第82話 年の瀬
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年末も近づき、いよいよ明日は生徒達も家に帰る日となった。
雑務に追われ多忙を極めたが、たまみと帰ることができると思えば胃痛も幾分和らいだ。
そして、生徒達が寝静まった夜更け。
またしても学園長の思いつきで、教師陣だけの忘年会が開かれることになった。
学園長先生の長い話に始まり、山本シナ先生の華麗なるお酌により誰よりも早く学園長先生が酔い潰れ、和気あいあいとした空気のなか私は山田先生の隣にいた。
普段皆で飲む機会などそうないが、ほろ酔いの先生方が楽しそうに酒をすすめていく。
「おばちゃ~ん、お酒はまだあるかな?」
「はいはい、食堂から持ってきますよ。」
「あ、私がいってきます!」
たまみは食堂のおばちゃんとともに食堂を往復して配膳の手伝いをしたり、各教師に挨拶して回ったり、忙しそうに動いている。
その姿を横目で見つつチビチビとお酒を飲んでいると、山田先生に背中を叩かれた。
「土井先生、そんなに怖い顔しなさんな。」
「え?」
「たまみくんも他の先生方とコミュニケーションをとっておいた方がいいだろう。」
「それは分かっているのですが…。」
距離が近すぎるのだ。
ほらまた、野村先生がたまみにくっつきそうな距離で楽しそうに話している。
気がつけばつい目で彼女を追ってしまい、楽しそうに笑っている彼女にまた焼きもちをやいてしまう自分にため息をついた。
そのとき、突然陽気な声とともに障子が勢いよくあけられた。
「どこんじょー!追加の酒とラッキョウを持ってきたぞー!」
「大木雅之助!!貴様なぜここに来た!?」
「忘年会をするから酒を持って来いと学園長先生から手紙が来て…なんだ野村雄三、もう赤い顔でだらしがないな!」
言い終わらないうちに大木先生の目がたまみを捕らえ、嬉しそうに破顔した。
「おっ、たまみじゃないか。ちょうどいい、一緒に飲もう!」
大木先生がたまみのもとに真っ直ぐ向かう。
私は慌ててその前に立ち大木先生を止めた。
「大木先生、たまみさんはお酒飲めないのでやめてあげてください!」
「んん?飲むと吐くのか?」
「いえ、一口飲むだけで眠ってしまうんです。」
「一口で、か。まぁ寝てもちゃんと介抱してやるから構わん。たまには羽目を外してもいいだろう、な、たまみ?」
大木先生は相変わらず聞く耳を持たずそのまま進もうとした。
困ったようなたまみの顔が目に入り、私はつい大木先生の腕をつかもうとした。
が、大木先生はするりとその手を避け私に向き直った。
「土井先生、やけに絡んでくるな。」
「えっ…いや、その、ですね…。」
「前から気になっていたが、やっぱりお主達…」
「大木センセ!」
大木先生が言いかけたとき、山本シナ先生が大木先生の前にお猪口を差し出した。
「私には挨拶もなしで、来て早々若い子と飲もうなんてどういうことですか!」
「や、山本シナ先生…!いやぁ今日もお美しいですな!」
「そんなお世辞は結構です。ほら、こっちで飲みましょう!」
山本シナ先生が大木先生に腕をからめて部屋の奥へ促した。
ちらりとこちらを見てウインクするシナ先生。
すっかり助けられてしまった…。
苦笑しながら軽く頭を下げる。
ふとたまみを見ると、いつの間にか新野先生に話しかけられている。
なんだなんだ、みんな何故かここぞとばかりにたまみに話しかけてやしないか。
まぁそれだけ彼女が学園に馴染んでるということで、喜ばしいことなんだが…。
やがて暫くすると、影堂先生や松千代先生達がいつの間にか自室に戻ったようで姿を消していった。
生徒達が起きないように部屋はさほど賑やかになるわけではなかったが、何人かが赤ら顔で楽しそうに笑っている。
私はというと、あちらこちらに酒やら食べ物をこぼしそうになる小松田くんのフォローをしつつ、吉野先生と話していた。
「だからね土井先生、そろそろたまみさんも事務仕事に慣れてきただろうし、うちの仕事も手伝ってもらえんかね。」
「いやぁ、彼女もアルバイトとか自分の勉強とか色々忙しいのでこれ以上負担を増やすわけには…。」
「そんなこと言って、結局は土井先生が自分の手元に置きたいだけなんでしょう。」
「そっ、そんな、ことは…!」
「じゃあうちの小松田くんと取り替えっこしてみましょう?」
「それは断固としてお断りします!」
「え~、土井先生、僕じゃ不満なんですか~?」
「小松田くん…不満とかそういう以前に、きみと一緒に仕事してたら余計に胃がやられそうだよ…。」
「ふぅむ、それは否定できませんね。」
「吉野先生、どういう意味ですか~?」
「自分の胸によぉく手を置いて考えてごらんなさい。」
そんなやりとりをしていると、山本シナ先生が席を立って部屋を出た。
その瞬間、大木先生がたまみのもとへ歩み寄ろうとする。
そして私がすかさず立ち上がった瞬間。
ドンッ!!
「大木雅之介!これで私と勝負だっ!!」
野村先生が、どこから持ち出したのか大きな酒樽を持って部屋に入ってきた。
「今年最後の大勝負、まさか逃げるんじゃあるまいな!」
野村先生の眼鏡がキラリと光ると、大木先生が不敵な笑みを浮かべた。
「ほう、どこへ逃げたのかと思っていたらわざわざ自分が負ける勝負をしかけにくるとはなぁ。」
「ほざけ!さぁこれで飲むぞ!」
そう言って野村先生が取り出したのは大きなどんぶり鉢。
いやいや、それおかしくないですか!?
思わすツッコミそうになったが、大木先生は意に介することもなくどんぶり鉢を受けとった。
二人は睨み合い、すぐに飲み比べを始めだした。
「も~やぁねぇ男の人は。たまみちゃん、こっちでゆっくりお話ししましょお。」
戻ってきたシナ先生が、オロオロと立ち尽くすたまみを隣に座らせた。
よしよし、これで安心して私もゆっくりできる…。
しかしすぐにたまみの様子がおかしくなった。
とろんと眠そうな眼差しでゆらゆらし始めている。
「たまみさん、大丈夫ですか?」
たまらず声をかけに行くと、たまみは「だいじょうぶ、れす…。」とやや呂律が回らない様子だった。
「あらぁ、たまみちゃんもしかして甘酒もダメだった?寒いから冷えないようにと持ってきたんだけど…」
「んー、あったかくて美味しかったですぅ。」
壁にもたれて眠そうに微笑むたまみ。
甘酒でも酔っ払ってしまうのか…!
どうしたものかと迷っていると。
「土井先生、もうたまみくんを部屋に戻してやんなさいよ。」
「山田先生…。」
「このまま寝て風邪でもひいたらいかんし、部屋でちゃんと寝かせてやるのがいいだろう。」
「土井先生、ごめんなさいねぇ。まさか甘酒で寝ちゃうなんて思わなくて。」
「私も甘酒すらダメだとは知りませんでした。ではとりあえず寝かせてきますね…。ほら、たまみさん、歩けますか?」
仕方なく、座るたまみに向かって片手を伸ばす。
すると、彼女は嬉しそうににこりと両腕を広げて。
「抱っこ。」
「!?」
なっ…!
皆のいる前だというのに、甘えた口調で何ということを…!?
慌てて周りを見ると、山本シナ先生は山田先生と話をしていて聞こえていない様子。
他の先生方も其々話し込んでいる。
ほっと胸をなでおろし、たまみの肩を支えて立たせてやった。
「ではとりあえず部屋に送り届けてきます。」
「土井先生、そのままたまみくんのそばにいてやったらどうだ。」
「えっ?」
「教師陣がここに集まってる間、忍たま長屋は守備が手薄になる。一人で寝てる間にまた曲者でも来たら危ないだろう。」
「それはまぁそうですが…。」
「皆ももうそろそろ解散する時間だ。そのまま暫くついててやりなさい。」
山田先生がそう言うと、シナ先生もうんうんと頷いた。
「分かりました…。では、すみませんが少しお先に失礼します。」
私はたまみの肩を支えながら部屋を後にして廊下に出た。
夜風は冷たく、たまみが再び「抱っこ」とねだってくる。
「まったく…しょうがないな。」
横抱きに抱えてそのまま彼女の自室まで連れていった。
雑務に追われ多忙を極めたが、たまみと帰ることができると思えば胃痛も幾分和らいだ。
そして、生徒達が寝静まった夜更け。
またしても学園長の思いつきで、教師陣だけの忘年会が開かれることになった。
学園長先生の長い話に始まり、山本シナ先生の華麗なるお酌により誰よりも早く学園長先生が酔い潰れ、和気あいあいとした空気のなか私は山田先生の隣にいた。
普段皆で飲む機会などそうないが、ほろ酔いの先生方が楽しそうに酒をすすめていく。
「おばちゃ~ん、お酒はまだあるかな?」
「はいはい、食堂から持ってきますよ。」
「あ、私がいってきます!」
たまみは食堂のおばちゃんとともに食堂を往復して配膳の手伝いをしたり、各教師に挨拶して回ったり、忙しそうに動いている。
その姿を横目で見つつチビチビとお酒を飲んでいると、山田先生に背中を叩かれた。
「土井先生、そんなに怖い顔しなさんな。」
「え?」
「たまみくんも他の先生方とコミュニケーションをとっておいた方がいいだろう。」
「それは分かっているのですが…。」
距離が近すぎるのだ。
ほらまた、野村先生がたまみにくっつきそうな距離で楽しそうに話している。
気がつけばつい目で彼女を追ってしまい、楽しそうに笑っている彼女にまた焼きもちをやいてしまう自分にため息をついた。
そのとき、突然陽気な声とともに障子が勢いよくあけられた。
「どこんじょー!追加の酒とラッキョウを持ってきたぞー!」
「大木雅之助!!貴様なぜここに来た!?」
「忘年会をするから酒を持って来いと学園長先生から手紙が来て…なんだ野村雄三、もう赤い顔でだらしがないな!」
言い終わらないうちに大木先生の目がたまみを捕らえ、嬉しそうに破顔した。
「おっ、たまみじゃないか。ちょうどいい、一緒に飲もう!」
大木先生がたまみのもとに真っ直ぐ向かう。
私は慌ててその前に立ち大木先生を止めた。
「大木先生、たまみさんはお酒飲めないのでやめてあげてください!」
「んん?飲むと吐くのか?」
「いえ、一口飲むだけで眠ってしまうんです。」
「一口で、か。まぁ寝てもちゃんと介抱してやるから構わん。たまには羽目を外してもいいだろう、な、たまみ?」
大木先生は相変わらず聞く耳を持たずそのまま進もうとした。
困ったようなたまみの顔が目に入り、私はつい大木先生の腕をつかもうとした。
が、大木先生はするりとその手を避け私に向き直った。
「土井先生、やけに絡んでくるな。」
「えっ…いや、その、ですね…。」
「前から気になっていたが、やっぱりお主達…」
「大木センセ!」
大木先生が言いかけたとき、山本シナ先生が大木先生の前にお猪口を差し出した。
「私には挨拶もなしで、来て早々若い子と飲もうなんてどういうことですか!」
「や、山本シナ先生…!いやぁ今日もお美しいですな!」
「そんなお世辞は結構です。ほら、こっちで飲みましょう!」
山本シナ先生が大木先生に腕をからめて部屋の奥へ促した。
ちらりとこちらを見てウインクするシナ先生。
すっかり助けられてしまった…。
苦笑しながら軽く頭を下げる。
ふとたまみを見ると、いつの間にか新野先生に話しかけられている。
なんだなんだ、みんな何故かここぞとばかりにたまみに話しかけてやしないか。
まぁそれだけ彼女が学園に馴染んでるということで、喜ばしいことなんだが…。
やがて暫くすると、影堂先生や松千代先生達がいつの間にか自室に戻ったようで姿を消していった。
生徒達が起きないように部屋はさほど賑やかになるわけではなかったが、何人かが赤ら顔で楽しそうに笑っている。
私はというと、あちらこちらに酒やら食べ物をこぼしそうになる小松田くんのフォローをしつつ、吉野先生と話していた。
「だからね土井先生、そろそろたまみさんも事務仕事に慣れてきただろうし、うちの仕事も手伝ってもらえんかね。」
「いやぁ、彼女もアルバイトとか自分の勉強とか色々忙しいのでこれ以上負担を増やすわけには…。」
「そんなこと言って、結局は土井先生が自分の手元に置きたいだけなんでしょう。」
「そっ、そんな、ことは…!」
「じゃあうちの小松田くんと取り替えっこしてみましょう?」
「それは断固としてお断りします!」
「え~、土井先生、僕じゃ不満なんですか~?」
「小松田くん…不満とかそういう以前に、きみと一緒に仕事してたら余計に胃がやられそうだよ…。」
「ふぅむ、それは否定できませんね。」
「吉野先生、どういう意味ですか~?」
「自分の胸によぉく手を置いて考えてごらんなさい。」
そんなやりとりをしていると、山本シナ先生が席を立って部屋を出た。
その瞬間、大木先生がたまみのもとへ歩み寄ろうとする。
そして私がすかさず立ち上がった瞬間。
ドンッ!!
「大木雅之介!これで私と勝負だっ!!」
野村先生が、どこから持ち出したのか大きな酒樽を持って部屋に入ってきた。
「今年最後の大勝負、まさか逃げるんじゃあるまいな!」
野村先生の眼鏡がキラリと光ると、大木先生が不敵な笑みを浮かべた。
「ほう、どこへ逃げたのかと思っていたらわざわざ自分が負ける勝負をしかけにくるとはなぁ。」
「ほざけ!さぁこれで飲むぞ!」
そう言って野村先生が取り出したのは大きなどんぶり鉢。
いやいや、それおかしくないですか!?
思わすツッコミそうになったが、大木先生は意に介することもなくどんぶり鉢を受けとった。
二人は睨み合い、すぐに飲み比べを始めだした。
「も~やぁねぇ男の人は。たまみちゃん、こっちでゆっくりお話ししましょお。」
戻ってきたシナ先生が、オロオロと立ち尽くすたまみを隣に座らせた。
よしよし、これで安心して私もゆっくりできる…。
しかしすぐにたまみの様子がおかしくなった。
とろんと眠そうな眼差しでゆらゆらし始めている。
「たまみさん、大丈夫ですか?」
たまらず声をかけに行くと、たまみは「だいじょうぶ、れす…。」とやや呂律が回らない様子だった。
「あらぁ、たまみちゃんもしかして甘酒もダメだった?寒いから冷えないようにと持ってきたんだけど…」
「んー、あったかくて美味しかったですぅ。」
壁にもたれて眠そうに微笑むたまみ。
甘酒でも酔っ払ってしまうのか…!
どうしたものかと迷っていると。
「土井先生、もうたまみくんを部屋に戻してやんなさいよ。」
「山田先生…。」
「このまま寝て風邪でもひいたらいかんし、部屋でちゃんと寝かせてやるのがいいだろう。」
「土井先生、ごめんなさいねぇ。まさか甘酒で寝ちゃうなんて思わなくて。」
「私も甘酒すらダメだとは知りませんでした。ではとりあえず寝かせてきますね…。ほら、たまみさん、歩けますか?」
仕方なく、座るたまみに向かって片手を伸ばす。
すると、彼女は嬉しそうににこりと両腕を広げて。
「抱っこ。」
「!?」
なっ…!
皆のいる前だというのに、甘えた口調で何ということを…!?
慌てて周りを見ると、山本シナ先生は山田先生と話をしていて聞こえていない様子。
他の先生方も其々話し込んでいる。
ほっと胸をなでおろし、たまみの肩を支えて立たせてやった。
「ではとりあえず部屋に送り届けてきます。」
「土井先生、そのままたまみくんのそばにいてやったらどうだ。」
「えっ?」
「教師陣がここに集まってる間、忍たま長屋は守備が手薄になる。一人で寝てる間にまた曲者でも来たら危ないだろう。」
「それはまぁそうですが…。」
「皆ももうそろそろ解散する時間だ。そのまま暫くついててやりなさい。」
山田先生がそう言うと、シナ先生もうんうんと頷いた。
「分かりました…。では、すみませんが少しお先に失礼します。」
私はたまみの肩を支えながら部屋を後にして廊下に出た。
夜風は冷たく、たまみが再び「抱っこ」とねだってくる。
「まったく…しょうがないな。」
横抱きに抱えてそのまま彼女の自室まで連れていった。