第95話 思い出の還る場所
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最近日が長くなってきた。
私は食堂のおばちゃんと夕食の用意をしながら外を見た。
先程まで降っていた雨はやんだようで、外は明るくなっていた。
お味噌汁にお味噌を入れようとしたところで私はおばちゃんに声をかけた。
「お味噌、これだと明日の朝ごはんには足りなくないですか?」
「あらやだ、久々知くんがお豆腐をたくさん作ってくれて田楽にした分、明日のお味噌が足りなくなっちゃったわね。」
「私、ちょうどキリがいいので買いに行ってきますね。」
「そうかい、じゃあついでにこれとこれとこれも…」
おばちゃんに渡されたメモを見て、結構重たいものが含まれていることに気づく。
すると食堂のおばちゃんはニヤリと笑ってこちらを見た。
「土井先生と行くんでしょ?夕食の用意は大体できたから、おつかいデートゆっくり楽しんでおいで。」
「えっ!?そっ、そんな、デートだなんて…土井先生のご都合も聞いてないですし…!」
「きっと大丈夫よ。まぁ、土井先生には楽しい時間を提供するんだからこれくらい持って貰わないと。あ、でももし他の人と行くなら買うもの少し減らすから言ってね。」
私は苦笑しながら半助さんがいるであろう職員室に向かった。
「土井先生、いまお忙しいですか?」
障子を少し開けて廊下から聞くと、半助さんは筆を置いて微笑んだ。
「おつかいかな?」
「えっ、どうして分かったんですか!?」
「何となく。その手元の紙が買うもの?」
これが以心伝心というやつかしら。
目で促されるままに職員室に入り、買い物リストを書いた紙を渡す。
半助さんは内容を見て苦笑した。
「結構多いな…食堂のおばちゃん、最初から私が付き添うと分かってて書いたな…。」
「あはは、おつかいデートゆっくり楽しんでおいでって言われました。」
「そ、そお…。」
半助さんは赤くなって苦笑いした後、私の頭をぽんと撫でた。
「じゃ、すぐ片付けて用意するから門のところで待ってて。」
じゃりっ、じゃりっ、じゃりっ…
半助さんと二人、まだ雨を含んで濡れている砂の上を歩く。
雨上がりの草の匂いがした。
私に歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれる半助さん。
肩が揺れるたび触れそうになる手と手。
思わずその大きな手に指を絡めたくなる。
けれど、ここはまだ学園に近く誰が見ているかもわからない…我慢しなくては。
そんなことを思いつつも、私は気づけば半助さんをじっと見つめてしまっていた。
彼がそんな視線に気づかないはずもなく、ちらりと私を見て困ったように笑った。
「そんなに見つめられると…。」
「!…えへへ、つい…。」
半助さんが嬉しそうに目を細めて私を見つめた。
「たまみは素直だな。」
「?」
「分かりやすいなってことだ。」
分かりやすい?
それは、私が半助さんを好きな気持ちが分かりやすいということ?
「…イヤですか?」
周囲にはまだ隠さなければいけないのによくなかったのかな。
けれど半助さんは首を振った。
「いや、…素直で可愛いよ。」
最後の方はそっぽを向いて小さな声で呟かれていて聞き取りにくかったけれど、確かに可愛いと言ってくれた。
私は「じゃあ」と笑ってその顔を下から覗き込んだ。
「もっと見てもいいですか?」
一瞬、半助さんが驚いて目をしばたかせた。
彼はすぐに頬を赤くして咳払いをすると、ごまかすようにすっと空を指差した。
「…それよりほら、あっちを見てごらん。」
指し示す方に目をやると、そこには大きな虹ができていた。
「おっきな虹…!」
見事に山から田んぼにかけてできた虹に目を奪われた。
あの山にまで行くと虹はどんな風に見えるんだろう…そんなことを思っていると。
「わっ!」
足元を見ていなくて石につまづいた。
バランスを崩す私の腕を、半助さんがぐいっと引いて支えてくれる。
「…っと。大丈夫?」
「す、すみません…!」
彼は少し躊躇った後、周囲を見渡すと私の手をぎゅっと握った。
「…まったく…危なっかしくてしょうがない…。」
眉をハの字にして困ったように微笑まれた。
それでもどこか嬉しそうな半助さんの声音。
私もまた嬉しさに顔を綻ばせながら、その手を強く握り返した。
雨上がりでキラキラする畦道を二人並んでのんびりと歩く、ただそれだけで幸せな気持ちだった。
目的のお店に辿り着くと、半助さんがメモの通り店主に注文してくれた。
店員さんが調味料を計ったりしてくれている間、半助さんと楽しく雑談していると店主の男性が半助さんに近づいてニヤリと笑った。
「旦那さん、羨ましいですねぇ。」
「?…何がですか?」
「これほどお買い上げ頂けるとは、お子さんがたくさんいるんでしょう?それなのに奥さん全然そんな感じしませんね。」
「えっ!?…いや、その…」
「うちのカミさんは子どもが増える度に…あれですよ、母は強しというか強すぎるというか。見た目は丸くなったのに中身は逆に鋭く…」
「あんたー!こっち手伝って!!」
「はいはい。ほらね、いやはや何とも羨ましい。」
店主の男性が笑いながら奥に入っていった。
…夫婦に間違われるのはいいんだけど。
また子どもがたくさんいると勘違いされてしまった…注文の量が多いからだろうけど、私やっぱり所帯染みてるのかな…確かにお洒落なタイプじゃないけど…それとも年齢的に…!?
考え込んで眉間に皺でもよっていたのか、半助さんが私の肩に手を置いた。
「たまみ」
「はい?」
「気にしなくていいから。」
「…何で半笑いしてるんですか。」
「えっ、いや、そんなことは…」
半助さんには分からないんだわ。
この繊細な乙女心というか微妙な気持ちが…!
……まぁ、それでも。
半助さんと夫婦に見えてるなら…まぁいいかなぁ。
私はそう納得することにして、それ以上深く考えないようにした。
私は食堂のおばちゃんと夕食の用意をしながら外を見た。
先程まで降っていた雨はやんだようで、外は明るくなっていた。
お味噌汁にお味噌を入れようとしたところで私はおばちゃんに声をかけた。
「お味噌、これだと明日の朝ごはんには足りなくないですか?」
「あらやだ、久々知くんがお豆腐をたくさん作ってくれて田楽にした分、明日のお味噌が足りなくなっちゃったわね。」
「私、ちょうどキリがいいので買いに行ってきますね。」
「そうかい、じゃあついでにこれとこれとこれも…」
おばちゃんに渡されたメモを見て、結構重たいものが含まれていることに気づく。
すると食堂のおばちゃんはニヤリと笑ってこちらを見た。
「土井先生と行くんでしょ?夕食の用意は大体できたから、おつかいデートゆっくり楽しんでおいで。」
「えっ!?そっ、そんな、デートだなんて…土井先生のご都合も聞いてないですし…!」
「きっと大丈夫よ。まぁ、土井先生には楽しい時間を提供するんだからこれくらい持って貰わないと。あ、でももし他の人と行くなら買うもの少し減らすから言ってね。」
私は苦笑しながら半助さんがいるであろう職員室に向かった。
「土井先生、いまお忙しいですか?」
障子を少し開けて廊下から聞くと、半助さんは筆を置いて微笑んだ。
「おつかいかな?」
「えっ、どうして分かったんですか!?」
「何となく。その手元の紙が買うもの?」
これが以心伝心というやつかしら。
目で促されるままに職員室に入り、買い物リストを書いた紙を渡す。
半助さんは内容を見て苦笑した。
「結構多いな…食堂のおばちゃん、最初から私が付き添うと分かってて書いたな…。」
「あはは、おつかいデートゆっくり楽しんでおいでって言われました。」
「そ、そお…。」
半助さんは赤くなって苦笑いした後、私の頭をぽんと撫でた。
「じゃ、すぐ片付けて用意するから門のところで待ってて。」
じゃりっ、じゃりっ、じゃりっ…
半助さんと二人、まだ雨を含んで濡れている砂の上を歩く。
雨上がりの草の匂いがした。
私に歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれる半助さん。
肩が揺れるたび触れそうになる手と手。
思わずその大きな手に指を絡めたくなる。
けれど、ここはまだ学園に近く誰が見ているかもわからない…我慢しなくては。
そんなことを思いつつも、私は気づけば半助さんをじっと見つめてしまっていた。
彼がそんな視線に気づかないはずもなく、ちらりと私を見て困ったように笑った。
「そんなに見つめられると…。」
「!…えへへ、つい…。」
半助さんが嬉しそうに目を細めて私を見つめた。
「たまみは素直だな。」
「?」
「分かりやすいなってことだ。」
分かりやすい?
それは、私が半助さんを好きな気持ちが分かりやすいということ?
「…イヤですか?」
周囲にはまだ隠さなければいけないのによくなかったのかな。
けれど半助さんは首を振った。
「いや、…素直で可愛いよ。」
最後の方はそっぽを向いて小さな声で呟かれていて聞き取りにくかったけれど、確かに可愛いと言ってくれた。
私は「じゃあ」と笑ってその顔を下から覗き込んだ。
「もっと見てもいいですか?」
一瞬、半助さんが驚いて目をしばたかせた。
彼はすぐに頬を赤くして咳払いをすると、ごまかすようにすっと空を指差した。
「…それよりほら、あっちを見てごらん。」
指し示す方に目をやると、そこには大きな虹ができていた。
「おっきな虹…!」
見事に山から田んぼにかけてできた虹に目を奪われた。
あの山にまで行くと虹はどんな風に見えるんだろう…そんなことを思っていると。
「わっ!」
足元を見ていなくて石につまづいた。
バランスを崩す私の腕を、半助さんがぐいっと引いて支えてくれる。
「…っと。大丈夫?」
「す、すみません…!」
彼は少し躊躇った後、周囲を見渡すと私の手をぎゅっと握った。
「…まったく…危なっかしくてしょうがない…。」
眉をハの字にして困ったように微笑まれた。
それでもどこか嬉しそうな半助さんの声音。
私もまた嬉しさに顔を綻ばせながら、その手を強く握り返した。
雨上がりでキラキラする畦道を二人並んでのんびりと歩く、ただそれだけで幸せな気持ちだった。
目的のお店に辿り着くと、半助さんがメモの通り店主に注文してくれた。
店員さんが調味料を計ったりしてくれている間、半助さんと楽しく雑談していると店主の男性が半助さんに近づいてニヤリと笑った。
「旦那さん、羨ましいですねぇ。」
「?…何がですか?」
「これほどお買い上げ頂けるとは、お子さんがたくさんいるんでしょう?それなのに奥さん全然そんな感じしませんね。」
「えっ!?…いや、その…」
「うちのカミさんは子どもが増える度に…あれですよ、母は強しというか強すぎるというか。見た目は丸くなったのに中身は逆に鋭く…」
「あんたー!こっち手伝って!!」
「はいはい。ほらね、いやはや何とも羨ましい。」
店主の男性が笑いながら奥に入っていった。
…夫婦に間違われるのはいいんだけど。
また子どもがたくさんいると勘違いされてしまった…注文の量が多いからだろうけど、私やっぱり所帯染みてるのかな…確かにお洒落なタイプじゃないけど…それとも年齢的に…!?
考え込んで眉間に皺でもよっていたのか、半助さんが私の肩に手を置いた。
「たまみ」
「はい?」
「気にしなくていいから。」
「…何で半笑いしてるんですか。」
「えっ、いや、そんなことは…」
半助さんには分からないんだわ。
この繊細な乙女心というか微妙な気持ちが…!
……まぁ、それでも。
半助さんと夫婦に見えてるなら…まぁいいかなぁ。
私はそう納得することにして、それ以上深く考えないようにした。