第87話 並木道
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今日の半助さんはいつにもまして優しく落ち着いた感じで、のんびりと二人で梅を見てとても嬉しい一時だった。
ずっとこんな時間が続けばいいのに…。
ふと、梅を眺めている親子三人に目がとまり、とても温かい気持ちになった。
いつか半助さんとあんな風に…なんて想像してしまう。
こんなことを考えていると知られたら、重たいと思われるだろうか。
半助さんならそんなことないような気もするけど…。
温かい気持ちのまま半助さんと並んで歩いていると、あっという間に長屋に着いた。
「大家さんのところに行ってくるから、たまみは家の中で待ってて。」
半助さんに言われて長屋の中に入るとすぐ、隣のおばちゃんの声がした。
「誰かいるのー?」
「あ、こんにちは。」
表に出て挨拶すると、隣のおばちゃんが私の顔を見て驚いた。
「たまみさん!あんた、ちょっとちょっと。」
腕を引かれて家の中に入る。
「えっ、あの、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、あんた最近半助とはどうなの?」
「ど、どうって…その、何も変わりませんが…。」
「そうなの?」
隣のおばちゃんが複雑な顔をした。
一体どうしたのだろう。
「こんなこと言うのもあれなんだけどね…」
何かを話そうか話すまいか迷っているようだった。
何だろう…。
「何かあったんですか?」
「いえ、ね…話すべきか迷ったんだけど…やっぱり後から知るよりも先に知っておくほうがいいかと思ってね…。」
「…?」
隣のおばちゃんが腕をくんで神妙な顔をした。
「あのね、最近この家に若い女性が出入りしてるのよ。」
「えっ!?」
「半助の知り合いだって言ってたけど、心当たりある?」
「いえ…。」
「そう…お節介かなとは思うんだけど、あなたには一応教えておこうと思って。」
「はい…ありがとうございます…。」
隣のおばちゃんは「ちゃんと半助とよく話すのよ。」と言って帰っていった。
半助さんに若い女性の知り合いがいるなんて聞いたことがない。
また誰かが女装してここに勝手に出入りしているのだろうか。
「あれ、開いてるー?」
若い女性の声!?
幻聴かと思って玄関を見ると、そこには若くて綺麗な女性が立っていた。
「えっ、…あれ!?」
女性は私を見ると家の周りを見渡した。
違う家を訪ねてしまったのか確認しているようだけれど、やはりここを訪ねてきたみたいだった。
この人が、隣のおばちゃんが言っていた若い女性だろうか。
「あの…何かご用ですか?」
尋ねると、彼女は気まずそうに焦っているようだった。
「あー、いえ、あの、用というか…。」
「…?」
あやしい。
声からして本物の女性ではあるようだ。
でも歯切れの悪い様子で、何か迷っているような焦っているような…挙動不審だ。
とりあえず誰何しよう。
「土ぃ…」
あ。
土井先生のお知り合いですかと聞きかけてやめた。
こちらの名前は出さない方がいいかもしれない。
しかし、女性は突然ハッとした顔で頷いた。
「そ、そう!土井先生の知り合いなの。今日は土井先生こちらに来てるのかしら?」
「はい、すぐに戻ると思いますが…あの、どういったお知り合いなんですか?」
あ、しまった。
つい直球で聞いてしまった。
女性は「えーっと」とか言いながら答えを考えているようだった。
やっぱりあやしい…。
「えっとぉ、仕事上の知り合いというか。」
「仕事上?」
ということは、この人は忍術学園の関係者…?
驚いていると彼女の方も私が気になるようで質問してきた。
「あの、それであなたは…?」
聞かれてみると私も答えに迷った。
長屋のご近所さん達の間では、私は半助さんの遠い親戚で居候させてもらっていることになっている。
でも忍術学園では私は一年は組補佐であり、半助さんとの仲やお家に泊まったりしていることは公にしてはいない。
この女性は半助さんの仕事上の知り合いと言っていたけれど、どのように説明したらいいのだろう…。
「私は、土井先生に色々とお世話になっている者で…。」
笑顔で曖昧にごまかすことにした。
すると女性は興味津々といった顔でじーっと私を見てきた。
「もしかして、土井先生のお嫁さん?」
「えっ!?ち、違いますっ!!」
慌てて否定するも、思わず目をそらして顔が赤くなってしまった。
すると女性は私の反応を見て面白いものを見つけたように「えーっ!」と嬉しそうな声を出した。
「うっそ、ほんとに!?女性ものの食器とか置いてるから、まさか土井先生もしかして…と思ってたけど、じゃあ彼女さんとか!?」
「え、や、そのー…」
どうして食器とか知ってるんだろう。
気にはなったものの、キラキラした目でぐいぐいと聞かれてたじろいだ。
彼女ではないとハッキリ否定するのも何だか言いにくくてどう返そう。
すると、その沈黙を肯定ととったのか、女性は嬉々として私の隣に並んだ。
「あの奥手な感じの土井先生がこんな可愛い彼女を作るなんて!ねぇねぇどこで知り合ったの!?」
「えーっと、一緒に仕事をさせてもらっていて…」
「あ、じゃあ忍術学園の?あなたもくノ一なの?」
あ、やっぱり忍者関係の人なんだ。
それにしてもサラッとグイグイ聞いてくる…。
「いえ、私はちょっとお手伝いしてるだけなんです。あなたはくノ一なんですか?」
「ええ、私は北石照代。フリーのくノ一をしてるの。忍術学園で教育実習したこともあるのよ。」
「そうなんですか!」
「結果は不合格だったんだけどね。」
アハハと笑う北石さん。
明るく気さくな感じの人のようだ。
「あの、それで…ここには何かご用事で?」
「あ、実はこの家を色んなところの忍者と情報交換する場所として使わせて貰ってるの。」
「えっ」
えええ?!
そんな話聞いてない。
半助さんは知っているのだろうか。
「土井先生はそのことをご存知なんですか?」
「うーん、隣のおばちゃんが変な侵入者を追い払うからここで集まるのはダメって言ってたんだけど、みんな忍び込むのが上手だから結局使わせて貰ってる感じかな。」
んん…?!
それって、土井先生の許可をちゃんと取ってないってことなんじゃ…。
北石さんの軽いノリに若干不安を感じた。
でも、隣のおばちゃんが心配していたみたいに半助さんが家に若い女性を自由に出入りさせているのとは少し違うようでちょっと安心した。
「ねぇねぇ、それで土井先生とは…あー聞きたいことがありすぎてどこから聞こうかしら!」
北石さんがテンション高く盛り上がっている。
人の恋話って楽しいよね!というオーラ全開でぐいぐい聞こうとしてくるのに焦ってしまった。
「土井先生のどんなところが好きなの?」
「それは…優しいところとか…」
「うんうん、土井先生優しいよねー。優しすぎて気苦労も多そうだけど。」
「それに、いざとなると強くて頼もしいところとか…」
「文房具だけでも敵と渡り合えちゃうんだからすごいよね。」
「そうなんです。普段は優しいのに、実はすごく強くて逞しくて…!」
「守ってくれる安心感ってやつね。」
「はい、それにとっても生徒想いで…」
「一年は組のみんなも土井先生大好きだよね。」
「はい!あと、すごくカッコいいんですけど、ときどきお茶目で可愛いところもあったり…」
「そうねぇ、おでん食べられなくて半泣きになってるの見たことあるわ。」
「ありますよねー。でもあと、子ども好きで子守りもプロだし、お洗濯とか家事も上手で…」
「それはポイント高い!」
「私のこともよく見てくれていて…困っていたらちゃんと色々助けてくれるんです。」
「土井先生やるわねぇ。押さえるべきところはしっかり押さえてるってわけね。」
「毎日忙しいのにちゃんと構ってくれるし…」
「えー意外!一年は組に手をやきすぎて色恋沙汰とか考えられないんじゃないかと思ってた!」
「お出かけとかはたまにしかできないですけど、今日も梅を見に連れていってくれたんです。」
「いいなぁー!梅を見ながらデートとか素敵!」
「えへへ、土井先生、ほんとに優しくてカッコいいんです…!」
「うんうん。」
北石さんがニヤニヤと頷いた。
…あれ。
私、熱く語りすぎた…?
こんな風に誰かと半助さんのことを話したことなんてなくて、北石さんも聞き上手で、つい熱弁してしまった。
でも、楽しい…!
同年代の女性と話す機会もなかったし、何だか恋話(というか私が半助さんの好きなところを一方的に語っていただけかも)ですっかり盛り上がってしまった…!
「いやー、でも土井先生ったら職場の可愛い子ちゃんに手を出しちゃうなんて…何かやらしー!」
「えぇっ!」
「土井先生ってば爽やかな教師に見えて実はむっつり…」
「誰がむっつりだって?」
「「ど、土井先生!!」」
家の戸にもたれるようにして、土井先生が困った顔で立っていた。
ずっとこんな時間が続けばいいのに…。
ふと、梅を眺めている親子三人に目がとまり、とても温かい気持ちになった。
いつか半助さんとあんな風に…なんて想像してしまう。
こんなことを考えていると知られたら、重たいと思われるだろうか。
半助さんならそんなことないような気もするけど…。
温かい気持ちのまま半助さんと並んで歩いていると、あっという間に長屋に着いた。
「大家さんのところに行ってくるから、たまみは家の中で待ってて。」
半助さんに言われて長屋の中に入るとすぐ、隣のおばちゃんの声がした。
「誰かいるのー?」
「あ、こんにちは。」
表に出て挨拶すると、隣のおばちゃんが私の顔を見て驚いた。
「たまみさん!あんた、ちょっとちょっと。」
腕を引かれて家の中に入る。
「えっ、あの、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、あんた最近半助とはどうなの?」
「ど、どうって…その、何も変わりませんが…。」
「そうなの?」
隣のおばちゃんが複雑な顔をした。
一体どうしたのだろう。
「こんなこと言うのもあれなんだけどね…」
何かを話そうか話すまいか迷っているようだった。
何だろう…。
「何かあったんですか?」
「いえ、ね…話すべきか迷ったんだけど…やっぱり後から知るよりも先に知っておくほうがいいかと思ってね…。」
「…?」
隣のおばちゃんが腕をくんで神妙な顔をした。
「あのね、最近この家に若い女性が出入りしてるのよ。」
「えっ!?」
「半助の知り合いだって言ってたけど、心当たりある?」
「いえ…。」
「そう…お節介かなとは思うんだけど、あなたには一応教えておこうと思って。」
「はい…ありがとうございます…。」
隣のおばちゃんは「ちゃんと半助とよく話すのよ。」と言って帰っていった。
半助さんに若い女性の知り合いがいるなんて聞いたことがない。
また誰かが女装してここに勝手に出入りしているのだろうか。
「あれ、開いてるー?」
若い女性の声!?
幻聴かと思って玄関を見ると、そこには若くて綺麗な女性が立っていた。
「えっ、…あれ!?」
女性は私を見ると家の周りを見渡した。
違う家を訪ねてしまったのか確認しているようだけれど、やはりここを訪ねてきたみたいだった。
この人が、隣のおばちゃんが言っていた若い女性だろうか。
「あの…何かご用ですか?」
尋ねると、彼女は気まずそうに焦っているようだった。
「あー、いえ、あの、用というか…。」
「…?」
あやしい。
声からして本物の女性ではあるようだ。
でも歯切れの悪い様子で、何か迷っているような焦っているような…挙動不審だ。
とりあえず誰何しよう。
「土ぃ…」
あ。
土井先生のお知り合いですかと聞きかけてやめた。
こちらの名前は出さない方がいいかもしれない。
しかし、女性は突然ハッとした顔で頷いた。
「そ、そう!土井先生の知り合いなの。今日は土井先生こちらに来てるのかしら?」
「はい、すぐに戻ると思いますが…あの、どういったお知り合いなんですか?」
あ、しまった。
つい直球で聞いてしまった。
女性は「えーっと」とか言いながら答えを考えているようだった。
やっぱりあやしい…。
「えっとぉ、仕事上の知り合いというか。」
「仕事上?」
ということは、この人は忍術学園の関係者…?
驚いていると彼女の方も私が気になるようで質問してきた。
「あの、それであなたは…?」
聞かれてみると私も答えに迷った。
長屋のご近所さん達の間では、私は半助さんの遠い親戚で居候させてもらっていることになっている。
でも忍術学園では私は一年は組補佐であり、半助さんとの仲やお家に泊まったりしていることは公にしてはいない。
この女性は半助さんの仕事上の知り合いと言っていたけれど、どのように説明したらいいのだろう…。
「私は、土井先生に色々とお世話になっている者で…。」
笑顔で曖昧にごまかすことにした。
すると女性は興味津々といった顔でじーっと私を見てきた。
「もしかして、土井先生のお嫁さん?」
「えっ!?ち、違いますっ!!」
慌てて否定するも、思わず目をそらして顔が赤くなってしまった。
すると女性は私の反応を見て面白いものを見つけたように「えーっ!」と嬉しそうな声を出した。
「うっそ、ほんとに!?女性ものの食器とか置いてるから、まさか土井先生もしかして…と思ってたけど、じゃあ彼女さんとか!?」
「え、や、そのー…」
どうして食器とか知ってるんだろう。
気にはなったものの、キラキラした目でぐいぐいと聞かれてたじろいだ。
彼女ではないとハッキリ否定するのも何だか言いにくくてどう返そう。
すると、その沈黙を肯定ととったのか、女性は嬉々として私の隣に並んだ。
「あの奥手な感じの土井先生がこんな可愛い彼女を作るなんて!ねぇねぇどこで知り合ったの!?」
「えーっと、一緒に仕事をさせてもらっていて…」
「あ、じゃあ忍術学園の?あなたもくノ一なの?」
あ、やっぱり忍者関係の人なんだ。
それにしてもサラッとグイグイ聞いてくる…。
「いえ、私はちょっとお手伝いしてるだけなんです。あなたはくノ一なんですか?」
「ええ、私は北石照代。フリーのくノ一をしてるの。忍術学園で教育実習したこともあるのよ。」
「そうなんですか!」
「結果は不合格だったんだけどね。」
アハハと笑う北石さん。
明るく気さくな感じの人のようだ。
「あの、それで…ここには何かご用事で?」
「あ、実はこの家を色んなところの忍者と情報交換する場所として使わせて貰ってるの。」
「えっ」
えええ?!
そんな話聞いてない。
半助さんは知っているのだろうか。
「土井先生はそのことをご存知なんですか?」
「うーん、隣のおばちゃんが変な侵入者を追い払うからここで集まるのはダメって言ってたんだけど、みんな忍び込むのが上手だから結局使わせて貰ってる感じかな。」
んん…?!
それって、土井先生の許可をちゃんと取ってないってことなんじゃ…。
北石さんの軽いノリに若干不安を感じた。
でも、隣のおばちゃんが心配していたみたいに半助さんが家に若い女性を自由に出入りさせているのとは少し違うようでちょっと安心した。
「ねぇねぇ、それで土井先生とは…あー聞きたいことがありすぎてどこから聞こうかしら!」
北石さんがテンション高く盛り上がっている。
人の恋話って楽しいよね!というオーラ全開でぐいぐい聞こうとしてくるのに焦ってしまった。
「土井先生のどんなところが好きなの?」
「それは…優しいところとか…」
「うんうん、土井先生優しいよねー。優しすぎて気苦労も多そうだけど。」
「それに、いざとなると強くて頼もしいところとか…」
「文房具だけでも敵と渡り合えちゃうんだからすごいよね。」
「そうなんです。普段は優しいのに、実はすごく強くて逞しくて…!」
「守ってくれる安心感ってやつね。」
「はい、それにとっても生徒想いで…」
「一年は組のみんなも土井先生大好きだよね。」
「はい!あと、すごくカッコいいんですけど、ときどきお茶目で可愛いところもあったり…」
「そうねぇ、おでん食べられなくて半泣きになってるの見たことあるわ。」
「ありますよねー。でもあと、子ども好きで子守りもプロだし、お洗濯とか家事も上手で…」
「それはポイント高い!」
「私のこともよく見てくれていて…困っていたらちゃんと色々助けてくれるんです。」
「土井先生やるわねぇ。押さえるべきところはしっかり押さえてるってわけね。」
「毎日忙しいのにちゃんと構ってくれるし…」
「えー意外!一年は組に手をやきすぎて色恋沙汰とか考えられないんじゃないかと思ってた!」
「お出かけとかはたまにしかできないですけど、今日も梅を見に連れていってくれたんです。」
「いいなぁー!梅を見ながらデートとか素敵!」
「えへへ、土井先生、ほんとに優しくてカッコいいんです…!」
「うんうん。」
北石さんがニヤニヤと頷いた。
…あれ。
私、熱く語りすぎた…?
こんな風に誰かと半助さんのことを話したことなんてなくて、北石さんも聞き上手で、つい熱弁してしまった。
でも、楽しい…!
同年代の女性と話す機会もなかったし、何だか恋話(というか私が半助さんの好きなところを一方的に語っていただけかも)ですっかり盛り上がってしまった…!
「いやー、でも土井先生ったら職場の可愛い子ちゃんに手を出しちゃうなんて…何かやらしー!」
「えぇっ!」
「土井先生ってば爽やかな教師に見えて実はむっつり…」
「誰がむっつりだって?」
「「ど、土井先生!!」」
家の戸にもたれるようにして、土井先生が困った顔で立っていた。