第97話 あやしい巻物
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数刻前。
廊下を歩いていると、きり丸が大量の巻物を運んでいた。
前が見えずよろよろと足を動かしている。
「きり丸、大丈夫か?」
「土井先生!」
「図書委員会の仕事か?随分重たそうだな…。」
「そうなんです。これを図書室に戻すようにって先輩に頼まれて。」
「一度にそんなに運ばず少しずつ持てばどうだ。」
「いえ、もうすぐバイトの約束をしているので、早く終わらせなくちゃ。」
「うーん、しょうがないな。少し持ってやるから貸しなさい。」
半分ほど持ち、一緒に図書室に向かう。
すると途中、遠くから小松田君に呼ばれた。
「土井先生、今日の職員会議のプリントですがちょっと修正がありまして。さっきの回収させて貰えますか?」
「ああ、それなら職員室に…。きり丸、先に行っててくれ。職員室に寄ってから行くよ。」
私は巻物を持ったまま職員室に立ち寄り、プリントを小松田君に渡した後、再び巻物を持って図書室に運んだ。
「…あれ、さっき落としたのかな。」
職員室に戻ると、机の上に巻物が一巻だけ残っていた。
図書室に持っていこうとそれを手に取ったとき、何故こんなに沢山の巻物を運んでいるのだろうかと気になった。
以前、学園長の思いつきで全校生徒に暗号解読の課題が与えられたとき図書委員会では事前に暗号解読の勉強会をしていたと言っていたな。
今回もまた何かそういう前触れでは…。
私は机の前に座り巻物を読もうとした。
その瞬間、ふと先程までマルつけしていた宿題が目に入り、その出来の悪さにため息をつきながら巻物をほどく。
そして、その巻物に目をうつそうとしたとき…。
「土井先生、学園長先生がお呼びですよ。」
たまみの声がして私は後ろを振り返った。
学園長?
やはりまた何か思いついたのか?
私はため息をつきながら巻物をそのまま巻き直し机に置いた。
「まったく、忙しいのにまた迷惑な思いつきじゃないだろうなぁ。」
思わず呟くと、たまみが労うように私の腕に触れた。
「何か手伝いましょうか?」
私を手伝おうとしてくれる彼女が愛しくてたまらない。
自然と顔が綻んだ。
「そうだな…じゃあ算数の宿題のマルつけをお願いしようかな。ここに置いてあるから続きを頼むよ。」
「わかりました!」
可愛い笑顔。
職員室であるにもかかわらず抱きしめてしまいたくなる。
私はぐっと抑えて彼女の頭を撫で、部屋を後にした。
結局、学園長の呼び出しは大した用事ではなかった。
突然の思いつきでもなく一安心したのも束の間。
職員室に戻るとどうやら利吉くんが来ているようで中から声がした。
「変態教師なんてやめて私にしませんか?」
変態教師?
伝子さんか?
…いや、私のことを話している!?
「誰が変態教師だって!?」
ガラリと障子を開けると、利吉くんが私を見てニヤリと笑った。
「噂をすれば、ですね。」
噂?
ふとたまみを見ると頭巾を外している。
そして、利吉くんの手には彼女の頭巾が握られていて…。
あれほどたまみに手を出すなと言っているのに、頭巾を外して何をするつもりだったんだ…!
「利吉くん、その手に持ってるのは何だ。」
怒気を含んで訊ねると、利吉くんは動揺することもなくたまみに頭巾を返し、私に近寄った。
目が合うと、利吉くんがニヤリと口角をあげた。
この笑い方は…。
私は彼が幼い頃から知っている。
これは、悪巧みをしているときの笑い方だ。
嫌な予感がする。
すると、すれ違い様に巻物を手渡された。
「?…何だいこれは?」
「土井先生、こういうものはきちんと隠しておかないと。」
利吉くんが小声で囁いた。
こういうもの?
何の巻物かと訝しむと、利吉くんは私の様子を見て更に楽しそうにニヤリと笑った。
「…では、私はこれで。」
静かに去る彼に何となく不安になりながら巻物を見ると、たまみがスッと障子を閉めた。
「土井先生、…私では物足りないですか?」
「へ?」
たまみが不機嫌そうに私を見上げた。
なんだ、話がよめない。
「どうしたんだ急に?」
「だって……それ…」
「これ?」
一体これは何なんだ。
しゅるりとほどいて広げてみる。
「!?」
なっ!?
これは…!?
目を疑って固まった。
たまみが私を睨むように見上げた。
「…そんなの見ちゃうくらい、私では不満でしたでしょうか…?」
泣きそうなたまみ。
先程の利吉くんの妙な笑顔と残した言葉。
…まさか。
まさか、これが私のものだと勘違いされている…っ!?!?
「まっ、まてまてまて!!誤解だ!!これは私のものではないっ!!どこにあった!?」
慌てて巻物を閉じて全力で否定した。
「机の上です。」
「机?あっ!これは、さっききり丸が…」
「きりちゃんがこんなの持ってるはずないでしょう。」
「いや、そうじゃなくて…!あいつが図書委員会の仕事で運ぼうとしていたのを手伝って…!」
「図書室にこんなの置いてないと思うんですけど。」
…た、確かに。
何故こんなものが混ざって…!?
背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「そ、そうかもしれないが、私は本当に手伝っただけで…!」
「じゃあ何でその巻物だけここにあるんですか。」
「そ、それは…小松田君に呼ばれて職員室に戻ったとき誤って落としてしまったみたいで…」
「でも座って眺めてましたよね?」
「いや、見てない見てない!!」
「嘘です。私が呼びに来たとき広げてたじゃないですか。」
「…あ。」
「ほら…!!」
「いやいや、広げたとたんたまみに呼ばれたから、中身は全く見ていない!!」
「…ふーん、そうですか。」
「本当だ!信じてくれ!!」
「…いいんです、半助さんも男の人ですし…仕方ないですよね。」
「だ、だから違うと言ってるだろう…!!」
「…嘘をつかれると余計に悲しくなります…。」
「嘘じゃなくて…!!」
たまみがしゅんとしてそっぽを向いてしまった。
これは何というか、冤罪以外の何物でもないのだが無実を証明するのが非常に難しくないだろうか…!!
「たまみ、本当だ。信じてくれ。誓って私は見ていない。」
こうなったら理屈ではない。
私はたまみの目を真っ直ぐに見つめて力説した。
いい大人が昼間から何を言い訳しているのかと我ながら思ったが、変に誤解されるのも嫌だ。
「こんなものを読む時間があるなら、その分さっさと仕事を片付けてたまみの部屋に行くよ。」
「…………。」
「…毎晩きみに会えるのを…どれだけ楽しみに頑張っているか……。」
誰にも聞こえないようにそっと囁くと、たまみが不安げに私を見上げた。
「…………ほんとに…?」
「ああ、本当だ。」
「私では物足りなかったのでは…」
「断じてそんなことはない。」
力強く頷くと、たまみが小さく呟いた。
「すみません…あんまりびっくりして…つい疑っちゃいました…。」
たまみがしゅんとして俯いた。
さっきまでいわれなきことで責められていたわけだが、しょんぼりされると何だか罪悪感が…。
私は人の来る気配がないか確認し、その頭を抱き寄せてよしよしと撫でた。
頭巾が外されたままで、艶やかな髪は撫で心地がいい。
たまみは私の忍装束をぎゅっと掴んで身を寄せてきた。
「…疑ってごめんなさい…。」
「わかってもらえたならいいよ。」
「怒りました…?」
「いや。こんなところに落とした私も悪かった。」
たまみがおずおずと聞いてくるので、私は首を振ってその額に口づけた。
ふぅ…やれやれ。
疑いが晴れてよかった。
これも日頃の行いのおかげか…。
しかし利吉くんめ、他人事だと思って面白がっていたに違いない。
今度会ったら何て言ってやろうか。
そうだ、それにしても…。
「何で頭巾を外してたんだ?」
「あ、それは…巻物を隠そうとして私が咄嗟に…。」
「…へえ。」
何となく状況が想像できて面白くなかった。
私は彼女の髪をするりと手に梳いて口づけた。
「…私以外に触らせるんじゃないぞ。」
「はぁい。」
一年は組の生徒のような気の抜ける返事。
本当に分かっているのだろうか…。
それにしても今回の件…ある意味では彼女の愛情を感じる部分もあった。
紙上の絵にまで焼きもちをやいてくれるなんて可愛いじゃないか。
…まぁ、誤解が解けたから言えることかもしれないが。
私は机の上に巻物を置き一瞥した。
「偶然とはいえ変なものを見せてしまったね…驚かせてすまなかった。」
採点の手伝いを頼まれてまさかそんなものが机上にあるとは思うまい。
たまみはこくんと頷き呟いた。
「何だか、生々しくてびっくりしました。」
「あはは…。」
「…服を着たままの絵が多い気がしたんですけど…男の人はそういうのが好きなんですか?」
「え」
つぶらな瞳でそんなことを真面目に聞いてくる。
純粋すぎるというか真面目というか…いつかのエプロンもそうだったが間違った情報を与えるととんでもないことになりそうな…。
「えー…と。それは個人によるというか…。」
「半助さんは?」
「んん?そ、そうだな…私は……」
真顔でじっと見つめてくるたまみ。
何だか答えるのが気恥ずかしくなってしまった。
「そ、そういう話は…ほら、また、ね」
曖昧に笑ってごまかすと、たまみは「じゃあ一つだけ教えてください」と言った。
「私、ちゃんと半助さんを満足させてあげられてますか?」
「え、だからそれは…むしろ良すぎて困るというか…」
思わず本音が溢れてしまった。
たまみが不思議そうな顔をする。
「困る?」
「あー、うん…」
たまみの目が説明を求めて不安に揺れている。
「…………?」
「…っ」
私は顔を見られないよう彼女をぎゅっと抱きしめ耳元に口を近づけた。
「…きみが欲しくてたまらなくなるということだよ…。」
「!!」
腕の中にすっぽりと納まる小柄なたまみが耳まで赤くなった。
どうしようもなく可愛くて、抱きしめる腕に更に力を込めた。
「そういう意味では…もっと欲しいという意味では、満足とは言えないかな。」
「そ、それは…」
「………たまみ。」
愛しい気持ちを込めて、その滑らかな頬を手でなぞった。
絡み合う視線。
そしてそのまま、柔らかい唇にそっと口づけた。
「…補習が終わればもうすぐ夏休みだ。そしたらまた…思う存分きみを頂くとしよう。」
「…はい。」
頬を染め嬉しそうに頷くたまみが可愛くて愛しくて…。
私は心の底から早く夏休みにならないかなと願った。
廊下を歩いていると、きり丸が大量の巻物を運んでいた。
前が見えずよろよろと足を動かしている。
「きり丸、大丈夫か?」
「土井先生!」
「図書委員会の仕事か?随分重たそうだな…。」
「そうなんです。これを図書室に戻すようにって先輩に頼まれて。」
「一度にそんなに運ばず少しずつ持てばどうだ。」
「いえ、もうすぐバイトの約束をしているので、早く終わらせなくちゃ。」
「うーん、しょうがないな。少し持ってやるから貸しなさい。」
半分ほど持ち、一緒に図書室に向かう。
すると途中、遠くから小松田君に呼ばれた。
「土井先生、今日の職員会議のプリントですがちょっと修正がありまして。さっきの回収させて貰えますか?」
「ああ、それなら職員室に…。きり丸、先に行っててくれ。職員室に寄ってから行くよ。」
私は巻物を持ったまま職員室に立ち寄り、プリントを小松田君に渡した後、再び巻物を持って図書室に運んだ。
「…あれ、さっき落としたのかな。」
職員室に戻ると、机の上に巻物が一巻だけ残っていた。
図書室に持っていこうとそれを手に取ったとき、何故こんなに沢山の巻物を運んでいるのだろうかと気になった。
以前、学園長の思いつきで全校生徒に暗号解読の課題が与えられたとき図書委員会では事前に暗号解読の勉強会をしていたと言っていたな。
今回もまた何かそういう前触れでは…。
私は机の前に座り巻物を読もうとした。
その瞬間、ふと先程までマルつけしていた宿題が目に入り、その出来の悪さにため息をつきながら巻物をほどく。
そして、その巻物に目をうつそうとしたとき…。
「土井先生、学園長先生がお呼びですよ。」
たまみの声がして私は後ろを振り返った。
学園長?
やはりまた何か思いついたのか?
私はため息をつきながら巻物をそのまま巻き直し机に置いた。
「まったく、忙しいのにまた迷惑な思いつきじゃないだろうなぁ。」
思わず呟くと、たまみが労うように私の腕に触れた。
「何か手伝いましょうか?」
私を手伝おうとしてくれる彼女が愛しくてたまらない。
自然と顔が綻んだ。
「そうだな…じゃあ算数の宿題のマルつけをお願いしようかな。ここに置いてあるから続きを頼むよ。」
「わかりました!」
可愛い笑顔。
職員室であるにもかかわらず抱きしめてしまいたくなる。
私はぐっと抑えて彼女の頭を撫で、部屋を後にした。
結局、学園長の呼び出しは大した用事ではなかった。
突然の思いつきでもなく一安心したのも束の間。
職員室に戻るとどうやら利吉くんが来ているようで中から声がした。
「変態教師なんてやめて私にしませんか?」
変態教師?
伝子さんか?
…いや、私のことを話している!?
「誰が変態教師だって!?」
ガラリと障子を開けると、利吉くんが私を見てニヤリと笑った。
「噂をすれば、ですね。」
噂?
ふとたまみを見ると頭巾を外している。
そして、利吉くんの手には彼女の頭巾が握られていて…。
あれほどたまみに手を出すなと言っているのに、頭巾を外して何をするつもりだったんだ…!
「利吉くん、その手に持ってるのは何だ。」
怒気を含んで訊ねると、利吉くんは動揺することもなくたまみに頭巾を返し、私に近寄った。
目が合うと、利吉くんがニヤリと口角をあげた。
この笑い方は…。
私は彼が幼い頃から知っている。
これは、悪巧みをしているときの笑い方だ。
嫌な予感がする。
すると、すれ違い様に巻物を手渡された。
「?…何だいこれは?」
「土井先生、こういうものはきちんと隠しておかないと。」
利吉くんが小声で囁いた。
こういうもの?
何の巻物かと訝しむと、利吉くんは私の様子を見て更に楽しそうにニヤリと笑った。
「…では、私はこれで。」
静かに去る彼に何となく不安になりながら巻物を見ると、たまみがスッと障子を閉めた。
「土井先生、…私では物足りないですか?」
「へ?」
たまみが不機嫌そうに私を見上げた。
なんだ、話がよめない。
「どうしたんだ急に?」
「だって……それ…」
「これ?」
一体これは何なんだ。
しゅるりとほどいて広げてみる。
「!?」
なっ!?
これは…!?
目を疑って固まった。
たまみが私を睨むように見上げた。
「…そんなの見ちゃうくらい、私では不満でしたでしょうか…?」
泣きそうなたまみ。
先程の利吉くんの妙な笑顔と残した言葉。
…まさか。
まさか、これが私のものだと勘違いされている…っ!?!?
「まっ、まてまてまて!!誤解だ!!これは私のものではないっ!!どこにあった!?」
慌てて巻物を閉じて全力で否定した。
「机の上です。」
「机?あっ!これは、さっききり丸が…」
「きりちゃんがこんなの持ってるはずないでしょう。」
「いや、そうじゃなくて…!あいつが図書委員会の仕事で運ぼうとしていたのを手伝って…!」
「図書室にこんなの置いてないと思うんですけど。」
…た、確かに。
何故こんなものが混ざって…!?
背中に冷や汗が伝うのを感じた。
「そ、そうかもしれないが、私は本当に手伝っただけで…!」
「じゃあ何でその巻物だけここにあるんですか。」
「そ、それは…小松田君に呼ばれて職員室に戻ったとき誤って落としてしまったみたいで…」
「でも座って眺めてましたよね?」
「いや、見てない見てない!!」
「嘘です。私が呼びに来たとき広げてたじゃないですか。」
「…あ。」
「ほら…!!」
「いやいや、広げたとたんたまみに呼ばれたから、中身は全く見ていない!!」
「…ふーん、そうですか。」
「本当だ!信じてくれ!!」
「…いいんです、半助さんも男の人ですし…仕方ないですよね。」
「だ、だから違うと言ってるだろう…!!」
「…嘘をつかれると余計に悲しくなります…。」
「嘘じゃなくて…!!」
たまみがしゅんとしてそっぽを向いてしまった。
これは何というか、冤罪以外の何物でもないのだが無実を証明するのが非常に難しくないだろうか…!!
「たまみ、本当だ。信じてくれ。誓って私は見ていない。」
こうなったら理屈ではない。
私はたまみの目を真っ直ぐに見つめて力説した。
いい大人が昼間から何を言い訳しているのかと我ながら思ったが、変に誤解されるのも嫌だ。
「こんなものを読む時間があるなら、その分さっさと仕事を片付けてたまみの部屋に行くよ。」
「…………。」
「…毎晩きみに会えるのを…どれだけ楽しみに頑張っているか……。」
誰にも聞こえないようにそっと囁くと、たまみが不安げに私を見上げた。
「…………ほんとに…?」
「ああ、本当だ。」
「私では物足りなかったのでは…」
「断じてそんなことはない。」
力強く頷くと、たまみが小さく呟いた。
「すみません…あんまりびっくりして…つい疑っちゃいました…。」
たまみがしゅんとして俯いた。
さっきまでいわれなきことで責められていたわけだが、しょんぼりされると何だか罪悪感が…。
私は人の来る気配がないか確認し、その頭を抱き寄せてよしよしと撫でた。
頭巾が外されたままで、艶やかな髪は撫で心地がいい。
たまみは私の忍装束をぎゅっと掴んで身を寄せてきた。
「…疑ってごめんなさい…。」
「わかってもらえたならいいよ。」
「怒りました…?」
「いや。こんなところに落とした私も悪かった。」
たまみがおずおずと聞いてくるので、私は首を振ってその額に口づけた。
ふぅ…やれやれ。
疑いが晴れてよかった。
これも日頃の行いのおかげか…。
しかし利吉くんめ、他人事だと思って面白がっていたに違いない。
今度会ったら何て言ってやろうか。
そうだ、それにしても…。
「何で頭巾を外してたんだ?」
「あ、それは…巻物を隠そうとして私が咄嗟に…。」
「…へえ。」
何となく状況が想像できて面白くなかった。
私は彼女の髪をするりと手に梳いて口づけた。
「…私以外に触らせるんじゃないぞ。」
「はぁい。」
一年は組の生徒のような気の抜ける返事。
本当に分かっているのだろうか…。
それにしても今回の件…ある意味では彼女の愛情を感じる部分もあった。
紙上の絵にまで焼きもちをやいてくれるなんて可愛いじゃないか。
…まぁ、誤解が解けたから言えることかもしれないが。
私は机の上に巻物を置き一瞥した。
「偶然とはいえ変なものを見せてしまったね…驚かせてすまなかった。」
採点の手伝いを頼まれてまさかそんなものが机上にあるとは思うまい。
たまみはこくんと頷き呟いた。
「何だか、生々しくてびっくりしました。」
「あはは…。」
「…服を着たままの絵が多い気がしたんですけど…男の人はそういうのが好きなんですか?」
「え」
つぶらな瞳でそんなことを真面目に聞いてくる。
純粋すぎるというか真面目というか…いつかのエプロンもそうだったが間違った情報を与えるととんでもないことになりそうな…。
「えー…と。それは個人によるというか…。」
「半助さんは?」
「んん?そ、そうだな…私は……」
真顔でじっと見つめてくるたまみ。
何だか答えるのが気恥ずかしくなってしまった。
「そ、そういう話は…ほら、また、ね」
曖昧に笑ってごまかすと、たまみは「じゃあ一つだけ教えてください」と言った。
「私、ちゃんと半助さんを満足させてあげられてますか?」
「え、だからそれは…むしろ良すぎて困るというか…」
思わず本音が溢れてしまった。
たまみが不思議そうな顔をする。
「困る?」
「あー、うん…」
たまみの目が説明を求めて不安に揺れている。
「…………?」
「…っ」
私は顔を見られないよう彼女をぎゅっと抱きしめ耳元に口を近づけた。
「…きみが欲しくてたまらなくなるということだよ…。」
「!!」
腕の中にすっぽりと納まる小柄なたまみが耳まで赤くなった。
どうしようもなく可愛くて、抱きしめる腕に更に力を込めた。
「そういう意味では…もっと欲しいという意味では、満足とは言えないかな。」
「そ、それは…」
「………たまみ。」
愛しい気持ちを込めて、その滑らかな頬を手でなぞった。
絡み合う視線。
そしてそのまま、柔らかい唇にそっと口づけた。
「…補習が終わればもうすぐ夏休みだ。そしたらまた…思う存分きみを頂くとしよう。」
「…はい。」
頬を染め嬉しそうに頷くたまみが可愛くて愛しくて…。
私は心の底から早く夏休みにならないかなと願った。