第91話 密書
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「たまみ、そろそろ起きないと。」
「…ん……?」
重い瞼をあけると、そこには半助さんがいた。
「……?」
あれ、どうして半助さんが?
ここは半助さんの家…?
寝ぼけ眼で周りを見渡してみる。
けれどやはりここは忍術学園の私の部屋だった。
ぼーっとする頭で何故半助さんがここにいるのか考えていると、彼が眉をハの字にして私の頬に触れた。
「勝手に入ってすまない。変な夢を見て…たまみが心配だったんだ。」
「夢…?」
「うん…。」
腕を引かれ、そっと抱きしめられた。
どうしたのだろう…。
「きみがどこかにさらわれて、必死に探している夢を見たんだ。」
肩を抱く腕に力が込められる。
触れた夜着は冷たくて、もしかすると長くここにいたのではないかと思った。
夢とはいえ半助さんを不安にさせてしまったことに胸が痛む。
そして不謹慎ながらも、心配してこうして傍に居てくれたことが嬉しかった。
私は彼の背中をゆるゆると撫でた。
「大丈夫…私はここにいますよ。」
半助さんは暫く無言で私を抱きしめていたが、やがてゆっくり肩を離すと私の目を真っ直ぐに見た。
「たまみ、暫く外出するときは必ず私を連れていってくれ。」
「そんなに心配しなくても…。」
子どもじゃないんだから、と言いかけてやめた。
半助さんの目はとても真剣だった。
「…でももし半助さんが授業とかで居なかったら?」
「…なるべく待っていて欲しいけど、どうしてもというときは…誰か他の先生と一緒に行ってくれ。」
「わかりました。」
「あと、忍術学園の中でも人気のないところには一人で行かないで。曲者が入ることもあるし、用心しておくにこしたことはない。」
難しい顔をして心配してくれる半助さん。
一体どんな夢だったのだろう…。
「じゃあ…ですね、」
「ん?」
「これから夜はここで一緒に寝てくれますか?」
どさくさに紛れておねだりしてみた。
期待を込めてじっと見つめると、半助さんは「えっ」と驚き顔を赤くした。
「そ、それは……ほら、たまにとかならあれだけど…誰かに見つかったら…というかだな…」
しどろもどろに困っているのがすごく可愛い。
しかしここは忍術学園。
そんな我儘が通るはずがないのは十分に分かっている。
でももう一言だけおしてみよう。
「だって、半助さんがそんな夢見たっていうから…」
「!」
半助さんがぎゅっと私を抱きしめた。
「怖がるようなことを言ってすまない…。じゃあ…頑張るよ。」
「えっ、あの…頑張るって…夜通し見張りしてほしいのではなくて、ただ一緒に寝るだけですよ?」
「あー、うん、だからね…」
半助さんが天井を見上げながら言いにくそうに頬をかいた。
「一緒に寝るだけというのがね…。」
「…?」
「毎晩…その…たまみが欲しくなるのを頑張って我慢するという意味。」
「!」
そう言うと半助さんは私の額に唇で触れた。
その優しい口づけに、私は自然と本音を溢した。
「我慢しなくても…」
そっと、彼の耳元で小さく囁いた。
「私は…いつでも…。」
「…!!」
急に視界がぐらりとし、気づけば布団に押し倒されていた。
「…またそんなことを言って…。」
彼の前髪が頬に触れ、肩口に強く吸い付かれた。
「…っ」
首に息がかかりぞくりとする。
半助さんはゆっくりと唇を離すとそこに優しく口づけ、小さく呟いた。
「…きみの誘惑に勝てる気がしない…。」
困惑と欲望の混ざった声音。
私を欲してくれることが嬉しくて、彼の背中に腕を回して抱きしめた。
半助さんの熱いため息が首筋にかかりびくりと反応してしまう。
すると彼は突然バッと体を離して座り直した。
赤い顔を片手で隠すように覆い、咳払いをする。
「だめだ、これ以上は止まらなくなる…。とりあえず、夜間の身の安全については山田先生とも一度相談するから。」
夜間の身の安全だなんて、わざと堅苦しい言葉を選んで業務的な言い方をする。
我が儘を言ってしまい嫌がられたかな、と一瞬不安になった。
けれど、彼の表情からは嫌がっているように見えなかった。
半助さんは赤い顔のまま少し壁の方を見ていて、やがて暫くするととても真剣な表情で真っ直ぐに私を見た。
「だから、とにかく、絶対に一人で外出しないように。」
「はぁい。」
素直に返事をすると、半助さんは「いいこだ」と私の頭を撫でて少し安心したように部屋を出ていった。
夢を見ただけで心配性だなぁ…と思う反面、実際に今までにも色々あったので杞憂だと言いきることもできない。
今更ながらちょっと不安な気持ちになったけれど、外出時に半助さんについてきてもらういい口実ができた…更に上手くいけば半助さんと暫く朝まで一緒に居られるかもしれないと前向きに考えることにした。
昼食後。
食堂のおばちゃんと後片付けをしていると、小松田さんが食堂に入ってきた。
「おばちゃん、まだランチ残ってますかぁ~?」
「残り物でよければあるわよ!」
「よかったぁ。掃除してたら遅くなっちゃって。」
椅子に腰かける小松田さん。
「まだ途中なのに学園長先生には町まで届け物を頼まれるし…。」
「あら、町まで行くの?じゃあついでにこれも買ってきてくれないかしら。」
食堂のおばちゃんが小松田さんに紙を渡す。
そこには、今日の夕飯で使う材料が書いてあった。
「いいですけど、随分たくさんありますねぇ。」
「「あ」」
小松田さんの言葉に、私と食堂のおばちゃんが目を見合わせた。
小松田さんが全然違うものを買ってきてしまう姿が容易に想像できた。
確かに今日の買い出しリストは細々したものが多かったのだ。
「わ、私も一緒に行きましょうか…。」
気づけばそう口にしていた。
だって、食堂のおばちゃんに行かせるわけにはいかない…。
私は仕方なく小松田さんと町まで行くことになってしまった。
今朝の半助さんの言葉が脳裏をよぎり、一抹の不安が胸を掠めたけれど、小松田さんだって教職員の一人。
きっと大丈夫なはず…。
半助さんは実技の授業からまだ戻っていなかったので、私は書き置きを残して小松田さんと町に向かうことにした。
「いやぁ、二人でおつかいとか土井先生に焼きもちやかれちゃいそうですねぇ。」
「そ、そんなことは…」
学園を出て町まで歩く道すがら、小松田さんがのほほんとそんなことを言う。
なんと返したらよいのかよく分からなくて、私は曖昧に笑ってごまかした。
「そういえば、小松田さんは何をどこに届けるよう頼まれたんですか?」
「そうそう、学園長先生からこの手紙をお饅頭屋さんに届けるようにと………あれ?」
「どうしました?」
「…無い!」
「え?」
「手紙が無い!!」
「えぇっ!!」
小松田さんが懐や荷物入れにしている風呂敷をバサバサと翻した。
「あ、きっと机の上に置いてきちゃったんだ!!僕、急いで取ってきますからここで待っていてくださいっっ!!」
「え、ちょっ、小松田さん…!!」
止めるのも間に合わず、猛ダッシュで走っていく小松田さん。
一人ポツンと残された私は非常に焦った。
どうしよう、一人で外を歩かないって約束したばっかりなのに…!
学園を出て既に結構歩いてきた。
引き返すために一人で歩くのと、この場に留まって待つのと、どちらの方がいいのだろう。
「ん?」
何かが風で飛んで近くの岩にひっかかった。
「これ…!」
それは書簡だった。
「さっき風呂敷を広げたとき、落ちたのに気がつかなかったんだ…!」
心の中で小松田さんと大きく叫んで呼んでみるも、もう彼の姿はどこにも見当たらなくて。
これじゃあいくらここで待っても小松田さんが手紙を見つけて戻ってくることはないだろう。
「仕方ない…戻るしかないかぁ…。」
私は書簡を失くさないよう懐にしまいこみ、周りをキョロキョロと警戒しながら一人で戻ることにした。
と、その時。
「おい、女。」
「!」
見るからに怪しげな男の人に声をかけられた。
この顔、どこかで見たことあるような…。
「その密書を渡しなさい。」
「密書?」
「とぼけるんじゃない。お前達の動向は見張っていた。痛い目にあいたくなければ大人しく渡すんだな。」
密書…って、小松田さんが落としていったこの書簡のことだろうか。
まさか、これは学園長先生からお饅頭屋さんに宛てた手紙のはず…。
「密書なんて、知りません。」
ハッキリと断ると、男の表情が険しくなった。
「そうか、いいだろう。騒がれても面倒だし連れ帰るぞ。」
「ハッ!」
「!!」
どこからか忍装束を着た忍者が数人現れ羽交い締めにされた。
「や、やめてくださ……ぅっ!」
布のようなもので口元を塞がれた。
何かの薬かと思ったときにはもう息を吸い込んでしまっていて、急に意識が薄らぐ。
「……ぁ…」
消え行く意識のなかで半助さんに助けを求めながら、私はなすすべなく気を失った。
「…ん……?」
重い瞼をあけると、そこには半助さんがいた。
「……?」
あれ、どうして半助さんが?
ここは半助さんの家…?
寝ぼけ眼で周りを見渡してみる。
けれどやはりここは忍術学園の私の部屋だった。
ぼーっとする頭で何故半助さんがここにいるのか考えていると、彼が眉をハの字にして私の頬に触れた。
「勝手に入ってすまない。変な夢を見て…たまみが心配だったんだ。」
「夢…?」
「うん…。」
腕を引かれ、そっと抱きしめられた。
どうしたのだろう…。
「きみがどこかにさらわれて、必死に探している夢を見たんだ。」
肩を抱く腕に力が込められる。
触れた夜着は冷たくて、もしかすると長くここにいたのではないかと思った。
夢とはいえ半助さんを不安にさせてしまったことに胸が痛む。
そして不謹慎ながらも、心配してこうして傍に居てくれたことが嬉しかった。
私は彼の背中をゆるゆると撫でた。
「大丈夫…私はここにいますよ。」
半助さんは暫く無言で私を抱きしめていたが、やがてゆっくり肩を離すと私の目を真っ直ぐに見た。
「たまみ、暫く外出するときは必ず私を連れていってくれ。」
「そんなに心配しなくても…。」
子どもじゃないんだから、と言いかけてやめた。
半助さんの目はとても真剣だった。
「…でももし半助さんが授業とかで居なかったら?」
「…なるべく待っていて欲しいけど、どうしてもというときは…誰か他の先生と一緒に行ってくれ。」
「わかりました。」
「あと、忍術学園の中でも人気のないところには一人で行かないで。曲者が入ることもあるし、用心しておくにこしたことはない。」
難しい顔をして心配してくれる半助さん。
一体どんな夢だったのだろう…。
「じゃあ…ですね、」
「ん?」
「これから夜はここで一緒に寝てくれますか?」
どさくさに紛れておねだりしてみた。
期待を込めてじっと見つめると、半助さんは「えっ」と驚き顔を赤くした。
「そ、それは……ほら、たまにとかならあれだけど…誰かに見つかったら…というかだな…」
しどろもどろに困っているのがすごく可愛い。
しかしここは忍術学園。
そんな我儘が通るはずがないのは十分に分かっている。
でももう一言だけおしてみよう。
「だって、半助さんがそんな夢見たっていうから…」
「!」
半助さんがぎゅっと私を抱きしめた。
「怖がるようなことを言ってすまない…。じゃあ…頑張るよ。」
「えっ、あの…頑張るって…夜通し見張りしてほしいのではなくて、ただ一緒に寝るだけですよ?」
「あー、うん、だからね…」
半助さんが天井を見上げながら言いにくそうに頬をかいた。
「一緒に寝るだけというのがね…。」
「…?」
「毎晩…その…たまみが欲しくなるのを頑張って我慢するという意味。」
「!」
そう言うと半助さんは私の額に唇で触れた。
その優しい口づけに、私は自然と本音を溢した。
「我慢しなくても…」
そっと、彼の耳元で小さく囁いた。
「私は…いつでも…。」
「…!!」
急に視界がぐらりとし、気づけば布団に押し倒されていた。
「…またそんなことを言って…。」
彼の前髪が頬に触れ、肩口に強く吸い付かれた。
「…っ」
首に息がかかりぞくりとする。
半助さんはゆっくりと唇を離すとそこに優しく口づけ、小さく呟いた。
「…きみの誘惑に勝てる気がしない…。」
困惑と欲望の混ざった声音。
私を欲してくれることが嬉しくて、彼の背中に腕を回して抱きしめた。
半助さんの熱いため息が首筋にかかりびくりと反応してしまう。
すると彼は突然バッと体を離して座り直した。
赤い顔を片手で隠すように覆い、咳払いをする。
「だめだ、これ以上は止まらなくなる…。とりあえず、夜間の身の安全については山田先生とも一度相談するから。」
夜間の身の安全だなんて、わざと堅苦しい言葉を選んで業務的な言い方をする。
我が儘を言ってしまい嫌がられたかな、と一瞬不安になった。
けれど、彼の表情からは嫌がっているように見えなかった。
半助さんは赤い顔のまま少し壁の方を見ていて、やがて暫くするととても真剣な表情で真っ直ぐに私を見た。
「だから、とにかく、絶対に一人で外出しないように。」
「はぁい。」
素直に返事をすると、半助さんは「いいこだ」と私の頭を撫でて少し安心したように部屋を出ていった。
夢を見ただけで心配性だなぁ…と思う反面、実際に今までにも色々あったので杞憂だと言いきることもできない。
今更ながらちょっと不安な気持ちになったけれど、外出時に半助さんについてきてもらういい口実ができた…更に上手くいけば半助さんと暫く朝まで一緒に居られるかもしれないと前向きに考えることにした。
昼食後。
食堂のおばちゃんと後片付けをしていると、小松田さんが食堂に入ってきた。
「おばちゃん、まだランチ残ってますかぁ~?」
「残り物でよければあるわよ!」
「よかったぁ。掃除してたら遅くなっちゃって。」
椅子に腰かける小松田さん。
「まだ途中なのに学園長先生には町まで届け物を頼まれるし…。」
「あら、町まで行くの?じゃあついでにこれも買ってきてくれないかしら。」
食堂のおばちゃんが小松田さんに紙を渡す。
そこには、今日の夕飯で使う材料が書いてあった。
「いいですけど、随分たくさんありますねぇ。」
「「あ」」
小松田さんの言葉に、私と食堂のおばちゃんが目を見合わせた。
小松田さんが全然違うものを買ってきてしまう姿が容易に想像できた。
確かに今日の買い出しリストは細々したものが多かったのだ。
「わ、私も一緒に行きましょうか…。」
気づけばそう口にしていた。
だって、食堂のおばちゃんに行かせるわけにはいかない…。
私は仕方なく小松田さんと町まで行くことになってしまった。
今朝の半助さんの言葉が脳裏をよぎり、一抹の不安が胸を掠めたけれど、小松田さんだって教職員の一人。
きっと大丈夫なはず…。
半助さんは実技の授業からまだ戻っていなかったので、私は書き置きを残して小松田さんと町に向かうことにした。
「いやぁ、二人でおつかいとか土井先生に焼きもちやかれちゃいそうですねぇ。」
「そ、そんなことは…」
学園を出て町まで歩く道すがら、小松田さんがのほほんとそんなことを言う。
なんと返したらよいのかよく分からなくて、私は曖昧に笑ってごまかした。
「そういえば、小松田さんは何をどこに届けるよう頼まれたんですか?」
「そうそう、学園長先生からこの手紙をお饅頭屋さんに届けるようにと………あれ?」
「どうしました?」
「…無い!」
「え?」
「手紙が無い!!」
「えぇっ!!」
小松田さんが懐や荷物入れにしている風呂敷をバサバサと翻した。
「あ、きっと机の上に置いてきちゃったんだ!!僕、急いで取ってきますからここで待っていてくださいっっ!!」
「え、ちょっ、小松田さん…!!」
止めるのも間に合わず、猛ダッシュで走っていく小松田さん。
一人ポツンと残された私は非常に焦った。
どうしよう、一人で外を歩かないって約束したばっかりなのに…!
学園を出て既に結構歩いてきた。
引き返すために一人で歩くのと、この場に留まって待つのと、どちらの方がいいのだろう。
「ん?」
何かが風で飛んで近くの岩にひっかかった。
「これ…!」
それは書簡だった。
「さっき風呂敷を広げたとき、落ちたのに気がつかなかったんだ…!」
心の中で小松田さんと大きく叫んで呼んでみるも、もう彼の姿はどこにも見当たらなくて。
これじゃあいくらここで待っても小松田さんが手紙を見つけて戻ってくることはないだろう。
「仕方ない…戻るしかないかぁ…。」
私は書簡を失くさないよう懐にしまいこみ、周りをキョロキョロと警戒しながら一人で戻ることにした。
と、その時。
「おい、女。」
「!」
見るからに怪しげな男の人に声をかけられた。
この顔、どこかで見たことあるような…。
「その密書を渡しなさい。」
「密書?」
「とぼけるんじゃない。お前達の動向は見張っていた。痛い目にあいたくなければ大人しく渡すんだな。」
密書…って、小松田さんが落としていったこの書簡のことだろうか。
まさか、これは学園長先生からお饅頭屋さんに宛てた手紙のはず…。
「密書なんて、知りません。」
ハッキリと断ると、男の表情が険しくなった。
「そうか、いいだろう。騒がれても面倒だし連れ帰るぞ。」
「ハッ!」
「!!」
どこからか忍装束を着た忍者が数人現れ羽交い締めにされた。
「や、やめてくださ……ぅっ!」
布のようなもので口元を塞がれた。
何かの薬かと思ったときにはもう息を吸い込んでしまっていて、急に意識が薄らぐ。
「……ぁ…」
消え行く意識のなかで半助さんに助けを求めながら、私はなすすべなく気を失った。