第76話 この手で守りたい
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ドボンッ!!
「っ!!!」
冷たい!
寒い!
予想より冷たい海水に震える体を無理矢理動かして、両腕を大きく回し足をバタバタとさせた。
大丈夫!
私は、泳げる…!
波に邪魔されながらも、夢中で泳いで前に進む。
早く!
早くしないと乱太郎くんが…!!
海水が目に染みて目が開けられなくなってきた。
乱太郎くんが手だけで水面に上がろうともがいている。
あと少し、あと少し…!
ガシッ!!
腕を伸ばして乱太郎くんの体を持った。
「大丈夫?!」
「!!」
乱太郎くんが正面からしがみついてきた。
あ………!!!
急に身動きがとれなくなった。
必死にしがみついてくる力は思いのほか強くて。
沈む自分の身体に身の危険を感じた。
このままでは二人とも溺れてしまう!
「待って、離れて…!どうしたの?!」
「あ、足…!!」
できるだけ落ち着かせようと体を離しながら聞くと、乱太郎くんは泣きそうな顔で「右足がつって…!」と言った。
足がつっただけならすぐに治せる!
私は大きく息を吸い水中に潜り、乱太郎くんの足の親指をぐっと反らせた。
これで治るはず…!
と、そのとき。
海中で揺らぐ影が視界に入った。
誰かが来てくれたのかと思って喜んだ次の瞬間。
その大きな影が横にスッと動いた。
…人じゃない!
慌てて水面に顔を上げると、大きな影は私達の周りをゆっくり円を描いて泳いでいた。
サ メ だ …っ!!
血の気がひいた。
逃げなきゃ…!
慌てて乱太郎くんを連れて逃げようとした。
しかし、
「!」
しがみついてくる乱太郎くんを抱えながら、彼が息つぎできるように泳いで逃げる方法を、私は知らなかった。
サメに驚いてすぐ浮上したために、乱太郎くんの足もまだ治っていなかった。
逃げ…!
どうやって…!?
………無理!!
サメがゆっくり近づいてきた。
パニックになる頭で、目にうつる光景がやけにスローに見えた。
ダメだっ…!!!
ザバッ!!
突然、視界が見えなくなった。
「大丈夫かっ!?」
「!!!」
土井先生!
力強い腕が、私と乱太郎くんを後ろから抱えてくれた。
「サ、サメ、が…!」
サメが近づいてきていた方向…土井先生の後ろを見ると。
「!!?」
土井先生の背後の海が赤く染まっていた。
まさか、土井先生が私達をかばって…!?
頭が真っ白になって言葉を失った。
刹那、土井先生の後ろから響く声。
「トドメはさせませんでしたが、逃げました。周りにも他にはいません。」
「!!」
舳丸さんがモリを持って赤い海に浮かんでいた。
「舳丸さん!」
「たまみさん、大丈夫です…か…」
舳丸さんが私を見て固まった。
どうしたのかと思った瞬間、土井先生が私をぐいっと彼から隠した。
「舳丸さん、ありがとうございます。すみませんが、乱太郎を小舟まで連れていって貰えますか?」
「あ…はい、わかりました。」
「たまみ、自力で浜まで泳げるかい?」
「!はい。」
「じゃあ、ここからは浅いから急いであっちに向かって泳いで。陸には上がらず足のつくギリギリのところで海の方を向いて立っていてくれ。」
「海の中でですか?」
「…そのままじゃ、上がれないだろう。」
土井先生が気まずそうに陸の方を見ながらそう言った。
言われて初めて、自分が何も着ていないことを思い出し赤面した。
「あっ…!はい、わ、わかりました。」
「すぐに着るもの持ってくるから。」
そう言うと土井先生は舳丸さんに向き直りきびきびと話した。
「一旦、私は残りの生徒を避難させます。舳丸さん、乱太郎を頼みます。」
「わかりました。」
山田先生がみんなに陸へあがるよう号令をかけている。
泳いでいてそれに気づかない数名の生徒のもとへ土井先生が泳いでいった。
舳丸さんは乱太郎くんを上手にひっぱりながら義丸さんの乗っている小舟へと進んでいく。
…助かった……。
もうダメかと覚悟してしまった。
私は寒さからか恐怖からか震える体を無理矢理動かしてまた泳ぎ出した。
言われた通り海の中で待っていると、土井先生が黒い忍装束を持って来てくれた。
「あ…これは土井先生の…?濡れてしまったら…」
「大丈夫。たまみの小袖はあそこの小屋に運んだから、そこで着替えるといい。」
土井先生は兵庫水軍さん達の方を見ながら私に背を向けた。
「すみません…ありがとうございます。」
申し訳なく思いながらも土井先生の忍装束に手を通す。
「…着れた?」
「はい、ありがとうございます。」
こちらを振り向いた土井先生が、すぐに微妙な顔をした。
「あ、あの、何か…?」
バシャッ
言い終わる前に、土井先生が私を横抱きに抱えて歩き出した。
「そんな格好で狼の群れの前を歩かせるわけにはいかないな…。」
「え?」
改めて自分を見ると、土井先生の服は大きいから胸元は大きくあいているし、生地が水に濡れて体にペッタリと貼り付いていた。
土井先生は他の人から隠すように私をぐっと抱き寄せた。
そしてそのまま足早に、近くの小屋の中に私を運んでくれた。
小屋の扉を閉めると、土井先生がおもむろに私を抱きしめた。
「たまみ、頼むから…無茶なことはしないでくれ…!」
苦しいくらいに抱きしめられ、息ができなくなった。
「怪我はしてないか…?」
「はい…大丈夫です。」
土井先生が悲しそうに私を見つめた。
その目に、私は自分の判断が甘かったのだと気づいた。
「乱太郎を助けに行ってくれてありがとう。でも、溺れている人間を一人で泳いで助けに行くのは、よほど泳ぎが上手くても危険だ。」
それはいま身をもって知った。
もしサメがいなくても二人とも共倒れになったかもしれなかったことに、あらためて震えた。
「ごめんなさい…。あの…、怒ってます?」
「怒るとかじゃなくて…。もし私や舳丸さんが間に合わなかったらどうなっていたか…!」
「すみません…。大声で呼んでも誰も気づかなくて、戻って声をかけてる間に乱太郎くんが沈んでしまったらと思って…。」
「助けたい気持ちは分かる。しかし…、もし、きみに何かあったら…私は……っ!」
更にきつく抱きしめられた。
直に伝わってくる土井先生の速い鼓動。
そして、震えているのは私だけではなかった…。
…心配を、かけてしまった……。
申し訳ない気持ちと、安堵の気持ちで泣きそうになった。
土井先生はゆっくりと、私の頬を手のひらで包んだ。
「……もっと、自分を大事にしてくれ…。」
冷たくなった私の頬に、土井先生が優しく口づけた。
「心配させて、すみません…。」
「うん…。しかもまさかサメまで来るとは…」
「血の気が引きました…」
「私も心臓が止まりかけた…」
「乱太郎くんは大丈夫ですか?」
「ああ。たまみが水に飛び込む音で、乱太郎が溺れているのに気がついた…ありがとう。舳丸さんもきみが居ないことにすぐ気づいて一緒に助けに向かってくれて…小舟に乗ってた義丸さんが途中でサメに気づいて舟からモリを投げてくれたんだ。」
「そうだったんですか…。お二人にも後でお礼を言わないとですね。」
「そうだな。…さすがに水中のサメにはチョークも出席簿も効きそうにないしな。」
土井先生が苦笑いしながらそんな冗談を言うから、思わずチョークと出席簿でサメと戦う土井先生を想像して笑ってしまった。
海中でも苦無じゃなくてチョークなんだ。
「…じゃあ、私は外で待ってるから。皆はもう焚き火とお味噌汁で温まっているだろう。」
そう言うと土井先生は私の頭を撫でて外に出た。
まさか自分の作ったお味噌汁で自分が温まることになるなんて。
私は幾分温まった気持ちでもって着替えを済ませ、みんなが暖をとっている焚き火へと急いだ。
そうしてその後、トラブルはあったものの元気いっぱいのは組のみんなとともにバーベキューを堪能し、兵庫水軍の方々ともゆっくり話すことができた。
乱太郎くんは涙目で謝ってきたけれど、足もすっかり治ったようで本当によかった。
そして秋の寒中水泳&海鮮バーベキュー、結果オーライでとても楽しい1日となった…けれど。
私はしばらく海に入るのは遠慮しようと思ったのだった…。
「っ!!!」
冷たい!
寒い!
予想より冷たい海水に震える体を無理矢理動かして、両腕を大きく回し足をバタバタとさせた。
大丈夫!
私は、泳げる…!
波に邪魔されながらも、夢中で泳いで前に進む。
早く!
早くしないと乱太郎くんが…!!
海水が目に染みて目が開けられなくなってきた。
乱太郎くんが手だけで水面に上がろうともがいている。
あと少し、あと少し…!
ガシッ!!
腕を伸ばして乱太郎くんの体を持った。
「大丈夫?!」
「!!」
乱太郎くんが正面からしがみついてきた。
あ………!!!
急に身動きがとれなくなった。
必死にしがみついてくる力は思いのほか強くて。
沈む自分の身体に身の危険を感じた。
このままでは二人とも溺れてしまう!
「待って、離れて…!どうしたの?!」
「あ、足…!!」
できるだけ落ち着かせようと体を離しながら聞くと、乱太郎くんは泣きそうな顔で「右足がつって…!」と言った。
足がつっただけならすぐに治せる!
私は大きく息を吸い水中に潜り、乱太郎くんの足の親指をぐっと反らせた。
これで治るはず…!
と、そのとき。
海中で揺らぐ影が視界に入った。
誰かが来てくれたのかと思って喜んだ次の瞬間。
その大きな影が横にスッと動いた。
…人じゃない!
慌てて水面に顔を上げると、大きな影は私達の周りをゆっくり円を描いて泳いでいた。
サ メ だ …っ!!
血の気がひいた。
逃げなきゃ…!
慌てて乱太郎くんを連れて逃げようとした。
しかし、
「!」
しがみついてくる乱太郎くんを抱えながら、彼が息つぎできるように泳いで逃げる方法を、私は知らなかった。
サメに驚いてすぐ浮上したために、乱太郎くんの足もまだ治っていなかった。
逃げ…!
どうやって…!?
………無理!!
サメがゆっくり近づいてきた。
パニックになる頭で、目にうつる光景がやけにスローに見えた。
ダメだっ…!!!
ザバッ!!
突然、視界が見えなくなった。
「大丈夫かっ!?」
「!!!」
土井先生!
力強い腕が、私と乱太郎くんを後ろから抱えてくれた。
「サ、サメ、が…!」
サメが近づいてきていた方向…土井先生の後ろを見ると。
「!!?」
土井先生の背後の海が赤く染まっていた。
まさか、土井先生が私達をかばって…!?
頭が真っ白になって言葉を失った。
刹那、土井先生の後ろから響く声。
「トドメはさせませんでしたが、逃げました。周りにも他にはいません。」
「!!」
舳丸さんがモリを持って赤い海に浮かんでいた。
「舳丸さん!」
「たまみさん、大丈夫です…か…」
舳丸さんが私を見て固まった。
どうしたのかと思った瞬間、土井先生が私をぐいっと彼から隠した。
「舳丸さん、ありがとうございます。すみませんが、乱太郎を小舟まで連れていって貰えますか?」
「あ…はい、わかりました。」
「たまみ、自力で浜まで泳げるかい?」
「!はい。」
「じゃあ、ここからは浅いから急いであっちに向かって泳いで。陸には上がらず足のつくギリギリのところで海の方を向いて立っていてくれ。」
「海の中でですか?」
「…そのままじゃ、上がれないだろう。」
土井先生が気まずそうに陸の方を見ながらそう言った。
言われて初めて、自分が何も着ていないことを思い出し赤面した。
「あっ…!はい、わ、わかりました。」
「すぐに着るもの持ってくるから。」
そう言うと土井先生は舳丸さんに向き直りきびきびと話した。
「一旦、私は残りの生徒を避難させます。舳丸さん、乱太郎を頼みます。」
「わかりました。」
山田先生がみんなに陸へあがるよう号令をかけている。
泳いでいてそれに気づかない数名の生徒のもとへ土井先生が泳いでいった。
舳丸さんは乱太郎くんを上手にひっぱりながら義丸さんの乗っている小舟へと進んでいく。
…助かった……。
もうダメかと覚悟してしまった。
私は寒さからか恐怖からか震える体を無理矢理動かしてまた泳ぎ出した。
言われた通り海の中で待っていると、土井先生が黒い忍装束を持って来てくれた。
「あ…これは土井先生の…?濡れてしまったら…」
「大丈夫。たまみの小袖はあそこの小屋に運んだから、そこで着替えるといい。」
土井先生は兵庫水軍さん達の方を見ながら私に背を向けた。
「すみません…ありがとうございます。」
申し訳なく思いながらも土井先生の忍装束に手を通す。
「…着れた?」
「はい、ありがとうございます。」
こちらを振り向いた土井先生が、すぐに微妙な顔をした。
「あ、あの、何か…?」
バシャッ
言い終わる前に、土井先生が私を横抱きに抱えて歩き出した。
「そんな格好で狼の群れの前を歩かせるわけにはいかないな…。」
「え?」
改めて自分を見ると、土井先生の服は大きいから胸元は大きくあいているし、生地が水に濡れて体にペッタリと貼り付いていた。
土井先生は他の人から隠すように私をぐっと抱き寄せた。
そしてそのまま足早に、近くの小屋の中に私を運んでくれた。
小屋の扉を閉めると、土井先生がおもむろに私を抱きしめた。
「たまみ、頼むから…無茶なことはしないでくれ…!」
苦しいくらいに抱きしめられ、息ができなくなった。
「怪我はしてないか…?」
「はい…大丈夫です。」
土井先生が悲しそうに私を見つめた。
その目に、私は自分の判断が甘かったのだと気づいた。
「乱太郎を助けに行ってくれてありがとう。でも、溺れている人間を一人で泳いで助けに行くのは、よほど泳ぎが上手くても危険だ。」
それはいま身をもって知った。
もしサメがいなくても二人とも共倒れになったかもしれなかったことに、あらためて震えた。
「ごめんなさい…。あの…、怒ってます?」
「怒るとかじゃなくて…。もし私や舳丸さんが間に合わなかったらどうなっていたか…!」
「すみません…。大声で呼んでも誰も気づかなくて、戻って声をかけてる間に乱太郎くんが沈んでしまったらと思って…。」
「助けたい気持ちは分かる。しかし…、もし、きみに何かあったら…私は……っ!」
更にきつく抱きしめられた。
直に伝わってくる土井先生の速い鼓動。
そして、震えているのは私だけではなかった…。
…心配を、かけてしまった……。
申し訳ない気持ちと、安堵の気持ちで泣きそうになった。
土井先生はゆっくりと、私の頬を手のひらで包んだ。
「……もっと、自分を大事にしてくれ…。」
冷たくなった私の頬に、土井先生が優しく口づけた。
「心配させて、すみません…。」
「うん…。しかもまさかサメまで来るとは…」
「血の気が引きました…」
「私も心臓が止まりかけた…」
「乱太郎くんは大丈夫ですか?」
「ああ。たまみが水に飛び込む音で、乱太郎が溺れているのに気がついた…ありがとう。舳丸さんもきみが居ないことにすぐ気づいて一緒に助けに向かってくれて…小舟に乗ってた義丸さんが途中でサメに気づいて舟からモリを投げてくれたんだ。」
「そうだったんですか…。お二人にも後でお礼を言わないとですね。」
「そうだな。…さすがに水中のサメにはチョークも出席簿も効きそうにないしな。」
土井先生が苦笑いしながらそんな冗談を言うから、思わずチョークと出席簿でサメと戦う土井先生を想像して笑ってしまった。
海中でも苦無じゃなくてチョークなんだ。
「…じゃあ、私は外で待ってるから。皆はもう焚き火とお味噌汁で温まっているだろう。」
そう言うと土井先生は私の頭を撫でて外に出た。
まさか自分の作ったお味噌汁で自分が温まることになるなんて。
私は幾分温まった気持ちでもって着替えを済ませ、みんなが暖をとっている焚き火へと急いだ。
そうしてその後、トラブルはあったものの元気いっぱいのは組のみんなとともにバーベキューを堪能し、兵庫水軍の方々ともゆっくり話すことができた。
乱太郎くんは涙目で謝ってきたけれど、足もすっかり治ったようで本当によかった。
そして秋の寒中水泳&海鮮バーベキュー、結果オーライでとても楽しい1日となった…けれど。
私はしばらく海に入るのは遠慮しようと思ったのだった…。