第81話 心落ち着くところ
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「学園長先生、ただいま戻りました。」
庵の障子をあけると、そこには学園長先生と山田先生が座っていた。
「おお、無事であったか!」
「ご心配をおかけしてすみません…土井先生と利吉さんが助けてくれたので無事に帰れました。」
「利吉が?」
山田先生が少し驚いた顔をした。
「はい、私が雑渡さんに連れ去られているところを見つけて助けてくれたんです。」
「雑渡昆奈門が二人を追跡しているところに私が合流し、利吉くんが敵の注意をひきつけてくれている間にたまみさんを連れ帰ってきました。花房牧之介については戸部先生にお任せしたのですが…。」
「うむ、戸部先生なら先程戻ってきたわい。暫くは花房牧之介の奴も大人しくなるじゃろう。」
本当なら私もお灸を据えてやりたいところだったが、たまみを助ける方が優先だったので仕方ない。
結局丸投げしてしまったので、後で戸部先生にお礼を言いにいかなくては…。
隣に座るたまみを見ると、表情を固くして正座していた。
彼女の背を撫でてやり、声をかける。
「大丈夫かい?」
「……あの、実は…」
彼女は何かを言い淀んで言葉を止めた。
言いにくいような何事があったのかと不安が胸をよぎる。
学園長も山田先生も私も、じっと静かに彼女の次の言葉を待った。
すると、廊下から声がするともに障子が開いた。。
「失礼します、山田利吉です。」
「利吉さんっ!」
利吉くんが入ると、たまみが心配そうに駆け寄った。
「お怪我はありませんか!?すみません、私を逃がすために一人残して来てしまって…!」
「あれくらい大丈夫ですよ。」
「本当ですか?どこも怪我は…!?」
「大丈夫です。」
苦笑しながらも何だか嬉しそうな利吉くん。
先程たまみを抱きしめていた光景が甦り、胸が苦しくなった。
あとでまたきちんと言っておかなければ…。
しかし、たまみを助けて逃がしてくれたことは事実だ。
あの敵数であれば、利吉くん単身でなら逃げきることは難しくないと思っていたが…。
「利吉くん、すまなかったね。」
「いえ。それよりも…学園長先生。」
利吉くんが学園長に向き直り正座した。
「たまみさんについての真実を…私にも教えてください。私にも力になれることが…出来ることがあるかもしれません。」
「「「!」」」
たまみを除く3人が驚いて顔を見合わせた。
そうか、あのとき真剣な顔で話していたのはこのことか。
「彼女の記憶がない本当の理由を…雑渡昆奈門が話していた巻物とは何なのか…私にも教えて頂けませんか?自由に動ける私の方が情報収集もしやすいでしょうし、たまみさんが涙するようなことがあるのなら…私も力になりたいのです。」
「ふむ……」
学園長先生は暫し目を閉じ考えて、たまみに言った。
「たまみちゃん、ここに来たときの服をすぐ出せるかね?」
「…はい。」
やがてたまみが自室から風呂敷包みを持ってきた。
利吉くんが不思議そうにしていると、学園長先生が静かに話し始めた。
「あの日、わしは夢のお告げがあって山田先生と土井先生とここに集まっていた。すると、突然空中が光って、そこからたまみちゃんが現れたんじゃ。」
「…そこ?」
「そこじゃ。」
「…空中、ですか?」
利吉くんが怪訝そうに我々を順に見た。
しかし我々が無言で頷く姿に、学園長先生の言葉が本当であると判断したようだ。
「その服を見てみるがいい。見たことのない素材じゃ。南蛮のものとも違う。そして、一つの巻物が空中に現れ、そこにはこう記されてあった…。」
利吉くんが真剣な表情で学園長先生を見つめた。
たまみがぐっと膝の上の手を握りしめる。
すると、学園長先生は閉じていた目をちらりと開けてこちらを見た。
「…はて、なんと書かれていたかな?」
ズコッ!
その場の全員がずっこけた。
間をとっていたのではなく思い出そうとしていたのか!
仕方なく私が説明を続ける。
「巻物には、『異世界を旅する者の心得。元の世界の記憶はここでは消されている。ここで命が尽きたとき、元の世界へ帰る。ここにいる間、元の世界では時間は経過しない。』と書かれてありました。」
「そうそう!土井先生よく覚えていたのう。」
そりゃあ、何度も頭の中で反芻した内容ですからね。
たまみのことを考える度に、この言葉の意味を考えていた。
「……異世界…?」
利吉くんは信じられないといった顔をしていた。
「信じられんじゃろ?実際に目の前で見たわしらでさえ未だに信じがたい。」
「その巻物はどこにあるのですか?」
「青い焔とともに跡形もなく消えたよ。」
「…全員が幻術にかけられていたとかではないのですか?」
「誰が何のためにじゃ?学園に侵入させて情報を得るためか?…わしもそれは考えたが、たまみちゃん本人を見ていて確信した。彼女は間者ではない。…それはお主も思うじゃろう?」
「それはそうですが…しかし、異世界、ですか…?」
利吉くんが戸惑いながらたまみの着ていた服を手に取りしげしげと眺めた。
「確かに見たこともない材質ですね…。とても上質な…。たまみさん、あなたはどこかの姫だったりするのですか?」
利吉くんがたまみの顔をじっと見つめると、たまみは苦笑しながら頭をかいた。
「同じようなことを雑渡さんにも聞かれましたけど、雑渡さん曰く私は姫っぽくないそうですよ。」
「まぁそれはそうですね。」
「…それは、どういう意味ですか!?」
「言葉の通りです。」
「ちょっ、それ、ひどくないですか!?」
少し拗ねたような口調が可愛らしく、山田先生も学園長先生も微かに苦笑していた。
そういうところが親しみやすくて姫っぽくないのだと思うが、何だか利吉くんとじゃれあっているようで私はオホンと咳払いをした。
「とにかく、彼女には記憶がないのだからここで過去の話をしても答えはでない。今、我々にできるのは彼女をタソガレドキから守るにはどうするか考えることだ。」
すると、たまみの表情が曇った。
ぐっと膝の上を見つめ小さな声で呟く。
「…その、さっき雑渡さんが言っていたのですが…。タソガレドキにある巻物には、私が記憶を取り戻して帰る方法が記されているかもしれないと……。」
「!!」
背中をスッと冷たいものが走った。
帰る?
帰るって、どこに…!?
記憶を取り戻して、って…?
じっと俯いたたまみは複雑な表情をしていた。
「…たまみさんは、帰りたいのですか?」
利吉くんが静かに聞いた。
その場が静まりかえる。
やがて、たまみが涙声で答えた。
「…ここを…みんなのそばを離れたくありません。…でも、私は…やはり帰るべきなのかと…」
「なぜですか?」
「だって…私は本当はここに居るべき人間ではないから…」
「居てもいいに決まってるだろう!」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
たまみが泣きそうな目で私を見る。
「きみとともに現れた巻物には、ここで命が尽きたとき元の場所、元の時に戻ると書いてあった。ここにいることで誰かが悲しむこともないはずだ。」
「…そう、なのでしょうか…?」
「ああ。だから、帰りたいと望まないのなら…無理に帰る必要も、無理に記憶を取り戻す必要もない。」
たまみの目から涙がこぼれ落ちた。
「ずっと…このまま、ここに居てもいいのですか?」
「当たり前だ。」
「元の場所に帰らなくても…?」
「きみが望むなら、ここで寿命を全うしてからでも遅くないんじゃないか。」
同意を求めて周りを見ると全員が頷いた。
「うむ、ここ半年以上見ておったがたまみちゃんが居ることでなんら悪影響がでることもなかったし、好きなだけ居ればいいのではないかな。」
「そうですな、最初は異世界から来た人間とはどんなものかと思ったが、我々となんら変わりませんでしたし。…それどころか、たまみくんがいなくなると、寂しがる奴らが多すぎる。」
山田先生が困ったように私と利吉くんを見た。
利吉くんはじっとたまみを見ていたが、迷いのない目でこう言った。
「自分の未来は、こうあるべきというよりもこう在りたいという気持ちで決めればいいと思います。たまみさんが帰りたくないのであればここにいればいいと…むしろ居てほしいと、私も思います。」
たまみの目からぽろぽろと涙が落ちていく。
ずっと不安に感じていたのだろう、手で顔を覆い声を殺して泣く彼女の背をゆっくり擦ってやる。
「…とりあえず、学園の警備を強化しておこうかの。たまみちゃんも一人で出歩かないように。」
「私はタソガレドキ周辺の情報を集めておきます。」
「利吉くん、あまり深追いして危ない目にはあわないように…」
「分かっています。私がこの件で怪我をすればたまみさんも気にやむでしょう…そんなことはしませんよ。」
「…ありがとう、ございます…」
「泣かないでください…たまみさんには笑顔でいてほしいんです。」
利吉くんが困ったように微笑むと、たまみも涙をぬぐって微笑んだ。
「利吉さん、今まで言えずにすみませんでした…こんな、得たいの知れない身なのに隠して…」
言いかけたたまみの言葉を遮って利吉くんが真っ直ぐに言った。
「私の気持ちは変わりませんよ。たまみさんがもし敵のくの一でも構わないとすら思ってましたから。…あなたの笑顔が見られるだけでいいんです。」
………ほぉ。
私が横にいるにも関わらずよく言えたものだな。
そういえばさっきもたまみを抱きしめていたし、ここはもう一度はっきりさせておこうか…。
口を開きかけた瞬間、学園長先生と山田先生がじっとこちらを見ていることに気がついた。
何だかばつが悪くなり、私はまた咳払いをした。
「えー、とにかく。タソガレドキに注意しつつ情報を集めるということで。たまみさん、それでいいかい?」
「はい。…またご迷惑をかけてしまうことがあるかもしれませんが、出来ることは頑張りますので…よろしくお願いします。」
膝前に手をついて深く頭を下げるたまみ。
「迷惑だとかそんなことは思わなくていいよ。一年は組なんて毎日トラブルだらけだろう?同じようなもんだよ。」
笑ってそう言うと、たまみは微笑んで「ありがとうございます」と言った。
学園長先生達もうんうんと頷く。
こうして、花房牧之介のせいで引き起こされた一件は一応の幕をおろしたのだった。
庵の障子をあけると、そこには学園長先生と山田先生が座っていた。
「おお、無事であったか!」
「ご心配をおかけしてすみません…土井先生と利吉さんが助けてくれたので無事に帰れました。」
「利吉が?」
山田先生が少し驚いた顔をした。
「はい、私が雑渡さんに連れ去られているところを見つけて助けてくれたんです。」
「雑渡昆奈門が二人を追跡しているところに私が合流し、利吉くんが敵の注意をひきつけてくれている間にたまみさんを連れ帰ってきました。花房牧之介については戸部先生にお任せしたのですが…。」
「うむ、戸部先生なら先程戻ってきたわい。暫くは花房牧之介の奴も大人しくなるじゃろう。」
本当なら私もお灸を据えてやりたいところだったが、たまみを助ける方が優先だったので仕方ない。
結局丸投げしてしまったので、後で戸部先生にお礼を言いにいかなくては…。
隣に座るたまみを見ると、表情を固くして正座していた。
彼女の背を撫でてやり、声をかける。
「大丈夫かい?」
「……あの、実は…」
彼女は何かを言い淀んで言葉を止めた。
言いにくいような何事があったのかと不安が胸をよぎる。
学園長も山田先生も私も、じっと静かに彼女の次の言葉を待った。
すると、廊下から声がするともに障子が開いた。。
「失礼します、山田利吉です。」
「利吉さんっ!」
利吉くんが入ると、たまみが心配そうに駆け寄った。
「お怪我はありませんか!?すみません、私を逃がすために一人残して来てしまって…!」
「あれくらい大丈夫ですよ。」
「本当ですか?どこも怪我は…!?」
「大丈夫です。」
苦笑しながらも何だか嬉しそうな利吉くん。
先程たまみを抱きしめていた光景が甦り、胸が苦しくなった。
あとでまたきちんと言っておかなければ…。
しかし、たまみを助けて逃がしてくれたことは事実だ。
あの敵数であれば、利吉くん単身でなら逃げきることは難しくないと思っていたが…。
「利吉くん、すまなかったね。」
「いえ。それよりも…学園長先生。」
利吉くんが学園長に向き直り正座した。
「たまみさんについての真実を…私にも教えてください。私にも力になれることが…出来ることがあるかもしれません。」
「「「!」」」
たまみを除く3人が驚いて顔を見合わせた。
そうか、あのとき真剣な顔で話していたのはこのことか。
「彼女の記憶がない本当の理由を…雑渡昆奈門が話していた巻物とは何なのか…私にも教えて頂けませんか?自由に動ける私の方が情報収集もしやすいでしょうし、たまみさんが涙するようなことがあるのなら…私も力になりたいのです。」
「ふむ……」
学園長先生は暫し目を閉じ考えて、たまみに言った。
「たまみちゃん、ここに来たときの服をすぐ出せるかね?」
「…はい。」
やがてたまみが自室から風呂敷包みを持ってきた。
利吉くんが不思議そうにしていると、学園長先生が静かに話し始めた。
「あの日、わしは夢のお告げがあって山田先生と土井先生とここに集まっていた。すると、突然空中が光って、そこからたまみちゃんが現れたんじゃ。」
「…そこ?」
「そこじゃ。」
「…空中、ですか?」
利吉くんが怪訝そうに我々を順に見た。
しかし我々が無言で頷く姿に、学園長先生の言葉が本当であると判断したようだ。
「その服を見てみるがいい。見たことのない素材じゃ。南蛮のものとも違う。そして、一つの巻物が空中に現れ、そこにはこう記されてあった…。」
利吉くんが真剣な表情で学園長先生を見つめた。
たまみがぐっと膝の上の手を握りしめる。
すると、学園長先生は閉じていた目をちらりと開けてこちらを見た。
「…はて、なんと書かれていたかな?」
ズコッ!
その場の全員がずっこけた。
間をとっていたのではなく思い出そうとしていたのか!
仕方なく私が説明を続ける。
「巻物には、『異世界を旅する者の心得。元の世界の記憶はここでは消されている。ここで命が尽きたとき、元の世界へ帰る。ここにいる間、元の世界では時間は経過しない。』と書かれてありました。」
「そうそう!土井先生よく覚えていたのう。」
そりゃあ、何度も頭の中で反芻した内容ですからね。
たまみのことを考える度に、この言葉の意味を考えていた。
「……異世界…?」
利吉くんは信じられないといった顔をしていた。
「信じられんじゃろ?実際に目の前で見たわしらでさえ未だに信じがたい。」
「その巻物はどこにあるのですか?」
「青い焔とともに跡形もなく消えたよ。」
「…全員が幻術にかけられていたとかではないのですか?」
「誰が何のためにじゃ?学園に侵入させて情報を得るためか?…わしもそれは考えたが、たまみちゃん本人を見ていて確信した。彼女は間者ではない。…それはお主も思うじゃろう?」
「それはそうですが…しかし、異世界、ですか…?」
利吉くんが戸惑いながらたまみの着ていた服を手に取りしげしげと眺めた。
「確かに見たこともない材質ですね…。とても上質な…。たまみさん、あなたはどこかの姫だったりするのですか?」
利吉くんがたまみの顔をじっと見つめると、たまみは苦笑しながら頭をかいた。
「同じようなことを雑渡さんにも聞かれましたけど、雑渡さん曰く私は姫っぽくないそうですよ。」
「まぁそれはそうですね。」
「…それは、どういう意味ですか!?」
「言葉の通りです。」
「ちょっ、それ、ひどくないですか!?」
少し拗ねたような口調が可愛らしく、山田先生も学園長先生も微かに苦笑していた。
そういうところが親しみやすくて姫っぽくないのだと思うが、何だか利吉くんとじゃれあっているようで私はオホンと咳払いをした。
「とにかく、彼女には記憶がないのだからここで過去の話をしても答えはでない。今、我々にできるのは彼女をタソガレドキから守るにはどうするか考えることだ。」
すると、たまみの表情が曇った。
ぐっと膝の上を見つめ小さな声で呟く。
「…その、さっき雑渡さんが言っていたのですが…。タソガレドキにある巻物には、私が記憶を取り戻して帰る方法が記されているかもしれないと……。」
「!!」
背中をスッと冷たいものが走った。
帰る?
帰るって、どこに…!?
記憶を取り戻して、って…?
じっと俯いたたまみは複雑な表情をしていた。
「…たまみさんは、帰りたいのですか?」
利吉くんが静かに聞いた。
その場が静まりかえる。
やがて、たまみが涙声で答えた。
「…ここを…みんなのそばを離れたくありません。…でも、私は…やはり帰るべきなのかと…」
「なぜですか?」
「だって…私は本当はここに居るべき人間ではないから…」
「居てもいいに決まってるだろう!」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
たまみが泣きそうな目で私を見る。
「きみとともに現れた巻物には、ここで命が尽きたとき元の場所、元の時に戻ると書いてあった。ここにいることで誰かが悲しむこともないはずだ。」
「…そう、なのでしょうか…?」
「ああ。だから、帰りたいと望まないのなら…無理に帰る必要も、無理に記憶を取り戻す必要もない。」
たまみの目から涙がこぼれ落ちた。
「ずっと…このまま、ここに居てもいいのですか?」
「当たり前だ。」
「元の場所に帰らなくても…?」
「きみが望むなら、ここで寿命を全うしてからでも遅くないんじゃないか。」
同意を求めて周りを見ると全員が頷いた。
「うむ、ここ半年以上見ておったがたまみちゃんが居ることでなんら悪影響がでることもなかったし、好きなだけ居ればいいのではないかな。」
「そうですな、最初は異世界から来た人間とはどんなものかと思ったが、我々となんら変わりませんでしたし。…それどころか、たまみくんがいなくなると、寂しがる奴らが多すぎる。」
山田先生が困ったように私と利吉くんを見た。
利吉くんはじっとたまみを見ていたが、迷いのない目でこう言った。
「自分の未来は、こうあるべきというよりもこう在りたいという気持ちで決めればいいと思います。たまみさんが帰りたくないのであればここにいればいいと…むしろ居てほしいと、私も思います。」
たまみの目からぽろぽろと涙が落ちていく。
ずっと不安に感じていたのだろう、手で顔を覆い声を殺して泣く彼女の背をゆっくり擦ってやる。
「…とりあえず、学園の警備を強化しておこうかの。たまみちゃんも一人で出歩かないように。」
「私はタソガレドキ周辺の情報を集めておきます。」
「利吉くん、あまり深追いして危ない目にはあわないように…」
「分かっています。私がこの件で怪我をすればたまみさんも気にやむでしょう…そんなことはしませんよ。」
「…ありがとう、ございます…」
「泣かないでください…たまみさんには笑顔でいてほしいんです。」
利吉くんが困ったように微笑むと、たまみも涙をぬぐって微笑んだ。
「利吉さん、今まで言えずにすみませんでした…こんな、得たいの知れない身なのに隠して…」
言いかけたたまみの言葉を遮って利吉くんが真っ直ぐに言った。
「私の気持ちは変わりませんよ。たまみさんがもし敵のくの一でも構わないとすら思ってましたから。…あなたの笑顔が見られるだけでいいんです。」
………ほぉ。
私が横にいるにも関わらずよく言えたものだな。
そういえばさっきもたまみを抱きしめていたし、ここはもう一度はっきりさせておこうか…。
口を開きかけた瞬間、学園長先生と山田先生がじっとこちらを見ていることに気がついた。
何だかばつが悪くなり、私はまた咳払いをした。
「えー、とにかく。タソガレドキに注意しつつ情報を集めるということで。たまみさん、それでいいかい?」
「はい。…またご迷惑をかけてしまうことがあるかもしれませんが、出来ることは頑張りますので…よろしくお願いします。」
膝前に手をついて深く頭を下げるたまみ。
「迷惑だとかそんなことは思わなくていいよ。一年は組なんて毎日トラブルだらけだろう?同じようなもんだよ。」
笑ってそう言うと、たまみは微笑んで「ありがとうございます」と言った。
学園長先生達もうんうんと頷く。
こうして、花房牧之介のせいで引き起こされた一件は一応の幕をおろしたのだった。