第87話 並木道
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補習の終わった午後。
先日約束していた梅を見にたまみと二人で出かけた。
今回は前もって約束していたこともあり、彼女は薄く化粧をして髪を結い上げていた。
他でもない自分と出かける為に着飾ってくれていることも嬉しかったし、そんな可愛いたまみが私だけのものであることも嬉しかった。
出門票を書くとき、つい顔がにやけてしまってはいないかと内心どきどきした。
今日はとても天気がよく、陽射しが温かくて心地好い日だった。
たまみとは身長差があり歩幅が違うので、彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩く。
他愛の無い話をしながら、私に寄り添うように並んで歩く彼女が愛しい。
「途中でお饅頭屋さんがあるから、買っていって梅を見ながら食べようか。」
「はい!」
「あんこが5種類もあるらしいよ。」
「5種類?どんな味なんでしょうねぇ。」
子どものようにワクワクとしているのが可愛らしい。
美味しいお饅頭のお店を教えてくれたしんべヱに感謝だな…。
山に向かって歩いていくと、川沿いに梅並木があった。
丁度見頃を迎えていて、白や桃色の可愛い花が満開に咲いている。
「たくさん咲いてますねぇ。」
たまみが嬉しそうににこにこと花を見上げた。
どこからかホーホケキョと鳥の鳴き声が聞こえる。
「あ、あそこにウグイスが!」
「うーん、あれは目の回りが白いしメジロじゃないかな。ウグイスはもっと茶色いと思うよ。」
「そうなんですか。ウグイスって緑色だと思ってました…半助さんってほんとに色々知ってますねぇ。」
こんな些細なことでも尊敬の眼差しを向けられて何だか照れくさくなる。
雑学も役に立つときがあるものだな…。
仄かに香る白い梅や、桃色の梅。
その間を飛び回る小さな緑色の小鳥達。
「可愛いですねぇ。」
「そうだな。」
そう言って微笑むきみこそが可愛い…。
「さっき買ったお饅頭、この辺で食べますか?」
ここに来る途中お饅頭屋さんに立ち寄り、結局5種類全部1つずつ買ってみたのだった。
「いいよ。たまみは花より団子だな?」
「そんなことないですよー!こういう綺麗な景色を見ながら食べたら美味しさも倍増って感じです!」
「ははは、そうかそうか。」
からかうとムキになって言い返してくるのが面白い。
笑いながらなだめると不服そうにしていたが、少し歩くとすぐに忘れてまた笑顔を見せるのが可愛いと思う。
たまみは大きな切り株の上に座り、ワクワクした顔で包みをじっと見た。
私もその隣に腰かける。
「どのあんこがいいですか?」
「たまみは全部食べてみたいんだろう?それぞれ半分ずつにするかい?」
「えー、いいんですかぁ。」などと言いながらも嬉しそうな顔をするたまみ。
ちょっとずつ食べてみたい派であることはもう知っている。
そして結局全部半分こにしてたまみは満足そうにしていた。
この細い体のどこにそんなに入るのかと不思議に思うが、甘いものは別腹ということらしい。
この前ダイエットがどうとか話していたが、もういいのかな…。
「ねぇ、半助さん」
「ん?」
「あれ、いいですねぇ。」
たまみの目線の先には、老夫婦が仲睦まじく手を繋いで梅を眺めていた。
「あんな風に歳をとりたいです…」
「そうだなぁ。」
それは随分将来の図。
私はどちらかというと、その向こうにいる子連れの家族を羨ましく感じたのだが。
しかし、それを言うのは何だか憚られた。
遠回しに家族になろうとか子どもを作ろうとか…そんな風に聞こえる気がして。
そう言ってしまっても構わないのだが…まだこの世界に来て一年も経っていない彼女には早いような気がして躊躇ってしまった。
…ちょっと行動は伴っていないときもなきにしもあらずだが。
そっと、たまみの顔を見てみる。
彼女もまた、その子連れの家族を温かい目で見つめていた。
…もしかして、同じ気持ちなのだろうか。
そうだったらいいなぁと思いながらたまみの頭をゆっくり撫でると、彼女が私にぴたりと寄り添った。
こんな公衆の面前で…と思いながらも腕を振りほどくことが出来ずにいると、先程の老夫婦がこちらをにこにこと見ていた。
…ああ、そうか。
私達が彼等を見て将来に想いを馳せるのとは逆に、彼等は我々を見て昔を思い出しているのか。
そう思うと、いま生きているこの時間を…いま目の前のこの彼女を、大事にしなければと強く感じた。
あの老夫婦が懐かしく思っているであろう時を、私達はいま生きているのだ。
「…たまみ」
「はい?」
「きみとこうして過ごせて、私は幸せだよ。」
たまみは嬉しそうに微笑み、私の手に手を重ねた。
「私もです。」
二人して見つめあう。
先程花より団子だななんて話していたが、私の場合はそれよりもたまみだな…なんて思ってしまった。
「そういえば、このあと家に寄ってもいいかい?」
「はい、お家賃の支払いですか?」
「そうなんだ。今日は掃除の日とかじゃないと思うから大丈夫だよ。」
「大丈夫って…」
笑いながらじっと見上げてくるたまみ。
「いや、その…そういう意味じゃなくて、ゆっくりできるよっていう…」
ちょっと焦ってそう言うと、たまみは私を面白そうに見つめた。
「ふふふ、半助さん可愛いですね。」
「……っ。ほら、行くぞ。」
何だか恥ずかしくなって立ち上がると、たまみも立って私と手を繋いだ。
そうして、私達は梅並木の下を手を繋いでゆっくりと歩いていったのだった。
先日約束していた梅を見にたまみと二人で出かけた。
今回は前もって約束していたこともあり、彼女は薄く化粧をして髪を結い上げていた。
他でもない自分と出かける為に着飾ってくれていることも嬉しかったし、そんな可愛いたまみが私だけのものであることも嬉しかった。
出門票を書くとき、つい顔がにやけてしまってはいないかと内心どきどきした。
今日はとても天気がよく、陽射しが温かくて心地好い日だった。
たまみとは身長差があり歩幅が違うので、彼女の歩調に合わせてゆっくりと歩く。
他愛の無い話をしながら、私に寄り添うように並んで歩く彼女が愛しい。
「途中でお饅頭屋さんがあるから、買っていって梅を見ながら食べようか。」
「はい!」
「あんこが5種類もあるらしいよ。」
「5種類?どんな味なんでしょうねぇ。」
子どものようにワクワクとしているのが可愛らしい。
美味しいお饅頭のお店を教えてくれたしんべヱに感謝だな…。
山に向かって歩いていくと、川沿いに梅並木があった。
丁度見頃を迎えていて、白や桃色の可愛い花が満開に咲いている。
「たくさん咲いてますねぇ。」
たまみが嬉しそうににこにこと花を見上げた。
どこからかホーホケキョと鳥の鳴き声が聞こえる。
「あ、あそこにウグイスが!」
「うーん、あれは目の回りが白いしメジロじゃないかな。ウグイスはもっと茶色いと思うよ。」
「そうなんですか。ウグイスって緑色だと思ってました…半助さんってほんとに色々知ってますねぇ。」
こんな些細なことでも尊敬の眼差しを向けられて何だか照れくさくなる。
雑学も役に立つときがあるものだな…。
仄かに香る白い梅や、桃色の梅。
その間を飛び回る小さな緑色の小鳥達。
「可愛いですねぇ。」
「そうだな。」
そう言って微笑むきみこそが可愛い…。
「さっき買ったお饅頭、この辺で食べますか?」
ここに来る途中お饅頭屋さんに立ち寄り、結局5種類全部1つずつ買ってみたのだった。
「いいよ。たまみは花より団子だな?」
「そんなことないですよー!こういう綺麗な景色を見ながら食べたら美味しさも倍増って感じです!」
「ははは、そうかそうか。」
からかうとムキになって言い返してくるのが面白い。
笑いながらなだめると不服そうにしていたが、少し歩くとすぐに忘れてまた笑顔を見せるのが可愛いと思う。
たまみは大きな切り株の上に座り、ワクワクした顔で包みをじっと見た。
私もその隣に腰かける。
「どのあんこがいいですか?」
「たまみは全部食べてみたいんだろう?それぞれ半分ずつにするかい?」
「えー、いいんですかぁ。」などと言いながらも嬉しそうな顔をするたまみ。
ちょっとずつ食べてみたい派であることはもう知っている。
そして結局全部半分こにしてたまみは満足そうにしていた。
この細い体のどこにそんなに入るのかと不思議に思うが、甘いものは別腹ということらしい。
この前ダイエットがどうとか話していたが、もういいのかな…。
「ねぇ、半助さん」
「ん?」
「あれ、いいですねぇ。」
たまみの目線の先には、老夫婦が仲睦まじく手を繋いで梅を眺めていた。
「あんな風に歳をとりたいです…」
「そうだなぁ。」
それは随分将来の図。
私はどちらかというと、その向こうにいる子連れの家族を羨ましく感じたのだが。
しかし、それを言うのは何だか憚られた。
遠回しに家族になろうとか子どもを作ろうとか…そんな風に聞こえる気がして。
そう言ってしまっても構わないのだが…まだこの世界に来て一年も経っていない彼女には早いような気がして躊躇ってしまった。
…ちょっと行動は伴っていないときもなきにしもあらずだが。
そっと、たまみの顔を見てみる。
彼女もまた、その子連れの家族を温かい目で見つめていた。
…もしかして、同じ気持ちなのだろうか。
そうだったらいいなぁと思いながらたまみの頭をゆっくり撫でると、彼女が私にぴたりと寄り添った。
こんな公衆の面前で…と思いながらも腕を振りほどくことが出来ずにいると、先程の老夫婦がこちらをにこにこと見ていた。
…ああ、そうか。
私達が彼等を見て将来に想いを馳せるのとは逆に、彼等は我々を見て昔を思い出しているのか。
そう思うと、いま生きているこの時間を…いま目の前のこの彼女を、大事にしなければと強く感じた。
あの老夫婦が懐かしく思っているであろう時を、私達はいま生きているのだ。
「…たまみ」
「はい?」
「きみとこうして過ごせて、私は幸せだよ。」
たまみは嬉しそうに微笑み、私の手に手を重ねた。
「私もです。」
二人して見つめあう。
先程花より団子だななんて話していたが、私の場合はそれよりもたまみだな…なんて思ってしまった。
「そういえば、このあと家に寄ってもいいかい?」
「はい、お家賃の支払いですか?」
「そうなんだ。今日は掃除の日とかじゃないと思うから大丈夫だよ。」
「大丈夫って…」
笑いながらじっと見上げてくるたまみ。
「いや、その…そういう意味じゃなくて、ゆっくりできるよっていう…」
ちょっと焦ってそう言うと、たまみは私を面白そうに見つめた。
「ふふふ、半助さん可愛いですね。」
「……っ。ほら、行くぞ。」
何だか恥ずかしくなって立ち上がると、たまみも立って私と手を繋いだ。
そうして、私達は梅並木の下を手を繋いでゆっくりと歩いていったのだった。