第89話 きみと私の一年間
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忍術学園ももうすぐ春休み。
一年は組は補習があるので他の生徒達が帰ったあとも暫くは学園に居残りとなる。
少しでも早く皆が帰られるように頑張っているつもりだがなかなか伝わらずもどかしい毎日が続いた。
「春休みか…。」
職員室で一人教材を作りながら呟く。
春休み。
あれは新学期が始まる直前だったな…。
そう、たまみがここに来てもうすぐ一年が経とうとしていた。
あれからもう一年とは…あっという間だったような長かったような。
ここに来たときには不安げに戸惑っていた彼女も、今ではここでの生活にだいぶ慣れたようで本当によかった。
「…さて、何がいいかなぁ……。」
たまみがここに来た日を、彼女の誕生日にしようと二人で決めた。
誕生日…たまみは何を望むだろうか。
女性に贈り物などそうそうしないから、何がいいのか思い浮かばない…。
たまみは、何を喜ぶだろうか……。
温泉や綺麗な景色のところに連れていく?
いっそ遠くに…海?桜の綺麗なところ?
そこまで遠くないところで景色のいいところは…。
いやそれよりも、ここにきて一年という記念のような意味もあるし、何か形に残るものの方がいいだろうか。
うーん、なかなかいい案が浮かばない。
しかし寝る前やちょっとしたときに、たまみのことを想って考えている時間も私には楽しかった。
そうこうしているうちに一年は組も補習を終えて全員帰ることになった。
私もたまみときり丸とともに我が家に向かう。
何度目かになる三人での帰り道。
たまみもすっかり馴染んできて、うちに来るのがごく自然なことになっていた。
少し前まできり丸と二人で歩いていたこの道。
たまみがいるだけで、ただ歩いているのが楽しかった。
それはきっときり丸も同じはずだ。
「土井先生」
「ん?何だきり丸?」
「ご機嫌っすね!」
楽しげに話す二人を見て、私は知らず鼻唄を歌っていたらしい。
二人にクスクスと笑われてしまった。
忍者のくせに無意識に鼻唄など聞いて呆れる…。
しかし、そんな自分でもまぁいいかと思えてしまうくらい、居心地のいい時間だった。
休暇中はまたしてもきり丸が持ち込んでくるバイト三昧で忙しい毎日。
一生懸命に内職の花作りを手伝うたまみを見てふと不思議に思った。
彼女は何も持たずにこの世界に来たから色々と入り用のものはあっただろう。
しかし、きり丸の手伝い以外にもアルバイトをしているわりには、お金を使っているように見えない。
何か欲しいものでもあって、貯めているのだろうか?
「たまみ」
「はい?」
「仕事以外にもたまにアルバイトをしてるのは、何か欲しいものでもあるのかい?」
彼女は花作りの手を止め、ちらりと私を見て目をそらした。
「…欲しいもの…、ではないのですが……。」
手元の花をくるくると回す。
「お金があった方が、色々と選択肢も増えるかなって…。」
「選択肢?」
「将来、何があるか分からないので…。」
それは、どういう意味だろう。
将来に備えて貯金…
ハッ、まさか…!
もしかして学園を出ることがあるかもしれないと思っているとか…私のもとを離れて!?
そんなこと考えたこともなかったが、いつかたまみが私を見限ってということも…なきにしもあらずなのかもしれない…?
ショックで動揺を隠しきれずに黙っていると、たまみが不思議そうな顔をした。
「どうしたんですか?」
「…いや、まさか…その、将来何があるか分からないって…?」
おそるおそる聞いてみる。
「もしかして…学園を…ここをでるつもりかい?」
彼女はキョトンとしたあと可笑しそうに笑った。
「違います。半助さんが私を嫌いにならない限り…お側にいますよ?」
「きみを嫌いになどなるわけがない。」
するとたまみは目を細めて微笑んだ。
「ほんとに…?」
「こんなに想っているのに、まだ伝わらない?」
そっと抱き寄せると、たまみは手にしていた花を机に置いて私の胸に寄り添ってきた。
「知ってるけど…聞きたいんです。」
たまみが甘えたように言葉をねだる。
そんな彼女が可愛くて、ぎゅっと抱きしめると耳元で囁いた。
「離さないと言っただろう。…もうたまみのいない生活なんて考えられない。」
「半助さん…」
「…愛してる…。」
「私もです…!」
たまみが私の背をぎゅっと抱きしめる。
私はくすりと笑って彼女の額に自分の額をこつんとくっつけた。
「むしろ、いつか愛想をつかされるのではないかと私の方が不安だよ。」
たまみは微笑して上目遣いにこちらを見た。
「半助さんが私を構ってくれてたら大丈夫です。」
「構う?」
「仕事で忙しい~とか…放ったらかしにされたら嫌です。」
「う……気をつけマス。」
そういえば春休み直前は忙しくてあまり構ってあげられていなかっただろうか…。
苦笑して頭をかくと、たまみが「選択肢というのは…」と小さな声で呟いた。
「前に、半助さんが…言ってたから……。」
「私が?何を?」
「………」
「?」
「…内緒です!」
「??」
何だ?
私が何か言ったのか?
全然思い当たることがないのだが…。
「すまない、私が何か言ったせいでそんなに頑張ってくれているのかい?」
「いえ、それだけじゃないので…気にしないでください。」
「たまみ…」
私はじっと彼女の瞳を覗き込み、真剣な眼差しで言った。
「私は、きみに無理をさせてまで望むものなどないよ…。」
「半助さん…」
何故かたまみは段々赤くなってきて焦り始めた。
「と、とにかく!何かのときのためにお金はあった方が安心ですよね!ほら、半助さんも手伝ってください!」
たまみは曖昧に笑ってこの話を終わりにしようとした。
内職の花の材料を手渡される。
とりあえず、一人で学園を出るために備えているとかそういうわけではなさそうでよかった。
何か欲しいものがあるわけでもなさそうだ。
…将来のため、か。
たまみの思う選択肢とは、どういうことなのだろう。
まぁしかし、先のことなどそのときになってみないと分からないことも多いわけで…。
とりあえずもうすぐ迫る彼女の誕生日に何を贈ろうか思案を巡らせながら、私も内職を手伝い始めた。
三人で過ごす日々は忙しいながらも楽しくて、休みはあっという間に過ぎていった。
きり丸の預かってきた赤ん坊をあやしながら、昼食の用意を始めたたまみの後ろ姿をぼんやりと眺める。
そして、私はふと思いついた。
…そうだ、これにしよう!
彼女の誕生日に贈るプレゼント。
私はすぐに立ち上がってわらじを履いた。
「ちょっと、赤ん坊と散歩してくるよ。すぐ戻るから。」
「はーい、気をつけて行ってきてくださいね。」
私は赤子を腕に抱きながら意気揚々と家を出た。
喜んでもらえたらいいなぁ…!
たまみの喜ぶ顔を想像し、思わずにんまりと笑顔になって目当ての店へと歩いた。
一年は組は補習があるので他の生徒達が帰ったあとも暫くは学園に居残りとなる。
少しでも早く皆が帰られるように頑張っているつもりだがなかなか伝わらずもどかしい毎日が続いた。
「春休みか…。」
職員室で一人教材を作りながら呟く。
春休み。
あれは新学期が始まる直前だったな…。
そう、たまみがここに来てもうすぐ一年が経とうとしていた。
あれからもう一年とは…あっという間だったような長かったような。
ここに来たときには不安げに戸惑っていた彼女も、今ではここでの生活にだいぶ慣れたようで本当によかった。
「…さて、何がいいかなぁ……。」
たまみがここに来た日を、彼女の誕生日にしようと二人で決めた。
誕生日…たまみは何を望むだろうか。
女性に贈り物などそうそうしないから、何がいいのか思い浮かばない…。
たまみは、何を喜ぶだろうか……。
温泉や綺麗な景色のところに連れていく?
いっそ遠くに…海?桜の綺麗なところ?
そこまで遠くないところで景色のいいところは…。
いやそれよりも、ここにきて一年という記念のような意味もあるし、何か形に残るものの方がいいだろうか。
うーん、なかなかいい案が浮かばない。
しかし寝る前やちょっとしたときに、たまみのことを想って考えている時間も私には楽しかった。
そうこうしているうちに一年は組も補習を終えて全員帰ることになった。
私もたまみときり丸とともに我が家に向かう。
何度目かになる三人での帰り道。
たまみもすっかり馴染んできて、うちに来るのがごく自然なことになっていた。
少し前まできり丸と二人で歩いていたこの道。
たまみがいるだけで、ただ歩いているのが楽しかった。
それはきっときり丸も同じはずだ。
「土井先生」
「ん?何だきり丸?」
「ご機嫌っすね!」
楽しげに話す二人を見て、私は知らず鼻唄を歌っていたらしい。
二人にクスクスと笑われてしまった。
忍者のくせに無意識に鼻唄など聞いて呆れる…。
しかし、そんな自分でもまぁいいかと思えてしまうくらい、居心地のいい時間だった。
休暇中はまたしてもきり丸が持ち込んでくるバイト三昧で忙しい毎日。
一生懸命に内職の花作りを手伝うたまみを見てふと不思議に思った。
彼女は何も持たずにこの世界に来たから色々と入り用のものはあっただろう。
しかし、きり丸の手伝い以外にもアルバイトをしているわりには、お金を使っているように見えない。
何か欲しいものでもあって、貯めているのだろうか?
「たまみ」
「はい?」
「仕事以外にもたまにアルバイトをしてるのは、何か欲しいものでもあるのかい?」
彼女は花作りの手を止め、ちらりと私を見て目をそらした。
「…欲しいもの…、ではないのですが……。」
手元の花をくるくると回す。
「お金があった方が、色々と選択肢も増えるかなって…。」
「選択肢?」
「将来、何があるか分からないので…。」
それは、どういう意味だろう。
将来に備えて貯金…
ハッ、まさか…!
もしかして学園を出ることがあるかもしれないと思っているとか…私のもとを離れて!?
そんなこと考えたこともなかったが、いつかたまみが私を見限ってということも…なきにしもあらずなのかもしれない…?
ショックで動揺を隠しきれずに黙っていると、たまみが不思議そうな顔をした。
「どうしたんですか?」
「…いや、まさか…その、将来何があるか分からないって…?」
おそるおそる聞いてみる。
「もしかして…学園を…ここをでるつもりかい?」
彼女はキョトンとしたあと可笑しそうに笑った。
「違います。半助さんが私を嫌いにならない限り…お側にいますよ?」
「きみを嫌いになどなるわけがない。」
するとたまみは目を細めて微笑んだ。
「ほんとに…?」
「こんなに想っているのに、まだ伝わらない?」
そっと抱き寄せると、たまみは手にしていた花を机に置いて私の胸に寄り添ってきた。
「知ってるけど…聞きたいんです。」
たまみが甘えたように言葉をねだる。
そんな彼女が可愛くて、ぎゅっと抱きしめると耳元で囁いた。
「離さないと言っただろう。…もうたまみのいない生活なんて考えられない。」
「半助さん…」
「…愛してる…。」
「私もです…!」
たまみが私の背をぎゅっと抱きしめる。
私はくすりと笑って彼女の額に自分の額をこつんとくっつけた。
「むしろ、いつか愛想をつかされるのではないかと私の方が不安だよ。」
たまみは微笑して上目遣いにこちらを見た。
「半助さんが私を構ってくれてたら大丈夫です。」
「構う?」
「仕事で忙しい~とか…放ったらかしにされたら嫌です。」
「う……気をつけマス。」
そういえば春休み直前は忙しくてあまり構ってあげられていなかっただろうか…。
苦笑して頭をかくと、たまみが「選択肢というのは…」と小さな声で呟いた。
「前に、半助さんが…言ってたから……。」
「私が?何を?」
「………」
「?」
「…内緒です!」
「??」
何だ?
私が何か言ったのか?
全然思い当たることがないのだが…。
「すまない、私が何か言ったせいでそんなに頑張ってくれているのかい?」
「いえ、それだけじゃないので…気にしないでください。」
「たまみ…」
私はじっと彼女の瞳を覗き込み、真剣な眼差しで言った。
「私は、きみに無理をさせてまで望むものなどないよ…。」
「半助さん…」
何故かたまみは段々赤くなってきて焦り始めた。
「と、とにかく!何かのときのためにお金はあった方が安心ですよね!ほら、半助さんも手伝ってください!」
たまみは曖昧に笑ってこの話を終わりにしようとした。
内職の花の材料を手渡される。
とりあえず、一人で学園を出るために備えているとかそういうわけではなさそうでよかった。
何か欲しいものがあるわけでもなさそうだ。
…将来のため、か。
たまみの思う選択肢とは、どういうことなのだろう。
まぁしかし、先のことなどそのときになってみないと分からないことも多いわけで…。
とりあえずもうすぐ迫る彼女の誕生日に何を贈ろうか思案を巡らせながら、私も内職を手伝い始めた。
三人で過ごす日々は忙しいながらも楽しくて、休みはあっという間に過ぎていった。
きり丸の預かってきた赤ん坊をあやしながら、昼食の用意を始めたたまみの後ろ姿をぼんやりと眺める。
そして、私はふと思いついた。
…そうだ、これにしよう!
彼女の誕生日に贈るプレゼント。
私はすぐに立ち上がってわらじを履いた。
「ちょっと、赤ん坊と散歩してくるよ。すぐ戻るから。」
「はーい、気をつけて行ってきてくださいね。」
私は赤子を腕に抱きながら意気揚々と家を出た。
喜んでもらえたらいいなぁ…!
たまみの喜ぶ顔を想像し、思わずにんまりと笑顔になって目当ての店へと歩いた。