
「………そういう問題じゃなくて…」
ムッとしながらも頬に熱が集まるのを感じた。
…これだ。
この、真っ直ぐでためらいのない愛情。
たまみは言葉でも、態度や仕草でも、目線でも…常に私を想っていることを全身で示してくれる。
色恋に疎い私でも分かるほどに。
それはきっと意図しているのではなく自然と溢れてしまっているようなもので…。
それがこの上なく嬉しく心地好い…。
そうして結局、こういう隙だらけなところも私がずっと気をつけていればいいかなんて…彼女のすべてを受け入れてしまうのだ。
これが惚れた弱みというやつなのだろうか。
いやいや、しかしちゃんと教えるべきことは教えておかなくては。
嬉しそうに微笑むたまみにため息をつき、私はためらいがちに彼女の頬に手を当てた。
冷たく冷えた頬。
私の熱が彼女に移るようじっと止まった。
「きみはこんなに可愛いから…もう少し男というものに警戒心を持った方がいい。」
「そんなこと言ってくれるのは土井先生だけです。」
「今までにも色んな目にあってるだろう?」
「…それは……」
「心配なんだ…」
言い聞かせるように言うと、たまみも分かってくれたのか頷いて目を伏せた。
「わかりました、気をつけます…。」
ちょっと言い過ぎただろうか。
心配性だと…束縛し過ぎだと思われただろうか。
しかしたまみは、そっと私の胸に身を寄せて「じゃあ土井センセーも女の子と話さないでくださいね」と小さく言った。
「ん?話してないだろう?」
「くのいち教室の子達と時々話してるじゃないですか。」
「仕事上必要なことだけだと思うけど…」
「仕事ででもイヤです。」
「いや…しかしそれは…。」
おや。
いつの間にか逆転してたまみがやきもちをやいている…?
少し拗ねたような口調が可愛いらしい。
要するに、あれだ。
私達は互いにやきもちやきで、互いに相手を束縛したい方だということで…。
「…私にはきみだけだよ。」
誰にも聞こえないよう耳元で囁くと、たまみはぎゅっと手を握って頷いた。
そっと抱きしめてぽんぽんと頭を撫でると、腕の中で猫のようにすりすりしてくる。
ああ、本当に可愛い…。
無意識に口づけた髪は、とても冷たくなっていた。
先程まで夕陽に染まっていた外の雪がいつの間にか日没とともに暗くなっている。
「そろそろ出る?」
雰囲気のいい空間で少し名残惜しいが、風邪をひいてはいけない。
火を消してたまみの手を取り立ち上がろうとすると、上目遣いのたまみにじっと見つめられた。
何かと思って優しく見つめ返すと、彼女はそっと目を閉じて私の手を微かに引いた。
「…………」
…いやいやいや、こんなところで…!
もう家じゃあないんだから…
雪で囲まれてるとはいえ……ここは……!
チュッ
「!」
気づけば、一瞬、しかし確かに、優しく唇を重ねていた。
考えるより先に、己の体が当然のように動いてしまっていた。
「えへへ…すき。」
たまみが嬉しそうに微笑む。
くぅぅ…可愛すぎる……。
このまま抱きしめて離したくない…。
「………さ、行くよ。」
赤くなっているであろう顔をそむけ小さく呟いた。
そのまま再びたまみを横抱きに抱え、雪に濡れないよう廊下まで跳んでゆっくり降ろす。
「ありがとうございます、嬉しかったです。」
鼻と頬を朱に染めて笑む彼女。
それは、かまくらの中に入ることが出来て嬉しかったのか、私と触れ合えて嬉しかったのか…いや、きっと両方だな。
「私もかまくらがこんなにいいものだとは知らなかった。…たまみとなら何をしても楽しいな。」
つい正直な気持ちを呟いてしまった。
嬉しそうに微笑む彼女の背中をそっと押す。
そうして心持ちゆっくりした歩調で部屋まで送り届けた。
橙色の夕陽が雪をキラキラと輝かせている。
職員室に戻ろうと歩いていると、たまみが廊下で立ち止まっていた。
昼間五年生が作っていた大きなかまくらを遠くから眺めているようだ。
「どうしたんだい?」
「!…はん…土井先生。」
声をかけるとたまみは驚いたのか肩をびくりとさせて振り向いた。
咄嗟に私の名前を呼びかけて言い直す。
「あの中はどうなってるのかなって見てたんです。」
「ああ、兵助達が昼間作ってたかまくらだね。」
「はい。」
興味津々といった表情で頷くたまみ。
雪に反射した夕陽のせいか、その瞳は子どものようにキラキラと輝いてみえた。
「…入ってみる?」
「え?」
自然と言葉が口をついて出た。
本来なら学園の敷地内で…生徒からも見えるこのような場所で…二人の仲がバレてしまいそうなことはすべきでないのだが…。
そんな顔をされたら、見せてあげたくなるじゃないか。
私は返事を待たずして彼女の背と膝に手を伸ばした。
おもむろに横抱きに抱えると、予想外だったのかたまみが驚いて首にしがみついてきた。
こんなところを誰かに見られたら…。
一瞬そんな考えが頭をよぎったが、それよりもたまみを喜ばせたくて、私はそのままかまくらの入り口まで跳躍した。
たまみが雪で濡れぬよう、そのままゆっくりとかまくらの前に降ろす。
「ほら、入ってごらん。」
「……わぁ……」
たまみが感嘆の声をもらす。
狭い入り口をくぐると、そこは風も音もなくとても静かな空間だった。
踏み固めた雪の上にゴザを敷き、その上に長方形のスノコを置いて椅子がわりにしている。
中央に丸い七輪を置き、それを囲むようにスノコが三つ。
六人位は過ごすことが出来そうな造りだ。
たまみは雪の壁を物珍しそうに触っている。
キョロキョロ見回し観察している姿がまるで子どもみたいだ。
……可愛いな…もっと喜ばせてみたい…。
私は火打ち石を取り出して七輪に火をおこしてみた。
…ぱち……
静かな空間に炭のはぜる音が小さく響く。
ゆらゆらと揺れる小さな火がたまみの顔を優しく照らす。
「…素敵……」
たまみがうっとりと呟いた。
とても静かで、まるで二人だけの空間のように感じた。
ここが忍術学園の敷地内であることを忘れそうになる。
外から見えにくい位置に腰かけると、たまみも私の隣にぴたりと寄り添ってきた。
「寒くない?」
彼女の手をとると、その指先は冷たくなっていた。
ぎゅっと手の中に包み込み温める。
たまみは嬉しそうに微笑んだ。
「土井先生の手、あったかい。」
そのまま私の腕にすり寄るたまみ。
甘えた猫のような仕草に、知らず口元がゆるんでいた。
「ここで温かいものを食べたら楽しそうですね。」
「そうだね、兵助のことだから湯豆腐とかしようと思って七輪を置いたんじゃないかな。」
「お豆腐パーティー、いいですね。」
想像して楽しげに微笑むたまみ。
ふと、五年生とともに鍋を囲む彼女を思い浮かべてしまった。
空想の中の楽しそうな彼女。
チクリと胸が痛んだ。
「……一応言っておくけど…」
「?」
「……誘われても参加しないように。」
「何でですか?」
「………教えたはずだ。」
まだ分からないかな…と半ば呆れるようにじと目でたまみを見やる。
不思議そうにする彼女も私のその視線にやっと意味を理解したようで「あ」と小さく言った。
「もしかして、やきもちですか?」
……いや、まぁそうといえばそうなんだけど…。
正面きってそう言われると…。
しかし私の気持ちなどお構いなしに嬉しそうに私の言葉を期待するたまみ。
私はその小さな手を握る力をぐっと強め、憮然と答えた。
「こんな狭いところで男に囲まれて座るとか…たまみはやっぱりその辺の意識が甘すぎる……」
「ふふふ、子どもにもやきもちやいて大変ですね?」
「子どもといっても五年生だぞ…」
「私は土井先生しか見てないですよ?」
「………そういう問題じゃなくて…」
ムッとしながらも頬に熱が集まるのを感じた。
…これだ。
この、真っ直ぐでためらいのない愛情。
たまみは言葉でも、態度や仕草でも、目線でも…常に私を想っていることを全身で示してくれる。
色恋に疎い私でも分かるほどに。
それはきっと意図しているのではなく自然と溢れてしまっているようなもので…。
それがこの上なく嬉しく心地好い…。
そうして結局、こういう隙だらけなところも私がずっと気をつけていればいいかなんて…彼女のすべてを受け入れてしまうのだ。
これが惚れた弱みというやつなのだろうか。
いやいや、しかしちゃんと教えるべきことは教えておかなくては。
嬉しそうに微笑むたまみにため息をつき、私はためらいがちに彼女の頬に手を当てた。
冷たく冷えた頬。
私の熱が彼女に移るようじっと止まった。
「きみはこんなに可愛いから…もう少し男というものに警戒心を持った方がいい。」
「そんなこと言ってくれるのは土井先生だけです。」
「今までにも色んな目にあってるだろう?」
「…それは……」
「心配なんだ…」
言い聞かせるように言うと、たまみも分かってくれたのか頷いて目を伏せた。
「わかりました、気をつけます…。」
ちょっと言い過ぎただろうか。
心配性だと…束縛し過ぎだと思われただろうか。
しかしたまみは、そっと私の胸に身を寄せて「じゃあ土井センセーも女の子と話さないでくださいね」と小さく言った。
「ん?話してないだろう?」
「くのいち教室の子達と時々話してるじゃないですか。」
「仕事上必要なことだけだと思うけど…」
「仕事ででもイヤです。」
「いや…しかしそれは…。」
おや。
いつの間にか逆転してたまみがやきもちをやいている…?
少し拗ねたような口調が可愛いらしい。
要するに、あれだ。
私達は互いにやきもちやきで、互いに相手を束縛したい方だということで…。
「…私にはきみだけだよ。」
誰にも聞こえないよう耳元で囁くと、たまみはぎゅっと手を握って頷いた。
そっと抱きしめてぽんぽんと頭を撫でると、腕の中で猫のようにすりすりしてくる。
ああ、本当に可愛い…。
無意識に口づけた髪は、とても冷たくなっていた。
先程まで夕陽に染まっていた外の雪がいつの間にか日没とともに暗くなっている。
「そろそろ出る?」
雰囲気のいい空間で少し名残惜しいが、風邪をひいてはいけない。
火を消してたまみの手を取り立ち上がろうとすると、上目遣いのたまみにじっと見つめられた。
何かと思って優しく見つめ返すと、彼女はそっと目を閉じて私の手を微かに引いた。
「…………」
…いやいやいや、こんなところで…!
もう家じゃあないんだから…
雪で囲まれてるとはいえ……ここは……!
チュッ
「!」
気づけば、一瞬、しかし確かに、優しく唇を重ねていた。
考えるより先に、己の体が当然のように動いてしまっていた。
「えへへ…すき。」
たまみが嬉しそうに微笑む。
くぅぅ…可愛すぎる……。
このまま抱きしめて離したくない…。
「………さ、行くよ。」
赤くなっているであろう顔をそむけ小さく呟いた。
そのまま再びたまみを横抱きに抱え、雪に濡れないよう廊下まで跳んでゆっくり降ろす。
「ありがとうございます、嬉しかったです。」
鼻と頬を朱に染めて笑む彼女。
それは、かまくらの中に入ることが出来て嬉しかったのか、私と触れ合えて嬉しかったのか…いや、きっと両方だな。
「私もかまくらがこんなにいいものだとは知らなかった。…たまみとなら何をしても楽しいな。」
つい正直な気持ちを呟いてしまった。
嬉しそうに微笑む彼女の背中をそっと押す。
そうして心持ちゆっくりした歩調で部屋まで送り届けた。