第100話 眠れぬ夜は誰のせい
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
父上の黒い忍装束を身にまとう自分。
私と母上を残して向かうその仕事はどんなものなのか。
その生徒達の方が、自分の子である私よりも大事なのか。
幼い頃にそんな感情を抱いていたことを思い出した。
今日は、のんびりすぎるほどマイペースな一年は組のあいつらに腹が立つ場面もあったが、あの明るい笑顔を見ていると眩しくも感じた。
しかしこれは予想以上に忍耐力が試される仕事だ。
土井先生が胃炎になるのも分かる…。
「…あれ?」
ここはどこだ。
気づけば見慣れぬ草原に立っていた。
頭上には赤い月。
「利吉センセ?」
振り向くと、そこには薄い夜着一枚の姿のたまみさんが立っていた。
長い髪が冷たい風にたなびいている。
「たまみさん…?そんな格好で、寒いでしょう。」
「あたためて、くれますか?」
彼女は甘えるように私の衣の裾をつかんだ。
「ねぇ、せんせ?」
彼女の柔らかい指が私の手首を…手の甲を、指をなぞる。
「昼間言ってた…イケナイ気分って、どういうことですか…?」
「……え…」
彼女が私の手をそっと持ち上げ頬ずりした。
柔らかく温かい頬の感触。
彼女はそのまま私の手を引き…
柔らかい唇が、私の指に口づけた。
「!」
上目遣いに私を見る、誘うような眼差し。
私は彼女の腰に手を当ててその場に押し倒した。
「…教えてほしいですか?」
恍惚とした表情で頷くたまみさん。
「利吉先生…教えて…?」
「…では、実技の特別授業です……」
彼女はそっと目を閉じた。
そしてそのまま口づけようと顔を近づけたとき…。
「……くんっ!!りきちくんっ!!こら、起きろっ!!」
ぱちり。
目を覚ますと、何故か腕のなかには土井先生。
「………土井先生、これは一体?」
「こっちの台詞だ!!寝ぼけて私に抱きついて…早く上からどいてくれ!」
気づけば、私は土井先生の上に乗り抱きしめるように腕を回していた。
「えっ?…あ?!す、すみません!?」
無意識とはいえ何ということを…!?
というかさっきのは夢か…!
もう少し見たかった…いや起きなかったらどうなっていたんだこれ!?
慌てて立ち上がろうとした。
そのとき。
カタンッ
物音に振り向くと、職員室の障子が開いて朝日が射し込んだ。
そして、そこには呆然とこちらを見て立ちすくむたまみさん。
「…………えっ?」
彼女はよろめいて壁によりかかった。
当惑した目がみるみるうちに涙を浮かべる。
「……利吉さん…やっぱり土井先生のことを……!」
「へ?」
「私をお酒で眠らせた隙に、土井先生と一晩ずっと…!?」
「ええっ!?」
「まてたまみ、それは誤解…!」
「土井先生の…浮気者……っ!!」
「「えぇぇぇっ!?」」
思わず土井先生と声がはもった。
な、何だって…!?
ハッ!
自分はまだ土井先生の上に覆い被さったままだった。
しかもよく見ると、二人とも寝起きでやや着衣がはだけている。
土井先生が顔面蒼白になり勢いよく私を払い除け、たまみさんの両肩に手を乗せた。
「ち、違う!誤解!誤解だから!」
「だって、いま抱き合って…!」
「違う!これは、利吉くんが寝ぼけて抱きついてきただけだ!」
同意を求めるように土井先生の焦った顔がこちらを向いた。
同時に、疑うような彼女の眼差しが私につきささる。
「………。」
えーと。
これはつまり…。
私が土井先生を襲ったと思われている…??
「ど、土井先生の言う通りです!たまみさんの夢をみていたら間違って抱きついてしまっただけで…」
「利吉くん、きみどんな夢みてるんだ。」
思わず正直に説明したら、今度は土井先生が私に怒りの眼差しを向けてきた。
「え、いえ、その…。べ、べつにどんな夢を見ようと自由でしょう。」
「たまみの夢を見ていいのは私だけだ。」
土井先生が私の胸ぐらを掴んで何か言いかけたとき、たまみさんがその手を振りほどいた。
「私をダシにイチャイチャしないでください!」
ダシ!?
土井先生とともにポカンとしてしまった。
「利吉さん!私の目を見て答えてください!」
「は、はい。」
「土井先生を好きなんですか?」
「………。」
そんなわけないだろおおぉ!!
しかし必死に真剣な目で聞いてくる彼女。
その必死さが、土井先生への気持ちの深さを表しているように感じ…胸が痛んだ。
しかしここは落ち着いて冷静に…、一歩踏み間違えるとこじれてしまいそうな気がした。
「そんなわけないでしょう。私が欲しいのはたまみさんだけだといつも言ってるじゃないですか。」
「そんなこといって、実は土井先生に近づく私が邪魔だからとか…」
「断じて違います。」
こんなに気持ちを伝えているのに何故そんな勘違いがおこるのか。
まぁ今回は寝ぼけた自分も悪いけど…。
通じない想いに苛立ちがつのり、私は彼女に一歩近づいた。
物怖じせず私を真っ直ぐに見つめ返す、まだ濡れた瞳。
私は彼女の頬に残る涙の跡を拭った。
夢で触れた感触のとおり、その頬は柔らかかった。
「私がどれほどたまみさんに焦がれているか…本当に…分からないのですか?」
じっとその目を見据えると、彼女の瞳が微かに揺れた。
「だ…だって…」
「…だって、何ですか?」
「そ、そんな格好で抱き合って寝てたし…」
おっと。
私ははだけた夜着をサッとなおして咳払いした。
「それは寝ぼけてました、すみません。」
「前に土井先生のぬいぐるみに利吉さんの着物の模様ついてたし…」
「ああ…そんなこともありましたね。でも私のものではありませんよ。」
「利吉さん、女装したらすごく美人だし…してなくても格好いいし…」
「たまみさんの方がずっと可愛らしいですよ。」
「そんなことないです!」
「本当です。笑顔も一生懸命なところも全部可愛いらしい。」
「ご、ごまかされませんよ…!」
「本気です。その声も、仕草も……本当、夢にまで出てくるほどに…。」
頬に当てていた手をゆっくり滑らせてその肩を抱こうとしたとき…
ガシッ
不意に土井先生に腕を掴まれた。
あからさまに殺気のこもった目が私を睨みつける。
「人の女を口説くんじゃない。」
「誤解をといてるだけです。土井先生も困るでしょう。」
「…もういいだろ。生徒達も起き出した。」
その言葉に外の気配を探ると、確かにこちらへ向かう足音が聞こえてきた。
「たまみ、とにかく誤解だから。変な心配はしなくていい。」
土井先生は不機嫌そうにそう言うと、たまみさんを職員室の外に押し出し障子を閉めた。
そして結局、その後もバタバタと仕事をして説明する暇もなく、その日は何だかたまみさんの目線を居心地悪く感じて過ごすことになってしまった。
その夜。
書類整理もあらかた終わり、そろそろ寝ようかという頃。
「失礼します。」と声がして障子が開けられた。
廊下には、布団と枕を持ったたまみさん。
夜着姿の彼女はにこりと微笑んだ。
「たまみ?こんな時間にどうしたんだ?」
「今日は私もここで寝ようかと思いまして。」
「「!?」」
私も土井先生もその言葉の意味が分からず言葉につまってしまった。
やがて土井先生が先に我にかえり聞いた。
「いや、ここでって…どういう…」
「土井先生と利吉さんが二人きりで寝るのはやっぱり不安だったので、私がここで監視…もとい土井先生をお守りしたらいいかなって。」
土井先生をお守り?
何から?
……私から?!
いやいやいや、ちょっと待って。
常々、たまみさんはちょっと天然だとは思っていたが、何をどうしたらそんな答えに辿り着く?
いやそれにしても、だからといって男二人の部屋に女性が入ろうとか思いつくか…!?
土井先生を守る以前に自分の身の危険を考えないのか?
瞬時に色んな考えが巡り愕然としてしまったが、私より焦っていたのは土井先生だった。
「まてたまみ、そんなのダメに決まってるだろう…!」
「じゃあ土井先生、私とこっちで寝てくれますか?」
「え」
土井先生が一瞬の間をあけたのち、まんざらでもない表情で頭をかいた。
「うーん、仕方ないな。いや、本来ならそういうのはよくないんだけど…。でもどうしてもというなら…変に疑われてしまうのもあれだし、しょうがない。」
土井先生が言い訳がましく何かゴニョゴニョと言う。
「…と、いうわけで利吉くん。じゃあ私は隣で寝てくるから。これできみもあらぬ疑いは晴れるだろ。一人でゆっくり寝てくれ。」
嬉しさを隠しきれない顔で、「まったくたまみはしょうがないな」とか言いながらイソイソと隣へ行こうとする土井先生。
「………。」
…フッ、そうは問屋がおろしませんよ…!
「そうですか。では学園長先生には、父が不在の間、土井先生はここぞとばかりにたまみさんの部屋で寝泊まりして楽しそうにしていたと報告しておきます。」
「え!?」
「嫌なら土井先生はここで寝るしかありませんね。」
「じゃあ私もここで寝ます!」
たまみさんは案外頑固なところがあるようだ。
私はにこりと笑顔を作って彼女を招き入れることにした。
よくよく考えてみれば、たまみさんがここで共に寝ても私に不都合はない。
「ちょっ、たまみ…!」
止めようとする土井先生を目で制した。
「いいじゃないですか。変に疑われるのも嫌でしょう?それとも私がたまみさんと隣の部屋で眠りましょうか?」
「はぁ!?」
「要するに、私と土井先生が二人で寝ることが嫌なのでしょう。それなら私がたまみさんの部屋で寝ても問題はないのでは」
「問題おおありだ!!」
「何もしないので安心してください。」
「当たり前だ…!って、たまみ!?」
怒る土井先生をよそに、たまみさんは私と土井先生の間に布団を置いてちゃっかり寝床を整えていた。
「ではでは、おやすみなさ~い。」
「はい、おやすみなさい。」
「ちょっ、二人とも…!!?」
これは、一晩中たまみさんの可愛い寝顔を見ていられる…隣で眠れるまたとない機会!
何としてでも逃すわけにはいかない…!
私は心のなかでニヤリとガッツポーズを決めた。
私と母上を残して向かうその仕事はどんなものなのか。
その生徒達の方が、自分の子である私よりも大事なのか。
幼い頃にそんな感情を抱いていたことを思い出した。
今日は、のんびりすぎるほどマイペースな一年は組のあいつらに腹が立つ場面もあったが、あの明るい笑顔を見ていると眩しくも感じた。
しかしこれは予想以上に忍耐力が試される仕事だ。
土井先生が胃炎になるのも分かる…。
「…あれ?」
ここはどこだ。
気づけば見慣れぬ草原に立っていた。
頭上には赤い月。
「利吉センセ?」
振り向くと、そこには薄い夜着一枚の姿のたまみさんが立っていた。
長い髪が冷たい風にたなびいている。
「たまみさん…?そんな格好で、寒いでしょう。」
「あたためて、くれますか?」
彼女は甘えるように私の衣の裾をつかんだ。
「ねぇ、せんせ?」
彼女の柔らかい指が私の手首を…手の甲を、指をなぞる。
「昼間言ってた…イケナイ気分って、どういうことですか…?」
「……え…」
彼女が私の手をそっと持ち上げ頬ずりした。
柔らかく温かい頬の感触。
彼女はそのまま私の手を引き…
柔らかい唇が、私の指に口づけた。
「!」
上目遣いに私を見る、誘うような眼差し。
私は彼女の腰に手を当ててその場に押し倒した。
「…教えてほしいですか?」
恍惚とした表情で頷くたまみさん。
「利吉先生…教えて…?」
「…では、実技の特別授業です……」
彼女はそっと目を閉じた。
そしてそのまま口づけようと顔を近づけたとき…。
「……くんっ!!りきちくんっ!!こら、起きろっ!!」
ぱちり。
目を覚ますと、何故か腕のなかには土井先生。
「………土井先生、これは一体?」
「こっちの台詞だ!!寝ぼけて私に抱きついて…早く上からどいてくれ!」
気づけば、私は土井先生の上に乗り抱きしめるように腕を回していた。
「えっ?…あ?!す、すみません!?」
無意識とはいえ何ということを…!?
というかさっきのは夢か…!
もう少し見たかった…いや起きなかったらどうなっていたんだこれ!?
慌てて立ち上がろうとした。
そのとき。
カタンッ
物音に振り向くと、職員室の障子が開いて朝日が射し込んだ。
そして、そこには呆然とこちらを見て立ちすくむたまみさん。
「…………えっ?」
彼女はよろめいて壁によりかかった。
当惑した目がみるみるうちに涙を浮かべる。
「……利吉さん…やっぱり土井先生のことを……!」
「へ?」
「私をお酒で眠らせた隙に、土井先生と一晩ずっと…!?」
「ええっ!?」
「まてたまみ、それは誤解…!」
「土井先生の…浮気者……っ!!」
「「えぇぇぇっ!?」」
思わず土井先生と声がはもった。
な、何だって…!?
ハッ!
自分はまだ土井先生の上に覆い被さったままだった。
しかもよく見ると、二人とも寝起きでやや着衣がはだけている。
土井先生が顔面蒼白になり勢いよく私を払い除け、たまみさんの両肩に手を乗せた。
「ち、違う!誤解!誤解だから!」
「だって、いま抱き合って…!」
「違う!これは、利吉くんが寝ぼけて抱きついてきただけだ!」
同意を求めるように土井先生の焦った顔がこちらを向いた。
同時に、疑うような彼女の眼差しが私につきささる。
「………。」
えーと。
これはつまり…。
私が土井先生を襲ったと思われている…??
「ど、土井先生の言う通りです!たまみさんの夢をみていたら間違って抱きついてしまっただけで…」
「利吉くん、きみどんな夢みてるんだ。」
思わず正直に説明したら、今度は土井先生が私に怒りの眼差しを向けてきた。
「え、いえ、その…。べ、べつにどんな夢を見ようと自由でしょう。」
「たまみの夢を見ていいのは私だけだ。」
土井先生が私の胸ぐらを掴んで何か言いかけたとき、たまみさんがその手を振りほどいた。
「私をダシにイチャイチャしないでください!」
ダシ!?
土井先生とともにポカンとしてしまった。
「利吉さん!私の目を見て答えてください!」
「は、はい。」
「土井先生を好きなんですか?」
「………。」
そんなわけないだろおおぉ!!
しかし必死に真剣な目で聞いてくる彼女。
その必死さが、土井先生への気持ちの深さを表しているように感じ…胸が痛んだ。
しかしここは落ち着いて冷静に…、一歩踏み間違えるとこじれてしまいそうな気がした。
「そんなわけないでしょう。私が欲しいのはたまみさんだけだといつも言ってるじゃないですか。」
「そんなこといって、実は土井先生に近づく私が邪魔だからとか…」
「断じて違います。」
こんなに気持ちを伝えているのに何故そんな勘違いがおこるのか。
まぁ今回は寝ぼけた自分も悪いけど…。
通じない想いに苛立ちがつのり、私は彼女に一歩近づいた。
物怖じせず私を真っ直ぐに見つめ返す、まだ濡れた瞳。
私は彼女の頬に残る涙の跡を拭った。
夢で触れた感触のとおり、その頬は柔らかかった。
「私がどれほどたまみさんに焦がれているか…本当に…分からないのですか?」
じっとその目を見据えると、彼女の瞳が微かに揺れた。
「だ…だって…」
「…だって、何ですか?」
「そ、そんな格好で抱き合って寝てたし…」
おっと。
私ははだけた夜着をサッとなおして咳払いした。
「それは寝ぼけてました、すみません。」
「前に土井先生のぬいぐるみに利吉さんの着物の模様ついてたし…」
「ああ…そんなこともありましたね。でも私のものではありませんよ。」
「利吉さん、女装したらすごく美人だし…してなくても格好いいし…」
「たまみさんの方がずっと可愛らしいですよ。」
「そんなことないです!」
「本当です。笑顔も一生懸命なところも全部可愛いらしい。」
「ご、ごまかされませんよ…!」
「本気です。その声も、仕草も……本当、夢にまで出てくるほどに…。」
頬に当てていた手をゆっくり滑らせてその肩を抱こうとしたとき…
ガシッ
不意に土井先生に腕を掴まれた。
あからさまに殺気のこもった目が私を睨みつける。
「人の女を口説くんじゃない。」
「誤解をといてるだけです。土井先生も困るでしょう。」
「…もういいだろ。生徒達も起き出した。」
その言葉に外の気配を探ると、確かにこちらへ向かう足音が聞こえてきた。
「たまみ、とにかく誤解だから。変な心配はしなくていい。」
土井先生は不機嫌そうにそう言うと、たまみさんを職員室の外に押し出し障子を閉めた。
そして結局、その後もバタバタと仕事をして説明する暇もなく、その日は何だかたまみさんの目線を居心地悪く感じて過ごすことになってしまった。
その夜。
書類整理もあらかた終わり、そろそろ寝ようかという頃。
「失礼します。」と声がして障子が開けられた。
廊下には、布団と枕を持ったたまみさん。
夜着姿の彼女はにこりと微笑んだ。
「たまみ?こんな時間にどうしたんだ?」
「今日は私もここで寝ようかと思いまして。」
「「!?」」
私も土井先生もその言葉の意味が分からず言葉につまってしまった。
やがて土井先生が先に我にかえり聞いた。
「いや、ここでって…どういう…」
「土井先生と利吉さんが二人きりで寝るのはやっぱり不安だったので、私がここで監視…もとい土井先生をお守りしたらいいかなって。」
土井先生をお守り?
何から?
……私から?!
いやいやいや、ちょっと待って。
常々、たまみさんはちょっと天然だとは思っていたが、何をどうしたらそんな答えに辿り着く?
いやそれにしても、だからといって男二人の部屋に女性が入ろうとか思いつくか…!?
土井先生を守る以前に自分の身の危険を考えないのか?
瞬時に色んな考えが巡り愕然としてしまったが、私より焦っていたのは土井先生だった。
「まてたまみ、そんなのダメに決まってるだろう…!」
「じゃあ土井先生、私とこっちで寝てくれますか?」
「え」
土井先生が一瞬の間をあけたのち、まんざらでもない表情で頭をかいた。
「うーん、仕方ないな。いや、本来ならそういうのはよくないんだけど…。でもどうしてもというなら…変に疑われてしまうのもあれだし、しょうがない。」
土井先生が言い訳がましく何かゴニョゴニョと言う。
「…と、いうわけで利吉くん。じゃあ私は隣で寝てくるから。これできみもあらぬ疑いは晴れるだろ。一人でゆっくり寝てくれ。」
嬉しさを隠しきれない顔で、「まったくたまみはしょうがないな」とか言いながらイソイソと隣へ行こうとする土井先生。
「………。」
…フッ、そうは問屋がおろしませんよ…!
「そうですか。では学園長先生には、父が不在の間、土井先生はここぞとばかりにたまみさんの部屋で寝泊まりして楽しそうにしていたと報告しておきます。」
「え!?」
「嫌なら土井先生はここで寝るしかありませんね。」
「じゃあ私もここで寝ます!」
たまみさんは案外頑固なところがあるようだ。
私はにこりと笑顔を作って彼女を招き入れることにした。
よくよく考えてみれば、たまみさんがここで共に寝ても私に不都合はない。
「ちょっ、たまみ…!」
止めようとする土井先生を目で制した。
「いいじゃないですか。変に疑われるのも嫌でしょう?それとも私がたまみさんと隣の部屋で眠りましょうか?」
「はぁ!?」
「要するに、私と土井先生が二人で寝ることが嫌なのでしょう。それなら私がたまみさんの部屋で寝ても問題はないのでは」
「問題おおありだ!!」
「何もしないので安心してください。」
「当たり前だ…!って、たまみ!?」
怒る土井先生をよそに、たまみさんは私と土井先生の間に布団を置いてちゃっかり寝床を整えていた。
「ではでは、おやすみなさ~い。」
「はい、おやすみなさい。」
「ちょっ、二人とも…!!?」
これは、一晩中たまみさんの可愛い寝顔を見ていられる…隣で眠れるまたとない機会!
何としてでも逃すわけにはいかない…!
私は心のなかでニヤリとガッツポーズを決めた。