第78話 土井先生の誕生日
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その夜。
山田先生が明日行く予定だった出張を1日早めて今夜発つことにされた。
朝には戻ると仰っていたが、その表情が気になった。
まさかとは思うが、ひょっとしてわざと今夜出掛けるように予定を変更されたのでは…。
そんなことを考えながら昼間のテストの採点をしていくと。
「こ…これは…!」
全員満点。
なんてはずはなく、皆60点位ではあるがいつもよりかなり頑張っていることが伺えた。
何より、間違い方がいつもと全然違う。
空白の解答欄はひとつもなかった。
いつもはふざけた間違いを平気で書いてくるのだが、今回は惜しい間違いだったり、懸命に考えて何かしら近い答えを書こうとしていた。
そこからは、私を喜ばせようと努力してくれた気持ちが、ひしひしと伝わってきた。
自分達で自主的に頑張って勉強をして、たとえ点数にならなくても一生懸命考えて惜しい答案を書いているのが嬉しかった。
昼間に貰った誕生日チケットを引き出しから出して眺めてみる。
皆がお祝いしてくれたのも嬉しいが、そういう気持ちを持つ優しい子達であることが何よりも嬉しい。
どうかその素直な優しい良い子達のまま育っていって欲しいと願わずにはいられない…。
私は嬉し涙で滲む視界のまま、チケットを手に持って暫く眺めていた。
「失礼します」
たまみの声がして職員室の障子があけられた。
横に置かれたお盆の上にはお酒が乗っていて、たまみがにこりと微笑んだ。
「お誕生日のお祝いに、ちょっとだけどうかなと思いまして。それと、お豆腐にはちみつ酢味噌をかけておつまみも作ってみたんです。」
「ありがとう…美味しそうだね。じゃあ少しだけ。」
そう言ってお猪口を受け取ると、彼女は嬉しそうにお酌してくれた。
「お誕生日、おめでとうございます。」
「はは、何だか照れるね。」
たまみも頬を染めて嬉しそうに微笑む。
「半助さん」
「ん?」
「うまれてきてくれてありがとうございます。」
「…!」
そんなことを言われたのは初めてだった。
真っ直ぐに私を見つめるたまみ。
その瞳はとても穏やかで嬉しそうで。
私の良いところも悪いところも全部受け入れてくれているような言葉に、慈しんでくれているようなその表情に、私は手の中のお猪口のお酒をくいっと飲み干して彼女を抱き寄せた。
「……ありがとう。」
嬉しそうに微笑むたまみ。
「私、半助さんに出会えて幸せです…。」
「…私も、たまみに出会えて幸せだよ。」
腕に力を入れてぎゅっと抱きしめた。
小柄な彼女は私の腕のなかにすっぽりとおさまり、とてもいとおしく感じた。
「そのお酒、山田先生に半助さんの好みを聞いて選んだんですけど…お口にあいました?」
「うん、美味しいよ。」
山田先生に?
ああ、だから山田先生は今夜発たれたのだな…。
「ちょうど今夜は出張だから自分の代わりに祝ってやってくれって仰ってましたよ。」
なるほど…気をつかわせてしまったな。
しかし、不在にすることが山田先生からの誕生日祝いかと思うと、申し訳ない一方で苦笑いがこぼれてしまった。
「帰ってきたらお礼を言わないとな…。」
「え?」
「いや…。うん、この豆腐もタレが旨いね。」
もう一杯注いでもらって豆腐も頬張った。
普段は酒を呑む機会などあまりないし、呑みながら誕生日を祝ってもらったこともない。
嬉しいな…。
素直にそう思った。
たまみにも酒を注いでやりたいが、すぐに眠ってしまうだろうから代わりにお茶をいれてやる。
「ありがとうございます」
一緒に豆腐をつまみ、笑顔を交わす。
それだけで、幸せだなと思った。
すると、たまみが「それから…」と小さな包みを取り出した。
「あの…これ、よかったら使ってください。」
「あけていい?」
「はい、何にしようかすごく迷ったんですけど…。」
包みをあけると、そこには。
「これは…半手甲?」
忍装束の手首に巻いている黒い布。
広げてよく見ると、内側に可愛いカエルの刺繍が施してあった。
「半助さんが無事に帰るように願いを込めて、カエルの刺繍をしたんです。何が喜んでもらえるか迷ったので、私が渡したいもの…持っていてもらいたいものにしちゃいました。」
そしてたまみはカエルの横を指差した。
「学園で支給されてるやつは棒手裏剣を仕込めるようになってると思うんですけど、これはチョークも三本差し込めるように作ったんです。」
見ると、確かにチョークが差し込めるよう工夫されていた。
ちょっとしたことだが、これはかなり使い勝手がよさそうだ…。
早速チョークケースからチョークを出して入れ、腕につけてみる。
「うん、着け心地もいいし、これならすぐチョークが出せてすごく使いやすそうだ…ありがとう。」
そっと外して、内側のカエルの刺繍を指でなぞる。
それは細かくしっかり縫われていて、私の無事を願うたまみの気持ちが伝わってきた。
「…忍務のときはいつもこれをつけて、必ずたまみのもとに帰ってくるよ。」
「ちゃんと、無事に帰ってきてくださいね。」
「うん…無傷でとは言えないけど、必ず帰る…約束するよ。」
たまみの頭をそっと抱き寄せ唇を重ねた。
「ん…半助さん…お酒のにおい…」
「飲ませたのはきみだよ…」
疲れた体に酒の回りが早いのか、いい気分になってきた。
たまみの艶やかでいい香りのする髪を撫でながら聞いてみる。
「たまみは…」
「はい?」
「たまみの誕生日はいつなんだ?」
「覚えてないんです…。」
少し寂しそうに微笑むたまみ。
「そうか…。」
私はそっと彼女の頬に手を当てた。
「じゃあ、きみがここに来た日を…私達が出会った日を、誕生日にしよう。」
一瞬驚いたように目を瞬かせた彼女は、すぐ顔を綻ばせて頷いた。
「嬉しい…じゃあその時はお祝いしてくれますか?」
「もちろんだよ。」
そう言って微笑むと、たまみがふと机の上に目を向けた。
そこには昼間のテストの答案と、あいつらに貰ったチケットの束。
「…ね、半助さん。」
「ん?」
「もしかして、私が来る前、泣いてました?」
「!」
慌てて頬を手で拭うと、たまみが優しい目で笑った。
「涙の跡なんてありませんよ。ただ聞いてみただけです。」
「…!」
ひっかかってしまったことを恥ずかしく思うと、たまみが「いいなぁ。」と呟いた。
「私も、半助さんを泣かせちゃうくらい喜ばせてみたいです…。」
「たまみ…」
少し拗ねたように微笑む彼女を抱き寄せて耳元で囁いた。
「私は、むしろたまみを啼かせたい…。」
「!」
「今夜は、山田先生が朝まで戻らないし…朝までつきあってくれる?」
すると、たまみはそっと頷いて私の胸に頬を寄せた。
恥ずかしそうに俯く彼女の顎に手をかけてこちらを向かせ、その柔らかい唇をゆっくりと貪る。
……欲しい。
酒のせいもあってか、布団も敷かずそのまま彼女を押し倒した。
襟元から手を滑り込ませようとした、そのとき。
ドタドタドタッ
「「!!」」
足音が近づいてきて咄嗟に二人とも身を起こした。
「「「「「土井先生ー!今夜は僕達が一緒に寝てあげまーす!」」」」」
勢いよく職員室の障子を開けてなだれ込んでくる良い子達。
「こ、こらっ、お前達!自分の部屋に戻りなさい…!」
「あれ、たまみさん、どうしてここに?」
「あー!土井先生お酒飲んでるー!」
「あ、僕達もしかしてお邪魔でしたか…!?」
「いや、邪魔とかじゃなくてだな、みんな自分の部屋で眠りなさい!」
「今夜だけ、土井先生が安心して眠れるように添い寝してあげまーす!」
「そんなことしなくても安眠できるから大丈夫だ!」
「そんなこと仰らずに~!」
押し問答をしているうちに自分達の布団を次々と持ち込んでくる生徒達。
…しょうがない。
皆が寝つくまでここに居させるか…。
眠りについたら、一人ずつ部屋に連れていこう。
私は大きくため息をついて良い子達に告げた。
「まったく…。わかった。わかったから、皆騒がず静かに寝るんだぞ!」
「「「「「はーい!!」」」」」」
私は隣にいるたまみに目くばせし、彼女にだけ聞こえるように「続きは皆を寝かせてから…」と囁いた。
たまみは困ったように笑って頷いた。
山田先生が明日行く予定だった出張を1日早めて今夜発つことにされた。
朝には戻ると仰っていたが、その表情が気になった。
まさかとは思うが、ひょっとしてわざと今夜出掛けるように予定を変更されたのでは…。
そんなことを考えながら昼間のテストの採点をしていくと。
「こ…これは…!」
全員満点。
なんてはずはなく、皆60点位ではあるがいつもよりかなり頑張っていることが伺えた。
何より、間違い方がいつもと全然違う。
空白の解答欄はひとつもなかった。
いつもはふざけた間違いを平気で書いてくるのだが、今回は惜しい間違いだったり、懸命に考えて何かしら近い答えを書こうとしていた。
そこからは、私を喜ばせようと努力してくれた気持ちが、ひしひしと伝わってきた。
自分達で自主的に頑張って勉強をして、たとえ点数にならなくても一生懸命考えて惜しい答案を書いているのが嬉しかった。
昼間に貰った誕生日チケットを引き出しから出して眺めてみる。
皆がお祝いしてくれたのも嬉しいが、そういう気持ちを持つ優しい子達であることが何よりも嬉しい。
どうかその素直な優しい良い子達のまま育っていって欲しいと願わずにはいられない…。
私は嬉し涙で滲む視界のまま、チケットを手に持って暫く眺めていた。
「失礼します」
たまみの声がして職員室の障子があけられた。
横に置かれたお盆の上にはお酒が乗っていて、たまみがにこりと微笑んだ。
「お誕生日のお祝いに、ちょっとだけどうかなと思いまして。それと、お豆腐にはちみつ酢味噌をかけておつまみも作ってみたんです。」
「ありがとう…美味しそうだね。じゃあ少しだけ。」
そう言ってお猪口を受け取ると、彼女は嬉しそうにお酌してくれた。
「お誕生日、おめでとうございます。」
「はは、何だか照れるね。」
たまみも頬を染めて嬉しそうに微笑む。
「半助さん」
「ん?」
「うまれてきてくれてありがとうございます。」
「…!」
そんなことを言われたのは初めてだった。
真っ直ぐに私を見つめるたまみ。
その瞳はとても穏やかで嬉しそうで。
私の良いところも悪いところも全部受け入れてくれているような言葉に、慈しんでくれているようなその表情に、私は手の中のお猪口のお酒をくいっと飲み干して彼女を抱き寄せた。
「……ありがとう。」
嬉しそうに微笑むたまみ。
「私、半助さんに出会えて幸せです…。」
「…私も、たまみに出会えて幸せだよ。」
腕に力を入れてぎゅっと抱きしめた。
小柄な彼女は私の腕のなかにすっぽりとおさまり、とてもいとおしく感じた。
「そのお酒、山田先生に半助さんの好みを聞いて選んだんですけど…お口にあいました?」
「うん、美味しいよ。」
山田先生に?
ああ、だから山田先生は今夜発たれたのだな…。
「ちょうど今夜は出張だから自分の代わりに祝ってやってくれって仰ってましたよ。」
なるほど…気をつかわせてしまったな。
しかし、不在にすることが山田先生からの誕生日祝いかと思うと、申し訳ない一方で苦笑いがこぼれてしまった。
「帰ってきたらお礼を言わないとな…。」
「え?」
「いや…。うん、この豆腐もタレが旨いね。」
もう一杯注いでもらって豆腐も頬張った。
普段は酒を呑む機会などあまりないし、呑みながら誕生日を祝ってもらったこともない。
嬉しいな…。
素直にそう思った。
たまみにも酒を注いでやりたいが、すぐに眠ってしまうだろうから代わりにお茶をいれてやる。
「ありがとうございます」
一緒に豆腐をつまみ、笑顔を交わす。
それだけで、幸せだなと思った。
すると、たまみが「それから…」と小さな包みを取り出した。
「あの…これ、よかったら使ってください。」
「あけていい?」
「はい、何にしようかすごく迷ったんですけど…。」
包みをあけると、そこには。
「これは…半手甲?」
忍装束の手首に巻いている黒い布。
広げてよく見ると、内側に可愛いカエルの刺繍が施してあった。
「半助さんが無事に帰るように願いを込めて、カエルの刺繍をしたんです。何が喜んでもらえるか迷ったので、私が渡したいもの…持っていてもらいたいものにしちゃいました。」
そしてたまみはカエルの横を指差した。
「学園で支給されてるやつは棒手裏剣を仕込めるようになってると思うんですけど、これはチョークも三本差し込めるように作ったんです。」
見ると、確かにチョークが差し込めるよう工夫されていた。
ちょっとしたことだが、これはかなり使い勝手がよさそうだ…。
早速チョークケースからチョークを出して入れ、腕につけてみる。
「うん、着け心地もいいし、これならすぐチョークが出せてすごく使いやすそうだ…ありがとう。」
そっと外して、内側のカエルの刺繍を指でなぞる。
それは細かくしっかり縫われていて、私の無事を願うたまみの気持ちが伝わってきた。
「…忍務のときはいつもこれをつけて、必ずたまみのもとに帰ってくるよ。」
「ちゃんと、無事に帰ってきてくださいね。」
「うん…無傷でとは言えないけど、必ず帰る…約束するよ。」
たまみの頭をそっと抱き寄せ唇を重ねた。
「ん…半助さん…お酒のにおい…」
「飲ませたのはきみだよ…」
疲れた体に酒の回りが早いのか、いい気分になってきた。
たまみの艶やかでいい香りのする髪を撫でながら聞いてみる。
「たまみは…」
「はい?」
「たまみの誕生日はいつなんだ?」
「覚えてないんです…。」
少し寂しそうに微笑むたまみ。
「そうか…。」
私はそっと彼女の頬に手を当てた。
「じゃあ、きみがここに来た日を…私達が出会った日を、誕生日にしよう。」
一瞬驚いたように目を瞬かせた彼女は、すぐ顔を綻ばせて頷いた。
「嬉しい…じゃあその時はお祝いしてくれますか?」
「もちろんだよ。」
そう言って微笑むと、たまみがふと机の上に目を向けた。
そこには昼間のテストの答案と、あいつらに貰ったチケットの束。
「…ね、半助さん。」
「ん?」
「もしかして、私が来る前、泣いてました?」
「!」
慌てて頬を手で拭うと、たまみが優しい目で笑った。
「涙の跡なんてありませんよ。ただ聞いてみただけです。」
「…!」
ひっかかってしまったことを恥ずかしく思うと、たまみが「いいなぁ。」と呟いた。
「私も、半助さんを泣かせちゃうくらい喜ばせてみたいです…。」
「たまみ…」
少し拗ねたように微笑む彼女を抱き寄せて耳元で囁いた。
「私は、むしろたまみを啼かせたい…。」
「!」
「今夜は、山田先生が朝まで戻らないし…朝までつきあってくれる?」
すると、たまみはそっと頷いて私の胸に頬を寄せた。
恥ずかしそうに俯く彼女の顎に手をかけてこちらを向かせ、その柔らかい唇をゆっくりと貪る。
……欲しい。
酒のせいもあってか、布団も敷かずそのまま彼女を押し倒した。
襟元から手を滑り込ませようとした、そのとき。
ドタドタドタッ
「「!!」」
足音が近づいてきて咄嗟に二人とも身を起こした。
「「「「「土井先生ー!今夜は僕達が一緒に寝てあげまーす!」」」」」
勢いよく職員室の障子を開けてなだれ込んでくる良い子達。
「こ、こらっ、お前達!自分の部屋に戻りなさい…!」
「あれ、たまみさん、どうしてここに?」
「あー!土井先生お酒飲んでるー!」
「あ、僕達もしかしてお邪魔でしたか…!?」
「いや、邪魔とかじゃなくてだな、みんな自分の部屋で眠りなさい!」
「今夜だけ、土井先生が安心して眠れるように添い寝してあげまーす!」
「そんなことしなくても安眠できるから大丈夫だ!」
「そんなこと仰らずに~!」
押し問答をしているうちに自分達の布団を次々と持ち込んでくる生徒達。
…しょうがない。
皆が寝つくまでここに居させるか…。
眠りについたら、一人ずつ部屋に連れていこう。
私は大きくため息をついて良い子達に告げた。
「まったく…。わかった。わかったから、皆騒がず静かに寝るんだぞ!」
「「「「「はーい!!」」」」」」
私は隣にいるたまみに目くばせし、彼女にだけ聞こえるように「続きは皆を寝かせてから…」と囁いた。
たまみは困ったように笑って頷いた。