第90話 贈り物
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何故こんなことになった。
あまりにも隣のおばちゃんに贈るものが思い付かず、きり丸と山田先生の言葉に唆されてつい女装してしまった。
女装して奧さんの誕生日プレゼントを考える山田先生を見たとき、そんなことをしても女性の欲しがる物など思い付くはずないと思っていたのに。
挙げ句の果てには、まさかたまみに女装しているところを見つかってしまうだなんて…。
何とかその場を誤魔化して逃げようと試みたが失敗した。
しかもそのままたまみと伝子さんと三人で町に買い物に行くとか…何の罰ゲームだ…。
たまみに幻滅されるのではないかと思った。
忍にとっては女装も変装の一つだが、忍者ではない彼女にとっては変に思うのではないかと…。
しかし、何故かたまみは私のこんな姿も気に入ったようで…好奇の目ではなく、熱い視線をずっと感じたのは気のせいではないと思う。
私は伝子さんとたまみが楽しそうに手拭いを選ぶ様子を後ろから眺めていた。
私と一緒にいるときとはまた違う表情。
同性の友達といるときはあんな風に笑うのか…。
伝子さんは見た目はああだが、そこに慣れさえすれば確かに立ち居振舞いや言動は女性に近いものがある。
たまみの新たな可愛い一面を垣間見たようで嬉しかった。
「たまみちゃんだったらどういう柄が好きかしら?」
「んー、こういうのとか…桃色で可愛い感じが好きです。」
「そうなのね、参考になるわぁ。」
伝子さんがちらりとこちらに視線を送る。
たまみの好みを聞き出してくれているようだ。
私は苦笑しながら、先日たまみに贈ったエプロンが彼女の好みにあっていたことを再確認して安心した。
「お待たせしちゃってすみません、つい楽しくて…!」
夢中で楽しそうに選んでいたたまみが私に気づいて謝った。
そんなことは気にしなくていいのに。
むしろ、キャッキャ言いながら買い物をしている彼女を見ていて楽しかった。
「好きなだけ見ていいですよ。私も楽しいので。」
きみを見ているのが、ね。
そう心の中で付け足した。
しかし彼女は私も小物を見るのが実は好きなのだと勘違いしたようで、「また二人でゆっくり見に来ましょうね。他にもおすすめの小物屋さんがあるんです。」と囁いた。
そんな彼女も可愛くて思わずにやける顔を隠せずにいると、伝子さんに冷やかすような視線を送られてしまった。
うう、何だかもう恥ずかしくて隠れてしまいたい…。
その後、薬屋に立ち寄り手荒れ用の塗り薬を買った。
とても実用的で隣のおばちゃんにも喜んでもらえたらいいなと思う。
たまみはさっきと違い迷うことなく薬を選んだ。
「…なんだか慣れてるね?」
不思議に思って聞いてみる。
「はい、ここのお薬は買ったことがあるので。善法寺くんが私の手荒れを気にして学園のお薬を分けてくれたんですけど、ずっと頂くのも悪いので…。」
「伊作が?」
何故、伊作がたまみの手荒れに気づいたのだろう。
私も気になっていたときはあったが、いつの間にか治ってきていて安心したのを覚えている。
「配膳してるときに私の手が荒れていることに気がついてくれたんです。それでお薬をくれて…。」
「へぇ。」
何となく面白くなかった。
そんな話は聞いたことなかったし、私以外が彼女をそんなに見ていることが気に入らない。
いや、忍者には観察力が必要だし、伊作は保健委員会委員長なのだから人の体の不調には敏感なのかもしれない。
…しかし…。
たまみを守るのも労るのも癒すのも、私の役割でありたかった。
……ひどく自己中心的、だが。
そんなことを考えていると、伝子さんが突然団子屋でお礼をすると言い出した。
一刻も早く女装を解いて帰りたい私は団子を持ち帰るよう提案しようとしかけたが、たまみの嬉しそうな顔を見て口をつぐんだ。
「半子さんは何本食べますか?」
たまみが大胆に私の腕に腕を絡めてくっついてきた。
こんな町中で…!?
驚いたが、今は同性ということになっているのだと思い出した。
嬉しそうに私を見上げてくっつく彼女。
私は山田先生のように心まで女性になるわけではないのだから…!
人目も憚らず、無邪気に甘える猫のように絡んでくるたまみに困ってしまった。
赤くなる顔を抑えきれずやんわりと腕を外そうとすると、たまみが「半子さん、可愛い…!」などとキラキラした目で言ってくる。
「か、からかわないでください…!」と返しながら顔をそらすと、笑いをこらえている伝子さんの震える肩が見えた。
山田先生のせいでこんなことになってるんですよ…!
と、心の中で怒ってみるも、どうすることもできない。
しかし、たまみの口から「半子さん」と呼ばれる日が来るだなんて…いかん、泣けてきた。
帰ったら胃薬を飲もう…。
団子屋に着くと、伝子さんが「あっ」と小さく言った。
「どうされましたか?」
「あらやだ、私としたことが、学園長先生に頼まれてた事を忘れてたわ。ちょっと行ってくるから、先に戻ってちょうだい。」
そう言うが早いか伝子さんは団子代だけ置いて素早く去っていってしまった。
追いかける間もなく残されてポカンとする私とたまみ。
「…伝子さん、気をつかってくださったんでしょうか…。」
「はは…そうかもしれないね。」
「何だか申し訳ないですね…。でも、半子さんとデートできるなんて嬉しいです!」
「……たまみ、椅子の横、虫がとまってるよ。」
「えぇっっっ!!!ど、どこですか!?」
たまみが虫に気をとられているうちに、私は一瞬だけ死角に隠れ素早く女装を解いた。
念のために男物の服を持っていてよかった。
「ごめん、虫じゃなかった。見間違えた。」
「!…あれ、半助さんに戻ってる!」
たまみが「いつの間に?」と驚き残念そうな顔をした。
「たまみとお茶するなら、こっちの方がいいだろう?」
「うーん…でも半子さん、すごく可愛くてもう少し見たかったです。またやってくれますか?」
「勘弁してくれ。たまみの前でだけはあんな格好したくなかったのに…。」
「半助さんはどんな格好していても素敵すぎます!」
普段なら嬉しい言葉も今は全く喜べない。
私は運ばれてきた団子を手に取り彼女の口に咥えさせた。
「もうそれ以上言わないで…逆に落ち込む。」
不思議そうに見つめてくる彼女の頭を撫でながら、私は一つ大きなため息をついた。
あまりにも隣のおばちゃんに贈るものが思い付かず、きり丸と山田先生の言葉に唆されてつい女装してしまった。
女装して奧さんの誕生日プレゼントを考える山田先生を見たとき、そんなことをしても女性の欲しがる物など思い付くはずないと思っていたのに。
挙げ句の果てには、まさかたまみに女装しているところを見つかってしまうだなんて…。
何とかその場を誤魔化して逃げようと試みたが失敗した。
しかもそのままたまみと伝子さんと三人で町に買い物に行くとか…何の罰ゲームだ…。
たまみに幻滅されるのではないかと思った。
忍にとっては女装も変装の一つだが、忍者ではない彼女にとっては変に思うのではないかと…。
しかし、何故かたまみは私のこんな姿も気に入ったようで…好奇の目ではなく、熱い視線をずっと感じたのは気のせいではないと思う。
私は伝子さんとたまみが楽しそうに手拭いを選ぶ様子を後ろから眺めていた。
私と一緒にいるときとはまた違う表情。
同性の友達といるときはあんな風に笑うのか…。
伝子さんは見た目はああだが、そこに慣れさえすれば確かに立ち居振舞いや言動は女性に近いものがある。
たまみの新たな可愛い一面を垣間見たようで嬉しかった。
「たまみちゃんだったらどういう柄が好きかしら?」
「んー、こういうのとか…桃色で可愛い感じが好きです。」
「そうなのね、参考になるわぁ。」
伝子さんがちらりとこちらに視線を送る。
たまみの好みを聞き出してくれているようだ。
私は苦笑しながら、先日たまみに贈ったエプロンが彼女の好みにあっていたことを再確認して安心した。
「お待たせしちゃってすみません、つい楽しくて…!」
夢中で楽しそうに選んでいたたまみが私に気づいて謝った。
そんなことは気にしなくていいのに。
むしろ、キャッキャ言いながら買い物をしている彼女を見ていて楽しかった。
「好きなだけ見ていいですよ。私も楽しいので。」
きみを見ているのが、ね。
そう心の中で付け足した。
しかし彼女は私も小物を見るのが実は好きなのだと勘違いしたようで、「また二人でゆっくり見に来ましょうね。他にもおすすめの小物屋さんがあるんです。」と囁いた。
そんな彼女も可愛くて思わずにやける顔を隠せずにいると、伝子さんに冷やかすような視線を送られてしまった。
うう、何だかもう恥ずかしくて隠れてしまいたい…。
その後、薬屋に立ち寄り手荒れ用の塗り薬を買った。
とても実用的で隣のおばちゃんにも喜んでもらえたらいいなと思う。
たまみはさっきと違い迷うことなく薬を選んだ。
「…なんだか慣れてるね?」
不思議に思って聞いてみる。
「はい、ここのお薬は買ったことがあるので。善法寺くんが私の手荒れを気にして学園のお薬を分けてくれたんですけど、ずっと頂くのも悪いので…。」
「伊作が?」
何故、伊作がたまみの手荒れに気づいたのだろう。
私も気になっていたときはあったが、いつの間にか治ってきていて安心したのを覚えている。
「配膳してるときに私の手が荒れていることに気がついてくれたんです。それでお薬をくれて…。」
「へぇ。」
何となく面白くなかった。
そんな話は聞いたことなかったし、私以外が彼女をそんなに見ていることが気に入らない。
いや、忍者には観察力が必要だし、伊作は保健委員会委員長なのだから人の体の不調には敏感なのかもしれない。
…しかし…。
たまみを守るのも労るのも癒すのも、私の役割でありたかった。
……ひどく自己中心的、だが。
そんなことを考えていると、伝子さんが突然団子屋でお礼をすると言い出した。
一刻も早く女装を解いて帰りたい私は団子を持ち帰るよう提案しようとしかけたが、たまみの嬉しそうな顔を見て口をつぐんだ。
「半子さんは何本食べますか?」
たまみが大胆に私の腕に腕を絡めてくっついてきた。
こんな町中で…!?
驚いたが、今は同性ということになっているのだと思い出した。
嬉しそうに私を見上げてくっつく彼女。
私は山田先生のように心まで女性になるわけではないのだから…!
人目も憚らず、無邪気に甘える猫のように絡んでくるたまみに困ってしまった。
赤くなる顔を抑えきれずやんわりと腕を外そうとすると、たまみが「半子さん、可愛い…!」などとキラキラした目で言ってくる。
「か、からかわないでください…!」と返しながら顔をそらすと、笑いをこらえている伝子さんの震える肩が見えた。
山田先生のせいでこんなことになってるんですよ…!
と、心の中で怒ってみるも、どうすることもできない。
しかし、たまみの口から「半子さん」と呼ばれる日が来るだなんて…いかん、泣けてきた。
帰ったら胃薬を飲もう…。
団子屋に着くと、伝子さんが「あっ」と小さく言った。
「どうされましたか?」
「あらやだ、私としたことが、学園長先生に頼まれてた事を忘れてたわ。ちょっと行ってくるから、先に戻ってちょうだい。」
そう言うが早いか伝子さんは団子代だけ置いて素早く去っていってしまった。
追いかける間もなく残されてポカンとする私とたまみ。
「…伝子さん、気をつかってくださったんでしょうか…。」
「はは…そうかもしれないね。」
「何だか申し訳ないですね…。でも、半子さんとデートできるなんて嬉しいです!」
「……たまみ、椅子の横、虫がとまってるよ。」
「えぇっっっ!!!ど、どこですか!?」
たまみが虫に気をとられているうちに、私は一瞬だけ死角に隠れ素早く女装を解いた。
念のために男物の服を持っていてよかった。
「ごめん、虫じゃなかった。見間違えた。」
「!…あれ、半助さんに戻ってる!」
たまみが「いつの間に?」と驚き残念そうな顔をした。
「たまみとお茶するなら、こっちの方がいいだろう?」
「うーん…でも半子さん、すごく可愛くてもう少し見たかったです。またやってくれますか?」
「勘弁してくれ。たまみの前でだけはあんな格好したくなかったのに…。」
「半助さんはどんな格好していても素敵すぎます!」
普段なら嬉しい言葉も今は全く喜べない。
私は運ばれてきた団子を手に取り彼女の口に咥えさせた。
「もうそれ以上言わないで…逆に落ち込む。」
不思議そうに見つめてくる彼女の頭を撫でながら、私は一つ大きなため息をついた。