第97話 あやしい巻物
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仕事の合間をぬって、私はいつも通り父の洗濯済みの服を持って忍術学園に来た。
「失礼します」と声をかけ職員室の障子をあけると、たまみさんが机に向かって座っていた。
「たまみさん?」
声をかけても返事がない。
何かを読んでいるようだ。
たまみさんがそんなに一生懸命に見るなんてどんな本なのだろう…。
興味をひかれ、私は気配を消して近づいた。
「何を熱心に見ているのですか?」
「!!!!!!?????」
彼女の横から手元の巻物を覗き込み、私は目を疑った。
「りっ…!!」
「…………。」
こ、これは。
いわゆる春画…!?
何故彼女がこんなものを…?
瞬時に色んな可能性が頭を巡り、私はどう振る舞うべきか迷った。
「…………。」
「……あ、の!違うんです!これは私のじゃなくて…!!」
真っ赤になって言い訳している。
そんなに動揺するなんて…。
あれか、そうなのか。
見てはいけないところを見てしまったのか。
泣きそうに俯く姿に、私はどうすればたまみさんを傷つけないかを考えた。
「…たまみさん。」
私は彼女をそっと抱きしめた。
「私に言ってくれればいいのに…」
「?…な、何をですか?」
「土井先生が忙しいとかで構ってくれないのでしょう?あなたがこんなものを手にするまで放ったらかしにするなんて…。」
土井先生のせいにすればいい。
たまみさんが恥じ入ることはない。
こんなものに手を出させるような男が悪いのだ。
「…え!?」
「私なら、そんなことさせません。たまみさんが望むなら毎晩でも…」
抱きしめる腕に力を入れた。
彼女が望むならなどと言いつつ、それは私の願望だと自覚しながら。
「ち、ちが…っ!!」
「何なら今すぐにでも…」
私が心底欲しいのは彼女の気持ちだ。
単に彼女を抱きたいわけではない。
しかし、たまみさんがこんなものを手にするほど困っているのなら…。
一人で悶々とした気持ちを抱えているのなら、私がその憂いを無くしたいと思った。
下心がないわけではない。
倫理的にどうかとも思う。
しかし、そんなことすらどうでもいいと思える程に私は彼女を満たしてあげたいと思ったし、自らも飢えている自覚はあって…。
私が本気で口説こうかと覚悟を決めたとき、たまみさんは勢いよく腕を振りほどき捲し立てるように説明した。
「違いますっ!これは土井先生ので…!!」
「え?」
「部屋を開けたら土井先生がこれを見ていて…!土井先生が出たあと偶然中身を確認したらこんなもので…!」
たまみさんはキッと私を見つめて聞いてきた。
「男の人って、みんなこういうの持ってるものなんですかっ!?」
…えーと。
何だか私が問い詰められているような雰囲気だが。
つまりは、土井先生がこれを見ていて…ということか。
何だか肩透かしをくらったような気持ちになると同時に笑えてきた。
あの土井先生が、好きな女性にこんなものを見ているところを見つかるなんて…!
間抜けにも程がある。
「……っ!」
後で問い詰められて焦るであろう土井先生を想像して笑いが堪えきれなかった。
どうせ生徒から没収したとかそんなところだろうが、見ていた現場をおさえられたのでは言い逃れできないだろう。
「あの…利吉さん?」
あ、つい顔に出てしまった。
慌ててその場を取り繕う。
「ああ、いえ、すみません。……たまみさんが、あまりに必死だったので可愛くて…。」
笑った理由はそこではなかったが、感じたことをそのまま口にした。
赤面したまま閉口する彼女が可愛いかった。
そして、私は広げられたままの巻物をくるくると丸めながら考えた。
さて、どうやってこの場を切りぬけようか…。
「持ってませんよ。」
「え?」
「男ならみんな持ってるって、あんなものは隠し持っている男が言い訳にしているだけです。少なくとも私は持っていません。」
土井先生を助けてやるつもりなどさらさらない。
そして、ずっと目をそらしてきた己の欲望。
たまみさんを満たしてあげたい等と偽善者のふりをして想いを遂げようとした浅ましい自分。
思いがけず彼女の前で思い起こされた渇望…。
私はたまみさんの頭巾をゆっくり拾い上げた。
「…私は………」
彼女の頭巾をじっと見つめた。
土井先生とお揃いかのような黒い頭巾。
ただの教師の制服なのに、そんなことをすら感じてしまい胸が痛んだ。
「…あなた以外をそういう目で見たりはしないので…。」
そう言うと私は彼女の頭巾に口づけた。
「…!!」
再び赤面し閉口する彼女が愛しくて、じっとその瞳を見つめた。
こんなにも想っているのに全く振り向く素振りのない愛しい人…。
「…健気だと思いませんか?」
自分でも呆れてしまうほどに。
「健気?」
そう、たまみさん以外にこんなに心動かされることはない。
「こんなにもあなただけを想っているのに…」
予想通り、彼女は困った顔をした。
「そ、それは…」
困らせるのは本意ではない。
しかし、たまには…。
たまには私も、少し本音を言いたくなる。
「少しくらい応えてあげてもいいかなって、思ったりしません?」
優しい彼女につけこんで慈悲をねだるようなことを…。
心の片隅で冷静に自分をみて呆れながら、それでも抑えられないものがあった。
一歩、また距離を詰める。
後退りする彼女の肩が壁に触れた。
いとも容易く追い詰められた彼女は、手を伸ばせばすぐにでも届きそうなもので。
「…たまみさん……」
その柔らかそうな頬に触れ、可愛い声を紡ぐ唇に口づけてしまいたい…。
強引に奪えば、もう少し私のことも考えてくれるだろうか。
そんなことを考え手を伸ばしかけたとき。
「ちょっ、待ってください…!ど、土井先生のえっちな巻物を見つけたってとこから何でそんな話に…!!」
たまみさんが慌てて私の胸を押し返した。
…土井先生の…?
ああ、そうそう、そうだった。
何だか気持ちのままに流されそうになったが、発端はそこだった。
…というか、「土井先生のえっちな巻物」って。
「く、くくく…!ああ、そうでしたね、土井先生のえっちな巻物……ふふ…!」
あの真面目な土井先生にそのフレーズ。
たまみさんもまた真面目に言っただけなのだろうが、笑わずにはいられなかった。
「ですから、昼間に職場でそんなものを見るような変態教師なんてやめて私にしませんか?」
無理矢理、話をまとめにかかってみた。
すると。
「誰が変態教師だって!?」
ガラリと障子の音を立てて土井先生が割って入ってきた。
思わずニヤリと笑ってしまった。
「噂をすれば、ですね。」
「利吉くん、その手に持ってるのは何だ。」
土井先生の不機嫌そうな目線の先には、先程私が口づけたたまみさんの頭巾が握られていた。
私は事も無げに彼女にそれを返すと、踵を返して障子の前に立つ土井先生の手にすれ違い様に巻物を渡した。
「?…何だいこれは?」
「土井先生、こういうものはきちんと隠しておかないと。」
怪訝そうな顔をする土井先生。
何の心当たりもなさそうなその反応、もしやこれが何か分かってないのか。
たまみさんは土井先生がこれを見ていたと言っていたが、本当にそうなのだろうか。
「…では私はこれで。」
この後のことを予想して私はニヤリと笑った。
こみ上げる笑いを隠すこともなく、困惑気味の土井先生を一瞥すると退室する。
困ればいいのだ。
何ならいっそ愛想つかされてしまえばいい。
そんなことにはならないだろうなと思いつつ私はため息をついた。
たまみさんとそんな喧嘩ができることすら羨ましい。
「…あ、洗濯物忘れてた。」
私は大きなため息をつくと、父の居場所を探して歩きだした。
「失礼します」と声をかけ職員室の障子をあけると、たまみさんが机に向かって座っていた。
「たまみさん?」
声をかけても返事がない。
何かを読んでいるようだ。
たまみさんがそんなに一生懸命に見るなんてどんな本なのだろう…。
興味をひかれ、私は気配を消して近づいた。
「何を熱心に見ているのですか?」
「!!!!!!?????」
彼女の横から手元の巻物を覗き込み、私は目を疑った。
「りっ…!!」
「…………。」
こ、これは。
いわゆる春画…!?
何故彼女がこんなものを…?
瞬時に色んな可能性が頭を巡り、私はどう振る舞うべきか迷った。
「…………。」
「……あ、の!違うんです!これは私のじゃなくて…!!」
真っ赤になって言い訳している。
そんなに動揺するなんて…。
あれか、そうなのか。
見てはいけないところを見てしまったのか。
泣きそうに俯く姿に、私はどうすればたまみさんを傷つけないかを考えた。
「…たまみさん。」
私は彼女をそっと抱きしめた。
「私に言ってくれればいいのに…」
「?…な、何をですか?」
「土井先生が忙しいとかで構ってくれないのでしょう?あなたがこんなものを手にするまで放ったらかしにするなんて…。」
土井先生のせいにすればいい。
たまみさんが恥じ入ることはない。
こんなものに手を出させるような男が悪いのだ。
「…え!?」
「私なら、そんなことさせません。たまみさんが望むなら毎晩でも…」
抱きしめる腕に力を入れた。
彼女が望むならなどと言いつつ、それは私の願望だと自覚しながら。
「ち、ちが…っ!!」
「何なら今すぐにでも…」
私が心底欲しいのは彼女の気持ちだ。
単に彼女を抱きたいわけではない。
しかし、たまみさんがこんなものを手にするほど困っているのなら…。
一人で悶々とした気持ちを抱えているのなら、私がその憂いを無くしたいと思った。
下心がないわけではない。
倫理的にどうかとも思う。
しかし、そんなことすらどうでもいいと思える程に私は彼女を満たしてあげたいと思ったし、自らも飢えている自覚はあって…。
私が本気で口説こうかと覚悟を決めたとき、たまみさんは勢いよく腕を振りほどき捲し立てるように説明した。
「違いますっ!これは土井先生ので…!!」
「え?」
「部屋を開けたら土井先生がこれを見ていて…!土井先生が出たあと偶然中身を確認したらこんなもので…!」
たまみさんはキッと私を見つめて聞いてきた。
「男の人って、みんなこういうの持ってるものなんですかっ!?」
…えーと。
何だか私が問い詰められているような雰囲気だが。
つまりは、土井先生がこれを見ていて…ということか。
何だか肩透かしをくらったような気持ちになると同時に笑えてきた。
あの土井先生が、好きな女性にこんなものを見ているところを見つかるなんて…!
間抜けにも程がある。
「……っ!」
後で問い詰められて焦るであろう土井先生を想像して笑いが堪えきれなかった。
どうせ生徒から没収したとかそんなところだろうが、見ていた現場をおさえられたのでは言い逃れできないだろう。
「あの…利吉さん?」
あ、つい顔に出てしまった。
慌ててその場を取り繕う。
「ああ、いえ、すみません。……たまみさんが、あまりに必死だったので可愛くて…。」
笑った理由はそこではなかったが、感じたことをそのまま口にした。
赤面したまま閉口する彼女が可愛いかった。
そして、私は広げられたままの巻物をくるくると丸めながら考えた。
さて、どうやってこの場を切りぬけようか…。
「持ってませんよ。」
「え?」
「男ならみんな持ってるって、あんなものは隠し持っている男が言い訳にしているだけです。少なくとも私は持っていません。」
土井先生を助けてやるつもりなどさらさらない。
そして、ずっと目をそらしてきた己の欲望。
たまみさんを満たしてあげたい等と偽善者のふりをして想いを遂げようとした浅ましい自分。
思いがけず彼女の前で思い起こされた渇望…。
私はたまみさんの頭巾をゆっくり拾い上げた。
「…私は………」
彼女の頭巾をじっと見つめた。
土井先生とお揃いかのような黒い頭巾。
ただの教師の制服なのに、そんなことをすら感じてしまい胸が痛んだ。
「…あなた以外をそういう目で見たりはしないので…。」
そう言うと私は彼女の頭巾に口づけた。
「…!!」
再び赤面し閉口する彼女が愛しくて、じっとその瞳を見つめた。
こんなにも想っているのに全く振り向く素振りのない愛しい人…。
「…健気だと思いませんか?」
自分でも呆れてしまうほどに。
「健気?」
そう、たまみさん以外にこんなに心動かされることはない。
「こんなにもあなただけを想っているのに…」
予想通り、彼女は困った顔をした。
「そ、それは…」
困らせるのは本意ではない。
しかし、たまには…。
たまには私も、少し本音を言いたくなる。
「少しくらい応えてあげてもいいかなって、思ったりしません?」
優しい彼女につけこんで慈悲をねだるようなことを…。
心の片隅で冷静に自分をみて呆れながら、それでも抑えられないものがあった。
一歩、また距離を詰める。
後退りする彼女の肩が壁に触れた。
いとも容易く追い詰められた彼女は、手を伸ばせばすぐにでも届きそうなもので。
「…たまみさん……」
その柔らかそうな頬に触れ、可愛い声を紡ぐ唇に口づけてしまいたい…。
強引に奪えば、もう少し私のことも考えてくれるだろうか。
そんなことを考え手を伸ばしかけたとき。
「ちょっ、待ってください…!ど、土井先生のえっちな巻物を見つけたってとこから何でそんな話に…!!」
たまみさんが慌てて私の胸を押し返した。
…土井先生の…?
ああ、そうそう、そうだった。
何だか気持ちのままに流されそうになったが、発端はそこだった。
…というか、「土井先生のえっちな巻物」って。
「く、くくく…!ああ、そうでしたね、土井先生のえっちな巻物……ふふ…!」
あの真面目な土井先生にそのフレーズ。
たまみさんもまた真面目に言っただけなのだろうが、笑わずにはいられなかった。
「ですから、昼間に職場でそんなものを見るような変態教師なんてやめて私にしませんか?」
無理矢理、話をまとめにかかってみた。
すると。
「誰が変態教師だって!?」
ガラリと障子の音を立てて土井先生が割って入ってきた。
思わずニヤリと笑ってしまった。
「噂をすれば、ですね。」
「利吉くん、その手に持ってるのは何だ。」
土井先生の不機嫌そうな目線の先には、先程私が口づけたたまみさんの頭巾が握られていた。
私は事も無げに彼女にそれを返すと、踵を返して障子の前に立つ土井先生の手にすれ違い様に巻物を渡した。
「?…何だいこれは?」
「土井先生、こういうものはきちんと隠しておかないと。」
怪訝そうな顔をする土井先生。
何の心当たりもなさそうなその反応、もしやこれが何か分かってないのか。
たまみさんは土井先生がこれを見ていたと言っていたが、本当にそうなのだろうか。
「…では私はこれで。」
この後のことを予想して私はニヤリと笑った。
こみ上げる笑いを隠すこともなく、困惑気味の土井先生を一瞥すると退室する。
困ればいいのだ。
何ならいっそ愛想つかされてしまえばいい。
そんなことにはならないだろうなと思いつつ私はため息をついた。
たまみさんとそんな喧嘩ができることすら羨ましい。
「…あ、洗濯物忘れてた。」
私は大きなため息をつくと、父の居場所を探して歩きだした。