第97話 あやしい巻物
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「土井先生、学園長先生がお呼びですよ。」
私は職員室の障子を開けて半助さんの背に話しかけた。
彼は何かの巻物を手に広げて見ていたようだけれど、私の声にため息をついてそれを巻き直した。
「まったく、忙しいのにまた迷惑な思いつきじゃないだろうなぁ。」
「何か手伝いましょうか?」
「そうだな…じゃあ算数の宿題のマルつけをお願いしようかな。ここに置いてあるから続きを頼むよ。」
「わかりました!」
笑顔で頷くと、半助さんは私の頭に手をぽんと乗せて微笑み部屋を後にした。
彼のお手伝いができることが嬉しくて私もにこにこしながら机の前に座った。
「んー、ここからかな。」
途中までマルつけがされている。
筆に朱色の墨をつけ、生徒の回答を見ると…私もまたため息が出てしまった。
この問題で間違っちゃうと、あとは全部間違ってるってことだよね…。
というか、これ今週習ったところのはずなのに…。
半助さんがまた「教えたはずだー!」って胃を痛めちゃうよ…。
これは骨が折れそうだと答えを書こうとしたとき、肘が本に当たって墨が少しはねてしまった。
「あ…!」
先程半助さんが手にしていた巻物に朱墨がついてしまい、私は慌てて拭き取った。
しまった、少しあとが残るかも…!
大事な資料だったらどうしよう…!!
私は何の資料なのか確認しようと焦って巻物を広げた。
「!!??」
え。
「………………。」
こ、これ、は…!?
思わず巻物を閉じ、部屋のなかに誰か居ないか見渡した。
誰もいないことを確認し、もう一度そーっと巻物を開く。
「…!!!」
そこに描かれていたのは。
生々しく交わる男女。
色付きで、扇情的な痴態が色々と描かれていた。
「…え…っと、これは……」
ど、どうしよう。
見つけてしまった!?
男の人がこういうのを見るのは普通のことだとかいうけど、まさか、まさか半助さんがこんなものを…!
というか、こんな昼間に職員室で…!?
「忙しいのに」とか言ってたけど、何が忙しいの…!?
…いやいや、きっと誰かの持ち物を没収したとか、そういう理由で持っていただけのはず…半助さんに限ってそんなことあるはずが…落ち着いて落ち着いて。
でも、いま私が障子を開けたとき、確かに座ってこれを開いて見てたよね!?
ということは、入手経緯はどうあれ、やっぱり半助さんもこういうのに興味があるってこと…!?
そ、そりゃあ半助さんだって立派な男性だしそういうこともあるのかもしれないけど…。
これは見なかったことにして置いておくべきなのかな…。
でもでも、私というものがありながら、何で…!?
もしかして、私では満足できてなかったとか!?
本当はこういうのがしたいとか…実はそんなのがあったりするのかな…。
というか、さっき私が障子をあけたとき、全然普段通りな顔してたよね。
実は内心焦っていたのに平然としたフリを…?
それともこんなことくらい見つかっても普通というか男なんてそんなもんだよハハハみたいな感じなの…!?
動悸が速くなるのを感じながら、私は巻物を手にしたままぐるぐると思考を巡らせた。
「…どういうのが好きなんだろう…。」
そんな巻物など読んだことのない私は、興味のままにシュルシュルと広げて中身を見ていった。
読み終わった部分は巻いて見えないようにすればいいものを、そんなことにも気づかず広げていく。
「…何だか服を着たままの描写が多いかも…そういうのがいいのかな…?」
変にどきどきしながら全部見終わろうとしたとき。
「何を熱心に見ているのですか?」
「!!!!!!?????」
横から利吉さんがひょいと顔を覗かせた。
文字通り肩を飛び上がらせた私は、広げきった巻物を隠すことも出来ず驚きの表情で利吉さんを見た。
「りっ…!!」
「…………。」
無表情で巻物を見る利吉さん。
もはや隠すことも出来ず咄嗟に言葉も思い浮かばず、私の思考は固まった。
「…………。」
「……あ、の!違うんです!これは私のじゃなくて…!!」
私のじゃないけど私が今興味深々に見ていたことに違いはないー!!
と、自分でつっこみながら私はもうどうしたらいいのか分からず頭巾をほどいて巻物の上に被せた。
あまりに恥ずかしすぎて、私は真っ赤になって下を向いた。
「…たまみさん。」
突然。
利吉さんが私をそっと抱きしめた。
何が起きたのか分からず、またしても固まってしまった。
「私に言ってくれればいいのに…」
「?…な、何をですか?」
「土井先生が忙しいとかで構ってくれないのでしょう?あなたがこんなものを手にするまで放ったらかしにするなんて…。」
「…え!?」
「私なら、そんなことさせません。たまみさんが望むなら毎晩でも…」
「ち、ちが…っ!!」
「何なら今すぐにでも…」
「違いますっ!これは土井先生ので…!!」
「え?」
利吉さんの腕を振りほどき、私は慌てて説明した。
「部屋を開けたら土井先生がこれを見ていて…!土井先生が出たあと偶然中身を確認したらこんなもので…!」
キョトンとする利吉さんに、私は恥ずかしさの余りキツい口調で問い詰めた。
「男の人って、みんなこういうの持ってるものなんですかっ!?」
しーん。
暫しの沈黙。
…私ってば、勢い余って何を誰に聞いて…!?
激しい後悔と羞恥に襲われもう落とし穴にでも隠れてしまいたい気持ちでいっぱいになったとき、利吉さんが肩を震わせた。
「…?」
顔を背けて笑いを堪えているようだった。
「あの…利吉さん?」
「ああ、いえ、すみません。……たまみさんが、あまりに必死だったので可愛くて…。」
クスクスと笑う利吉さんにますます顔が赤くなった。
すると、彼は私を落ち着かせるように巻物をくるくると丸めて閉じた。
「持ってませんよ。」
「え?」
「男ならみんな持ってるって、あんなものは隠し持っている男が言い訳にしているだけです。少なくとも私は持っていません。」
利吉さんはきっぱりと言いきってにこりと笑った。
巻物に被せていた私の頭巾をゆっくり拾い上げる。
「…私は………」
利吉さんの手の中で、私の頭巾がするりと動いた。
「…あなた以外をそういう目で見たりはしないので…。」
そう言うと彼は私の頭巾に口づけた。
「…!!」
まるで自分にされたかのように感じ、私は真っ赤になって絶句した。
利吉さんは切な気な目で私をじっと見つめた。
「…健気だと思いませんか?」
「健気?」
「こんなにもあなただけを想っているのに…」
「そ、それは…」
「少しくらい応えてあげてもいいかなって、思ったりしません?」
利吉さんが甘えるような切ないような目で私をじっと見つめた。
いつの間にか距離が詰められ、背中に壁が当たった。
「…たまみさん……」
「ちょっ、待ってください…!ど、土井先生のえっちな巻物を見つけたってとこから何でそんな話に…!!」
私が慌てて利吉さんの胸を押し返すと、彼はキョトンとしてまた笑いだした。
「く、くくく…!ああ、そうでしたね、土井先生のえっちな巻物……ふふ…!」
利吉さんは笑いを噛み殺して悪戯っぽく私に問いかけた。
「ですから、昼間に職場でそんなものを見るような変態教師なんてやめて私にしませんか?」
「誰が変態教師だって!?」
ガラリと障子の音を立てて半助さんが割って入ってきた。
「噂をすれば、ですね。」
「利吉くん、その手に持ってるのは何だ。」
半助さんが鋭い目付きで利吉さんの手元を睨んだ。
利吉さんは「ああ…。」と呟き私の手に頭巾を返すと、そのまま半助さんにすれ違い様に巻物を渡した。
「?…何だいこれは?」
「土井先生、…………。」
利吉さんは小声で半助さんに何かを囁いたけれど私にはよく聞こえなかった。
怪訝そうな顔をする半助さんに、利吉さんはにこりと笑いかけると職員室を出ていった。
私は職員室の障子を開けて半助さんの背に話しかけた。
彼は何かの巻物を手に広げて見ていたようだけれど、私の声にため息をついてそれを巻き直した。
「まったく、忙しいのにまた迷惑な思いつきじゃないだろうなぁ。」
「何か手伝いましょうか?」
「そうだな…じゃあ算数の宿題のマルつけをお願いしようかな。ここに置いてあるから続きを頼むよ。」
「わかりました!」
笑顔で頷くと、半助さんは私の頭に手をぽんと乗せて微笑み部屋を後にした。
彼のお手伝いができることが嬉しくて私もにこにこしながら机の前に座った。
「んー、ここからかな。」
途中までマルつけがされている。
筆に朱色の墨をつけ、生徒の回答を見ると…私もまたため息が出てしまった。
この問題で間違っちゃうと、あとは全部間違ってるってことだよね…。
というか、これ今週習ったところのはずなのに…。
半助さんがまた「教えたはずだー!」って胃を痛めちゃうよ…。
これは骨が折れそうだと答えを書こうとしたとき、肘が本に当たって墨が少しはねてしまった。
「あ…!」
先程半助さんが手にしていた巻物に朱墨がついてしまい、私は慌てて拭き取った。
しまった、少しあとが残るかも…!
大事な資料だったらどうしよう…!!
私は何の資料なのか確認しようと焦って巻物を広げた。
「!!??」
え。
「………………。」
こ、これ、は…!?
思わず巻物を閉じ、部屋のなかに誰か居ないか見渡した。
誰もいないことを確認し、もう一度そーっと巻物を開く。
「…!!!」
そこに描かれていたのは。
生々しく交わる男女。
色付きで、扇情的な痴態が色々と描かれていた。
「…え…っと、これは……」
ど、どうしよう。
見つけてしまった!?
男の人がこういうのを見るのは普通のことだとかいうけど、まさか、まさか半助さんがこんなものを…!
というか、こんな昼間に職員室で…!?
「忙しいのに」とか言ってたけど、何が忙しいの…!?
…いやいや、きっと誰かの持ち物を没収したとか、そういう理由で持っていただけのはず…半助さんに限ってそんなことあるはずが…落ち着いて落ち着いて。
でも、いま私が障子を開けたとき、確かに座ってこれを開いて見てたよね!?
ということは、入手経緯はどうあれ、やっぱり半助さんもこういうのに興味があるってこと…!?
そ、そりゃあ半助さんだって立派な男性だしそういうこともあるのかもしれないけど…。
これは見なかったことにして置いておくべきなのかな…。
でもでも、私というものがありながら、何で…!?
もしかして、私では満足できてなかったとか!?
本当はこういうのがしたいとか…実はそんなのがあったりするのかな…。
というか、さっき私が障子をあけたとき、全然普段通りな顔してたよね。
実は内心焦っていたのに平然としたフリを…?
それともこんなことくらい見つかっても普通というか男なんてそんなもんだよハハハみたいな感じなの…!?
動悸が速くなるのを感じながら、私は巻物を手にしたままぐるぐると思考を巡らせた。
「…どういうのが好きなんだろう…。」
そんな巻物など読んだことのない私は、興味のままにシュルシュルと広げて中身を見ていった。
読み終わった部分は巻いて見えないようにすればいいものを、そんなことにも気づかず広げていく。
「…何だか服を着たままの描写が多いかも…そういうのがいいのかな…?」
変にどきどきしながら全部見終わろうとしたとき。
「何を熱心に見ているのですか?」
「!!!!!!?????」
横から利吉さんがひょいと顔を覗かせた。
文字通り肩を飛び上がらせた私は、広げきった巻物を隠すことも出来ず驚きの表情で利吉さんを見た。
「りっ…!!」
「…………。」
無表情で巻物を見る利吉さん。
もはや隠すことも出来ず咄嗟に言葉も思い浮かばず、私の思考は固まった。
「…………。」
「……あ、の!違うんです!これは私のじゃなくて…!!」
私のじゃないけど私が今興味深々に見ていたことに違いはないー!!
と、自分でつっこみながら私はもうどうしたらいいのか分からず頭巾をほどいて巻物の上に被せた。
あまりに恥ずかしすぎて、私は真っ赤になって下を向いた。
「…たまみさん。」
突然。
利吉さんが私をそっと抱きしめた。
何が起きたのか分からず、またしても固まってしまった。
「私に言ってくれればいいのに…」
「?…な、何をですか?」
「土井先生が忙しいとかで構ってくれないのでしょう?あなたがこんなものを手にするまで放ったらかしにするなんて…。」
「…え!?」
「私なら、そんなことさせません。たまみさんが望むなら毎晩でも…」
「ち、ちが…っ!!」
「何なら今すぐにでも…」
「違いますっ!これは土井先生ので…!!」
「え?」
利吉さんの腕を振りほどき、私は慌てて説明した。
「部屋を開けたら土井先生がこれを見ていて…!土井先生が出たあと偶然中身を確認したらこんなもので…!」
キョトンとする利吉さんに、私は恥ずかしさの余りキツい口調で問い詰めた。
「男の人って、みんなこういうの持ってるものなんですかっ!?」
しーん。
暫しの沈黙。
…私ってば、勢い余って何を誰に聞いて…!?
激しい後悔と羞恥に襲われもう落とし穴にでも隠れてしまいたい気持ちでいっぱいになったとき、利吉さんが肩を震わせた。
「…?」
顔を背けて笑いを堪えているようだった。
「あの…利吉さん?」
「ああ、いえ、すみません。……たまみさんが、あまりに必死だったので可愛くて…。」
クスクスと笑う利吉さんにますます顔が赤くなった。
すると、彼は私を落ち着かせるように巻物をくるくると丸めて閉じた。
「持ってませんよ。」
「え?」
「男ならみんな持ってるって、あんなものは隠し持っている男が言い訳にしているだけです。少なくとも私は持っていません。」
利吉さんはきっぱりと言いきってにこりと笑った。
巻物に被せていた私の頭巾をゆっくり拾い上げる。
「…私は………」
利吉さんの手の中で、私の頭巾がするりと動いた。
「…あなた以外をそういう目で見たりはしないので…。」
そう言うと彼は私の頭巾に口づけた。
「…!!」
まるで自分にされたかのように感じ、私は真っ赤になって絶句した。
利吉さんは切な気な目で私をじっと見つめた。
「…健気だと思いませんか?」
「健気?」
「こんなにもあなただけを想っているのに…」
「そ、それは…」
「少しくらい応えてあげてもいいかなって、思ったりしません?」
利吉さんが甘えるような切ないような目で私をじっと見つめた。
いつの間にか距離が詰められ、背中に壁が当たった。
「…たまみさん……」
「ちょっ、待ってください…!ど、土井先生のえっちな巻物を見つけたってとこから何でそんな話に…!!」
私が慌てて利吉さんの胸を押し返すと、彼はキョトンとしてまた笑いだした。
「く、くくく…!ああ、そうでしたね、土井先生のえっちな巻物……ふふ…!」
利吉さんは笑いを噛み殺して悪戯っぽく私に問いかけた。
「ですから、昼間に職場でそんなものを見るような変態教師なんてやめて私にしませんか?」
「誰が変態教師だって!?」
ガラリと障子の音を立てて半助さんが割って入ってきた。
「噂をすれば、ですね。」
「利吉くん、その手に持ってるのは何だ。」
半助さんが鋭い目付きで利吉さんの手元を睨んだ。
利吉さんは「ああ…。」と呟き私の手に頭巾を返すと、そのまま半助さんにすれ違い様に巻物を渡した。
「?…何だいこれは?」
「土井先生、…………。」
利吉さんは小声で半助さんに何かを囁いたけれど私にはよく聞こえなかった。
怪訝そうな顔をする半助さんに、利吉さんはにこりと笑いかけると職員室を出ていった。