第96話 大事なもの
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今思えば数日前からのこと。
たまみが髪に櫛をさすようになった。
ここが忍者の学校だからと気にしているのか、あまり装飾品を持たない彼女が珍しくずっと身につけている。
それは、一輪の花が描かれた控え目なデザインのものだった。
一体いつ買ったのだろう?
最近私以外とは出かけていないはずだし、ずっと前に買っていたのだろうか。
「その櫛、よく似合ってるね。」
そう声をかけると、たまみは嬉しそうに微笑んだ。
そういえば少し前におしげちゃん達が仲良く三人で櫛をさして外出しているのを見かけたが、それと関係あるのだろうか。
「伝子さんも櫛を新調していたし、流行りの店でもあるのかい?」
聞くとたまみは曖昧に答えた。
「んー、どうでしょう、私も流行はあまり知らなくて…」
「………。」
…おや。
おかしい。
たまみの目線がスッとそらされたことに違和感を感じた。
………何か隠してる…?
「…ふうん。それはどこで買ったの?」
「えっ…と、これは……」
明らかに動揺している。
私は静かに筆を硯の上に置いた。
山田先生の机で作業している彼女の横に詰め寄る。
「…それ」
顔を背ける彼女の頬に手を当て、こちらを向かせた。
「…誰に、もらったの?」
目をあわせない彼女の反応に確信した。
これは、自分で買ったものではない。
「そ、それは………」
「うん?」
「…い、言えません…。」
「言えない?」
「すみません…約束、したんです…!でも、半助さんが心配するようなことは全くないので…!」
信じてほしいとばかりに私を見つめて頑なな表情を浮かべた。
言えないとはどういうことだ。
一体なぜ……。
しかし彼女は一度こうなると中々に頑固なところもある…。
「…じゃあたまみは、私が誰かに貰ったものをずっと身につけていてそれでも何でもないと言ったら…気にならないか?」
「それは気になります。ダメです。」
きっぱりと食い気味に即答された。
「なら分かるね?誰に貰ったんだ?」
たまみはとても困ったように俯いた。
…誰だ。
たまみにこんな顔をさせるなんて、どこのどいつなんだ。
「……何故言えないんだ?」
「誰にも言わないでほしいってお願いされたんです…」
「教えてほしいという私のお願いより、その男のお願いを優先するのか?」
「そ…それは……」
困って目線を泳がせる彼女。
カマをかけてみたがやはり相手は男なのか。
もしかすると、くのたまか誰か女の子からの贈り物かとも思ったがそうではないらしい。
気になる…。
隠されていることも気に入らなかったし、私にこれだけ言われてもその男との約束を優先させることも気に入らなかった。
すると突然、たまみが慌てたように私に抱きついた。
「信じてください…!時が経てばきっと言ってもよくなると思うんですけど…。」
時が経てばとはどういう意味なのか。
疑いの眼差しを向けると、たまみは泣きそうな顔で私を見つめた。
「私は半助さんだけのものです…!」
私の忍装束をぎゅっと掴みしがみつく彼女。
私はその手にそっと手を重ねた。
「それは分かってるんだけど…たまみに言い寄る男がいるだけでも嫌だし、ましてやそいつからの贈り物をきみがずっと身につけているなんて許せない。」
「これは、そーいうのじゃなくて…!」
「どーいうのなの?」
「えっと、…じゃあ…あの、誰にも言わないでくださいね?」
「相手による。ことと次第によっては」
「だからっ、これは……!」
ドタドタドタ…、ガラッ!
そのとき、大きな足音がやってきて唐突に障子が開けられた。
私とたまみは咄嗟に距離をとり座り直した。
「たまみさん、食堂のおばちゃんが探してましたよ!」
庄左衛門がそう言うと、たまみはハッと立ち上がった。
「あっ、そういえば今日は新しいおで…煮物のレシピを研究する日だった!!」
「!?今、おでんと言いかけてなかっ」
「とりあえず行ってきます!」
パタパタと走り去る彼女の背を眺めていると、庄左衛門が私をジーッと見ていた。
「えーっと…僕、お邪魔しちゃいましたか?」
「いや、何でもない…。」
不機嫌な私に何か言いたそうにしながらも庄左衛門は廊下を歩いていった。
しかし今はそれどころではない。
今夜はおでんなのか…!?
夕飯にはしんべヱも連れていって食べてもらうか!?
「…って、そうじゃなくて!」
ついおでんに気をとられてしまった。
いま考えるべきは、誰がたまみに櫛を贈ったかということだ。
他の何ものでもない、櫛を。
櫛は『苦も死も共に』という語呂から求婚の意味を表すことがある。
たまみはきっとそのことを知らないのだろう。
贈った男がどういうつもりなのかは分からないが、そんなものを年頃の女性に贈るなど…。
ある意味、私への挑戦状か。
しかも内緒にしていてほしいとはどういうことか。
私が心配するようなものではないと言っていたが、何故そう言いきれるのか。
いずれにしても、私以外の男から贈られた櫛をずっと身につけているなど許せるはずがない。
「犯人は誰だ…そんなことをしそうな奴は…」
「失礼します、父上はいますか?」
風呂敷包みを持った利吉くんが職員室に入ってきた。
「?…土井先生、こわい顔をしてどうしたのですか?」
「利吉くん。」
「はい?」
「たまみに櫛を贈ったのはきみか?」
利吉くんは驚いて目を見開いた。
「いいえ。」
「本当に?」
「はい、誰かがたまみさんに櫛を贈ったのですか?」
「そうなんだ。誰から貰ったのか聞いても答えてくれないんだよ。」
ダンッ
利吉くんが勢いよく机を叩いた。
「土井先生、何を悠長に構えてるんですか!」
「え?」
「学園の中ぐらいはしっかりガードして頂かないと困ります。」
「いや、困るって…」
「私はあなたが相手だから大人しくしているのです。他の男がたまみさんに手を出すのを黙ってみているつもりはありません。」
「利吉くん…」
「食堂に出入りしている業者とか学園の外の人間には私が脅し…声をかけておいたので、そんなことをする奴はいないでしょう。」
「脅し…?!」
「たまみさんに手を出すと凄腕の忍者に命を狙われると伝えておきました。」
「なっ!おいおい、勝手に何を言って…!」
「実際そうなるのでは?」
「………。」
…確かにまぁそれはそうだが。
「ですので、おそらく外部の犯行ではないでしょう。学園内で思い当たる人物はいないのですか?」
利吉くんが苛立たしげに腕を組んだ。
「それがさっきから考えてるんだけどね…。接点があるとすれば、食堂の手伝いをしてるときか、たまに保健委員会の手伝いをしてるときか、私の補助で事務室とやりとりするときか…ってほぼ全部の教師や生徒が疑わしくなってくる。」
「では視点を変えて…土井先生に反感を持っている人は?」
「私に?」
「土井先生へのあてつけとか。」
「うーん…。そんなことをされるようなことをした覚えはないんだけどな。」
「それではやはり、何者かがたまみさんを狙って…ということになりますね。」
「私が心配するようなものではないと言っていたが、彼女は危機感が足りないからな。」
「一刻も早く犯人を捕らえて二度とそんなことをする気が起きないようにしましょう。」
利吉くんが不快感を露に指をポキポキと鳴らした。
私にとっては利吉くんこそが危険だと思っている対象なのだが、今回ばかりは利害が一致した。
そうして私と利吉くんはたまみに櫛を贈った人物探しをすることになった。
たまみが髪に櫛をさすようになった。
ここが忍者の学校だからと気にしているのか、あまり装飾品を持たない彼女が珍しくずっと身につけている。
それは、一輪の花が描かれた控え目なデザインのものだった。
一体いつ買ったのだろう?
最近私以外とは出かけていないはずだし、ずっと前に買っていたのだろうか。
「その櫛、よく似合ってるね。」
そう声をかけると、たまみは嬉しそうに微笑んだ。
そういえば少し前におしげちゃん達が仲良く三人で櫛をさして外出しているのを見かけたが、それと関係あるのだろうか。
「伝子さんも櫛を新調していたし、流行りの店でもあるのかい?」
聞くとたまみは曖昧に答えた。
「んー、どうでしょう、私も流行はあまり知らなくて…」
「………。」
…おや。
おかしい。
たまみの目線がスッとそらされたことに違和感を感じた。
………何か隠してる…?
「…ふうん。それはどこで買ったの?」
「えっ…と、これは……」
明らかに動揺している。
私は静かに筆を硯の上に置いた。
山田先生の机で作業している彼女の横に詰め寄る。
「…それ」
顔を背ける彼女の頬に手を当て、こちらを向かせた。
「…誰に、もらったの?」
目をあわせない彼女の反応に確信した。
これは、自分で買ったものではない。
「そ、それは………」
「うん?」
「…い、言えません…。」
「言えない?」
「すみません…約束、したんです…!でも、半助さんが心配するようなことは全くないので…!」
信じてほしいとばかりに私を見つめて頑なな表情を浮かべた。
言えないとはどういうことだ。
一体なぜ……。
しかし彼女は一度こうなると中々に頑固なところもある…。
「…じゃあたまみは、私が誰かに貰ったものをずっと身につけていてそれでも何でもないと言ったら…気にならないか?」
「それは気になります。ダメです。」
きっぱりと食い気味に即答された。
「なら分かるね?誰に貰ったんだ?」
たまみはとても困ったように俯いた。
…誰だ。
たまみにこんな顔をさせるなんて、どこのどいつなんだ。
「……何故言えないんだ?」
「誰にも言わないでほしいってお願いされたんです…」
「教えてほしいという私のお願いより、その男のお願いを優先するのか?」
「そ…それは……」
困って目線を泳がせる彼女。
カマをかけてみたがやはり相手は男なのか。
もしかすると、くのたまか誰か女の子からの贈り物かとも思ったがそうではないらしい。
気になる…。
隠されていることも気に入らなかったし、私にこれだけ言われてもその男との約束を優先させることも気に入らなかった。
すると突然、たまみが慌てたように私に抱きついた。
「信じてください…!時が経てばきっと言ってもよくなると思うんですけど…。」
時が経てばとはどういう意味なのか。
疑いの眼差しを向けると、たまみは泣きそうな顔で私を見つめた。
「私は半助さんだけのものです…!」
私の忍装束をぎゅっと掴みしがみつく彼女。
私はその手にそっと手を重ねた。
「それは分かってるんだけど…たまみに言い寄る男がいるだけでも嫌だし、ましてやそいつからの贈り物をきみがずっと身につけているなんて許せない。」
「これは、そーいうのじゃなくて…!」
「どーいうのなの?」
「えっと、…じゃあ…あの、誰にも言わないでくださいね?」
「相手による。ことと次第によっては」
「だからっ、これは……!」
ドタドタドタ…、ガラッ!
そのとき、大きな足音がやってきて唐突に障子が開けられた。
私とたまみは咄嗟に距離をとり座り直した。
「たまみさん、食堂のおばちゃんが探してましたよ!」
庄左衛門がそう言うと、たまみはハッと立ち上がった。
「あっ、そういえば今日は新しいおで…煮物のレシピを研究する日だった!!」
「!?今、おでんと言いかけてなかっ」
「とりあえず行ってきます!」
パタパタと走り去る彼女の背を眺めていると、庄左衛門が私をジーッと見ていた。
「えーっと…僕、お邪魔しちゃいましたか?」
「いや、何でもない…。」
不機嫌な私に何か言いたそうにしながらも庄左衛門は廊下を歩いていった。
しかし今はそれどころではない。
今夜はおでんなのか…!?
夕飯にはしんべヱも連れていって食べてもらうか!?
「…って、そうじゃなくて!」
ついおでんに気をとられてしまった。
いま考えるべきは、誰がたまみに櫛を贈ったかということだ。
他の何ものでもない、櫛を。
櫛は『苦も死も共に』という語呂から求婚の意味を表すことがある。
たまみはきっとそのことを知らないのだろう。
贈った男がどういうつもりなのかは分からないが、そんなものを年頃の女性に贈るなど…。
ある意味、私への挑戦状か。
しかも内緒にしていてほしいとはどういうことか。
私が心配するようなものではないと言っていたが、何故そう言いきれるのか。
いずれにしても、私以外の男から贈られた櫛をずっと身につけているなど許せるはずがない。
「犯人は誰だ…そんなことをしそうな奴は…」
「失礼します、父上はいますか?」
風呂敷包みを持った利吉くんが職員室に入ってきた。
「?…土井先生、こわい顔をしてどうしたのですか?」
「利吉くん。」
「はい?」
「たまみに櫛を贈ったのはきみか?」
利吉くんは驚いて目を見開いた。
「いいえ。」
「本当に?」
「はい、誰かがたまみさんに櫛を贈ったのですか?」
「そうなんだ。誰から貰ったのか聞いても答えてくれないんだよ。」
ダンッ
利吉くんが勢いよく机を叩いた。
「土井先生、何を悠長に構えてるんですか!」
「え?」
「学園の中ぐらいはしっかりガードして頂かないと困ります。」
「いや、困るって…」
「私はあなたが相手だから大人しくしているのです。他の男がたまみさんに手を出すのを黙ってみているつもりはありません。」
「利吉くん…」
「食堂に出入りしている業者とか学園の外の人間には私が脅し…声をかけておいたので、そんなことをする奴はいないでしょう。」
「脅し…?!」
「たまみさんに手を出すと凄腕の忍者に命を狙われると伝えておきました。」
「なっ!おいおい、勝手に何を言って…!」
「実際そうなるのでは?」
「………。」
…確かにまぁそれはそうだが。
「ですので、おそらく外部の犯行ではないでしょう。学園内で思い当たる人物はいないのですか?」
利吉くんが苛立たしげに腕を組んだ。
「それがさっきから考えてるんだけどね…。接点があるとすれば、食堂の手伝いをしてるときか、たまに保健委員会の手伝いをしてるときか、私の補助で事務室とやりとりするときか…ってほぼ全部の教師や生徒が疑わしくなってくる。」
「では視点を変えて…土井先生に反感を持っている人は?」
「私に?」
「土井先生へのあてつけとか。」
「うーん…。そんなことをされるようなことをした覚えはないんだけどな。」
「それではやはり、何者かがたまみさんを狙って…ということになりますね。」
「私が心配するようなものではないと言っていたが、彼女は危機感が足りないからな。」
「一刻も早く犯人を捕らえて二度とそんなことをする気が起きないようにしましょう。」
利吉くんが不快感を露に指をポキポキと鳴らした。
私にとっては利吉くんこそが危険だと思っている対象なのだが、今回ばかりは利害が一致した。
そうして私と利吉くんはたまみに櫛を贈った人物探しをすることになった。