第94話 誰が為に花は咲く
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「あら、利吉じゃない。今日はどうしたの?」
「…父上…不必要な女装はやめてください。」
「不必要じゃないわよ!これにはれっきとした理由が…!」
「はいはい。…その花束はどうしたんですか?」
「これはね、乱太郎きり丸しんべヱが勉強を頑張ってたから三人に渡してあげようと思ったのよ。山田伝蔵が花を贈るのもおかしいから、伝子さんになったのに…行ってみたらあの子達もう居眠りしてたのよ!」
「はあ…そうですか。」
「だからこの花束どうしようかなぁと思って。そうだ、利吉あなたいつも食堂のおばちゃんにお世話になってるんだからこれ渡して来なさいな。」
「えっ?私が食堂のおばちゃんに?」
「そうよ。普段のお礼ってことで。じゃあ私は先に部屋に戻って洗濯物の用意をしておくわ。」
「あ、ちょっと父上…!」
体よく花束の後始末を任されてしまった。
まぁしかし、確かに食堂のおばちゃんにはよくお世話になっている。
食堂にでも飾って貰うよう渡しに行こうか…。
そう思い食堂へ向かうと。
「あ、利吉さん。こんにちは。」
たまみさんが食堂から出てきた。
彼女の目線が私の手元の花束にとまる。
「綺麗な桔梗ですね。どうされたのですか?」
「いえ、これは…」
先程の経緯を説明しかけてふと思いついた。
私は彼女の前にゆっくりと花束を差し出した。
「たまみさんに…私からの気持ちです。」
驚いて花を見つめた彼女は、唇に指をあて何やら考えているようだった。
「…今日は、何かのイベントの日でしたっけ?勤労感謝の日とかですか?」
的外れで生真面目な解釈に、たまみさんらしいなと笑いそうになった。
「勤労感謝の日って。そういうのじゃないですよ。」
「…?ではこれは…?」
「桔梗の花言葉、知ってますか?」
「いいえ…。」
「永遠の愛、です。」
「……!?」
彼女はキョトンとしたあと、やっと気づいてくれたようで頬を染め困ったように視線をそらした。
その表情が可愛くて面白くて、つい笑みが溢れてしまった。
「…なんて。冗談です。」
「!?」
「その花は、実は父が摘んだものなんです。」
「山田先生が…??」
「はい。食堂のおばちゃんに日頃のお礼を兼ねて渡すようにと。…たまみさんに贈るなら、私が自分でちゃんと用意したものにします。」
状況がよく飲み込めないのか、たまみさんは戸惑うように私を見た。
彼女の腕に半ば強引に花束を抱かせ、その耳元に囁いた。
「…もし、私が花を贈ったら…受け取ってくれますか?」
「え…!?」
耳まで真っ赤になって、真意を探るように私の目を見つめる彼女。
横を振り向いたその顔が思ったより近くて…。
思わず、そのまま口づけてしまおうかと目を細めたとき、視界に緑と紫が広がった。
「だ、だめ、です…っ!」
たまみさんが私の顔の前に桔梗の花束を割り込ませた。
真っ赤になって困ったように言葉を探す彼女が可愛い。
私は花束から一輪抜き取り、彼女の髪に挿した。
「…この花束は、食堂に置いて貰えますか?食堂のおばちゃんにもよろしくお伝えください。」
「は…はい…。わ、わかりました…。」
たまみさんが戸惑いながらも頷いた。
困らせていると分かりつつ、中々会えないものだからつい彼女の照れる様を見たくて意地悪なことをしてしまった。
半分冗談、半分本気。
しかしやり過ぎては逃げてしまうだろうから、ここで話題を変えてみた。
「ああ、そうそう…この前注文したいと仰っていたお饅頭なんですけどね。」
「!…はい、もう注文期限ですか?」
急に話題が変わり、たまみさんが真面目な顔になった。
先日お饅頭をお土産に持参したところ気に入ったらしく、職員会議で皆に出すお饅頭をそれにしたいと話していたのだ。
そして折角ならお饅頭の中身を各先生の好みに合わせたいとのことで、白餡にするか黒餡にするか数を検討してもらっていた。
「お店にも準備があると思いますので、そろそろ白か黒かはっきりさせてもらえるとありがたいのですが…。」
「そ、そうですよね。あと松千代先生だけなんですけどお姿が見つからなくて…どちらがいいか分からないんです…。」
「松千代先生ですか…それはたまみさんには見つけにくいかもしれませんね。」
「あ、でもよく考えたら私白餡も黒餡も両方好きなので…両方注文して余ったのを私が頂くことにします。」
「そうですか。では最終的に数は………」
注文数を確認すると、私はたまみさんにまた来ますと告げ食堂を後にした。
今度は、戯れではなく本当に花を贈ってみようかな…。
まだ完全に土井先生のものになってしまう前に。
一時は、本当に諦めようと思っていた。
しかし自分にもまだ彼女の為に出来ることがあると知り…たとえたまみさんの気持ちが振り向くことがなくても彼女のために力を貸そうと思った。
そうして月日の流れるうちに、またこうして話すうちに、やはり彼女を求めてしまう自分がいて…。
先程の花束も、一言「食堂に飾っておいてください」とだけ渡せばよいものを…土井先生が見たら激怒するはずだ。
いや、いつまでもたまみさんをきちんと自分のものにせず私の手の届くようなところに置いておくのが悪いんだ…さっさと身を固めるなりしてくれれば私だって…。
それにしてもさっきの驚いた顔とか照れたような顔とか…可愛かったな…。
そんなことをぐるぐると考えながら、父の洗濯物を受け取るため職員室に向かう。
「父上、荷物の用意はできまし…」
障子をあけると、そこには大きな風呂敷二つにまとめられた大量の洗濯物。
「こ、これは…!?」
「いや、今回は雨で汚れたり色々あったんだ。ちょっと多いが頼んだぞ。」
「ちょっと多いって…ちょっとどころじゃないでしょう!」
「すまんな。母さんによろしく言っといてくれ。」
ぷちーん。
なにが「よろしく言っといてくれ」だ…!
私がとれだけ小言を聞かされているか…!!
「こんなにたくさん…もう我慢できません!!今日という今日はご自分で持って帰ってくださいっ!!」
「な、なにぃっ!?」
「私はもう帰りますっ!!」
「まっ、待て利吉っっ!!」
私が走り去ろうとすると父が洗濯物を両手に提げて追いかけてきた。
…まるで追いかけっこのようだと心の片隅で一瞬懐かしく思ったが、本気の父は両手が荷物で塞がっていても速い。
こうしてまたいつもの親子喧嘩が始まった。
「…父上…不必要な女装はやめてください。」
「不必要じゃないわよ!これにはれっきとした理由が…!」
「はいはい。…その花束はどうしたんですか?」
「これはね、乱太郎きり丸しんべヱが勉強を頑張ってたから三人に渡してあげようと思ったのよ。山田伝蔵が花を贈るのもおかしいから、伝子さんになったのに…行ってみたらあの子達もう居眠りしてたのよ!」
「はあ…そうですか。」
「だからこの花束どうしようかなぁと思って。そうだ、利吉あなたいつも食堂のおばちゃんにお世話になってるんだからこれ渡して来なさいな。」
「えっ?私が食堂のおばちゃんに?」
「そうよ。普段のお礼ってことで。じゃあ私は先に部屋に戻って洗濯物の用意をしておくわ。」
「あ、ちょっと父上…!」
体よく花束の後始末を任されてしまった。
まぁしかし、確かに食堂のおばちゃんにはよくお世話になっている。
食堂にでも飾って貰うよう渡しに行こうか…。
そう思い食堂へ向かうと。
「あ、利吉さん。こんにちは。」
たまみさんが食堂から出てきた。
彼女の目線が私の手元の花束にとまる。
「綺麗な桔梗ですね。どうされたのですか?」
「いえ、これは…」
先程の経緯を説明しかけてふと思いついた。
私は彼女の前にゆっくりと花束を差し出した。
「たまみさんに…私からの気持ちです。」
驚いて花を見つめた彼女は、唇に指をあて何やら考えているようだった。
「…今日は、何かのイベントの日でしたっけ?勤労感謝の日とかですか?」
的外れで生真面目な解釈に、たまみさんらしいなと笑いそうになった。
「勤労感謝の日って。そういうのじゃないですよ。」
「…?ではこれは…?」
「桔梗の花言葉、知ってますか?」
「いいえ…。」
「永遠の愛、です。」
「……!?」
彼女はキョトンとしたあと、やっと気づいてくれたようで頬を染め困ったように視線をそらした。
その表情が可愛くて面白くて、つい笑みが溢れてしまった。
「…なんて。冗談です。」
「!?」
「その花は、実は父が摘んだものなんです。」
「山田先生が…??」
「はい。食堂のおばちゃんに日頃のお礼を兼ねて渡すようにと。…たまみさんに贈るなら、私が自分でちゃんと用意したものにします。」
状況がよく飲み込めないのか、たまみさんは戸惑うように私を見た。
彼女の腕に半ば強引に花束を抱かせ、その耳元に囁いた。
「…もし、私が花を贈ったら…受け取ってくれますか?」
「え…!?」
耳まで真っ赤になって、真意を探るように私の目を見つめる彼女。
横を振り向いたその顔が思ったより近くて…。
思わず、そのまま口づけてしまおうかと目を細めたとき、視界に緑と紫が広がった。
「だ、だめ、です…っ!」
たまみさんが私の顔の前に桔梗の花束を割り込ませた。
真っ赤になって困ったように言葉を探す彼女が可愛い。
私は花束から一輪抜き取り、彼女の髪に挿した。
「…この花束は、食堂に置いて貰えますか?食堂のおばちゃんにもよろしくお伝えください。」
「は…はい…。わ、わかりました…。」
たまみさんが戸惑いながらも頷いた。
困らせていると分かりつつ、中々会えないものだからつい彼女の照れる様を見たくて意地悪なことをしてしまった。
半分冗談、半分本気。
しかしやり過ぎては逃げてしまうだろうから、ここで話題を変えてみた。
「ああ、そうそう…この前注文したいと仰っていたお饅頭なんですけどね。」
「!…はい、もう注文期限ですか?」
急に話題が変わり、たまみさんが真面目な顔になった。
先日お饅頭をお土産に持参したところ気に入ったらしく、職員会議で皆に出すお饅頭をそれにしたいと話していたのだ。
そして折角ならお饅頭の中身を各先生の好みに合わせたいとのことで、白餡にするか黒餡にするか数を検討してもらっていた。
「お店にも準備があると思いますので、そろそろ白か黒かはっきりさせてもらえるとありがたいのですが…。」
「そ、そうですよね。あと松千代先生だけなんですけどお姿が見つからなくて…どちらがいいか分からないんです…。」
「松千代先生ですか…それはたまみさんには見つけにくいかもしれませんね。」
「あ、でもよく考えたら私白餡も黒餡も両方好きなので…両方注文して余ったのを私が頂くことにします。」
「そうですか。では最終的に数は………」
注文数を確認すると、私はたまみさんにまた来ますと告げ食堂を後にした。
今度は、戯れではなく本当に花を贈ってみようかな…。
まだ完全に土井先生のものになってしまう前に。
一時は、本当に諦めようと思っていた。
しかし自分にもまだ彼女の為に出来ることがあると知り…たとえたまみさんの気持ちが振り向くことがなくても彼女のために力を貸そうと思った。
そうして月日の流れるうちに、またこうして話すうちに、やはり彼女を求めてしまう自分がいて…。
先程の花束も、一言「食堂に飾っておいてください」とだけ渡せばよいものを…土井先生が見たら激怒するはずだ。
いや、いつまでもたまみさんをきちんと自分のものにせず私の手の届くようなところに置いておくのが悪いんだ…さっさと身を固めるなりしてくれれば私だって…。
それにしてもさっきの驚いた顔とか照れたような顔とか…可愛かったな…。
そんなことをぐるぐると考えながら、父の洗濯物を受け取るため職員室に向かう。
「父上、荷物の用意はできまし…」
障子をあけると、そこには大きな風呂敷二つにまとめられた大量の洗濯物。
「こ、これは…!?」
「いや、今回は雨で汚れたり色々あったんだ。ちょっと多いが頼んだぞ。」
「ちょっと多いって…ちょっとどころじゃないでしょう!」
「すまんな。母さんによろしく言っといてくれ。」
ぷちーん。
なにが「よろしく言っといてくれ」だ…!
私がとれだけ小言を聞かされているか…!!
「こんなにたくさん…もう我慢できません!!今日という今日はご自分で持って帰ってくださいっ!!」
「な、なにぃっ!?」
「私はもう帰りますっ!!」
「まっ、待て利吉っっ!!」
私が走り去ろうとすると父が洗濯物を両手に提げて追いかけてきた。
…まるで追いかけっこのようだと心の片隅で一瞬懐かしく思ったが、本気の父は両手が荷物で塞がっていても速い。
こうしてまたいつもの親子喧嘩が始まった。