第83話 初詣
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近くのお寺へと初詣に向かう。
雪は薄く積もっていただけだが、不慣れなたまみは私の腕にしがみつきながらよたよたと歩いていた。
寺に到着するとまずお参りして去年一年間の無事に感謝し、今年一年も皆が息災に暮らせることを祈願した。
「…ん?」
参拝者の一角に人だかりができている。
何だろうと覗いてみると、そこには『新春 餅つき大会』という旗が立てられ数組の杵と臼が並んでいた。
「土井先生、これペアで参加したらお餅がタダで貰えるって…!」
「きり丸、目が銭になってるぞ。こういうのはお寺からの振舞いだったりするんだから、参加しなくてもお餅は食べさせて貰えるんじゃないか?ほら、あそこにお汁粉の用意がしてある。」
お汁粉と聞いてたまみの目が嬉しそうに光った。
まったく…きり丸に小銭、たまみに甘いものだな。
「あれっ、あそこに並んでるのって…。」
たまみが大会参加者の列を指差した。
するとそこにはよく知る顔が…。
「で、伝子さんと利吉くんっ!?」
私の声に反応してこちらを向く二人。
利吉くんがあからさまに嫌そうな顔をしいて元気がない。
「こんなところに参加するなんて、どうしたんですか?」
山田先生…もとい伝子さんに尋ねると、体をくねくねさせながら楽しそうに答えた。
「利吉がどうしてもこれに参加したいって言うから~仕方なく付き合ってあげてるのよぉ。」
「誤解を招く言い方をしないでくださいっ!」
利吉くんがカッと怒りながら私達の前にチラシを見せた。
「この餅つき大会は、一番美味しくお餅をこねた参加者に景品が出るんですよ。」
「優勝者には…『幸運の巻物』!?」
「はい。件の巻物とは関係ないとは思うのですが…。少し気になったので一応参加してみようと父に声をかけたところ、ここに着いてから男女のペアで参加となっていることに気付き……あとはご覧の通りです。」
利吉くんが苦虫を噛み潰したような顔をして説明した。
確かに、年始早々から女装した父親…しかも伝子さん…と餅つき大会に出るのは…。
「利吉くん…、たまみの為にすまないね…。」
「土井先生に礼を言われる筋合いは……って、そうですよ!たまみさん!私と一緒に餅をつきましょう!!」
利吉くんが勢いよくたまみの手を握った。
びっくりして固まる彼女の肩をぐっと引っ張り背に隠す。
「それは駄目だ。」
「何故ですか!?」
結構本気で食いついてくる利吉くん。
まぁ、皆の前で伝子さんと二人仲良く餅つき…気持ちは分からなくはない。
しかしだからといって…たまみとペアで餅をつくのを黙ってみている訳にはいかなかった。
「えー…っと、だな。そう、私達も参加しようと思ってたんだ!な、きり丸、美味しいお餅を分けて貰おう!」
苦し紛れにそう言うと、目を銭にしたきり丸が喜んで小躍りし、たまみが一瞬驚くも空気を読み「はい、頑張ります…」と苦笑した。
「くっ…!分かりました、では土井先生、ここはひとつ優勝をかけて勝負ですね。」
すると伝子さんが利吉くんの袖をくいっと引っ張った。
「ちょっと二人とも熱くなってないで周りを見てみなさい。あそこ…見覚えのある顔がいるわよ。」
「「あれはドクタケの…!」」
特徴のある色眼鏡で、それはドクタケの風鬼と明らかに女装している曇鬼だった。
二人はこちらに気づくと不敵な笑みを浮かべた。
「こちとら八方斎様の命令で幸運の巻物を手に入れに来てるんだ。お遊び半分の貴様等には負けんぞ…!」
「遊びだと!?そっちこそ余計な手出しはしないで貰おうか…!」
冷静な利吉くんらしくなく、相手の安い挑発にイラッとしているようだった。
それだけ、真剣な気持ちでたまみのために巻物を入手して確認しようとしてくれているということか…いや、それとも伝子さんのせいかな。
「利吉くん、落ち着いて。変に巻物の価値を意識させたらまずい。」
「!…そうですね。」
利吉くんがフーッと息を吐く。
「んふふ、楽しくなってきたわねぇ。」
伝子さんがニヤリと笑った。
「それでは、これより今年一年の幸せを祈願して新春恒例の餅つき大会を始めます!参加者の皆様、一番美味しくできたお餅は仏様にお供えし、その代わりとして幸運の巻物を授与致します。お餅の審査は和尚であるわたくしが僭越ながらつとめます。」
和尚さんがマイクをもって皆の前で挨拶した。
何だか誰かを思い出すお爺さんだな…。
隣で利吉くんが杵をぐっと構える。
私も杵を構えようとしたとき、たまみが不安げな顔でこちらを見上げた。
「あの、」
「ん?」
「初めてなので、優しくしてくださいね…」
「!」
まぎらわしい台詞にうっかり杵を落としかけた。
ゴトンという音に隣を見ると、利吉くんが伝子さんの手の上に杵を落としていた。絶叫して素に戻る伝子さん。
「は、はは…大丈夫。たまみのペースにちゃんと合わせるから。さっき説明した通り適当にこねてくれたらいいよ。」
「はい、頑張ります!」
すると、開始の合図の笛が鳴った。
観客から「おぉーっ!」という歓声があがりそちらを見てみると、ドクタケの二人がものすごい速さで餅をついている。
「父う…伝子さん、ここは我々も負けてられませんよ…!」
「よぉし、いくわよ利吉っ!」
伝子さんと利吉くんも負けじと物凄い速さで餅をつき始めた。
観客の子ども達もあまりの速さに口を開けて呆然と眺めている。
しまいには伝子さんがピザ生地のようにびゅんびゅんこねて餅を空中に投げ、利吉くんが杵でそれを臼に打ち返したりしていた。
これにはドクタケの二人も驚いて餅をつく手が止まっていた。
「す、すごいですねぇ…。」
たまみも驚いてポカンとしている。
風鬼達もこのまま負けるわけにはいかないと張り合いだし、もはや餅つきというか餅打ちというか普通ではない様相を呈してきて、観客は大いにわいていた。
「と、とりあえず我々は普通に餅をつこう。」
「分かりました…!はいっ!」
ペッタン!
「はいっ!」
ペッタン!
たまみの掛け声にあわせて杵を降ろし、ペッタンペッタンと餅をつく。
彼女の小さな手ではなかなか餅全体を素早くこねるのは難しそうだったが、体全体を使って頑張ってくれた。
一生懸命な姿が可愛いらしくて、何だか二人で餅をつくのがとても楽しかった。
「はい、そこまでー!」
終了の合図があり、皆が手を止めた。
「ではどのお餅が美味しいか試食させて頂きます。」
和尚さんが順番に皆の餅を一口ずつ頬張っていく。
そして全てを食べ終わるとにこりと頷き、台の上に置かれていた巻物を手に取った。
あれが幸運の巻物か…。
見た目は普通の巻物に見えるが…。
たまみも、隣の利吉くん達も息を飲んで巻物を見つめた。
風鬼達もグッと手を握りしめて見つめている。
「どのお餅も美味しくできていましたが、今回の優勝は…」
和尚さんがたまみの肩をぽんと叩いた。
「こちらのご夫婦のお餅です!」
「「えぇっ!」」
誰よりも驚いたのは自分達で。
というか夫婦って…!
「あちらの方々のパフォーマンスはとても素晴らしく圧巻だったのですが、お餅をつきすぎていて少々柔らかすぎました。こちらのご夫婦は終始笑顔でこれぞまさに幸せのお餅!ぜひ仏様にお供えさせてください。」
「は、はぁ…。」
始終笑顔って、そんなに嬉しそうにしていたのだろうか。
先刻きり丸にデレデレしすぎだと言われたのを思い出して恥ずかしくなり、曖昧に返事をしてしまった。
「ではこちらが優勝者に授与する幸運の巻物です。」
「!」
受け取ると、その巻物は心なしかずっしりと感じられた。
この場ですぐ開けていいものか躊躇した瞬間、風鬼と曇鬼が巻物を奪いに襲いかかってきた。
咄嗟に巻物を懐に隠し、たまみを背に庇う。
と、次の瞬間。
利吉くんと伝子さんが我々の間に割って入り、さすが親子、何の打ち合わせもしていないのに見事な手際で二人を瞬く間に縛り上げてしまった。
「まったく、油断も隙もない。」
「ほんとほんと。あなた達は巻物じゃなくてお餅を持って帰りなさぁい。」
「く、くそぅ…!新年早々簡単な忍務だと思ったのに、とんだ邪魔が入ってしまった…!」
悔しそうにする二人を残し、我々は人目につかぬよう寺の裏側に回った。
「さて、それでこの巻物は何なのか…」
懐から巻物を取り出すと、女装を解いた山田先生も利吉くんもたまみも、皆息をのんだ。
「たまみ…いいかい?」
一応確認すると、彼女は私の袖をぎゅっとつかんで頷いた。
山田先生と利吉くんも頷き、そっと巻物を広げてみる。
「こ…これは……っ!!」
そこには。
何と、和尚さんの似顔絵つきで、「幸運を引き寄せるための生活指針」のようなものがつらつらと記されていた。
「これは…」
「ただの…」
「普通の巻物だな…」
四人ともホッと安堵したように肩の力をぬいてその場で笑いだした。
よかった。
これが偽物であったことに胸を撫で下ろす自分がいた。
「何はともあれこれでひと安心ですね。」
利吉くんが巻物を空にすかしてみたり端から端まで隅々確認して得心したように言った。
「山田先生も利吉さんもお忙しいのにすみませんでした…!」
たまみが頭を下げると二人は苦笑して手を振った。
「いえいえ、私が勝手に気になって参加してみただけなので。たまみさんは気にしないでください。」
「うむ、久しぶりに利吉と餅つきをして楽しかったしな。」
「女装はいりませんでしたけどね…。」
「なんだ、伝子さんにケチをつける気か!?」
いつものように言い合いを始める山田親子。
まだ私の袖をつかんだままのたまみの頭をぽんと撫でると、私はにこりと微笑んだ。
「さあ、お汁粉を飲んで帰ろうか。」
結局、巻物は風鬼達に渡してやった。
そしてきり丸の姿を見ないと思っていたら、寺のなかでいつの間にか甘酒を売ったりしていて慌ててやめさせた。
何だか予想外の初詣となってしまったが、結果としてお餅も分けて貰えたし、たまみもお汁粉を飲んで嬉しそうにしていたし、よかったかな…。
雪は薄く積もっていただけだが、不慣れなたまみは私の腕にしがみつきながらよたよたと歩いていた。
寺に到着するとまずお参りして去年一年間の無事に感謝し、今年一年も皆が息災に暮らせることを祈願した。
「…ん?」
参拝者の一角に人だかりができている。
何だろうと覗いてみると、そこには『新春 餅つき大会』という旗が立てられ数組の杵と臼が並んでいた。
「土井先生、これペアで参加したらお餅がタダで貰えるって…!」
「きり丸、目が銭になってるぞ。こういうのはお寺からの振舞いだったりするんだから、参加しなくてもお餅は食べさせて貰えるんじゃないか?ほら、あそこにお汁粉の用意がしてある。」
お汁粉と聞いてたまみの目が嬉しそうに光った。
まったく…きり丸に小銭、たまみに甘いものだな。
「あれっ、あそこに並んでるのって…。」
たまみが大会参加者の列を指差した。
するとそこにはよく知る顔が…。
「で、伝子さんと利吉くんっ!?」
私の声に反応してこちらを向く二人。
利吉くんがあからさまに嫌そうな顔をしいて元気がない。
「こんなところに参加するなんて、どうしたんですか?」
山田先生…もとい伝子さんに尋ねると、体をくねくねさせながら楽しそうに答えた。
「利吉がどうしてもこれに参加したいって言うから~仕方なく付き合ってあげてるのよぉ。」
「誤解を招く言い方をしないでくださいっ!」
利吉くんがカッと怒りながら私達の前にチラシを見せた。
「この餅つき大会は、一番美味しくお餅をこねた参加者に景品が出るんですよ。」
「優勝者には…『幸運の巻物』!?」
「はい。件の巻物とは関係ないとは思うのですが…。少し気になったので一応参加してみようと父に声をかけたところ、ここに着いてから男女のペアで参加となっていることに気付き……あとはご覧の通りです。」
利吉くんが苦虫を噛み潰したような顔をして説明した。
確かに、年始早々から女装した父親…しかも伝子さん…と餅つき大会に出るのは…。
「利吉くん…、たまみの為にすまないね…。」
「土井先生に礼を言われる筋合いは……って、そうですよ!たまみさん!私と一緒に餅をつきましょう!!」
利吉くんが勢いよくたまみの手を握った。
びっくりして固まる彼女の肩をぐっと引っ張り背に隠す。
「それは駄目だ。」
「何故ですか!?」
結構本気で食いついてくる利吉くん。
まぁ、皆の前で伝子さんと二人仲良く餅つき…気持ちは分からなくはない。
しかしだからといって…たまみとペアで餅をつくのを黙ってみている訳にはいかなかった。
「えー…っと、だな。そう、私達も参加しようと思ってたんだ!な、きり丸、美味しいお餅を分けて貰おう!」
苦し紛れにそう言うと、目を銭にしたきり丸が喜んで小躍りし、たまみが一瞬驚くも空気を読み「はい、頑張ります…」と苦笑した。
「くっ…!分かりました、では土井先生、ここはひとつ優勝をかけて勝負ですね。」
すると伝子さんが利吉くんの袖をくいっと引っ張った。
「ちょっと二人とも熱くなってないで周りを見てみなさい。あそこ…見覚えのある顔がいるわよ。」
「「あれはドクタケの…!」」
特徴のある色眼鏡で、それはドクタケの風鬼と明らかに女装している曇鬼だった。
二人はこちらに気づくと不敵な笑みを浮かべた。
「こちとら八方斎様の命令で幸運の巻物を手に入れに来てるんだ。お遊び半分の貴様等には負けんぞ…!」
「遊びだと!?そっちこそ余計な手出しはしないで貰おうか…!」
冷静な利吉くんらしくなく、相手の安い挑発にイラッとしているようだった。
それだけ、真剣な気持ちでたまみのために巻物を入手して確認しようとしてくれているということか…いや、それとも伝子さんのせいかな。
「利吉くん、落ち着いて。変に巻物の価値を意識させたらまずい。」
「!…そうですね。」
利吉くんがフーッと息を吐く。
「んふふ、楽しくなってきたわねぇ。」
伝子さんがニヤリと笑った。
「それでは、これより今年一年の幸せを祈願して新春恒例の餅つき大会を始めます!参加者の皆様、一番美味しくできたお餅は仏様にお供えし、その代わりとして幸運の巻物を授与致します。お餅の審査は和尚であるわたくしが僭越ながらつとめます。」
和尚さんがマイクをもって皆の前で挨拶した。
何だか誰かを思い出すお爺さんだな…。
隣で利吉くんが杵をぐっと構える。
私も杵を構えようとしたとき、たまみが不安げな顔でこちらを見上げた。
「あの、」
「ん?」
「初めてなので、優しくしてくださいね…」
「!」
まぎらわしい台詞にうっかり杵を落としかけた。
ゴトンという音に隣を見ると、利吉くんが伝子さんの手の上に杵を落としていた。絶叫して素に戻る伝子さん。
「は、はは…大丈夫。たまみのペースにちゃんと合わせるから。さっき説明した通り適当にこねてくれたらいいよ。」
「はい、頑張ります!」
すると、開始の合図の笛が鳴った。
観客から「おぉーっ!」という歓声があがりそちらを見てみると、ドクタケの二人がものすごい速さで餅をついている。
「父う…伝子さん、ここは我々も負けてられませんよ…!」
「よぉし、いくわよ利吉っ!」
伝子さんと利吉くんも負けじと物凄い速さで餅をつき始めた。
観客の子ども達もあまりの速さに口を開けて呆然と眺めている。
しまいには伝子さんがピザ生地のようにびゅんびゅんこねて餅を空中に投げ、利吉くんが杵でそれを臼に打ち返したりしていた。
これにはドクタケの二人も驚いて餅をつく手が止まっていた。
「す、すごいですねぇ…。」
たまみも驚いてポカンとしている。
風鬼達もこのまま負けるわけにはいかないと張り合いだし、もはや餅つきというか餅打ちというか普通ではない様相を呈してきて、観客は大いにわいていた。
「と、とりあえず我々は普通に餅をつこう。」
「分かりました…!はいっ!」
ペッタン!
「はいっ!」
ペッタン!
たまみの掛け声にあわせて杵を降ろし、ペッタンペッタンと餅をつく。
彼女の小さな手ではなかなか餅全体を素早くこねるのは難しそうだったが、体全体を使って頑張ってくれた。
一生懸命な姿が可愛いらしくて、何だか二人で餅をつくのがとても楽しかった。
「はい、そこまでー!」
終了の合図があり、皆が手を止めた。
「ではどのお餅が美味しいか試食させて頂きます。」
和尚さんが順番に皆の餅を一口ずつ頬張っていく。
そして全てを食べ終わるとにこりと頷き、台の上に置かれていた巻物を手に取った。
あれが幸運の巻物か…。
見た目は普通の巻物に見えるが…。
たまみも、隣の利吉くん達も息を飲んで巻物を見つめた。
風鬼達もグッと手を握りしめて見つめている。
「どのお餅も美味しくできていましたが、今回の優勝は…」
和尚さんがたまみの肩をぽんと叩いた。
「こちらのご夫婦のお餅です!」
「「えぇっ!」」
誰よりも驚いたのは自分達で。
というか夫婦って…!
「あちらの方々のパフォーマンスはとても素晴らしく圧巻だったのですが、お餅をつきすぎていて少々柔らかすぎました。こちらのご夫婦は終始笑顔でこれぞまさに幸せのお餅!ぜひ仏様にお供えさせてください。」
「は、はぁ…。」
始終笑顔って、そんなに嬉しそうにしていたのだろうか。
先刻きり丸にデレデレしすぎだと言われたのを思い出して恥ずかしくなり、曖昧に返事をしてしまった。
「ではこちらが優勝者に授与する幸運の巻物です。」
「!」
受け取ると、その巻物は心なしかずっしりと感じられた。
この場ですぐ開けていいものか躊躇した瞬間、風鬼と曇鬼が巻物を奪いに襲いかかってきた。
咄嗟に巻物を懐に隠し、たまみを背に庇う。
と、次の瞬間。
利吉くんと伝子さんが我々の間に割って入り、さすが親子、何の打ち合わせもしていないのに見事な手際で二人を瞬く間に縛り上げてしまった。
「まったく、油断も隙もない。」
「ほんとほんと。あなた達は巻物じゃなくてお餅を持って帰りなさぁい。」
「く、くそぅ…!新年早々簡単な忍務だと思ったのに、とんだ邪魔が入ってしまった…!」
悔しそうにする二人を残し、我々は人目につかぬよう寺の裏側に回った。
「さて、それでこの巻物は何なのか…」
懐から巻物を取り出すと、女装を解いた山田先生も利吉くんもたまみも、皆息をのんだ。
「たまみ…いいかい?」
一応確認すると、彼女は私の袖をぎゅっとつかんで頷いた。
山田先生と利吉くんも頷き、そっと巻物を広げてみる。
「こ…これは……っ!!」
そこには。
何と、和尚さんの似顔絵つきで、「幸運を引き寄せるための生活指針」のようなものがつらつらと記されていた。
「これは…」
「ただの…」
「普通の巻物だな…」
四人ともホッと安堵したように肩の力をぬいてその場で笑いだした。
よかった。
これが偽物であったことに胸を撫で下ろす自分がいた。
「何はともあれこれでひと安心ですね。」
利吉くんが巻物を空にすかしてみたり端から端まで隅々確認して得心したように言った。
「山田先生も利吉さんもお忙しいのにすみませんでした…!」
たまみが頭を下げると二人は苦笑して手を振った。
「いえいえ、私が勝手に気になって参加してみただけなので。たまみさんは気にしないでください。」
「うむ、久しぶりに利吉と餅つきをして楽しかったしな。」
「女装はいりませんでしたけどね…。」
「なんだ、伝子さんにケチをつける気か!?」
いつものように言い合いを始める山田親子。
まだ私の袖をつかんだままのたまみの頭をぽんと撫でると、私はにこりと微笑んだ。
「さあ、お汁粉を飲んで帰ろうか。」
結局、巻物は風鬼達に渡してやった。
そしてきり丸の姿を見ないと思っていたら、寺のなかでいつの間にか甘酒を売ったりしていて慌ててやめさせた。
何だか予想外の初詣となってしまったが、結果としてお餅も分けて貰えたし、たまみもお汁粉を飲んで嬉しそうにしていたし、よかったかな…。