第102話 分かってはいても
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「それで、山田先生と利吉くんが一緒にお風呂に入ってたんですね。」
利吉くんから熊が出たとの報告を受けて他にもいないか一通り確認したあと忍術学園に戻ると、山田先生と利吉くんが一緒にお風呂から出てきたので驚いた。
久しぶりの山田先生の姿にとてつもない安堵感を抱いたのは、無事に忍務から戻られたということだけではなく利吉くんのせいだとも思う。
「で、傷の具合はどうなんだい?」
「大したことありません。」
包帯を隠すように半手甲をつけている腕。
本当に軽い怪我なのか山田先生に目で確認すると、山田先生は「うむ」と頷いてお茶を飲んだ。
「それにしても、わしが帰るのがもう少し遅ければ…」
「父上、余計なことは。」
何かを隠している利吉くん。
微妙な表情でお茶を飲む山田先生。
「いいか、今後このようなことは…」
「だから分かりましたって!」
何のことだろう。
なぜか嫌な感じがするな…。
「失礼します、甘酒お持ちしました。」
ガラリと障子があいて、お盆に昼間約束した甘酒を乗せたたまみがやって来た。
「甘酒?」
山田先生が不思議そうな顔をしたのでたまみが昼間の白菜のことを説明した。
「山田先生も一緒にどうぞ。学園長先生がイチオシのお店から仕入れたものなんですよ。」
「そうか、いいタイミングで戻ってきたようだ。」
「ふふふ、さっき脱衣所に来られたときもビックリしましたけど、山田先生はいつも絶妙なタイミングですよね。」
ん?
脱衣所?
なぜ男湯の脱衣所にたまみが。
「では失礼します。今夜は生徒が職員室に寝に来ないよう伝えておきますね。」
ぺこりと会釈して出ていくたまみ。
それをじっと見つめる利吉くん。
…まさか!
先程の利吉くんの話と雰囲気から、瞬時に一つの疑惑が浮かび上がった。
「…利吉くん、まさか、たまみに洗ってもらおうとしてたんじゃ…」
じろりと睨むと、利吉くんは苦笑しながら頭をかいた。
「ええ、なりゆきでたまみさんが手伝ってくれるということになりまして…」
「なりゆき!?たまみの優しさにつけこんで言葉巧みに誘導したんじゃないのか。男湯に連れ込むなんて…!!」
「そんなつもりは。…だいたい土井先生もたまみさんと夜中にお風呂に入ってたと生徒達が話してましたが。」
「なっ…!?」
「私の場合は片腕で洗うのが大変だから入浴補助をお願いしただけで…しかも未遂ですけど、土井先生は不埒な現場を生徒に見られたのだとか…。」
「いや、そ、それは…偶然いろいろアクシデントが重なってだな…。」
利吉くんを問い詰めるはずなのに私の方があたふたしていると、山田先生がドンと湯呑みを下に起きわなわなと呟いた。
「お前達…ここをどこだと思って…!」
ハッ!
怒らせてはまずい!!
雷が落ちる予感がして、あわててその場を取り繕った。
「利吉くん、と、とにかく久しぶりに山田先生に背中を流してもらえてよかったじゃないか。」
「そ、そうですね。あ、そうだ父上、母上から預かっている手紙です。」
何とかその場をごまかし、暫く穏やかな会話が続いた。
しかし案の定、職員室で三人甘酒を飲みながら座って話していると早々に親子喧嘩がまた勃発してしまい…。
「だーかーら!こういう書類はこうした方が効率的なんです!」
「ええいうるさいっ!父の仕事に口を出すんじゃない!」
「少しでも工夫して家に帰る時間を作ろうとは思わないのですか!?」
睨み合う二人から距離をとり、さりげなく障子に手をかけた。
「あの~、私はどこか空いている部屋で寝ますので。どうぞ今夜はお二人でゆっくり話し合って…」
「土井先生も父上に言ってやってください!」
「半助、お前はどちらの味方なんだ!?」
「ど、どちらと言われましても…!」
親子喧嘩に巻き込まれるのは勘弁してもらいたい。
ひき止めようとする二人を振りきって半ば強引に職員室を出て障子を閉めた。
「ふぅ……」
「土井先生?」
隣の障子が開いて、たまみがちょこっと顔を出した。
にこりと手招きする彼女につられ、誰にも見られていないことを確認してから中に入る。
「大きな声でこっちまで聞こえてましたよ。今日はここで寝ますか?」
「いや、でも隣に利吉くんもいるしバレたら…。」
「大きな声で話さなければ分からないんじゃないですか。」
「…そ、そう…かな。」
ここに居ることが知られるとまたややこしいことに…という理性と、たまみと一緒に居たいという気持ちの間で揺れたが…、結局は促されるままに座った。
「利吉さんが来ている間、こうして毎晩来てくれることもなくて寂しかったです…。」
「たまみ…」
私の横に座り腕に身を寄せ甘えてくるたまみ。
「すまない、普段は毎晩ここに来てるとか…利吉くんに知られたらあれかなって…。」
隣から山田先生達の声が聞こえてくる。
私はたまみの肩に手を置きそのつぶらな瞳をじっと見据えた。
「それはそうと、利吉くんとお風呂に入ろうとしたって本当かい?」
たまみは驚いて私を見たあと、気まずそうに姿勢を正した。
「実は、利吉さんが…」
「怪我をしてるから手伝ってくれって?」
「あ…怪我のこと聞かれました?片腕で洗うのは大変そうだから誰か呼ぼうと思ったんですけど、庇った生徒が気にやむといけないから他言してほしくないって言われて…。土井先生にお願いしようにもまだ戻ってなくて…」
「だからといって、男と二人で風呂になんか入らないでくれ。」
「すみません……」
しゅんとして俯くたまみ。
そのまま肩を抱き寄せ強く抱きしめた。
「手助けだとしても。善意でも……心配なんだよ…」
「…土井先生…」
「ましてや利吉くんとだなんて…」
「ごめんなさい…」
小さな柔らかい身体をぎゅっと抱きしめて肩に顔を埋めた。
「…ほんと、ここ数日は気が気じゃなかった…」
小さく呟くと、たまみが私の背にそっと腕を回した。
「私は…半助さんだけのものです…」
「…たまみ……」
二人の目線が絡み合い、自然と唇を重ねた。
久しぶりに感じるたまみの感触に胸が高鳴る。
「このまま朝まで一緒なのに何もできないなんて…ある意味拷問だな…。」
ため息と同時に、つい心の声が漏れてしまった。
すると、たまみがぴたりと身体をくっ付けてきた。
まるで私の理性を試すかのように誘うその瞳に、結局私はすぐ敗北を認めてしまったのだった。
利吉くんから熊が出たとの報告を受けて他にもいないか一通り確認したあと忍術学園に戻ると、山田先生と利吉くんが一緒にお風呂から出てきたので驚いた。
久しぶりの山田先生の姿にとてつもない安堵感を抱いたのは、無事に忍務から戻られたということだけではなく利吉くんのせいだとも思う。
「で、傷の具合はどうなんだい?」
「大したことありません。」
包帯を隠すように半手甲をつけている腕。
本当に軽い怪我なのか山田先生に目で確認すると、山田先生は「うむ」と頷いてお茶を飲んだ。
「それにしても、わしが帰るのがもう少し遅ければ…」
「父上、余計なことは。」
何かを隠している利吉くん。
微妙な表情でお茶を飲む山田先生。
「いいか、今後このようなことは…」
「だから分かりましたって!」
何のことだろう。
なぜか嫌な感じがするな…。
「失礼します、甘酒お持ちしました。」
ガラリと障子があいて、お盆に昼間約束した甘酒を乗せたたまみがやって来た。
「甘酒?」
山田先生が不思議そうな顔をしたのでたまみが昼間の白菜のことを説明した。
「山田先生も一緒にどうぞ。学園長先生がイチオシのお店から仕入れたものなんですよ。」
「そうか、いいタイミングで戻ってきたようだ。」
「ふふふ、さっき脱衣所に来られたときもビックリしましたけど、山田先生はいつも絶妙なタイミングですよね。」
ん?
脱衣所?
なぜ男湯の脱衣所にたまみが。
「では失礼します。今夜は生徒が職員室に寝に来ないよう伝えておきますね。」
ぺこりと会釈して出ていくたまみ。
それをじっと見つめる利吉くん。
…まさか!
先程の利吉くんの話と雰囲気から、瞬時に一つの疑惑が浮かび上がった。
「…利吉くん、まさか、たまみに洗ってもらおうとしてたんじゃ…」
じろりと睨むと、利吉くんは苦笑しながら頭をかいた。
「ええ、なりゆきでたまみさんが手伝ってくれるということになりまして…」
「なりゆき!?たまみの優しさにつけこんで言葉巧みに誘導したんじゃないのか。男湯に連れ込むなんて…!!」
「そんなつもりは。…だいたい土井先生もたまみさんと夜中にお風呂に入ってたと生徒達が話してましたが。」
「なっ…!?」
「私の場合は片腕で洗うのが大変だから入浴補助をお願いしただけで…しかも未遂ですけど、土井先生は不埒な現場を生徒に見られたのだとか…。」
「いや、そ、それは…偶然いろいろアクシデントが重なってだな…。」
利吉くんを問い詰めるはずなのに私の方があたふたしていると、山田先生がドンと湯呑みを下に起きわなわなと呟いた。
「お前達…ここをどこだと思って…!」
ハッ!
怒らせてはまずい!!
雷が落ちる予感がして、あわててその場を取り繕った。
「利吉くん、と、とにかく久しぶりに山田先生に背中を流してもらえてよかったじゃないか。」
「そ、そうですね。あ、そうだ父上、母上から預かっている手紙です。」
何とかその場をごまかし、暫く穏やかな会話が続いた。
しかし案の定、職員室で三人甘酒を飲みながら座って話していると早々に親子喧嘩がまた勃発してしまい…。
「だーかーら!こういう書類はこうした方が効率的なんです!」
「ええいうるさいっ!父の仕事に口を出すんじゃない!」
「少しでも工夫して家に帰る時間を作ろうとは思わないのですか!?」
睨み合う二人から距離をとり、さりげなく障子に手をかけた。
「あの~、私はどこか空いている部屋で寝ますので。どうぞ今夜はお二人でゆっくり話し合って…」
「土井先生も父上に言ってやってください!」
「半助、お前はどちらの味方なんだ!?」
「ど、どちらと言われましても…!」
親子喧嘩に巻き込まれるのは勘弁してもらいたい。
ひき止めようとする二人を振りきって半ば強引に職員室を出て障子を閉めた。
「ふぅ……」
「土井先生?」
隣の障子が開いて、たまみがちょこっと顔を出した。
にこりと手招きする彼女につられ、誰にも見られていないことを確認してから中に入る。
「大きな声でこっちまで聞こえてましたよ。今日はここで寝ますか?」
「いや、でも隣に利吉くんもいるしバレたら…。」
「大きな声で話さなければ分からないんじゃないですか。」
「…そ、そう…かな。」
ここに居ることが知られるとまたややこしいことに…という理性と、たまみと一緒に居たいという気持ちの間で揺れたが…、結局は促されるままに座った。
「利吉さんが来ている間、こうして毎晩来てくれることもなくて寂しかったです…。」
「たまみ…」
私の横に座り腕に身を寄せ甘えてくるたまみ。
「すまない、普段は毎晩ここに来てるとか…利吉くんに知られたらあれかなって…。」
隣から山田先生達の声が聞こえてくる。
私はたまみの肩に手を置きそのつぶらな瞳をじっと見据えた。
「それはそうと、利吉くんとお風呂に入ろうとしたって本当かい?」
たまみは驚いて私を見たあと、気まずそうに姿勢を正した。
「実は、利吉さんが…」
「怪我をしてるから手伝ってくれって?」
「あ…怪我のこと聞かれました?片腕で洗うのは大変そうだから誰か呼ぼうと思ったんですけど、庇った生徒が気にやむといけないから他言してほしくないって言われて…。土井先生にお願いしようにもまだ戻ってなくて…」
「だからといって、男と二人で風呂になんか入らないでくれ。」
「すみません……」
しゅんとして俯くたまみ。
そのまま肩を抱き寄せ強く抱きしめた。
「手助けだとしても。善意でも……心配なんだよ…」
「…土井先生…」
「ましてや利吉くんとだなんて…」
「ごめんなさい…」
小さな柔らかい身体をぎゅっと抱きしめて肩に顔を埋めた。
「…ほんと、ここ数日は気が気じゃなかった…」
小さく呟くと、たまみが私の背にそっと腕を回した。
「私は…半助さんだけのものです…」
「…たまみ……」
二人の目線が絡み合い、自然と唇を重ねた。
久しぶりに感じるたまみの感触に胸が高鳴る。
「このまま朝まで一緒なのに何もできないなんて…ある意味拷問だな…。」
ため息と同時に、つい心の声が漏れてしまった。
すると、たまみがぴたりと身体をくっ付けてきた。
まるで私の理性を試すかのように誘うその瞳に、結局私はすぐ敗北を認めてしまったのだった。