第91話 密書
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忍術学園の近くの木の上。
私はタソガレドキ忍軍組頭の命令で忍術学園の密書を奪おうと様子を伺っていた。
タソガレドキは今戦争真っ只中。
その戦相手が忍術学園に救援依頼を送ったのではないかとの情報があった。
その返事が記されているであろう密書を奪い、内容を改ざんしたうえで戦相手に渡すというのが今回の忍務だ。
「じゃあ尊奈門あとはよろしく」なんて組頭は気軽に言うが、忍術学園も馬鹿ではない。
我々の姿は確認されていないと思うが、恐らくは偽の密書を持った生徒が数人学園から出ていった。
あれは囮だろうと予想はできたが放置するわけにもいかず、仲間を一人ずつ尾行に向かわせた。
さて、あとは誰が出てくるか…。
じっと木の上から様子を探っていると、突然物凄い殺気に襲われた。
反射的に苦無を手にした瞬間、
「ぐぁっ!!」
首と後頭部に衝撃が走った。
こちらが構えるより速く、首を木に押さえつけられた。
チリッとした痛みとともに苦無がつきつけられる。
「彼女はどこだ?」
「ど、い…はん、すけっ!?」
低く冷たい声。
感情を押し殺した酷く冷たい目。
虚ろにすら見えるその眼差しは殺気を放ち、一瞬で鳥肌が立った。
首を押さえる腕に更に力が込められる。
「ぐっ…!」
「質問に答えろ。たまみはどこだ?」
たまみさん!?
彼女に、何かあったのか?
「なん、の、ことだ…!」
見たこともない、鋭く冷たい眼差し。
思わず背筋が凍る程の殺気。
こいつ、本気だ…!!
つきつけられた苦無が首に当たり、私は慌てて声を振り絞った。
「我々の目的は密書だ!彼女のことは知らない!」
「嘘をつくな。今すぐ…」
「本当だ!」
真っ直ぐに見返して睨み付けると、土井半助の腕が微かに緩んだ。
その隙をつき腕を払いのけ、体勢を整える。
「げほっ、げほっ…!」
「…本当に、知らないんだな?」
「そう言っているだろう!」
「そう、か……。」
先程迄の殺気が消え失せ、土井半助が己の前髪をくしゃりと握った。
目を伏せ、ぐっと歯を噛みしめている。
「…彼女が、いなくなったのか。」
「………」
この男が、これほどに取り乱すところを初めて見た。
いつも生徒とともに穏やかに笑い、ときに大声で叱りつけながらも、このような殺気を飛ばすほど激情のまま怒りを表している姿は見たことがない。
「…何か、知らないか?」
ひどく焦りの滲んだ声。
いつも余裕ぶって私をあしらってきた男のものとは思えない。
「……何故、犯人がタソガレドキだと思ったんだ。その辺の誘拐犯かもしれないだろう。」
「…その可能性も否定できないが…。彼女は、密書を持っていると勘違いされた可能性がある。」
土井半助が苦々しげに言った。
何かそのへんの事情があったのだろう。
「それで、密書を狙っている我々が犯人ではないかと?」
「そうだ。」
「お前にしてはお粗末だな。まず狙われていると分かっている女をむざむざ拐われてしまうなどとんだ手落ちだ。しかも敵である私にそんな情報を教えてどうする?都合よく利用されるとは思わないのか?」
「…きみは、そんなことしないだろう。」
「…っ!」
普段の土井なら信頼の言葉とも受け取れそうな台詞だが、それは脅しのような声音だった。
だが私だって忍者の端くれ…利用できるものは…情報も…何でも利用する。
………しかし…。
最後に見た彼女の顔が脳裏を掠めた。
あれはいつだったか、土井半助の隙をつこうと忍術学園に忍び込み様子を伺っていたとき。
彼女は、こいつの洗濯物を嬉しそうに洗っていた。
タソガレドキで見た彼女はひどく緊張して怯えていたが、こんな穏やかな笑顔を見せるのだなと驚き…潜入した目的も忘れて魅入ってしまった。
そしてその先に、ニヤニヤしながら彼女を見つめる土井半助を発見し、理由の分からない怒りのような感情が沸いてきたのだった…。
そんな彼女が、こいつがふがいないせいで今危険な目にあっているだと…。
黄昏甚兵衛様も彼女を狙っているが今回は違う。
…何故か分からないが、腹が立ってきた。
「お前がついていながら情けない!」
「……返す言葉もない…」
悔しげに目をそらす土井半助を見ると無性にイライラしてきた。
しっかりしろよ!
お前だったら彼女を幸せにできそうだからと私は……!
「!?」
なんだ。
だから私は…何なんだ?
その先の答えを、私は無理矢理遮って消した。
「…いいことを教えてやる。」
「え?」
「密書を狙ってるのは、タソガレドキ以外にもうひとついるぞ。」
私の言葉に、土井半助の目が光った。
「どこだ?」
「三回まわってワンと言ったら教えてやろう。」
怒るかと思いきや、土井半助は意外にも少し考えた。
「…それはできないが…今度ちゃんとした武器できみと一対一で勝負しよう。」
「!」
土井半助の目は真剣だった。
これは、その場しのぎの嘘ではない。
「いいだろう、約束だ。…実は、さっき見かけたんたが……」
小声で教えてやると、土井半助は目を見開き「そうか…」と呟きながら私の肩をポンと叩いた。
「ありがとう、尊奈門くん。」
「気安く触るな!」
「すまない、じゃあまた勝負はいずれ。…さっきは手荒なことをしてすまなかった。」
そう言うと奴は一瞬で姿を消した。
おいおい、私が密書を奪おうとしている件はどうでもいいのかよ…。
ふーっと息を吐く。
土井半助のやつ、あんな怖い顔もできるんだな…。
本気を出されたら私では太刀打ちできないんじゃ…。
いやいや、何を弱気になっている。
私は首を振って東の方角を見た。
もしかすると、彼女がいるかもしれない方角を。
「…無事ならいいが…。」
大丈夫だ。
彼女のことは、あいつがついてるから何とかなるだろう。
私はため息をつくと、自分の忍務を全うすべく意識を集中させた。
私はタソガレドキ忍軍組頭の命令で忍術学園の密書を奪おうと様子を伺っていた。
タソガレドキは今戦争真っ只中。
その戦相手が忍術学園に救援依頼を送ったのではないかとの情報があった。
その返事が記されているであろう密書を奪い、内容を改ざんしたうえで戦相手に渡すというのが今回の忍務だ。
「じゃあ尊奈門あとはよろしく」なんて組頭は気軽に言うが、忍術学園も馬鹿ではない。
我々の姿は確認されていないと思うが、恐らくは偽の密書を持った生徒が数人学園から出ていった。
あれは囮だろうと予想はできたが放置するわけにもいかず、仲間を一人ずつ尾行に向かわせた。
さて、あとは誰が出てくるか…。
じっと木の上から様子を探っていると、突然物凄い殺気に襲われた。
反射的に苦無を手にした瞬間、
「ぐぁっ!!」
首と後頭部に衝撃が走った。
こちらが構えるより速く、首を木に押さえつけられた。
チリッとした痛みとともに苦無がつきつけられる。
「彼女はどこだ?」
「ど、い…はん、すけっ!?」
低く冷たい声。
感情を押し殺した酷く冷たい目。
虚ろにすら見えるその眼差しは殺気を放ち、一瞬で鳥肌が立った。
首を押さえる腕に更に力が込められる。
「ぐっ…!」
「質問に答えろ。たまみはどこだ?」
たまみさん!?
彼女に、何かあったのか?
「なん、の、ことだ…!」
見たこともない、鋭く冷たい眼差し。
思わず背筋が凍る程の殺気。
こいつ、本気だ…!!
つきつけられた苦無が首に当たり、私は慌てて声を振り絞った。
「我々の目的は密書だ!彼女のことは知らない!」
「嘘をつくな。今すぐ…」
「本当だ!」
真っ直ぐに見返して睨み付けると、土井半助の腕が微かに緩んだ。
その隙をつき腕を払いのけ、体勢を整える。
「げほっ、げほっ…!」
「…本当に、知らないんだな?」
「そう言っているだろう!」
「そう、か……。」
先程迄の殺気が消え失せ、土井半助が己の前髪をくしゃりと握った。
目を伏せ、ぐっと歯を噛みしめている。
「…彼女が、いなくなったのか。」
「………」
この男が、これほどに取り乱すところを初めて見た。
いつも生徒とともに穏やかに笑い、ときに大声で叱りつけながらも、このような殺気を飛ばすほど激情のまま怒りを表している姿は見たことがない。
「…何か、知らないか?」
ひどく焦りの滲んだ声。
いつも余裕ぶって私をあしらってきた男のものとは思えない。
「……何故、犯人がタソガレドキだと思ったんだ。その辺の誘拐犯かもしれないだろう。」
「…その可能性も否定できないが…。彼女は、密書を持っていると勘違いされた可能性がある。」
土井半助が苦々しげに言った。
何かそのへんの事情があったのだろう。
「それで、密書を狙っている我々が犯人ではないかと?」
「そうだ。」
「お前にしてはお粗末だな。まず狙われていると分かっている女をむざむざ拐われてしまうなどとんだ手落ちだ。しかも敵である私にそんな情報を教えてどうする?都合よく利用されるとは思わないのか?」
「…きみは、そんなことしないだろう。」
「…っ!」
普段の土井なら信頼の言葉とも受け取れそうな台詞だが、それは脅しのような声音だった。
だが私だって忍者の端くれ…利用できるものは…情報も…何でも利用する。
………しかし…。
最後に見た彼女の顔が脳裏を掠めた。
あれはいつだったか、土井半助の隙をつこうと忍術学園に忍び込み様子を伺っていたとき。
彼女は、こいつの洗濯物を嬉しそうに洗っていた。
タソガレドキで見た彼女はひどく緊張して怯えていたが、こんな穏やかな笑顔を見せるのだなと驚き…潜入した目的も忘れて魅入ってしまった。
そしてその先に、ニヤニヤしながら彼女を見つめる土井半助を発見し、理由の分からない怒りのような感情が沸いてきたのだった…。
そんな彼女が、こいつがふがいないせいで今危険な目にあっているだと…。
黄昏甚兵衛様も彼女を狙っているが今回は違う。
…何故か分からないが、腹が立ってきた。
「お前がついていながら情けない!」
「……返す言葉もない…」
悔しげに目をそらす土井半助を見ると無性にイライラしてきた。
しっかりしろよ!
お前だったら彼女を幸せにできそうだからと私は……!
「!?」
なんだ。
だから私は…何なんだ?
その先の答えを、私は無理矢理遮って消した。
「…いいことを教えてやる。」
「え?」
「密書を狙ってるのは、タソガレドキ以外にもうひとついるぞ。」
私の言葉に、土井半助の目が光った。
「どこだ?」
「三回まわってワンと言ったら教えてやろう。」
怒るかと思いきや、土井半助は意外にも少し考えた。
「…それはできないが…今度ちゃんとした武器できみと一対一で勝負しよう。」
「!」
土井半助の目は真剣だった。
これは、その場しのぎの嘘ではない。
「いいだろう、約束だ。…実は、さっき見かけたんたが……」
小声で教えてやると、土井半助は目を見開き「そうか…」と呟きながら私の肩をポンと叩いた。
「ありがとう、尊奈門くん。」
「気安く触るな!」
「すまない、じゃあまた勝負はいずれ。…さっきは手荒なことをしてすまなかった。」
そう言うと奴は一瞬で姿を消した。
おいおい、私が密書を奪おうとしている件はどうでもいいのかよ…。
ふーっと息を吐く。
土井半助のやつ、あんな怖い顔もできるんだな…。
本気を出されたら私では太刀打ちできないんじゃ…。
いやいや、何を弱気になっている。
私は首を振って東の方角を見た。
もしかすると、彼女がいるかもしれない方角を。
「…無事ならいいが…。」
大丈夫だ。
彼女のことは、あいつがついてるから何とかなるだろう。
私はため息をつくと、自分の忍務を全うすべく意識を集中させた。