第92話 差しのべられた手
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「起きろ!目を覚ませ。」
「ん………」
肩を叩かれて目が覚めた。
見慣れない風景…ここは…?
「!!」
そうだ、私は誘拐された…!?
慌てて周りを見渡すと、広くはない畳の部屋に先程の男がいる。
年配で顔が大きく、どこかで見たような顔だ。
「女、この密書の暗号を教えてもらおうか。」
男の手にはヒラヒラと先程の書簡。
自分の懐に手を当てるとそこには何もなかった。
「寝ている間に持ち物を調べさせてもらった。他に妙なものは持っていないようだな。」
「……ぇ…!?」
「ああ、調べたのはくノ一だから安心しなさい。」
私の動揺に気づき男が付け足した。
ほっとしたのも束の間、男の眼光が鋭くなり睨み付けられた。
「しかしこの手紙、一見したところ注文書にしか見えない。これがどういう暗号なのか…もしくはこの手紙の主旨くらいは知っているだろう。」
男が詰め寄ってきた。
ただでさえ大きな顔がドアップになり後ずさる。
「し、知りません。私、ただ買い出しの付き添いでついてきただけですから…!」
「正直に話さないと痛い目を見るぞ?」
「ほんとに知らないんです!それは他の人が落としたのを拾っただけで…!」
「なにぃ~?」
男がジロリと私の目を覗き込んだ。
目をそらしたいのをグッとこらえて真っ直ぐに見つめ返す。
「おや、お前…もしかして土井半助の女か?」
「えっ!?」
突然の名前にびっくりして否定し損ねてしまった。
私の反応に男が眉間に皺を寄せた。
「風鬼っ!風鬼はいるか!?」
「はっ!八方斎様ここに。」
突然、丸眼鏡の忍者が現れた。
八方斎…!?
思い出した!
以前、乱太郎くんが忍術学園周辺のくせ者の似顔絵を描いて教えてくれたなかに八方斎という男がいた。
私は人の顔と名前を覚えるのが苦手だけれど、こんな特徴的な顔をどうしてすぐに思い出せなかったのだろう。
しかし、ということはここはドクタケの領地なのだろうか。
「風鬼、確か正月に土井半助の女を見たと言っていたな。こいつがそうか?」
暗い煉瓦色の忍装束を纏った男がちらりとこちらを見て頷いた。
「はい、土井半助と餅をついて夫婦と言われていたのはこの女ですね。」
「夫婦?結婚していたのか?」
二人がじっとこちらを見てきた。
そういえばお正月に餅つき大会に参加したとき、同じ丸眼鏡の男性がいたような。
そのとき和尚さんは私と半助さんを夫婦だと勘違いしていて、何となくその場では訂正もせずにそのまま流していたのだった。
「結婚は…その、それは誤解というか……」
「でも土井半助と仲睦まじく歩いている姿も見ましたよ。」
「そ…それは……えっと、私はただの食堂のお手伝いなだけで…」
土井先生との仲を話してよいのか分からず、私は赤くなりながら目を伏せてごまかそうとした。
すると八方斎と呼ばれた男が当惑したように質問した。
「ではお前、くの一では…」
「ありません。」
はっきりと否定すると頭上から大きなため息が聞こえた。
「おいおいおい、誰だこんなやつを連れてきたのは…!忍具を一つも持っていないと報告があったからおかしいと思ったんだ。大事な密書を忍者でもない女が持っているとも考えにくい…この書簡はハズレだ。ぬうぅ、土井半助に知られると面倒なことになるぞ!」
「お言葉ですが捕らえよとご命令されたのは八方斎様かと…。」
「ええいうるさい!しかしこうなってしまってはもう後には引けん。」
こちらを忌々しそうに睨み付けてくる。
そっちが間違って連れてきたくせに、どうして私がそんな顔で邪魔者のように思われなくちゃいけないの…!
「我々が密書を狙っていると忍術学園に知られては困る。密書を手にいれるまでこの女を帰すわけにはいかんな。」
「え…」
「八方斎様、それでは今ちょうど炊事担当者に欠員が出て人手が足りていないので、ついでにそこで働いて貰っては…。」
「ふむ…毒は持っていないようだしな。食堂のおばちゃんと並んで仕事をしているのだから料理の腕は期待してもいいのかもしれんな。」
「ちょ、ちょっと待ってください!私、晩御飯の買い出しの途中なのですぐに帰らなくては…!」
慌ててそう言うと、八方斎さんはズイッと顔を近づけて有無を言わせぬ口調で告げた。
「密書を手にいれるまで解放することはできん。地下牢に繋がれるのと、炊事場で働くのとどちらがいい?」
地下牢…!
半助さんが見たという夢の話を思い出した。
牢屋に入れられるよりは、炊事場で働く方が逃げるチャンスがあるかもしれない…。
「では…炊事場でお願いします。」
「物わかりがよくてよろしい。妙なことは考えるなよ。風鬼、案内してやれ。」
「はっ。」
こうして私はドクタケの炊事場で晩御飯作りを手伝うことになってしまった。
炊事場では調理担当の人達が忙しそうに働いていた。
たった二人だけで他に手伝ってくれる人もなく全員分の食事を用意しているようで、殺伐としている。
私が挨拶すると、深く事情を聞かれることもなく、ありがたいとばかりに沢山の野菜を渡され皮を向いて切るように言われた。
下処理は手慣れているとはいえ、勝手がよく分からずオタオタしてしまう。
すると年配の女性がすぐに色々と声をかけ指示をしてくれた。
別に私は職員でも何でもないのだから真面目に働く必要はないのたけれど、何となくその場の雰囲気にのまれ急いで水場へ行きじゃがいもを洗った。
すると、後ろから可愛い声が聞こえてきた。
「新しい食堂の人~?」
振り返るとそこには一年は組の子達と同じくらいの子ども達が並んで立っていた。
「いいえ、私はちょっと訳あって手伝ってるだけ。あなた達は?」
「私は山ぶ鬼。こっちがしぶ鬼で、こっちがふぶ鬼、いぶ鬼。」
皆同じような名前だな…本名なのかな。
丸眼鏡の小さな忍者さん達は珍しいものを見る目で私をマジマジと眺めた。
「あれ、この人、前に乱太郎が似顔絵見せてくれた人じゃない?」
「あー、ほんとだ。土井先生の彼女だ!」
「えっ!?いやいや、私と土井先生は…っていうか、乱太郎くん達を知ってるの?」
「うん、たまに一緒に…」
子ども達が何か言おうとしたとき、遠くから男性の声がした。
「こらこら、教室はこっちですよ。寄り道しないで戻りなさい。」
少し派手な出で立ちの丸眼鏡の男性は、子ども達を誘導すると途中でぴたりと足を止めた。
こちらを振り返り、じっと私を見つめる。
「あなたがたまみさんですね。お噂はかねがね。」
意味深な言葉にとりあえず頭を下げて会釈した。
…噂って、一体どんな噂が流れているのだろう。
「私はドクタケ忍術教室の教師をしている魔界之です。土井先生とも同じ教師として交流がありまして。あなたのことは聞いていますよ。」
眼鏡のせいで表情は読み取りにくいものの、友好的で親しみやすい雰囲気の男性だった。
土井先生の知り合いなのなら…!
私は歩み寄って頼み込んだ。
「私、勘違いで連れてこられたんです。どうかここから逃がして貰えないでしょうか…?」
魔界之先生は困ったように首をふる。
「いや~申し訳ないのですが、さすがに私にも立場がありますからね。」
「そ…そうですよね…、すみません…。」
確かに…。
自分勝手なことを言ってしまったと反省したとき、魔界之先生が「でもね。」と肩にぽんと手を置いた。
「王子様にあなたの居場所が分かりやすいよう目印を置いておいてあげましょう。大丈夫、土井先生の婚約者だと知っていて手を出すようなことはきっとないでしょうから。」
「こ、婚約者では…!」
「おや違いましたか?まぁいずれにせよもう少しの辛抱です。」
すると遠くから子ども達の声が聞こえ、彼は「では。」と言うとすぐに走り去ってしまった。
私はその背をしばらく眺めながら、仕方がないと覚悟を決めて目の前の仕事に集中することにした。
きっと半助さんが助けに来てくれる…そう信じて。
「ん………」
肩を叩かれて目が覚めた。
見慣れない風景…ここは…?
「!!」
そうだ、私は誘拐された…!?
慌てて周りを見渡すと、広くはない畳の部屋に先程の男がいる。
年配で顔が大きく、どこかで見たような顔だ。
「女、この密書の暗号を教えてもらおうか。」
男の手にはヒラヒラと先程の書簡。
自分の懐に手を当てるとそこには何もなかった。
「寝ている間に持ち物を調べさせてもらった。他に妙なものは持っていないようだな。」
「……ぇ…!?」
「ああ、調べたのはくノ一だから安心しなさい。」
私の動揺に気づき男が付け足した。
ほっとしたのも束の間、男の眼光が鋭くなり睨み付けられた。
「しかしこの手紙、一見したところ注文書にしか見えない。これがどういう暗号なのか…もしくはこの手紙の主旨くらいは知っているだろう。」
男が詰め寄ってきた。
ただでさえ大きな顔がドアップになり後ずさる。
「し、知りません。私、ただ買い出しの付き添いでついてきただけですから…!」
「正直に話さないと痛い目を見るぞ?」
「ほんとに知らないんです!それは他の人が落としたのを拾っただけで…!」
「なにぃ~?」
男がジロリと私の目を覗き込んだ。
目をそらしたいのをグッとこらえて真っ直ぐに見つめ返す。
「おや、お前…もしかして土井半助の女か?」
「えっ!?」
突然の名前にびっくりして否定し損ねてしまった。
私の反応に男が眉間に皺を寄せた。
「風鬼っ!風鬼はいるか!?」
「はっ!八方斎様ここに。」
突然、丸眼鏡の忍者が現れた。
八方斎…!?
思い出した!
以前、乱太郎くんが忍術学園周辺のくせ者の似顔絵を描いて教えてくれたなかに八方斎という男がいた。
私は人の顔と名前を覚えるのが苦手だけれど、こんな特徴的な顔をどうしてすぐに思い出せなかったのだろう。
しかし、ということはここはドクタケの領地なのだろうか。
「風鬼、確か正月に土井半助の女を見たと言っていたな。こいつがそうか?」
暗い煉瓦色の忍装束を纏った男がちらりとこちらを見て頷いた。
「はい、土井半助と餅をついて夫婦と言われていたのはこの女ですね。」
「夫婦?結婚していたのか?」
二人がじっとこちらを見てきた。
そういえばお正月に餅つき大会に参加したとき、同じ丸眼鏡の男性がいたような。
そのとき和尚さんは私と半助さんを夫婦だと勘違いしていて、何となくその場では訂正もせずにそのまま流していたのだった。
「結婚は…その、それは誤解というか……」
「でも土井半助と仲睦まじく歩いている姿も見ましたよ。」
「そ…それは……えっと、私はただの食堂のお手伝いなだけで…」
土井先生との仲を話してよいのか分からず、私は赤くなりながら目を伏せてごまかそうとした。
すると八方斎と呼ばれた男が当惑したように質問した。
「ではお前、くの一では…」
「ありません。」
はっきりと否定すると頭上から大きなため息が聞こえた。
「おいおいおい、誰だこんなやつを連れてきたのは…!忍具を一つも持っていないと報告があったからおかしいと思ったんだ。大事な密書を忍者でもない女が持っているとも考えにくい…この書簡はハズレだ。ぬうぅ、土井半助に知られると面倒なことになるぞ!」
「お言葉ですが捕らえよとご命令されたのは八方斎様かと…。」
「ええいうるさい!しかしこうなってしまってはもう後には引けん。」
こちらを忌々しそうに睨み付けてくる。
そっちが間違って連れてきたくせに、どうして私がそんな顔で邪魔者のように思われなくちゃいけないの…!
「我々が密書を狙っていると忍術学園に知られては困る。密書を手にいれるまでこの女を帰すわけにはいかんな。」
「え…」
「八方斎様、それでは今ちょうど炊事担当者に欠員が出て人手が足りていないので、ついでにそこで働いて貰っては…。」
「ふむ…毒は持っていないようだしな。食堂のおばちゃんと並んで仕事をしているのだから料理の腕は期待してもいいのかもしれんな。」
「ちょ、ちょっと待ってください!私、晩御飯の買い出しの途中なのですぐに帰らなくては…!」
慌ててそう言うと、八方斎さんはズイッと顔を近づけて有無を言わせぬ口調で告げた。
「密書を手にいれるまで解放することはできん。地下牢に繋がれるのと、炊事場で働くのとどちらがいい?」
地下牢…!
半助さんが見たという夢の話を思い出した。
牢屋に入れられるよりは、炊事場で働く方が逃げるチャンスがあるかもしれない…。
「では…炊事場でお願いします。」
「物わかりがよくてよろしい。妙なことは考えるなよ。風鬼、案内してやれ。」
「はっ。」
こうして私はドクタケの炊事場で晩御飯作りを手伝うことになってしまった。
炊事場では調理担当の人達が忙しそうに働いていた。
たった二人だけで他に手伝ってくれる人もなく全員分の食事を用意しているようで、殺伐としている。
私が挨拶すると、深く事情を聞かれることもなく、ありがたいとばかりに沢山の野菜を渡され皮を向いて切るように言われた。
下処理は手慣れているとはいえ、勝手がよく分からずオタオタしてしまう。
すると年配の女性がすぐに色々と声をかけ指示をしてくれた。
別に私は職員でも何でもないのだから真面目に働く必要はないのたけれど、何となくその場の雰囲気にのまれ急いで水場へ行きじゃがいもを洗った。
すると、後ろから可愛い声が聞こえてきた。
「新しい食堂の人~?」
振り返るとそこには一年は組の子達と同じくらいの子ども達が並んで立っていた。
「いいえ、私はちょっと訳あって手伝ってるだけ。あなた達は?」
「私は山ぶ鬼。こっちがしぶ鬼で、こっちがふぶ鬼、いぶ鬼。」
皆同じような名前だな…本名なのかな。
丸眼鏡の小さな忍者さん達は珍しいものを見る目で私をマジマジと眺めた。
「あれ、この人、前に乱太郎が似顔絵見せてくれた人じゃない?」
「あー、ほんとだ。土井先生の彼女だ!」
「えっ!?いやいや、私と土井先生は…っていうか、乱太郎くん達を知ってるの?」
「うん、たまに一緒に…」
子ども達が何か言おうとしたとき、遠くから男性の声がした。
「こらこら、教室はこっちですよ。寄り道しないで戻りなさい。」
少し派手な出で立ちの丸眼鏡の男性は、子ども達を誘導すると途中でぴたりと足を止めた。
こちらを振り返り、じっと私を見つめる。
「あなたがたまみさんですね。お噂はかねがね。」
意味深な言葉にとりあえず頭を下げて会釈した。
…噂って、一体どんな噂が流れているのだろう。
「私はドクタケ忍術教室の教師をしている魔界之です。土井先生とも同じ教師として交流がありまして。あなたのことは聞いていますよ。」
眼鏡のせいで表情は読み取りにくいものの、友好的で親しみやすい雰囲気の男性だった。
土井先生の知り合いなのなら…!
私は歩み寄って頼み込んだ。
「私、勘違いで連れてこられたんです。どうかここから逃がして貰えないでしょうか…?」
魔界之先生は困ったように首をふる。
「いや~申し訳ないのですが、さすがに私にも立場がありますからね。」
「そ…そうですよね…、すみません…。」
確かに…。
自分勝手なことを言ってしまったと反省したとき、魔界之先生が「でもね。」と肩にぽんと手を置いた。
「王子様にあなたの居場所が分かりやすいよう目印を置いておいてあげましょう。大丈夫、土井先生の婚約者だと知っていて手を出すようなことはきっとないでしょうから。」
「こ、婚約者では…!」
「おや違いましたか?まぁいずれにせよもう少しの辛抱です。」
すると遠くから子ども達の声が聞こえ、彼は「では。」と言うとすぐに走り去ってしまった。
私はその背をしばらく眺めながら、仕方がないと覚悟を決めて目の前の仕事に集中することにした。
きっと半助さんが助けに来てくれる…そう信じて。