第102話 分かってはいても
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何事も言ってみるものだな。
断られると思って半ば冗談で言ったのに、たまみさんは本当に私の補助をしてくれるようだ。
まったく何て優しい…そして何て危なっかしい人なんだろう。
彼女の良心につけこんで邪な考えを浮かべる自分に呆れると同時に、そんな彼女に危機感を感じた。
「脱げますか?」
なるべく腕を動かさないですむようにと私の傷を気遣うたまみさん。
片手でも問題ないが、お言葉に甘えて上半身の忍装束を脱ぐのを手伝ってもらった。
極力こちらを見ないようにしている彼女が可愛い。
「…あとは自分でできますよね?私はあっち向いてますので…利吉さんが中に入ったら、私も入るので…目を閉じて座っていてください。」
「わかりました、ありがとうございます。」
平然と答えようとして語尾が微かに掠れた。
えっ、目を閉じて待てって…たまみさんも脱ぐつもりなのか!?
ええっ、どこまで!?
まさか全部…!?
いやいやいや、そんな馬鹿な…濡れないように少しまくりあげるだけだろう。
そうだ、変な期待をするもんじゃない…!
動揺する自分を落ち着かせようと深呼吸した。
たまみさんは壁の方を向いてじっとしている。
傷の痛みなど忘れてしまうほどの動揺に焦りながらも、濡れた衣服を手早く脱ぎ捨て腰に手ぬぐいを巻いて洗い場に入った。
「…………」
言われた通りに椅子に座り目を閉じる。
…お、落ち着け。
落ち着くんだ、彼女は善意でしてくれているだけなのだから…!
そう言い聞かせてみるもののソワソワしてしまった。
さっき生徒達が話していた会話が思い出される。
手ぬぐいがないから手で直接洗ってくれたって…。
はっ!
私の手ぬぐいも今は腰に巻いているから、洗うなら直接手で…!?
あらぬ妄想をしてしまいそうになりブンブンと首を振った。
待っている時間を随分長く感じてしまい、私は待ちきれず片手で湯を桶に汲んで頭からかぶった。
片腕が濡れないようにするのは確かにやりにくいと思ったとき。
がらり。
「!」
戸が開く音。
ヒタヒタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
目を閉じているので足音がより大きく感じる。
「………」
「………」
彼女は無言のまま私の背中まで歩いてきた。
そしてそのままゆっくり私の手から桶を取った。
お湯をかけてくれるのかなと身構えて俯く。
「……?」
たまみさんはじっと動かずに止まっていた。
どうしたのかと尋ねようとしたとき、腕に指が触れる感触がした。
包帯を外そうとしている?!
私にとっては大したことない傷でも、彼女の目にどう映るのかは分からない。
止めなくては…!
「たまみさん、それはそのまま…!」
つい目を開けて振り返った瞬間。
「!!!!????」
目の前に見えたのは。
「…ち、…父上!?」
そこに立っていたのは、腰に手ぬぐいを巻いて仁王立ちしている父上だった。
「利吉、いま戻ったぞ。」
「は…い、お疲れ様でした…って、そうじゃなくて!!」
バッと脱衣所に目を向けると、たまみさんの声が戸の向こう側から聞こえてきた。
「利吉さん、すみません!入ろうとしたら山田先生がちょうど来て、なぜ男湯にいるのかと詰問されて全部話してしまいましたー!!」
な、なんだってー!?
「そういうことだ。補助がいるなら私がしてやろう。まずは怪我を見せなさい。」
「利吉さん!では私は戻るので、親子水入らずゆっくりお風呂楽しんでくださいねー!!」
たまみさんの足音が遠のいていく。
そうして後に残ったのは唖然とする私と無表情の父上。
「利吉、わしの留守の間すまなかったな。熊から生徒を庇ったと聞いたが、傷を見せなさい。」
真剣な目で包帯を取り傷を確認する父上。
その目がフッと緩んだ。
「深い傷ではないな。後で処置してやろう。」
「これくらい自分で…」
「生徒の為によくやってくれた。」
顔を背けた父上の表情は分からなかった。
たった一言。
しかしその声音は久しく聞いたことがないほど優しく…その広い背には懐かしさを覚えた。
私はそのまま無言で俯き、子どもの頃に戻ったように父上に髪を洗ってもらうのを静かに受け入れた…。
断られると思って半ば冗談で言ったのに、たまみさんは本当に私の補助をしてくれるようだ。
まったく何て優しい…そして何て危なっかしい人なんだろう。
彼女の良心につけこんで邪な考えを浮かべる自分に呆れると同時に、そんな彼女に危機感を感じた。
「脱げますか?」
なるべく腕を動かさないですむようにと私の傷を気遣うたまみさん。
片手でも問題ないが、お言葉に甘えて上半身の忍装束を脱ぐのを手伝ってもらった。
極力こちらを見ないようにしている彼女が可愛い。
「…あとは自分でできますよね?私はあっち向いてますので…利吉さんが中に入ったら、私も入るので…目を閉じて座っていてください。」
「わかりました、ありがとうございます。」
平然と答えようとして語尾が微かに掠れた。
えっ、目を閉じて待てって…たまみさんも脱ぐつもりなのか!?
ええっ、どこまで!?
まさか全部…!?
いやいやいや、そんな馬鹿な…濡れないように少しまくりあげるだけだろう。
そうだ、変な期待をするもんじゃない…!
動揺する自分を落ち着かせようと深呼吸した。
たまみさんは壁の方を向いてじっとしている。
傷の痛みなど忘れてしまうほどの動揺に焦りながらも、濡れた衣服を手早く脱ぎ捨て腰に手ぬぐいを巻いて洗い場に入った。
「…………」
言われた通りに椅子に座り目を閉じる。
…お、落ち着け。
落ち着くんだ、彼女は善意でしてくれているだけなのだから…!
そう言い聞かせてみるもののソワソワしてしまった。
さっき生徒達が話していた会話が思い出される。
手ぬぐいがないから手で直接洗ってくれたって…。
はっ!
私の手ぬぐいも今は腰に巻いているから、洗うなら直接手で…!?
あらぬ妄想をしてしまいそうになりブンブンと首を振った。
待っている時間を随分長く感じてしまい、私は待ちきれず片手で湯を桶に汲んで頭からかぶった。
片腕が濡れないようにするのは確かにやりにくいと思ったとき。
がらり。
「!」
戸が開く音。
ヒタヒタとこちらに向かってくる足音が聞こえた。
目を閉じているので足音がより大きく感じる。
「………」
「………」
彼女は無言のまま私の背中まで歩いてきた。
そしてそのままゆっくり私の手から桶を取った。
お湯をかけてくれるのかなと身構えて俯く。
「……?」
たまみさんはじっと動かずに止まっていた。
どうしたのかと尋ねようとしたとき、腕に指が触れる感触がした。
包帯を外そうとしている?!
私にとっては大したことない傷でも、彼女の目にどう映るのかは分からない。
止めなくては…!
「たまみさん、それはそのまま…!」
つい目を開けて振り返った瞬間。
「!!!!????」
目の前に見えたのは。
「…ち、…父上!?」
そこに立っていたのは、腰に手ぬぐいを巻いて仁王立ちしている父上だった。
「利吉、いま戻ったぞ。」
「は…い、お疲れ様でした…って、そうじゃなくて!!」
バッと脱衣所に目を向けると、たまみさんの声が戸の向こう側から聞こえてきた。
「利吉さん、すみません!入ろうとしたら山田先生がちょうど来て、なぜ男湯にいるのかと詰問されて全部話してしまいましたー!!」
な、なんだってー!?
「そういうことだ。補助がいるなら私がしてやろう。まずは怪我を見せなさい。」
「利吉さん!では私は戻るので、親子水入らずゆっくりお風呂楽しんでくださいねー!!」
たまみさんの足音が遠のいていく。
そうして後に残ったのは唖然とする私と無表情の父上。
「利吉、わしの留守の間すまなかったな。熊から生徒を庇ったと聞いたが、傷を見せなさい。」
真剣な目で包帯を取り傷を確認する父上。
その目がフッと緩んだ。
「深い傷ではないな。後で処置してやろう。」
「これくらい自分で…」
「生徒の為によくやってくれた。」
顔を背けた父上の表情は分からなかった。
たった一言。
しかしその声音は久しく聞いたことがないほど優しく…その広い背には懐かしさを覚えた。
私はそのまま無言で俯き、子どもの頃に戻ったように父上に髪を洗ってもらうのを静かに受け入れた…。