第90話 贈り物
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「失礼しま……す…」
私は職員室に入ろうとして固まった。
部屋のなかには山田先生…もとい伝子さんが鬼のような形相で腕を組んで座っていた。
その向かいには髪の長い女性がこちらに背中を向けて座っている。
誰だろう…お客様かな。
これは一体どういう状況なのだろう。
「えっ…と、出直します。」
よく分からないけれど、ただならぬ雰囲気に私は職員室に入るのを止めようとした。
「あらっ、たまみちゃんいいところに!ちょっとこっちに座りなさい!」
伝子さんがパアッと顔を明るくして私を手招きした。
え、何だか巻き込まれる予感…。
私は訝しみながらも伝子さんに言われるがままその横に座った。
「あの、どうされたのですか…?」
状況がよく飲み込めない。
向かいの女性は横を向いて俯き、顔がよく見えない。
じっと動かずに無言でいるその女性と伝子さん、二人を交互に見やると伝子さんが話し出した。
「実はね、私の…いえ山田伝蔵の奧さんがもうすぐ誕生日なのよ。それで、何を贈ろうか女性目線で考えてみようと思って。」
「ああ、それで伝子さんになってるんですね。」
「そうよ。半子さんは隣のおばちゃんの誕生日が近いらしくてね。そのプレゼントを何にしようか迷っているの。」
「半子さん?」
「え…あら…?たまみちゃん、もしかして初めて見たのかしら…?」
伝子さんが驚いて私と彼女を見た。
「はい、初めてお会いしました。」
笑顔で挨拶しようと真っ直ぐ座ると、何故か彼女は無言で部屋から走り去ろうとした。
伝子さんがその腕を素早く掴み部屋に引き戻す。
「は、離してくださいっ…!」
ん?
この声…!?
「いい機会じゃないの土井先生?」
土 井 先 生 … ??
自分の耳が、目が信じられなくて目の前に立つ二人を呆然と眺めた。
障子に手をかけ立ち尽くす彼女の背は高く、その体つきもよく見たら私がいつも見ている姿にそっくりで…。
「土井、先生…?」
すると彼女はびくりと肩をはねさせたあと、暫くしてため息をつきゆっくりこちらを振り返った。
「…ごめん。きみにこんな格好を見せるつもりはなかったのに…。」
その女性は、紛れもなく私の愛する土井先生だった。
衝撃すぎて、言葉が出ない。
マジマジと食い入るように見つめると、土井先生は恥ずかしそうに目を伏せた。
「かっ…」
「?」
「か、可愛い…!!!」
「へ?」
好きな人は余計に格好よく見えるというけれど、女装をさせたら余計に可愛らしく見えるのだろうか。
艶やかにオレンジ色の紅を塗った唇も、おろした長いモフモフの髪も、困ったように笑うその顔も、全部素敵すぎる…!
キラキラと目を輝かせて見つめると、「そんなに見ないで。」と土井先生…もとい半子さんが壁の方を向く。
なにそれ、かーわーいーいーんですけど!!
興奮を隠せない私を見て伝子さんが面白そうに笑った。
「随分気に入ったみたいねぇ。まぁ私ほどではないけど半子さんもなかなかのものよね。」
「素敵すぎます!」
「ですってよ、半子さん。よかったわね?」
「…伝子さん、それで本題のほうは…。」
半子さんが諦めたようにため息をつきながら先を促した。
「そうそう、それで其々の誕生日プレゼントを迷ってるんだけど、たまみちゃんは何がいいと思う?」
突然質問をふられて現実に戻った。
「誕生日プレゼント、ですか。うーん、山田先生の奧さんは何か趣味とか好きなことはありますか?」
「趣味、ねぇ…。この前お友達と温泉に行ったりはしてたみたいだけど。」
「温泉いいですねぇ。じゃあ…例えば可愛い手拭いとかはどうですか?」
「手拭い?」
「はい。温泉で可愛い手拭いが使えるとより一層楽しい気持ちになると思います。さらに、ご夫婦でお揃いのものにしたりすると、何だかこう離れていても一緒だよ、みたいな感じで更に素敵かと…。」
伝子さんは「お揃い」というところに引っ掛かったようだけど、「手拭いはいいかもしれないわね。」と頷いた。
次に目線を半子さんに移すと、彼…彼女は困ったように頭をかいた。
「隣のおばちゃんの趣味とかはよく知らないなぁ。」
「半子さん、話し方が男に戻ってるわよ。」
「別にいいでしょう。私は山田先生のように女装が趣味なわけではないんですか…」
言い終わらないうちに伝子さんの拳骨が半子さんの頭に落ち、彼女が痛みにしゃがみこんだ。
それにしても、隣のおばちゃんかぁ…私も趣味の話とかは特にしなかったなぁ。
それでも私もよくお世話になっているし、一緒にお祝いさせて頂こう。
「隣のおばちゃんには…そうですねぇ、主婦は家事で手が荒れやすいので手荒れ用の塗り薬とかはどうでしょう。」
私がそう言うと半子さんは少し驚いて「なるほど。」と頷いた。
「よし、それじゃあ決まりね!早速いまから出掛けるわよ!」
「え、出かけるって…?」
「手拭いと塗り薬を買いに行くのよ。たまみちゃんも一緒に行って柄を選ぶの手伝ってくださる?」
伝子さんがバチーンとウインクを投げてくる。
飛んできたハートを避けきれずぎゅっと目を閉じると、半子さんがそのハートをバシッと手で払いのけた。
「ちょっと何するのよ。」
「こんなものをたまみさんに投げないでください。」
「こんなものとは何よこんなものとは!」
伝子さんが怒りそうになったので私は慌てて二人の背を押した。
「仕方ないですねぇ、じゃあ早く3人で行きましょう?」
半子さんとお買い物!
私はドキドキする胸のうちを悟られないよう自然に言った。
「たまみさんが行くなら私は元の姿に…」
「半子さんで行ってくれないなら私行きません。」
言い終わる前にそう告げると、半子さんはとても当惑した表情になり固まった。
伝子さんがオーラを発しながら追い討ちをかける。
「半子さん、さっさと行くわよ。」
「…うぅ、どうしてこんなことに………。」
半子さんは胃を押さえながらしぶしぶそのまま来てくれることになった。
そんな姿さえ綺麗というか可愛いというか、素敵すぎて…私はワクワクしながら三人で学園をあとにした。
私は職員室に入ろうとして固まった。
部屋のなかには山田先生…もとい伝子さんが鬼のような形相で腕を組んで座っていた。
その向かいには髪の長い女性がこちらに背中を向けて座っている。
誰だろう…お客様かな。
これは一体どういう状況なのだろう。
「えっ…と、出直します。」
よく分からないけれど、ただならぬ雰囲気に私は職員室に入るのを止めようとした。
「あらっ、たまみちゃんいいところに!ちょっとこっちに座りなさい!」
伝子さんがパアッと顔を明るくして私を手招きした。
え、何だか巻き込まれる予感…。
私は訝しみながらも伝子さんに言われるがままその横に座った。
「あの、どうされたのですか…?」
状況がよく飲み込めない。
向かいの女性は横を向いて俯き、顔がよく見えない。
じっと動かずに無言でいるその女性と伝子さん、二人を交互に見やると伝子さんが話し出した。
「実はね、私の…いえ山田伝蔵の奧さんがもうすぐ誕生日なのよ。それで、何を贈ろうか女性目線で考えてみようと思って。」
「ああ、それで伝子さんになってるんですね。」
「そうよ。半子さんは隣のおばちゃんの誕生日が近いらしくてね。そのプレゼントを何にしようか迷っているの。」
「半子さん?」
「え…あら…?たまみちゃん、もしかして初めて見たのかしら…?」
伝子さんが驚いて私と彼女を見た。
「はい、初めてお会いしました。」
笑顔で挨拶しようと真っ直ぐ座ると、何故か彼女は無言で部屋から走り去ろうとした。
伝子さんがその腕を素早く掴み部屋に引き戻す。
「は、離してくださいっ…!」
ん?
この声…!?
「いい機会じゃないの土井先生?」
土 井 先 生 … ??
自分の耳が、目が信じられなくて目の前に立つ二人を呆然と眺めた。
障子に手をかけ立ち尽くす彼女の背は高く、その体つきもよく見たら私がいつも見ている姿にそっくりで…。
「土井、先生…?」
すると彼女はびくりと肩をはねさせたあと、暫くしてため息をつきゆっくりこちらを振り返った。
「…ごめん。きみにこんな格好を見せるつもりはなかったのに…。」
その女性は、紛れもなく私の愛する土井先生だった。
衝撃すぎて、言葉が出ない。
マジマジと食い入るように見つめると、土井先生は恥ずかしそうに目を伏せた。
「かっ…」
「?」
「か、可愛い…!!!」
「へ?」
好きな人は余計に格好よく見えるというけれど、女装をさせたら余計に可愛らしく見えるのだろうか。
艶やかにオレンジ色の紅を塗った唇も、おろした長いモフモフの髪も、困ったように笑うその顔も、全部素敵すぎる…!
キラキラと目を輝かせて見つめると、「そんなに見ないで。」と土井先生…もとい半子さんが壁の方を向く。
なにそれ、かーわーいーいーんですけど!!
興奮を隠せない私を見て伝子さんが面白そうに笑った。
「随分気に入ったみたいねぇ。まぁ私ほどではないけど半子さんもなかなかのものよね。」
「素敵すぎます!」
「ですってよ、半子さん。よかったわね?」
「…伝子さん、それで本題のほうは…。」
半子さんが諦めたようにため息をつきながら先を促した。
「そうそう、それで其々の誕生日プレゼントを迷ってるんだけど、たまみちゃんは何がいいと思う?」
突然質問をふられて現実に戻った。
「誕生日プレゼント、ですか。うーん、山田先生の奧さんは何か趣味とか好きなことはありますか?」
「趣味、ねぇ…。この前お友達と温泉に行ったりはしてたみたいだけど。」
「温泉いいですねぇ。じゃあ…例えば可愛い手拭いとかはどうですか?」
「手拭い?」
「はい。温泉で可愛い手拭いが使えるとより一層楽しい気持ちになると思います。さらに、ご夫婦でお揃いのものにしたりすると、何だかこう離れていても一緒だよ、みたいな感じで更に素敵かと…。」
伝子さんは「お揃い」というところに引っ掛かったようだけど、「手拭いはいいかもしれないわね。」と頷いた。
次に目線を半子さんに移すと、彼…彼女は困ったように頭をかいた。
「隣のおばちゃんの趣味とかはよく知らないなぁ。」
「半子さん、話し方が男に戻ってるわよ。」
「別にいいでしょう。私は山田先生のように女装が趣味なわけではないんですか…」
言い終わらないうちに伝子さんの拳骨が半子さんの頭に落ち、彼女が痛みにしゃがみこんだ。
それにしても、隣のおばちゃんかぁ…私も趣味の話とかは特にしなかったなぁ。
それでも私もよくお世話になっているし、一緒にお祝いさせて頂こう。
「隣のおばちゃんには…そうですねぇ、主婦は家事で手が荒れやすいので手荒れ用の塗り薬とかはどうでしょう。」
私がそう言うと半子さんは少し驚いて「なるほど。」と頷いた。
「よし、それじゃあ決まりね!早速いまから出掛けるわよ!」
「え、出かけるって…?」
「手拭いと塗り薬を買いに行くのよ。たまみちゃんも一緒に行って柄を選ぶの手伝ってくださる?」
伝子さんがバチーンとウインクを投げてくる。
飛んできたハートを避けきれずぎゅっと目を閉じると、半子さんがそのハートをバシッと手で払いのけた。
「ちょっと何するのよ。」
「こんなものをたまみさんに投げないでください。」
「こんなものとは何よこんなものとは!」
伝子さんが怒りそうになったので私は慌てて二人の背を押した。
「仕方ないですねぇ、じゃあ早く3人で行きましょう?」
半子さんとお買い物!
私はドキドキする胸のうちを悟られないよう自然に言った。
「たまみさんが行くなら私は元の姿に…」
「半子さんで行ってくれないなら私行きません。」
言い終わる前にそう告げると、半子さんはとても当惑した表情になり固まった。
伝子さんがオーラを発しながら追い討ちをかける。
「半子さん、さっさと行くわよ。」
「…うぅ、どうしてこんなことに………。」
半子さんは胃を押さえながらしぶしぶそのまま来てくれることになった。
そんな姿さえ綺麗というか可愛いというか、素敵すぎて…私はワクワクしながら三人で学園をあとにした。