第92話 差しのべられた手
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「ど…土井半助!貴様どうしてここに…!?」
「彼女は返してもらおう!」
凛々しい声が大きく響く。
すると丸眼鏡の忍者達が急にざわつき始めた。
「ほら、やっぱり土井先生の彼女だって…」
「だから正月に見たって言っただろ…」
「でも魔界之先生がさぁ…」
などヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
あ…。
半助さんの耳が赤くなっている。
彼は慌てたように大声で言った。
「いや、待て!彼女ってそういう意味じゃなくて…!この子は私達の…忍術学園の一員だから取り返しに来たと言ったんだ!」
焦って訂正する彼を、皆が一様に疑いの眼差しで見つめた。
半助さんは大きく咳払いをすると、「とにかく!」と皆の邪推を遮って私の肩に手を置いた。
「彼女に手を出すな。」
ビリッとした迫力に空気が凍った。
一拍おいて「帰るぞ。」と半助さんが私に言ったとき、八方斎さんが前に出た。
「待てーい!その女は我らが殿を毒殺しようと企んだのだ。ただで帰す訳にはいかん!」
八方斎さんが変色したお箸を指差し大声で言い返した。
半助さんはチラリとそのお箸を見て、何故かニヤリと笑った。
「毒を盛った犯人だという証は?」
「なっ…!?」
「饅頭の注文書を密書と勘違いしてかよわい女性を誘拐するような奴らには見抜けないかもしれないが…」
半助さんが親指で炊事場の方角を指差した。
「調理場に怪しいくの一が居たから縛り付けておいた。そちらを調べた方がいいんじゃないかな。」
「な、なんだとっ…!」
「ここに来る途中炊事場に立ち寄ったら偶然居合わせたんだ。こんなこともあろうかと、逃がさずに柱に縛り付けてきたが正解だったな。冷静に考えてもみろ、忍術学園がくのいちでもない女性を使って城主暗殺を企てると思うか?」
「し、しかし…っ」
「ほらほら、早く行かないと真犯人を取り逃がすぞ。」
「…っ!お前達、確かめてこい!」
「「はっ!」」
何人かが姿を消し、おそらくは炊事場へと向かった。
その瞬間、半助さんが私を横抱きに抱き抱えた。
「目、閉じて。」
小さく囁かれた声のままに目を閉じると、たちまち煙の臭いが広がった。
これは…煙玉?!
とたんに勢いよく身体が揺れ、私は落ちないように半助さんの首にしがみついた。
抱き抱えられた腕のなかでそっと目を開けてみると…
次々と現れる追手をものともせず飄々とかわし、
飛んでくる手裏剣や飛び道具を的確に弾き返し、
私を抱えたまま力強くしなやかに、物凄い勢いで走り続けていく。
す…すごい…!
格好よすぎる…!!
こんな状況なのに、その姿があまりに格好よくて、私は恐怖を感じるどころか気づけば彼に見惚れてしまっていた。
「跳ぶよ、つかまって!」
その言葉と同時に半助さんは勢いよく窓から飛び降り建物の外に出た。
ヒュッと風をきる音。
突然の無重力に驚いて首にしがみついた。
ザッ!
力強く安定した着地。
半助さんは静かに私を地面に立たせると、見張りの忍者達を音もなく地面に沈めていった。
彼はそのまま鍵縄を回し投げ、城壁にひっかけた。
「さあ、帰ろう。」
差しのべられた大きな手。
先程までとはうってかわった優しい目。
私は言葉も出ず、ただ頷いて彼の手をとった。
温かく、力強い大きな手。
彼は私を引き寄せまた抱き抱えた。
城壁を越え、いつの間にか闇に変わっていた林のなかを音もなく駆け抜ける。
「たまみ、怪我は?」
やがて林を抜け追手も来なくなった頃、半助さんがやっと速度を緩めて私を見た。
「大丈夫です、半助さんのおかげで助かりました…ありがとうございます。」
「遅くなってすまない。また恐い思いをさせてしまったな…。」
半助さんが申し訳なさそうに表情を曇らせた。
「そんな、半助さんは何も悪くありません。密書を持ってると勘違いされたり、運んだ食事に毒が入っていたり…運が悪かったんです。」
「何があったか、詳しく説明してくれるかい?」
頷いて一連の出来事を説明すると、みるみる彼の表情が固くなった。
「勘違いで誘拐されて、解放できないからと人手不足の炊事場で働かされたあげくドクタケに引き抜く話が出て、毒殺未遂の疑いで捕まりかけただって…?!どこからつっこめばいいのかわからん…!」
半助さんは大きなため息をつき私を心配そうに見た。
「他には何もされなかった?」
「はい、大丈夫です。眠っている間に密書とか武器を持ってないか調べられたみたいなんですけど、それはちゃんと…」
「なにっ!?」
言い終わる前に半助さんが驚いてギリッと歯を噛み締めた。
「一体誰だ…!?今から戻って記憶が無くなるくらいの衝撃を…」
物騒なことを言い出し、私は慌てて首を振った。
「いえっ、八方斎さんの話では女性が調べたと…!」
「えっ、女性?…そ、そうか…黒戸カゲ先生かな…。」
半助さんがキョトンとして急に落ち着きを取り戻した。
一瞬本当にドクタケ城に乗り込みかねない勢いを感じたので焦ってしまった。
私のせいで半助さんがこれ以上身を危険にさらすのは嫌だと思い、さりげなく話題を変えてみる。
「そういえば、魔界之先生という方に会いました。お知り合いだと言ってましたけど…。」
「ああ、ドクタケのなかでも魔界之先生とは仲良くさせてもらってるんだ。…なるほど、じゃあもしかして…。」
「どうしたんですか?」
「うん、たまみが居た部屋までの道のりに、目印みたいにちくわの小さな欠片が落ちていてね…。」
「ちくわ?」
「練り物嫌いの私ぐらいしか気づかないような小さな欠片だった。何かの罠かとも思ったんだけど、それのおかげでドクタケ城主の部屋の上まで最速で辿り着けた。」
欠片が落ちてるだけでも気づくとか、どこまで練り物が嫌いなんだろう…。
「そういえば魔界之先生、『王子様が私を見つけやすいようにしておく』って言ってました。」
「王子?」
「私の王子様、ってことかなと…。」
半助さんは「ああ、そういう…」と呟き照れたように苦笑した。
「じゃあまた今度お礼を言わないといけないな。」
私は頷いて先程のことを思い出した。
あと少し半助さんが遅かったら、私はどうなっていたのだろう。
捕まってその場で切り捨てられたりしたのかと思うと、今更ながら恐くなって身震いした。
「たまみ?大丈夫?」
半助さんが私の顔を心配そうに覗き込む。
私は彼の衣をぎゅっと掴んで俯いた。
「お箸が…」
「ん?」
「お箸が変色したんです。それって毒入りの証拠なんですか?」
「ああ、銀の食器類は毒殺対策としてよく使われている。」
「そうなんですか…。いつ毒が入れられたのか分かりませんが、もう少しで私も食べてしまうところでした。」
「本当にたまみが無事でよかったよ。八方斎め…きみに毒味をさせるなんて許せん…!今回はたまたま銀に反応する毒だったから事なきを得たが、そうでなければどうなっていたか…!」
半助さんがまた私を強く抱きしめ微かに震える声で言った。
「たまみに何かあったら…私は……」
「半助さん…」
今朝、彼が私の身を案じて夜通し傍らに居てくれたことを思い出した。
私がもう彼なしでは生きていけないと思うように、彼もまた私のことを大切に想ってくれているのだと感じる。
「…朝から忠告してくれてたのに、夢の通りになっちゃいましたね。」
静かにそう言うと、半助さんは私の頭を抱き抱えたまま真剣な口調で呟いた。
「……もう、私以外とは外出しないでくれ。」
「はい。」
………………ん?
さらりと結構なことを言われているような…。
でも、ずっと半助さんと居るのは別に嫌ではなかったので私は素直に頷いた。
「たまみを守ると偉そうなことを言っておきながら…情けないな…。」
「そんなことないです…!!」
悔しげに眉を寄せる半助さんの頬に手を触れ、真っ直ぐに見つめた。
「助けてくれると信じてました。そして、半助さんはちゃんと来てくれました。…守ってくれて、ありがとうございます…。」
「たまみ…」
申し訳なさそうにする半助さんに私は微笑んだ。
「私を連れて逃げるときの半助さん…すごく格好よかったです。」
「そ、そうかい…?」
「はい。また誘拐されてもいいかなって思っちゃうくらい素敵でした。」
「縁起でもないことを言わないでくれ…!」
「ふふ、すみません。でも本当に強くて格好よくて……大好きです…。」
甘えてその胸に擦り寄る。
頭を優しく撫でられ彼の顔を見上げると、すぐそばで視線が絡み合った。
鼻先が触れ、そのままゆっくりと唇が重なる。
互いの温もりを確かめるように…。
「彼女は返してもらおう!」
凛々しい声が大きく響く。
すると丸眼鏡の忍者達が急にざわつき始めた。
「ほら、やっぱり土井先生の彼女だって…」
「だから正月に見たって言っただろ…」
「でも魔界之先生がさぁ…」
などヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
あ…。
半助さんの耳が赤くなっている。
彼は慌てたように大声で言った。
「いや、待て!彼女ってそういう意味じゃなくて…!この子は私達の…忍術学園の一員だから取り返しに来たと言ったんだ!」
焦って訂正する彼を、皆が一様に疑いの眼差しで見つめた。
半助さんは大きく咳払いをすると、「とにかく!」と皆の邪推を遮って私の肩に手を置いた。
「彼女に手を出すな。」
ビリッとした迫力に空気が凍った。
一拍おいて「帰るぞ。」と半助さんが私に言ったとき、八方斎さんが前に出た。
「待てーい!その女は我らが殿を毒殺しようと企んだのだ。ただで帰す訳にはいかん!」
八方斎さんが変色したお箸を指差し大声で言い返した。
半助さんはチラリとそのお箸を見て、何故かニヤリと笑った。
「毒を盛った犯人だという証は?」
「なっ…!?」
「饅頭の注文書を密書と勘違いしてかよわい女性を誘拐するような奴らには見抜けないかもしれないが…」
半助さんが親指で炊事場の方角を指差した。
「調理場に怪しいくの一が居たから縛り付けておいた。そちらを調べた方がいいんじゃないかな。」
「な、なんだとっ…!」
「ここに来る途中炊事場に立ち寄ったら偶然居合わせたんだ。こんなこともあろうかと、逃がさずに柱に縛り付けてきたが正解だったな。冷静に考えてもみろ、忍術学園がくのいちでもない女性を使って城主暗殺を企てると思うか?」
「し、しかし…っ」
「ほらほら、早く行かないと真犯人を取り逃がすぞ。」
「…っ!お前達、確かめてこい!」
「「はっ!」」
何人かが姿を消し、おそらくは炊事場へと向かった。
その瞬間、半助さんが私を横抱きに抱き抱えた。
「目、閉じて。」
小さく囁かれた声のままに目を閉じると、たちまち煙の臭いが広がった。
これは…煙玉?!
とたんに勢いよく身体が揺れ、私は落ちないように半助さんの首にしがみついた。
抱き抱えられた腕のなかでそっと目を開けてみると…
次々と現れる追手をものともせず飄々とかわし、
飛んでくる手裏剣や飛び道具を的確に弾き返し、
私を抱えたまま力強くしなやかに、物凄い勢いで走り続けていく。
す…すごい…!
格好よすぎる…!!
こんな状況なのに、その姿があまりに格好よくて、私は恐怖を感じるどころか気づけば彼に見惚れてしまっていた。
「跳ぶよ、つかまって!」
その言葉と同時に半助さんは勢いよく窓から飛び降り建物の外に出た。
ヒュッと風をきる音。
突然の無重力に驚いて首にしがみついた。
ザッ!
力強く安定した着地。
半助さんは静かに私を地面に立たせると、見張りの忍者達を音もなく地面に沈めていった。
彼はそのまま鍵縄を回し投げ、城壁にひっかけた。
「さあ、帰ろう。」
差しのべられた大きな手。
先程までとはうってかわった優しい目。
私は言葉も出ず、ただ頷いて彼の手をとった。
温かく、力強い大きな手。
彼は私を引き寄せまた抱き抱えた。
城壁を越え、いつの間にか闇に変わっていた林のなかを音もなく駆け抜ける。
「たまみ、怪我は?」
やがて林を抜け追手も来なくなった頃、半助さんがやっと速度を緩めて私を見た。
「大丈夫です、半助さんのおかげで助かりました…ありがとうございます。」
「遅くなってすまない。また恐い思いをさせてしまったな…。」
半助さんが申し訳なさそうに表情を曇らせた。
「そんな、半助さんは何も悪くありません。密書を持ってると勘違いされたり、運んだ食事に毒が入っていたり…運が悪かったんです。」
「何があったか、詳しく説明してくれるかい?」
頷いて一連の出来事を説明すると、みるみる彼の表情が固くなった。
「勘違いで誘拐されて、解放できないからと人手不足の炊事場で働かされたあげくドクタケに引き抜く話が出て、毒殺未遂の疑いで捕まりかけただって…?!どこからつっこめばいいのかわからん…!」
半助さんは大きなため息をつき私を心配そうに見た。
「他には何もされなかった?」
「はい、大丈夫です。眠っている間に密書とか武器を持ってないか調べられたみたいなんですけど、それはちゃんと…」
「なにっ!?」
言い終わる前に半助さんが驚いてギリッと歯を噛み締めた。
「一体誰だ…!?今から戻って記憶が無くなるくらいの衝撃を…」
物騒なことを言い出し、私は慌てて首を振った。
「いえっ、八方斎さんの話では女性が調べたと…!」
「えっ、女性?…そ、そうか…黒戸カゲ先生かな…。」
半助さんがキョトンとして急に落ち着きを取り戻した。
一瞬本当にドクタケ城に乗り込みかねない勢いを感じたので焦ってしまった。
私のせいで半助さんがこれ以上身を危険にさらすのは嫌だと思い、さりげなく話題を変えてみる。
「そういえば、魔界之先生という方に会いました。お知り合いだと言ってましたけど…。」
「ああ、ドクタケのなかでも魔界之先生とは仲良くさせてもらってるんだ。…なるほど、じゃあもしかして…。」
「どうしたんですか?」
「うん、たまみが居た部屋までの道のりに、目印みたいにちくわの小さな欠片が落ちていてね…。」
「ちくわ?」
「練り物嫌いの私ぐらいしか気づかないような小さな欠片だった。何かの罠かとも思ったんだけど、それのおかげでドクタケ城主の部屋の上まで最速で辿り着けた。」
欠片が落ちてるだけでも気づくとか、どこまで練り物が嫌いなんだろう…。
「そういえば魔界之先生、『王子様が私を見つけやすいようにしておく』って言ってました。」
「王子?」
「私の王子様、ってことかなと…。」
半助さんは「ああ、そういう…」と呟き照れたように苦笑した。
「じゃあまた今度お礼を言わないといけないな。」
私は頷いて先程のことを思い出した。
あと少し半助さんが遅かったら、私はどうなっていたのだろう。
捕まってその場で切り捨てられたりしたのかと思うと、今更ながら恐くなって身震いした。
「たまみ?大丈夫?」
半助さんが私の顔を心配そうに覗き込む。
私は彼の衣をぎゅっと掴んで俯いた。
「お箸が…」
「ん?」
「お箸が変色したんです。それって毒入りの証拠なんですか?」
「ああ、銀の食器類は毒殺対策としてよく使われている。」
「そうなんですか…。いつ毒が入れられたのか分かりませんが、もう少しで私も食べてしまうところでした。」
「本当にたまみが無事でよかったよ。八方斎め…きみに毒味をさせるなんて許せん…!今回はたまたま銀に反応する毒だったから事なきを得たが、そうでなければどうなっていたか…!」
半助さんがまた私を強く抱きしめ微かに震える声で言った。
「たまみに何かあったら…私は……」
「半助さん…」
今朝、彼が私の身を案じて夜通し傍らに居てくれたことを思い出した。
私がもう彼なしでは生きていけないと思うように、彼もまた私のことを大切に想ってくれているのだと感じる。
「…朝から忠告してくれてたのに、夢の通りになっちゃいましたね。」
静かにそう言うと、半助さんは私の頭を抱き抱えたまま真剣な口調で呟いた。
「……もう、私以外とは外出しないでくれ。」
「はい。」
………………ん?
さらりと結構なことを言われているような…。
でも、ずっと半助さんと居るのは別に嫌ではなかったので私は素直に頷いた。
「たまみを守ると偉そうなことを言っておきながら…情けないな…。」
「そんなことないです…!!」
悔しげに眉を寄せる半助さんの頬に手を触れ、真っ直ぐに見つめた。
「助けてくれると信じてました。そして、半助さんはちゃんと来てくれました。…守ってくれて、ありがとうございます…。」
「たまみ…」
申し訳なさそうにする半助さんに私は微笑んだ。
「私を連れて逃げるときの半助さん…すごく格好よかったです。」
「そ、そうかい…?」
「はい。また誘拐されてもいいかなって思っちゃうくらい素敵でした。」
「縁起でもないことを言わないでくれ…!」
「ふふ、すみません。でも本当に強くて格好よくて……大好きです…。」
甘えてその胸に擦り寄る。
頭を優しく撫でられ彼の顔を見上げると、すぐそばで視線が絡み合った。
鼻先が触れ、そのままゆっくりと唇が重なる。
互いの温もりを確かめるように…。