第100話 眠れぬ夜は誰のせい
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まさか山田先生の代わりに利吉さんが来るなんて。
一年は組のみんなもビックリしていた。
土井先生の授業後、私はいつも通り食堂で昼食の配膳を手伝っていた。
時折聞こえてくる話題は利吉さんのことでもちきり。
くノ一教室の子達も食堂できゃーきゃーと浮き足立っている。
確かに黒い忍び装束を着た利吉さんは様になっていてとても格好いい。
女の子達が騒ぐのも無理はないと思う。
きりちゃんが乱太郎くんに似顔絵を描いて売ろうと話していたけど、あれは売れるだろうなぁ。
そういえば、上級生達が利吉さんを追いかけているとも聞いた。
現役売れっ子忍者である利吉さんに勝負を挑もうとしたり話を聞こうと寄ってきたり…利吉さんは業務以外にも色々と手を取られているようだった。
まだ昼食を食べに来ないのはもしかするとそのせいなのかもしれない。
「…すみません、ランチはまだありますか。」
午後の授業が始まる少し前、やっと利吉さんが食堂に来た。
「利吉さん!まだありますけど…大丈夫ですか?」
疲れた様子の利吉さん。
まだ自分の担当授業が始まる前にこんなに疲れているなんて。
「ええ、まあ。みんな元気が有り余っているようですね。」
苦笑いしながらランチを受け取りパクパクと食べていく。
「お疲れ様です。利吉先生、大人気ですねぇ。」
「んぐっ…!」
突然利吉さんが喉を詰まらせゲホゲホと咳き込んだ。
急いでお水を渡して背中をさすった。
「だ、大丈夫ですか?そこまで慌てて食べなくても…!」
「ゲホッゲホッ…いえ、すみません。ちょっと驚いてしまって。」
「驚く?」
利吉さんは一気にお水を飲み干して、赤い顔で目をそらしながら小さく言った。
「その…さっきの、もう一度言ってもらってもいいですか。」
「さっきの?」
「…呼び方、です…。」
ああ、急に先生と呼ばれて驚いたということかな…。
「利吉先生?」
「…っ」
利吉さんが更に頬を赤くして俯いた。
おや、これはこれは…。
先生と呼ばれて照れるなんて可愛らしい。
利吉さんにはいつも色々からかわれているだけに何だかやりかえしたくなってしまった。
「どうしたんですか、セ、ン、セ?」
少し調子にのって上目遣いに見上げてみる。
すると、利吉さんはキッと目を細めて私の顎に手をかけた。
「…あなたにそんな風に言われると、何だかこう…イケナイ気分になってきますね。」
「えっ?!」
どういうことかと驚き固まった瞬間、黒いものが目の前に現れ視界を遮られた。
「利吉くん、もうすぐ授業だ。早く食べなさい。」
黒い笑顔で怒る土井先生が、私と利吉さんの顔の間に出席簿を差し込んでいた。
土井先生はそのまま利吉さんの向かいの席に座った。
「私にもお茶を少しもらえるかな。」
にこりと私に微笑む土井先生。
利吉さんがムッとして土井先生を睨んだ。
「少し話すくらいいいでしょう。度量が狭いんじゃないですか。」
「何とでも言いたまえ。ほら、鐘がなるよ?」
利吉さんは「せっかくたまみさんと食べられる時間が…」等と文句を言っていたけれど、土井先生は全く無視していた。
でも、私には分かる。
本当は、他の生徒がこれ以上利吉さんの食事の邪魔をしないように、土井先生は周りを牽制するために向かいに座ったのだと。
現に、ソワソワして利吉さんを眺めていた子達が諦めてお膳を返して出ていった。
あー、土井先生優しい…!
ほんと素敵すぎるんですけど…!
思わずホウッと頬を染めて熱い溜め息をこぼすと、土井先生と目があった。
「……きみまで、利吉くんの教師姿に…」
「え?」
「…いや、何でもない。」
土井先生はそれ以上なにも言わず、ただ黙って利吉さんが食べ終わるのを待っていた。
何を言いかけたのだろう…?
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
利吉さんが満足そうに手を合わせた。
「さ、行こう。」
土井先生がスッと立ち上がり踵を返した。
時間があまりないこともあるだろうけど、早足で歩いていくその後ろ姿が何だか不機嫌そうに見える。
どうしたのだろう。
「たまみさん、ではまた後程。」
お膳を返しながら、利吉さんが私に微笑んだ。
私も頷いて微笑み返す。
そんな普通のやりとりを、土井先生が不服そうに眺めていたことに、私はそのとき気づいていなかった。
初日の実技の授業では、実戦的な訓練のために裏山へ行くことになっていた。
実戦的な訓練。
その響きにわくわくするみんなを引き連れて、利吉さんと土井先生は学園を出ていった。
最近はすっかり秋めいてきたけれど、今日は陽射しが強く暑かったので、私はまたお水を用意して門の近くでみんなの帰りを待つことにした。
暫くして最初に門をくぐって帰ってきたのは利吉さんだった。
「あ、おかえりなさい。」
驚いてこちらを見る利吉さん。
「…待っていて、くれたのですか。」
「はい、お疲れかなと思ってお水を持ってきました。」
「あ、ありがとうございます…。」
利吉さんがお水を受け取り、私の顔をじっと見た。
「?」
「あ…いえ、その…。」
利吉さんは咳払いして一拍おいてから照れたように言った。
「た…ただいま……です」
「?…はい、おかえりなさい。」
何でそんな顔をするのだろうと見ていると、バテバテのみんなとともに土井先生が帰ってきた。
門をくぐり地面に倒れこむみんなを見て、利吉さんが苦々しく言う。
「父上は甘やかしすぎなんじゃないですか。これくらいでバテるとは…。私がこれくらいの歳にはもっと…。」
「利吉くんと比べられちゃ流石にまいるよ。」
苦笑する土井先生が、おんぶしていたしんべヱくんをゆっくりおろした。
「みんなお疲れ様、はいどうぞ。」
こうなりそうな予感がしていて、あらかじめ用意していたお水を渡す。
みんな地面に座り込んでゴクゴクとそれを飲み干した。
でもその様子から察するに、大木先生のときほどしごかれたわけではないみたい。
利吉さんは辛口な言葉を言いつつもみんなの様子を見ながら加減してくれていたようだ。
「…いいですね。」
ぽそりと利吉さんが呟く。
「帰りを待ってもらえて…おかえりなさいと出迎えてもらうのは。」
利吉さんが嬉しそうにそう言った。
何と返そう…と、思ったとき。
「たまみ。」
土井先生がみんなから回収した竹筒を両手に抱えて割り込んできた。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
ニコリと笑う土井先生を、利吉さんがジト目で睨む。
「大人げないんじゃないですか。」
「何が?ただ『いつも通り』『あいさつしただけ』だよ?」
「…へー、そうですか。」
「さあ、利吉くんは生徒を連れてって。私は食堂に竹筒を返してくるから。」
目でついてくるように促され、私は土井先生の後に続いて食堂に向かった。
竹筒は一人で運ぶには大変だったので助かる。
やがて土井先生が竹筒を食堂の机におろしてくれた。
「ありがとうございま…」
ガタンッ
お礼を言おうとした瞬間。
肩を押されバランスを崩し、食堂の机の上に仰向けに押し倒された。
どうしたのかと見上げた瞬間、唇が重ねられた。
「!?」
驚いて咄嗟に押し返そうとすると、両手を押さえつけられて熱い舌がねじ込まれた。
「んっ…ぅ…っ!?」
口内に侵入され、舌が絡めとられる。
だ、誰か来たら…!
気が気でなくて抵抗しようとするほどに、圧倒的な力で押さえ込まれた。
「…ンっ……」
ぞくぞくした。
無理矢理されることに、理性とは逆に感じてしまっている自分がいた。
やがて、私が抵抗しなくなるとゆっくり唇が離された。
耳元で低い声が響く。
「…あんまり、やきもちをやかせないでくれ……。」
掠れそうな声でそう囁くと、土井先生は私の手を引いて立たせ、くるりと背を向けて歩いていった。
「………え…」
やきもち?
ドキドキする胸を押さえ、私は椅子の上にへたりこんだ。
土井先生の背中が見えなくなっても視線は暫く宙を眺めたまま…。
一年は組のみんなもビックリしていた。
土井先生の授業後、私はいつも通り食堂で昼食の配膳を手伝っていた。
時折聞こえてくる話題は利吉さんのことでもちきり。
くノ一教室の子達も食堂できゃーきゃーと浮き足立っている。
確かに黒い忍び装束を着た利吉さんは様になっていてとても格好いい。
女の子達が騒ぐのも無理はないと思う。
きりちゃんが乱太郎くんに似顔絵を描いて売ろうと話していたけど、あれは売れるだろうなぁ。
そういえば、上級生達が利吉さんを追いかけているとも聞いた。
現役売れっ子忍者である利吉さんに勝負を挑もうとしたり話を聞こうと寄ってきたり…利吉さんは業務以外にも色々と手を取られているようだった。
まだ昼食を食べに来ないのはもしかするとそのせいなのかもしれない。
「…すみません、ランチはまだありますか。」
午後の授業が始まる少し前、やっと利吉さんが食堂に来た。
「利吉さん!まだありますけど…大丈夫ですか?」
疲れた様子の利吉さん。
まだ自分の担当授業が始まる前にこんなに疲れているなんて。
「ええ、まあ。みんな元気が有り余っているようですね。」
苦笑いしながらランチを受け取りパクパクと食べていく。
「お疲れ様です。利吉先生、大人気ですねぇ。」
「んぐっ…!」
突然利吉さんが喉を詰まらせゲホゲホと咳き込んだ。
急いでお水を渡して背中をさすった。
「だ、大丈夫ですか?そこまで慌てて食べなくても…!」
「ゲホッゲホッ…いえ、すみません。ちょっと驚いてしまって。」
「驚く?」
利吉さんは一気にお水を飲み干して、赤い顔で目をそらしながら小さく言った。
「その…さっきの、もう一度言ってもらってもいいですか。」
「さっきの?」
「…呼び方、です…。」
ああ、急に先生と呼ばれて驚いたということかな…。
「利吉先生?」
「…っ」
利吉さんが更に頬を赤くして俯いた。
おや、これはこれは…。
先生と呼ばれて照れるなんて可愛らしい。
利吉さんにはいつも色々からかわれているだけに何だかやりかえしたくなってしまった。
「どうしたんですか、セ、ン、セ?」
少し調子にのって上目遣いに見上げてみる。
すると、利吉さんはキッと目を細めて私の顎に手をかけた。
「…あなたにそんな風に言われると、何だかこう…イケナイ気分になってきますね。」
「えっ?!」
どういうことかと驚き固まった瞬間、黒いものが目の前に現れ視界を遮られた。
「利吉くん、もうすぐ授業だ。早く食べなさい。」
黒い笑顔で怒る土井先生が、私と利吉さんの顔の間に出席簿を差し込んでいた。
土井先生はそのまま利吉さんの向かいの席に座った。
「私にもお茶を少しもらえるかな。」
にこりと私に微笑む土井先生。
利吉さんがムッとして土井先生を睨んだ。
「少し話すくらいいいでしょう。度量が狭いんじゃないですか。」
「何とでも言いたまえ。ほら、鐘がなるよ?」
利吉さんは「せっかくたまみさんと食べられる時間が…」等と文句を言っていたけれど、土井先生は全く無視していた。
でも、私には分かる。
本当は、他の生徒がこれ以上利吉さんの食事の邪魔をしないように、土井先生は周りを牽制するために向かいに座ったのだと。
現に、ソワソワして利吉さんを眺めていた子達が諦めてお膳を返して出ていった。
あー、土井先生優しい…!
ほんと素敵すぎるんですけど…!
思わずホウッと頬を染めて熱い溜め息をこぼすと、土井先生と目があった。
「……きみまで、利吉くんの教師姿に…」
「え?」
「…いや、何でもない。」
土井先生はそれ以上なにも言わず、ただ黙って利吉さんが食べ終わるのを待っていた。
何を言いかけたのだろう…?
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
利吉さんが満足そうに手を合わせた。
「さ、行こう。」
土井先生がスッと立ち上がり踵を返した。
時間があまりないこともあるだろうけど、早足で歩いていくその後ろ姿が何だか不機嫌そうに見える。
どうしたのだろう。
「たまみさん、ではまた後程。」
お膳を返しながら、利吉さんが私に微笑んだ。
私も頷いて微笑み返す。
そんな普通のやりとりを、土井先生が不服そうに眺めていたことに、私はそのとき気づいていなかった。
初日の実技の授業では、実戦的な訓練のために裏山へ行くことになっていた。
実戦的な訓練。
その響きにわくわくするみんなを引き連れて、利吉さんと土井先生は学園を出ていった。
最近はすっかり秋めいてきたけれど、今日は陽射しが強く暑かったので、私はまたお水を用意して門の近くでみんなの帰りを待つことにした。
暫くして最初に門をくぐって帰ってきたのは利吉さんだった。
「あ、おかえりなさい。」
驚いてこちらを見る利吉さん。
「…待っていて、くれたのですか。」
「はい、お疲れかなと思ってお水を持ってきました。」
「あ、ありがとうございます…。」
利吉さんがお水を受け取り、私の顔をじっと見た。
「?」
「あ…いえ、その…。」
利吉さんは咳払いして一拍おいてから照れたように言った。
「た…ただいま……です」
「?…はい、おかえりなさい。」
何でそんな顔をするのだろうと見ていると、バテバテのみんなとともに土井先生が帰ってきた。
門をくぐり地面に倒れこむみんなを見て、利吉さんが苦々しく言う。
「父上は甘やかしすぎなんじゃないですか。これくらいでバテるとは…。私がこれくらいの歳にはもっと…。」
「利吉くんと比べられちゃ流石にまいるよ。」
苦笑する土井先生が、おんぶしていたしんべヱくんをゆっくりおろした。
「みんなお疲れ様、はいどうぞ。」
こうなりそうな予感がしていて、あらかじめ用意していたお水を渡す。
みんな地面に座り込んでゴクゴクとそれを飲み干した。
でもその様子から察するに、大木先生のときほどしごかれたわけではないみたい。
利吉さんは辛口な言葉を言いつつもみんなの様子を見ながら加減してくれていたようだ。
「…いいですね。」
ぽそりと利吉さんが呟く。
「帰りを待ってもらえて…おかえりなさいと出迎えてもらうのは。」
利吉さんが嬉しそうにそう言った。
何と返そう…と、思ったとき。
「たまみ。」
土井先生がみんなから回収した竹筒を両手に抱えて割り込んできた。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
ニコリと笑う土井先生を、利吉さんがジト目で睨む。
「大人げないんじゃないですか。」
「何が?ただ『いつも通り』『あいさつしただけ』だよ?」
「…へー、そうですか。」
「さあ、利吉くんは生徒を連れてって。私は食堂に竹筒を返してくるから。」
目でついてくるように促され、私は土井先生の後に続いて食堂に向かった。
竹筒は一人で運ぶには大変だったので助かる。
やがて土井先生が竹筒を食堂の机におろしてくれた。
「ありがとうございま…」
ガタンッ
お礼を言おうとした瞬間。
肩を押されバランスを崩し、食堂の机の上に仰向けに押し倒された。
どうしたのかと見上げた瞬間、唇が重ねられた。
「!?」
驚いて咄嗟に押し返そうとすると、両手を押さえつけられて熱い舌がねじ込まれた。
「んっ…ぅ…っ!?」
口内に侵入され、舌が絡めとられる。
だ、誰か来たら…!
気が気でなくて抵抗しようとするほどに、圧倒的な力で押さえ込まれた。
「…ンっ……」
ぞくぞくした。
無理矢理されることに、理性とは逆に感じてしまっている自分がいた。
やがて、私が抵抗しなくなるとゆっくり唇が離された。
耳元で低い声が響く。
「…あんまり、やきもちをやかせないでくれ……。」
掠れそうな声でそう囁くと、土井先生は私の手を引いて立たせ、くるりと背を向けて歩いていった。
「………え…」
やきもち?
ドキドキする胸を押さえ、私は椅子の上にへたりこんだ。
土井先生の背中が見えなくなっても視線は暫く宙を眺めたまま…。