第74話 過去
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月が明るく闇を照らすなか、半助さんは私を屋根の上に座らせた。
私達がいつもよく夜空を眺める場所。
そして彼はいつものように、私が落ちないよう後ろに座ってお腹に腕を回し抱きしめてくれた。
「たまみにはいつか話そうと思ってたんだけど…。」
彼の静かな声が耳元で響く。
「さっき、私が昔の話をしないと言ってただろう。」
「あ…あの、無理に話されなくてもいいですよ?私、どんな過去があっても全然気にしないというか…半助さんも私にそう言ってくれましたし…。」
「…ありがとう。」
半助さんはそこで言葉をきって少し沈黙した。
秋の虫の鳴き声がリリリ…と遠くに聞こえる。
「…でも、私が過去を話さないことでまたたまみが不安になるようなことがあったらいけないから…きみには話しておこうと思う。」
半助さんは静かに言葉を続けた。
「私は豪族の産まれだったんだが…子どもの頃に家は襲われ……私だけが生き延びた…。」
「………」
そうだったのか…。
半助さんがきりちゃんを見る優しい眼差しを思い出した。
自分ときりちゃんの過去を重ねたりすることもあったのだろうか…。
私はかける言葉も見つからず、彼の腕にそっと手を重ねた。
「そこから色々あって…忍術や兵法を学んだり…やがて忍として忍務をするようになって…」
半助さんは兵法と火薬に詳しい。
もしかしたら兵法に基づく戦略と火薬による攻撃をもって戦を早く終わらせて被害を最小に留めようとか、そういう気持ちでそれらを学んでいたのかもしれない。
半助さんがもしそのまま領主とかになっていたら、きっとその土地の人達は幸せな暮らしを送っていたのだろうな…。
そんなことをふと考えたけれど、私は口には出さず静かに彼の話を聞いていた。
半助さんは自分の掌を広げてじっと見つめた。
「…でもあるとき私は抜け忍になって追われ…怪我をしたところを山田先生に助けてもらったんだよ。」
「山田先生に?」
「うん、山田先生が家族で出掛けていたところに偶然落下してね。それから暫く家でお世話になったんだ。」
「それで利吉さんとも未だに追いかけっこしたり仲良しなんですね。」
「…それは……。まぁ、うん、そうだね。利吉くんのことは子どもの頃から知ってるよ。まさか同じ女性を取り合うことになるなんて思わなかったけど。」
半助さんはそう言って苦笑すると、私の頭をぽんと撫でた。
「まぁそれで…そのとき山田先生から忍術学園の教師にならないかと誘われてここに来たんだよ。」
「そうでしたか…ときどき半助さんのお父さんみたいに話すのはそういう経緯もあったんですね…。」
「うん…山田先生には本当にお世話になった。今でも色々と気にかけてくれるし…。」
「じゃあ私も山田先生に感謝しなきゃですね。」
「?…何でたまみが?」
「山田先生のおかげで、こうして半助さんに巡り会えたようなものですから…。」
すると半助さんはフッと笑って「そうだな。」と私の肩口に顔を埋めた。
「……半助さんがそんな辛い思いをされてきていたなんて…全然分かりませんでした。」
「そうかい?…そうだな…忍術学園にきて…子ども達と毎日大変ながらも触れあっているうちに、私自身も救われた気がするよ…。」
「みんないい子ですもんね。」
私がこの不慣れな世界に来て戸惑っていたときも、一年は組のみんなの明るさ、優しさに元気をもらったものだった。
もしかしたら、半助さんが心に抱いている傷も同じように彼らが癒し、前に進む力を分けてくれたのかもしれない…。
「この話はきり丸にもしてないから…。」
「わかりました…誰にも言いません。話してくれてありがとうございます…。」
そうして私達は暫く静かに月を見上げていた。
背中から伝わる彼の温もり。
生きて、こうして巡り会うことができてよかった…。
辛い思いをしてきたのであれば、せめてこれからは幸せにしてあげたい…。
私にそれができるのかは分からないけれど…何をしてあげることができるのだろう……。
そんなことを思いながら、私は彼の大きな手に手を重ねた。
私達がいつもよく夜空を眺める場所。
そして彼はいつものように、私が落ちないよう後ろに座ってお腹に腕を回し抱きしめてくれた。
「たまみにはいつか話そうと思ってたんだけど…。」
彼の静かな声が耳元で響く。
「さっき、私が昔の話をしないと言ってただろう。」
「あ…あの、無理に話されなくてもいいですよ?私、どんな過去があっても全然気にしないというか…半助さんも私にそう言ってくれましたし…。」
「…ありがとう。」
半助さんはそこで言葉をきって少し沈黙した。
秋の虫の鳴き声がリリリ…と遠くに聞こえる。
「…でも、私が過去を話さないことでまたたまみが不安になるようなことがあったらいけないから…きみには話しておこうと思う。」
半助さんは静かに言葉を続けた。
「私は豪族の産まれだったんだが…子どもの頃に家は襲われ……私だけが生き延びた…。」
「………」
そうだったのか…。
半助さんがきりちゃんを見る優しい眼差しを思い出した。
自分ときりちゃんの過去を重ねたりすることもあったのだろうか…。
私はかける言葉も見つからず、彼の腕にそっと手を重ねた。
「そこから色々あって…忍術や兵法を学んだり…やがて忍として忍務をするようになって…」
半助さんは兵法と火薬に詳しい。
もしかしたら兵法に基づく戦略と火薬による攻撃をもって戦を早く終わらせて被害を最小に留めようとか、そういう気持ちでそれらを学んでいたのかもしれない。
半助さんがもしそのまま領主とかになっていたら、きっとその土地の人達は幸せな暮らしを送っていたのだろうな…。
そんなことをふと考えたけれど、私は口には出さず静かに彼の話を聞いていた。
半助さんは自分の掌を広げてじっと見つめた。
「…でもあるとき私は抜け忍になって追われ…怪我をしたところを山田先生に助けてもらったんだよ。」
「山田先生に?」
「うん、山田先生が家族で出掛けていたところに偶然落下してね。それから暫く家でお世話になったんだ。」
「それで利吉さんとも未だに追いかけっこしたり仲良しなんですね。」
「…それは……。まぁ、うん、そうだね。利吉くんのことは子どもの頃から知ってるよ。まさか同じ女性を取り合うことになるなんて思わなかったけど。」
半助さんはそう言って苦笑すると、私の頭をぽんと撫でた。
「まぁそれで…そのとき山田先生から忍術学園の教師にならないかと誘われてここに来たんだよ。」
「そうでしたか…ときどき半助さんのお父さんみたいに話すのはそういう経緯もあったんですね…。」
「うん…山田先生には本当にお世話になった。今でも色々と気にかけてくれるし…。」
「じゃあ私も山田先生に感謝しなきゃですね。」
「?…何でたまみが?」
「山田先生のおかげで、こうして半助さんに巡り会えたようなものですから…。」
すると半助さんはフッと笑って「そうだな。」と私の肩口に顔を埋めた。
「……半助さんがそんな辛い思いをされてきていたなんて…全然分かりませんでした。」
「そうかい?…そうだな…忍術学園にきて…子ども達と毎日大変ながらも触れあっているうちに、私自身も救われた気がするよ…。」
「みんないい子ですもんね。」
私がこの不慣れな世界に来て戸惑っていたときも、一年は組のみんなの明るさ、優しさに元気をもらったものだった。
もしかしたら、半助さんが心に抱いている傷も同じように彼らが癒し、前に進む力を分けてくれたのかもしれない…。
「この話はきり丸にもしてないから…。」
「わかりました…誰にも言いません。話してくれてありがとうございます…。」
そうして私達は暫く静かに月を見上げていた。
背中から伝わる彼の温もり。
生きて、こうして巡り会うことができてよかった…。
辛い思いをしてきたのであれば、せめてこれからは幸せにしてあげたい…。
私にそれができるのかは分からないけれど…何をしてあげることができるのだろう……。
そんなことを思いながら、私は彼の大きな手に手を重ねた。