第44話 祝と布告
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きり丸にはすぐ気づかれるのではないかと思っていたが、案の定バレてしまった。
いずれにしても時間の問題か…と半ば諦めて私はため息をついた。
部屋の中を見ると、墨を乾かしているプリントが広がっていた。
「たまみさん、ありがとうございます。これくらいで一旦止めましょうか。山田先生が戻られたら座る場所が…。」
「あっ!すみません、ついやりすぎてしまいました…。」
たまみさんが筆を置いて乾いているプリントがないか確認していく。
「失礼します。」
聞きなれた声とともに、気配も音もなく障子があけられた。
「!…利吉くん。」
「お疲れ様です、土井先生。…と、たまみさんも。これはまた…すごいですね。」
「すみません、すぐに場所をあけます!」
「いえ、ここで結構ですよ。父に母からの手紙を預かってきただけなので。」
「山田先生ならすぐ戻ると思うよ。」
「そうですか。…これは、明日のプリントですか。お忙しそうですね。」
「そうなんです…はい、どうぞ。これで座れます。」
たまみさんが山田先生の机周りだけ先にプリントを片付けた。
利吉くんが中に入ると、私は障子を閉めた。
「…利吉くん。きみに話があるんだ。」
「はい?」
たまみさんが片付ける手を止めてこちらを見た。
私は利吉くんを真っ直ぐに見て口を開いた。
「実は、たまみさんと…」
ガラッ
「なんだ、すごいプリントだな。」
「「!」」
「父上。」
「ん?何だ、三人してこっち見て。」
…山田先生、いつもタイミングがよすぎやしませんか。
私はため息をついて利吉くんに「先に手紙を渡したら」と促した。
利吉くんは頷いて手紙を山田先生に渡した。
「父上、母上がいつになく怒っておられましたよ。」
「えっ!?」
「父上がいつになったら家に帰るのかと…。家で一人で待つ身にもなってあげたらどうですか。」
「うむ、帰りたいのはやまやまなんだが…。」
「若いくノ一と浮気しているのではと疑ってましたよ。」
「なっ!そんなわけないだろう!」
「私もそう言ったのですが、本人じゃありませんし納得してくれなくて。」
「ううむ…」
「山田先生、書類整理は私も頑張りますので帰ってあげてください…!」
「たまみくん。」
「…私が奥様だったら辛すぎます…。」
利吉くんがたまみさんを見て、そのあと私に目線を動かした。
…私にも後押ししろということか。
「山田先生、私もやりますので、次の休みは一度帰られてはどうでしょうか。」
「半助…」
「ほら父上、お二人もこう言ってくれてることですし。忍術学園の教師が忙しいのは存じてますが、母上の気持ちも考えてあげてください。」
「むぅ…そうだな。一度帰るか。」
「!!…では、すぐにその旨を返事に書いてください。」
利吉くんがサッと山田先生に紙と筆を渡す。
山田先生の気持ちが変わらないうちに形にしてしまおうというわけだな。
山田先生は奥さんからの手紙に目を通すとそのまま返事をしたためて利吉くんに渡した。
「ちょっと学園長先生のところへ行ってくる。」
山田先生は元気なく部屋を出ていった。
利吉くんがくるりとこちらを向いて頭をさげた。
「お二人ともありがとうございました。これでやっと母上のお怒りも収まりそうです。」
「いや、よかったね。利吉くんも苦労するなぁ。」
私が苦笑いすると、利吉くんが「それで、先程の話とは?」と聞いてきた。
何となく言いにくくなったなと思うものの、ここはハッキリ伝えておくべきだと思い、ひとつ咳払いをした。
「あー、実はだね。まだ周りには内緒にしているんだけど…たまみさんと…その、…付き合うことになって…。」
「!」
利吉くんはぴくりと肩を揺らして目を伏せたが、真顔でこちらを見返した。
「そうですか。……それで?」
「それで?…えー、だからだな、彼女を誘い出したりするのはもう…」
「たまみさん。忍術学園の教師の妻になると、うちの母上みたいになりますよ?」
「へ?」
「えっ…土井先生も…?」
「仕事ばかりで忙しい姿を毎日目の前で見ているでしょう?」
「利吉くん、何を言って…!」
「事実を述べているだけです。」
利吉くんがジロリと私を睨む。
するとたまみさんは不安気に私を見た。
「…結婚したら、土井先生に会えなくなる…?」
「い、いや、そんなことは…!」
「確かにすごく忙しいですよね…。……若い女の子からも人気ありそうだし…。」
「そ、そんなことはない!」
「たまみさん、今は同じ職場でいいかもしれませんが、忍術学園の教師は住み込み労働です。もし離れて住むようになれば…うちの母上のようになるかもしれませんよ。」
たまみさんが「そうなのですか?」と悲しそうな目で見つめてくる。
否定しようとしたとき、利吉くんが更に口を開いた。
「ですので。たまみさんももっと色んな人を見たうえで添い遂げる相手を決めた方がいいと思います。」
「なに?」
「という訳で、土井先生。私は今まで通りにしますよ。」
「なっ!!!」
私もたまみさんも驚いて利吉くんを見た。
「利吉さん…、お気持ちは嬉しいのですが、それでもやっぱり私は土井先生と……」
「…たまみさんの気持ちは知っています。結果として、やっぱり土井先生を伴侶として選ぶなら、そのときは身を引きましょう。」
「利吉くん…たまみはもう私のものだ。手を出すな。」
私がやや怒気を含んで威嚇すると、利吉くんはしれっとした顔でこちらを見返した。
「まだ完全に土井先生のものになったわけではないでしょう。」
ぴりぴりした空気に、たまみさんがおろおろしだした。
「あ、あの……!」
「安心してください。たまみさんの嫌がるようなことはしませんよ。」
利吉くんが彼女に微笑みかけたとき、廊下から子ども達の声が聞こえてきた。
「…では、今日はこれで。」
利吉くんが外に出ようとしてぴたりと止まった。
「そういえば。最近、町で女性が神隠しにあう事件が起きています。たまみさんも、一人で出歩かないよう気をつけてくださいね。」
「神隠し?」
「はい。年頃の女性ばかりが狙われているようで。」
「そうか…気をつけるよ。その神隠しとやらにも、…君にも。」
利吉くんは不敵に笑って出ていった。
やれやれ、何ということだ。
もう私のものだと宣言するつもりが、逆に宣戦布告されてしまうとはどういうことだ。
何だかどっと疲れた気がした。
私は困った顔の彼女の頭をぽんと撫でて、墨の乾いたプリントを拾い始めた。
いずれにしても時間の問題か…と半ば諦めて私はため息をついた。
部屋の中を見ると、墨を乾かしているプリントが広がっていた。
「たまみさん、ありがとうございます。これくらいで一旦止めましょうか。山田先生が戻られたら座る場所が…。」
「あっ!すみません、ついやりすぎてしまいました…。」
たまみさんが筆を置いて乾いているプリントがないか確認していく。
「失礼します。」
聞きなれた声とともに、気配も音もなく障子があけられた。
「!…利吉くん。」
「お疲れ様です、土井先生。…と、たまみさんも。これはまた…すごいですね。」
「すみません、すぐに場所をあけます!」
「いえ、ここで結構ですよ。父に母からの手紙を預かってきただけなので。」
「山田先生ならすぐ戻ると思うよ。」
「そうですか。…これは、明日のプリントですか。お忙しそうですね。」
「そうなんです…はい、どうぞ。これで座れます。」
たまみさんが山田先生の机周りだけ先にプリントを片付けた。
利吉くんが中に入ると、私は障子を閉めた。
「…利吉くん。きみに話があるんだ。」
「はい?」
たまみさんが片付ける手を止めてこちらを見た。
私は利吉くんを真っ直ぐに見て口を開いた。
「実は、たまみさんと…」
ガラッ
「なんだ、すごいプリントだな。」
「「!」」
「父上。」
「ん?何だ、三人してこっち見て。」
…山田先生、いつもタイミングがよすぎやしませんか。
私はため息をついて利吉くんに「先に手紙を渡したら」と促した。
利吉くんは頷いて手紙を山田先生に渡した。
「父上、母上がいつになく怒っておられましたよ。」
「えっ!?」
「父上がいつになったら家に帰るのかと…。家で一人で待つ身にもなってあげたらどうですか。」
「うむ、帰りたいのはやまやまなんだが…。」
「若いくノ一と浮気しているのではと疑ってましたよ。」
「なっ!そんなわけないだろう!」
「私もそう言ったのですが、本人じゃありませんし納得してくれなくて。」
「ううむ…」
「山田先生、書類整理は私も頑張りますので帰ってあげてください…!」
「たまみくん。」
「…私が奥様だったら辛すぎます…。」
利吉くんがたまみさんを見て、そのあと私に目線を動かした。
…私にも後押ししろということか。
「山田先生、私もやりますので、次の休みは一度帰られてはどうでしょうか。」
「半助…」
「ほら父上、お二人もこう言ってくれてることですし。忍術学園の教師が忙しいのは存じてますが、母上の気持ちも考えてあげてください。」
「むぅ…そうだな。一度帰るか。」
「!!…では、すぐにその旨を返事に書いてください。」
利吉くんがサッと山田先生に紙と筆を渡す。
山田先生の気持ちが変わらないうちに形にしてしまおうというわけだな。
山田先生は奥さんからの手紙に目を通すとそのまま返事をしたためて利吉くんに渡した。
「ちょっと学園長先生のところへ行ってくる。」
山田先生は元気なく部屋を出ていった。
利吉くんがくるりとこちらを向いて頭をさげた。
「お二人ともありがとうございました。これでやっと母上のお怒りも収まりそうです。」
「いや、よかったね。利吉くんも苦労するなぁ。」
私が苦笑いすると、利吉くんが「それで、先程の話とは?」と聞いてきた。
何となく言いにくくなったなと思うものの、ここはハッキリ伝えておくべきだと思い、ひとつ咳払いをした。
「あー、実はだね。まだ周りには内緒にしているんだけど…たまみさんと…その、…付き合うことになって…。」
「!」
利吉くんはぴくりと肩を揺らして目を伏せたが、真顔でこちらを見返した。
「そうですか。……それで?」
「それで?…えー、だからだな、彼女を誘い出したりするのはもう…」
「たまみさん。忍術学園の教師の妻になると、うちの母上みたいになりますよ?」
「へ?」
「えっ…土井先生も…?」
「仕事ばかりで忙しい姿を毎日目の前で見ているでしょう?」
「利吉くん、何を言って…!」
「事実を述べているだけです。」
利吉くんがジロリと私を睨む。
するとたまみさんは不安気に私を見た。
「…結婚したら、土井先生に会えなくなる…?」
「い、いや、そんなことは…!」
「確かにすごく忙しいですよね…。……若い女の子からも人気ありそうだし…。」
「そ、そんなことはない!」
「たまみさん、今は同じ職場でいいかもしれませんが、忍術学園の教師は住み込み労働です。もし離れて住むようになれば…うちの母上のようになるかもしれませんよ。」
たまみさんが「そうなのですか?」と悲しそうな目で見つめてくる。
否定しようとしたとき、利吉くんが更に口を開いた。
「ですので。たまみさんももっと色んな人を見たうえで添い遂げる相手を決めた方がいいと思います。」
「なに?」
「という訳で、土井先生。私は今まで通りにしますよ。」
「なっ!!!」
私もたまみさんも驚いて利吉くんを見た。
「利吉さん…、お気持ちは嬉しいのですが、それでもやっぱり私は土井先生と……」
「…たまみさんの気持ちは知っています。結果として、やっぱり土井先生を伴侶として選ぶなら、そのときは身を引きましょう。」
「利吉くん…たまみはもう私のものだ。手を出すな。」
私がやや怒気を含んで威嚇すると、利吉くんはしれっとした顔でこちらを見返した。
「まだ完全に土井先生のものになったわけではないでしょう。」
ぴりぴりした空気に、たまみさんがおろおろしだした。
「あ、あの……!」
「安心してください。たまみさんの嫌がるようなことはしませんよ。」
利吉くんが彼女に微笑みかけたとき、廊下から子ども達の声が聞こえてきた。
「…では、今日はこれで。」
利吉くんが外に出ようとしてぴたりと止まった。
「そういえば。最近、町で女性が神隠しにあう事件が起きています。たまみさんも、一人で出歩かないよう気をつけてくださいね。」
「神隠し?」
「はい。年頃の女性ばかりが狙われているようで。」
「そうか…気をつけるよ。その神隠しとやらにも、…君にも。」
利吉くんは不敵に笑って出ていった。
やれやれ、何ということだ。
もう私のものだと宣言するつもりが、逆に宣戦布告されてしまうとはどういうことだ。
何だかどっと疲れた気がした。
私は困った顔の彼女の頭をぽんと撫でて、墨の乾いたプリントを拾い始めた。