第92話 差しのべられた手
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できた…何とかそれらしく作れた気がする!
私は出来上がった料理を並べ、満足気に眺めた。
補佐の女性はとても手際がよく、彼女のおかげで時間内に作り上げることができた。
後からこの調理担当の方々が怒られることのないよう頑張ったつもりだけれど、お殿様のお口には合うだろうか…。
すると、先程のチンゲン菜…じゃなくて八方斎さんが慌ただしくやって来た。
「一人体調不良で倒れたと聞いたが、殿のお食事は…!?」
「八方斎様、大丈夫です。私は補佐しか経験がなく困ってしまったのですが、こちらの女性がとてもお料理が上手で、先輩の代わりに作ってくださいました。」
「なに、この女が?」
八方斎さんは私をじろりと見たあと、並べられた料理を見て驚いた顔をした。
「これはこれは…さすが忍術学園の食堂のおばちゃんと仕事しているだけあるな。」
「いえ…補佐の方にとても手伝って頂いたからです。お殿様のお口にあえばいいんですけど…。」
すると八方斎さんはじっとこちらを見た。
何を考えているのだろうと居心地悪く身構えると、くるりと背を向けて歩き出した。
「お前、私についてきなさい。」
「え?」
「自分で毒味をするんだ。」
毒味?
ああ、毒が入っていないか確認する為に誰かが食べるやつね。
この料理は正真正銘私が作ったものだし、毒なんて入れていないのだからなんの問題もない。
…うん、問題ないはず。
何故か、なんとなく気持ちがざわついた。
何か気にすべきことを見落としているような感覚。
「…わかりました。」
しかしどうすることもできず、私は大人しく八方斎さんの後ろに続いて歩いた。
配膳係の方が私の後ろに続く。
…これから、お殿様に直接会うのか。
タソガレドキの城主には会ったことあるけれど、悪名高いドクタケの城主とはどんな人なのだろう。
無作法があればすぐに斬られてしまったりして…。
嫌な想像に身震いした。
やめよう、考えても仕方ない。
私は深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「殿、失礼します。お食事をお持ちしました。」
八方斎さんに続いて部屋に入る。
大きな和室の真ん中に、ちょん髷を結ったお殿様が座っていた。
その横には…何だろう、あれは大きな馬の置物かな…が置かれていた。
お殿様はこちらを見ると怪訝そうな顔をした。
「八方斎、その女は何だ?」
「はい、これは忍術学園の食堂のおばちゃんを手伝っている者でして。くの一ではありませんが、料理の腕はそこそこのようです。もし殿がお気に召されましたら、こちらに引き抜くのもどうかと思いまして。」
!?
そんな話は聞いてない!
抗議の目を向けると、八方斎さんはにやりとこちらを見た。
「忍術学園にとっては戦力減、我々にとっては食の質の向上…一石二鳥です。」
まさか最初からそのつもりで…!?
いや、そんな感じは微塵もなかった。
もしかして、敵方である私に食事を作らせてしまったことへのこじつけ的な言い訳…!?
「殿、どちらから召し上がりますか?この者自身に毒味させましょう。」
「ふむ…そうだな。では、筑前煮から貰おうか。」
二人がじっとこちらを見つめる。
八方斎さんの目が、早く食べろと急かしている。
しかし、このまま食べて話を進めてもいいのだろうか。
ここは誤解の無いように最初にはっきり申し上げた方がいいのでは…。
私が手を膝に乗せたまま動かないのを見て、八方斎さんが苛立たし気に言った。
「どうした、まさか毒でも盛って自分では食べれない…なんてことはあるまいな?」
「ち、違います!そんなことあるわけ…」
「では早く食べるんだな。それとも、あらぬ疑いのために斬られることになってもいいのか?」
斬られる…!?
そう思った瞬間、一年は組のみんなと…半助さんの顔が思い浮かんだ。
だめだ。
私は、生きて帰らなくてはいけない…!
「わかりました…慎んで毒味させて頂きます。でも、私はここで働くつもりは…」
「お前に選択権はない。決めるのは殿だ。」
私の言葉を予想していたかのように、ピシャリと途中で遮られてしまった。
そう言いきられてしまっては二の句もつげず、私は大人しく筑前煮を頬張った。
「…何ともなさそうだな。」
「そうですね。殿、どうぞお召し上がりください。」
私が咀嚼して飲み込むと、安心したお殿様が同じように筑前煮を口にした。
その目が大きく見開かれる。
「こ、これは…!」
「殿、いかがなされましたか!?」
「旨い!!」
お殿様が目を細めて嬉しそうに笑った。
「八方斎、そちも食べてみよ。」
「は、ではお言葉に甘えまして…」
続いて食べた八方斎さんが同様に目を見開く。
「これは確かに…!忍術学園め、食堂のおばちゃんだけでなくこんな隠し球を持っていたとは…!」
「気に入った。お主名前は何という?」
お殿様がにこにことこちらを見た。
私は嫌な予感がして名乗るのを躊躇ったけれど、八方斎さんの鋭い目線に致し方なく名前を口にした。
「たまみと申します。」
「そうか。今の給料の二倍出すからここで働いてみんか?」
二倍!?
破格の申し出に言葉が一瞬出てこなかった。
勿論私には忍術学園以外の居場所なんて無いのだけれど、自分の仕事をここまで具体的に評価されたことは初めてで、純粋に嬉しかった。
「申し訳ありません。ありがたいお言葉ですが、私には帰りを待つ子ども達がいるので…。」
「ほう。では子連れで母子ともに城内に住み込んでも構わんぞ。」
「あ、そうじゃなくて…忍術学園の生徒達が、私を心配してくれていると思うので…!」
すると八方斎さんがおほんと咳をして割って入った。
「殿、もう少しお召し上がりになってから決めても遅くないかもしれません。まだ一口しか味見されてないでしょう。」
「そうだな。では次は…その味噌汁を貰おうか。具は何だ?」
私は話題がそれたことに安堵しつつ、お味噌汁から貝をひとつすくって見せた。
「貝と海草のお味噌汁です。」
その瞬間、八方斎さんの顔色がサッと変わった。
何事かと驚き固まると、彼は私の手元を指差し立ち上がった。
「その箸の変色…お前、まさか本当に毒を盛ったのか?!」
「え?」
見ると、確かに先程までは美しく輝いていた銀のお箸が一部変色しているようだった。
どういうことだろうとお箸を眺めていると、八方斎さんが指笛を鳴らした。
するとどこからか忍装束の男達が数人現れる。
「この者を捕らえよ!事もあろうか殿に毒を盛ろうとした!」
「えっ!?違います!私、毒なんて…!!」
「言い逃れはできんぞ。大人しいただの女かと見くびっていたが…誰に頼まれたのか、どうやったのか…ゆっくり吐かせてやる。」
八方斎さんが手を動かすと、周りを取り囲むように立っていた忍者達が私の方へにじり寄ってきた。
後ろは壁で、逃げ場がない…!
「引っ捕らえろ!」
「っ!!」
捕まる!
諦めかけた、その瞬間、
カカカカッ!
突然、畳に突き刺さる手裏剣。
ドクタケ忍者達は後ろに飛び退き避けた。
その瞬間。
黒い影に視界を遮られた。
黒く、大きく、逞しい背中。
そして。
「大丈夫か?!」
頭上から響く、愛しい声。
半助さん…!!!
幻かと思った。
半助さんは私を背に守るように隠し、苦無を手に持ち周囲を睨み付けていた。
私は出来上がった料理を並べ、満足気に眺めた。
補佐の女性はとても手際がよく、彼女のおかげで時間内に作り上げることができた。
後からこの調理担当の方々が怒られることのないよう頑張ったつもりだけれど、お殿様のお口には合うだろうか…。
すると、先程のチンゲン菜…じゃなくて八方斎さんが慌ただしくやって来た。
「一人体調不良で倒れたと聞いたが、殿のお食事は…!?」
「八方斎様、大丈夫です。私は補佐しか経験がなく困ってしまったのですが、こちらの女性がとてもお料理が上手で、先輩の代わりに作ってくださいました。」
「なに、この女が?」
八方斎さんは私をじろりと見たあと、並べられた料理を見て驚いた顔をした。
「これはこれは…さすが忍術学園の食堂のおばちゃんと仕事しているだけあるな。」
「いえ…補佐の方にとても手伝って頂いたからです。お殿様のお口にあえばいいんですけど…。」
すると八方斎さんはじっとこちらを見た。
何を考えているのだろうと居心地悪く身構えると、くるりと背を向けて歩き出した。
「お前、私についてきなさい。」
「え?」
「自分で毒味をするんだ。」
毒味?
ああ、毒が入っていないか確認する為に誰かが食べるやつね。
この料理は正真正銘私が作ったものだし、毒なんて入れていないのだからなんの問題もない。
…うん、問題ないはず。
何故か、なんとなく気持ちがざわついた。
何か気にすべきことを見落としているような感覚。
「…わかりました。」
しかしどうすることもできず、私は大人しく八方斎さんの後ろに続いて歩いた。
配膳係の方が私の後ろに続く。
…これから、お殿様に直接会うのか。
タソガレドキの城主には会ったことあるけれど、悪名高いドクタケの城主とはどんな人なのだろう。
無作法があればすぐに斬られてしまったりして…。
嫌な想像に身震いした。
やめよう、考えても仕方ない。
私は深呼吸して気持ちを落ち着かせた。
「殿、失礼します。お食事をお持ちしました。」
八方斎さんに続いて部屋に入る。
大きな和室の真ん中に、ちょん髷を結ったお殿様が座っていた。
その横には…何だろう、あれは大きな馬の置物かな…が置かれていた。
お殿様はこちらを見ると怪訝そうな顔をした。
「八方斎、その女は何だ?」
「はい、これは忍術学園の食堂のおばちゃんを手伝っている者でして。くの一ではありませんが、料理の腕はそこそこのようです。もし殿がお気に召されましたら、こちらに引き抜くのもどうかと思いまして。」
!?
そんな話は聞いてない!
抗議の目を向けると、八方斎さんはにやりとこちらを見た。
「忍術学園にとっては戦力減、我々にとっては食の質の向上…一石二鳥です。」
まさか最初からそのつもりで…!?
いや、そんな感じは微塵もなかった。
もしかして、敵方である私に食事を作らせてしまったことへのこじつけ的な言い訳…!?
「殿、どちらから召し上がりますか?この者自身に毒味させましょう。」
「ふむ…そうだな。では、筑前煮から貰おうか。」
二人がじっとこちらを見つめる。
八方斎さんの目が、早く食べろと急かしている。
しかし、このまま食べて話を進めてもいいのだろうか。
ここは誤解の無いように最初にはっきり申し上げた方がいいのでは…。
私が手を膝に乗せたまま動かないのを見て、八方斎さんが苛立たし気に言った。
「どうした、まさか毒でも盛って自分では食べれない…なんてことはあるまいな?」
「ち、違います!そんなことあるわけ…」
「では早く食べるんだな。それとも、あらぬ疑いのために斬られることになってもいいのか?」
斬られる…!?
そう思った瞬間、一年は組のみんなと…半助さんの顔が思い浮かんだ。
だめだ。
私は、生きて帰らなくてはいけない…!
「わかりました…慎んで毒味させて頂きます。でも、私はここで働くつもりは…」
「お前に選択権はない。決めるのは殿だ。」
私の言葉を予想していたかのように、ピシャリと途中で遮られてしまった。
そう言いきられてしまっては二の句もつげず、私は大人しく筑前煮を頬張った。
「…何ともなさそうだな。」
「そうですね。殿、どうぞお召し上がりください。」
私が咀嚼して飲み込むと、安心したお殿様が同じように筑前煮を口にした。
その目が大きく見開かれる。
「こ、これは…!」
「殿、いかがなされましたか!?」
「旨い!!」
お殿様が目を細めて嬉しそうに笑った。
「八方斎、そちも食べてみよ。」
「は、ではお言葉に甘えまして…」
続いて食べた八方斎さんが同様に目を見開く。
「これは確かに…!忍術学園め、食堂のおばちゃんだけでなくこんな隠し球を持っていたとは…!」
「気に入った。お主名前は何という?」
お殿様がにこにことこちらを見た。
私は嫌な予感がして名乗るのを躊躇ったけれど、八方斎さんの鋭い目線に致し方なく名前を口にした。
「たまみと申します。」
「そうか。今の給料の二倍出すからここで働いてみんか?」
二倍!?
破格の申し出に言葉が一瞬出てこなかった。
勿論私には忍術学園以外の居場所なんて無いのだけれど、自分の仕事をここまで具体的に評価されたことは初めてで、純粋に嬉しかった。
「申し訳ありません。ありがたいお言葉ですが、私には帰りを待つ子ども達がいるので…。」
「ほう。では子連れで母子ともに城内に住み込んでも構わんぞ。」
「あ、そうじゃなくて…忍術学園の生徒達が、私を心配してくれていると思うので…!」
すると八方斎さんがおほんと咳をして割って入った。
「殿、もう少しお召し上がりになってから決めても遅くないかもしれません。まだ一口しか味見されてないでしょう。」
「そうだな。では次は…その味噌汁を貰おうか。具は何だ?」
私は話題がそれたことに安堵しつつ、お味噌汁から貝をひとつすくって見せた。
「貝と海草のお味噌汁です。」
その瞬間、八方斎さんの顔色がサッと変わった。
何事かと驚き固まると、彼は私の手元を指差し立ち上がった。
「その箸の変色…お前、まさか本当に毒を盛ったのか?!」
「え?」
見ると、確かに先程までは美しく輝いていた銀のお箸が一部変色しているようだった。
どういうことだろうとお箸を眺めていると、八方斎さんが指笛を鳴らした。
するとどこからか忍装束の男達が数人現れる。
「この者を捕らえよ!事もあろうか殿に毒を盛ろうとした!」
「えっ!?違います!私、毒なんて…!!」
「言い逃れはできんぞ。大人しいただの女かと見くびっていたが…誰に頼まれたのか、どうやったのか…ゆっくり吐かせてやる。」
八方斎さんが手を動かすと、周りを取り囲むように立っていた忍者達が私の方へにじり寄ってきた。
後ろは壁で、逃げ場がない…!
「引っ捕らえろ!」
「っ!!」
捕まる!
諦めかけた、その瞬間、
カカカカッ!
突然、畳に突き刺さる手裏剣。
ドクタケ忍者達は後ろに飛び退き避けた。
その瞬間。
黒い影に視界を遮られた。
黒く、大きく、逞しい背中。
そして。
「大丈夫か?!」
頭上から響く、愛しい声。
半助さん…!!!
幻かと思った。
半助さんは私を背に守るように隠し、苦無を手に持ち周囲を睨み付けていた。