第95話 思い出の還る場所
お名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ちょっと寄り道してもいいかい?」
たくさん荷物を持った半助さんに連れられるがまま歩いていくと、少し小高い丘に辿り着いた。
「ほら、ここからだとよく見えるんだ。」
「わぁ……!」
夕日に照らされ黄金色に輝く雲。
透き通るようにどこまでも続く水色の空に、対照的なオレンジ色が美しくたなびいていた。
まるで絵画を映し出したかのように繊細で幻想的な色合い。
そして、眼下には見渡すかぎりの白詰草。
昼と夕暮れの狭間の一時、まだ雨露に濡れている一面の白が仄かに橙色に染まっている。
半助さんは荷物を木に吊し、優しく私の手をとると並んで佇んだ。
柔らかい風がそよそよと髪を揺らす。
「…不思議だな。」
半助さんがぽつりと呟いた。
「夕日を見るとどこか寂しい気持ちになっていたのに…たまみと一緒だと、日の入り前のこの瞬間もとても美しいものに思える。」
彼の温かい手が私の手をぎゅっと包み込んだ。
そっとその表情を見ると、半助さんは遠くをじっと見つめていた。
その瞳は何を思い返しているのだろう。
「…きっと…これから夕日を見るたびに今日のことを…たまみと見たこの景色を思い出すんだろうな。」
半助さんがとても穏やかに優しく微笑んだ。
これまで彼が夕日を見て何を想っていたのかは分からない。
けれど、少しでも半助さんの思い出を…振り返る地点を、幸せで温かい色に塗り替えてゆくことができたらいいなと思う。
そして、もしその幸せの中に私が含まれているのなら…それはとても嬉しいことだ。
そんなことを願うのは傲慢なのかもしれない。
それでも、半助さんの心を占める原風景は、少しでも幸せなものであってほしいと思った。
私は彼の腕に頭をもたれかけた。
優しい沈黙が訪れる。
それはとても穏やかな時間だった。
肩を寄せあう私達二人もまた、静かな夕暮れのなかで微かに夕焼け色に染まっていく。
「ずっとこうしていたいです…。」
そっと見上げると、彼もまた優しく微笑んだ。
「ああ…そうだな。………このまま、学園じゃなくて家に帰ろうか…。」
どこか甘えたような彼の声。
そんなことができないのはお互いに十分分かっている。
私達は静かに微笑みあった。
「でも『たくさんの子ども達』がお腹をすかせて待ってるからなぁ。」
「ふふふ、子沢山のお父さんは大変ですね。」
「お母さんも、ね。」
はははと笑う半助さんが、ふと真面目な表情になった。
どうしたのだろうと見つめると、彼は私に真っ直ぐに向きなおった。
「…たまみ。」
「はい?」
半助さんは少し目線を泳がせたあと意を決したように私に真っ直ぐ向き直った。
「私は…忍者の学校の教師でたまには多少の危険を伴う忍務もある。」
「………」
「それでも、何があってもきみの元に帰ると約束する。」
半助さんの真剣な眼差しに頷き返す。
私の手を握る彼の手にぎゅっと力が込められた。
「住み込みで朝から晩まで仕事に追われてばかりだし休日だって補習で返上しがちだけど…たまみとの時間もちゃんと作るよう頑張る。」
真っ直ぐで力強い声。
「いい暮らしをするのは難しいかもしれないけど、ちゃんときみを養うこともできる。」
「!」
それって…!
私は呼吸をするのも忘れてじっと耳をすました。
「何度も泣かせてしまったりしたけど…それ以上にもっと…誰よりも、何よりも、きみを幸せにしてみせるから…」
半助さんの手が優しく私の頬に触れた。
大好きな温かくて大きな手。
「だから……」
朱に染まる頬は夕日のせいだけではなくて。
「だから……私と………」
真っ直ぐに目を見つめ合う。
時が、止まったように感じた。
「!」
半助さんの目がスッと横に反れた。
視線の先を追うと、そこには大きな木が一本。
半助さんは無言でチョークを取り出すと、その木に向かって素早く投げた。
「いてっ!!」
木の中から声がした。
驚いて見ていると、姿を現したのは忍装束姿の諸泉さんだった。
「そんなところでなにをしている…!?」
あ。
半助さんが本気で怒っている。
諸泉さんは痛そうに額を擦りながら涙目でバツが悪そうにこたえた。
「いや、決して邪魔をしようとしたわけではないのだが…この前約束した真剣勝負を挑…」
「きみはタイミングという言葉を知らないのか。」
「あ~、いや…、その、だから気をつかって遠くで身を潜めて待っててやったんじゃないか。」
「隠れるなら私が気づかないほど完全に気配を消してくれ。というか覗いてないで出直すとかだな…」
「私だって忙しいんだ!わざわざここまで探してやっと見つけたのにすごすご帰るなんて…!…あ、遠くて会話は聞こえてないから安心しろ。」
半助さんが片手で顔を覆って大きなため息をついた。
すると諸泉さんが私をちらりと見て苦笑した。
「そうそう、あんたが誘拐されたときの土井半助の取り乱しっぷりは凄かったぞ。無事に戻れてよかったな。」
「え…?」
取り乱しっぷり?
詳しく聞こうと口を開きかけると、半助さんが私の前に割って入りその背中で諸泉さんが見えなくなった。
「…たまみ」
半助さんが肩越しに私をちらりと見て頭にぽんと手を乗せた。
「少し待ってて。すぐに終わらせるから。」
そう言うと半助さんはどこからか苦無を取り出し手に握った。
「約束だ、早くかかってきなさい。とっとと済ませよう。」
「何を偉そうに…今日こそお前に勝つ!!」
諸泉さんが走りだし、二人が苦無を交える音が響く。
その攻防は速くて私にはよく見えなかったけれど、半助さんは諸泉さんの攻撃を綺麗にかわしつつ動きを細かく指摘しているようだった。
何故か今日は二人とも武器を手にしていたので怪我したりしないかなと心配してしまったけれど、半助さんは悠々と構えていて全然危なそうなそぶりを見せない。
さっさと終わらせようと言っていたのに指導しているあたり、半助さんは根っからの教師だなぁと思ってしまう。
「…かっこいいなぁ……」
だいぶ日も暮れて夕焼け色に染まる彼ら。
諸泉さんには申し訳ないけれど、夕日を背に余裕で立ち回る半助さんが物凄く格好よく見えてしまった。
諸泉さんてばなんてタイミングで邪魔を…!と思ったけれど、これはこれでいいものを見ることができた気もした。
結局、指導スタイルに納得できなくなった諸泉さんが激昂しだしたところで半助さんが手刀で諸泉さんを地に伏せて勝負はついた。
「待たせてすまない。さ、帰ろうか。」
夕日を背に荷物を持ち微笑む彼。
「あの、諸泉さんはあのままで大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。あれぐらいならすぐに目が覚める。」
半助さんはにこりと笑うと私の背中を押した。
…結局、二人でそのまま学園まで戻り、さっきの言葉の続きは聞きそびれてしまった。
今度こそついに!?…と思ったのになぁ。
私は歩きながら先程半助さんと見た景色を思い出した。
とても美しい、夕日に照らされ黄金色に輝く雲。
そして、夕焼けを背に戦う半助さん…。
「ハァ……」
あまりに格好よすぎて無意識にため息がついて出た。
すると、隣を歩いていた半助さんが慌ててこちらを振り向いた。
たくさん荷物を持った半助さんに連れられるがまま歩いていくと、少し小高い丘に辿り着いた。
「ほら、ここからだとよく見えるんだ。」
「わぁ……!」
夕日に照らされ黄金色に輝く雲。
透き通るようにどこまでも続く水色の空に、対照的なオレンジ色が美しくたなびいていた。
まるで絵画を映し出したかのように繊細で幻想的な色合い。
そして、眼下には見渡すかぎりの白詰草。
昼と夕暮れの狭間の一時、まだ雨露に濡れている一面の白が仄かに橙色に染まっている。
半助さんは荷物を木に吊し、優しく私の手をとると並んで佇んだ。
柔らかい風がそよそよと髪を揺らす。
「…不思議だな。」
半助さんがぽつりと呟いた。
「夕日を見るとどこか寂しい気持ちになっていたのに…たまみと一緒だと、日の入り前のこの瞬間もとても美しいものに思える。」
彼の温かい手が私の手をぎゅっと包み込んだ。
そっとその表情を見ると、半助さんは遠くをじっと見つめていた。
その瞳は何を思い返しているのだろう。
「…きっと…これから夕日を見るたびに今日のことを…たまみと見たこの景色を思い出すんだろうな。」
半助さんがとても穏やかに優しく微笑んだ。
これまで彼が夕日を見て何を想っていたのかは分からない。
けれど、少しでも半助さんの思い出を…振り返る地点を、幸せで温かい色に塗り替えてゆくことができたらいいなと思う。
そして、もしその幸せの中に私が含まれているのなら…それはとても嬉しいことだ。
そんなことを願うのは傲慢なのかもしれない。
それでも、半助さんの心を占める原風景は、少しでも幸せなものであってほしいと思った。
私は彼の腕に頭をもたれかけた。
優しい沈黙が訪れる。
それはとても穏やかな時間だった。
肩を寄せあう私達二人もまた、静かな夕暮れのなかで微かに夕焼け色に染まっていく。
「ずっとこうしていたいです…。」
そっと見上げると、彼もまた優しく微笑んだ。
「ああ…そうだな。………このまま、学園じゃなくて家に帰ろうか…。」
どこか甘えたような彼の声。
そんなことができないのはお互いに十分分かっている。
私達は静かに微笑みあった。
「でも『たくさんの子ども達』がお腹をすかせて待ってるからなぁ。」
「ふふふ、子沢山のお父さんは大変ですね。」
「お母さんも、ね。」
はははと笑う半助さんが、ふと真面目な表情になった。
どうしたのだろうと見つめると、彼は私に真っ直ぐに向きなおった。
「…たまみ。」
「はい?」
半助さんは少し目線を泳がせたあと意を決したように私に真っ直ぐ向き直った。
「私は…忍者の学校の教師でたまには多少の危険を伴う忍務もある。」
「………」
「それでも、何があってもきみの元に帰ると約束する。」
半助さんの真剣な眼差しに頷き返す。
私の手を握る彼の手にぎゅっと力が込められた。
「住み込みで朝から晩まで仕事に追われてばかりだし休日だって補習で返上しがちだけど…たまみとの時間もちゃんと作るよう頑張る。」
真っ直ぐで力強い声。
「いい暮らしをするのは難しいかもしれないけど、ちゃんときみを養うこともできる。」
「!」
それって…!
私は呼吸をするのも忘れてじっと耳をすました。
「何度も泣かせてしまったりしたけど…それ以上にもっと…誰よりも、何よりも、きみを幸せにしてみせるから…」
半助さんの手が優しく私の頬に触れた。
大好きな温かくて大きな手。
「だから……」
朱に染まる頬は夕日のせいだけではなくて。
「だから……私と………」
真っ直ぐに目を見つめ合う。
時が、止まったように感じた。
「!」
半助さんの目がスッと横に反れた。
視線の先を追うと、そこには大きな木が一本。
半助さんは無言でチョークを取り出すと、その木に向かって素早く投げた。
「いてっ!!」
木の中から声がした。
驚いて見ていると、姿を現したのは忍装束姿の諸泉さんだった。
「そんなところでなにをしている…!?」
あ。
半助さんが本気で怒っている。
諸泉さんは痛そうに額を擦りながら涙目でバツが悪そうにこたえた。
「いや、決して邪魔をしようとしたわけではないのだが…この前約束した真剣勝負を挑…」
「きみはタイミングという言葉を知らないのか。」
「あ~、いや…、その、だから気をつかって遠くで身を潜めて待っててやったんじゃないか。」
「隠れるなら私が気づかないほど完全に気配を消してくれ。というか覗いてないで出直すとかだな…」
「私だって忙しいんだ!わざわざここまで探してやっと見つけたのにすごすご帰るなんて…!…あ、遠くて会話は聞こえてないから安心しろ。」
半助さんが片手で顔を覆って大きなため息をついた。
すると諸泉さんが私をちらりと見て苦笑した。
「そうそう、あんたが誘拐されたときの土井半助の取り乱しっぷりは凄かったぞ。無事に戻れてよかったな。」
「え…?」
取り乱しっぷり?
詳しく聞こうと口を開きかけると、半助さんが私の前に割って入りその背中で諸泉さんが見えなくなった。
「…たまみ」
半助さんが肩越しに私をちらりと見て頭にぽんと手を乗せた。
「少し待ってて。すぐに終わらせるから。」
そう言うと半助さんはどこからか苦無を取り出し手に握った。
「約束だ、早くかかってきなさい。とっとと済ませよう。」
「何を偉そうに…今日こそお前に勝つ!!」
諸泉さんが走りだし、二人が苦無を交える音が響く。
その攻防は速くて私にはよく見えなかったけれど、半助さんは諸泉さんの攻撃を綺麗にかわしつつ動きを細かく指摘しているようだった。
何故か今日は二人とも武器を手にしていたので怪我したりしないかなと心配してしまったけれど、半助さんは悠々と構えていて全然危なそうなそぶりを見せない。
さっさと終わらせようと言っていたのに指導しているあたり、半助さんは根っからの教師だなぁと思ってしまう。
「…かっこいいなぁ……」
だいぶ日も暮れて夕焼け色に染まる彼ら。
諸泉さんには申し訳ないけれど、夕日を背に余裕で立ち回る半助さんが物凄く格好よく見えてしまった。
諸泉さんてばなんてタイミングで邪魔を…!と思ったけれど、これはこれでいいものを見ることができた気もした。
結局、指導スタイルに納得できなくなった諸泉さんが激昂しだしたところで半助さんが手刀で諸泉さんを地に伏せて勝負はついた。
「待たせてすまない。さ、帰ろうか。」
夕日を背に荷物を持ち微笑む彼。
「あの、諸泉さんはあのままで大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。あれぐらいならすぐに目が覚める。」
半助さんはにこりと笑うと私の背中を押した。
…結局、二人でそのまま学園まで戻り、さっきの言葉の続きは聞きそびれてしまった。
今度こそついに!?…と思ったのになぁ。
私は歩きながら先程半助さんと見た景色を思い出した。
とても美しい、夕日に照らされ黄金色に輝く雲。
そして、夕焼けを背に戦う半助さん…。
「ハァ……」
あまりに格好よすぎて無意識にため息がついて出た。
すると、隣を歩いていた半助さんが慌ててこちらを振り向いた。