第43話 野掛け
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やっと誘うことができた。
補習やら残務やらで休日も忙しく実際に時間がなかったのは確かだが、中々その言葉を言い出せなかったのだ。
しかし意を決して誘ってみたら、たまみさんはとても嬉しそうに喜んでくれた。
「どこか行きたいところはありますか?」
そう聞いてみると、たまみさんは少し考えてから微笑んで言った。
「緑の綺麗なところで…二人でのんびりしたいです。」
町へ行きたいとかではなく、自然のなかでのんびりしたいというのが彼女らしく感じた。
忙しい毎日だから、ゆっくりしたいという気持ちも分かる。
さて、どこに連れていこうか…。
そんなことを考え迷う時間さえ楽しかった。
当日。
少し早目に出て木の上で待つことにした。
サワサワと風に揺れる葉の音。
まだ明るい色の緑が日に透けて綺麗だった。
気持ちよくて少しうとうとしていると、たまみさんが学園の方から歩いてきた。
にこにこと今にも歌い出しそうな雰囲気。
そんな姿に私も嬉しくなった。
彼女が木の下まで来てきょろきょろと私を探す。
「ここです。」
「土井先生!」
下に降りると、彼女はぱぁっと花が咲いたような笑顔を見せた。
「お待たせしちゃいましたか?」
「いえ、私もさっき来たところです。…持ちましょうか?」
彼女が手に持っていた大きな風呂敷包みを受け取ると、思ったよりも重かった。
「お弁当、作りすぎちゃったかもしれません。」
照れたように笑う彼女。
「楽しみです。」
朝からそんなに頑張ってくれていたのかと思うと嬉しかった。
そして彼女を見て思わず足を止めた。
いつもと違い化粧をして高い位置で髪を結い上げた彼女はとても可愛らしかった。
…しかし、「可愛いですね」という一言が中々言えない。
私は言葉を濁して歩きだした。
のどかな田園風景のなかを二人で歩く。
隣でころころと笑う彼女が可愛くて。
他愛もない話なのに、彼女と話していると楽しくて。
ただ肩を並べて歩いている、それだけで心が弾んだ。
ゆっくり休憩しながらのんびり目的地まで歩いていくと、やがて小高い丘に着いた。
そこは見渡す限り芝生が広がっていて、白詰草がたくさん白く丸い花を咲かせていた。
近くには小川もあって、微かに水音が聞こえる。
温かい陽射しが柔らかく緑を照らし、心地良い風が草を揺らしていた。
「すごい…!気持ちいいところですねぇ…何だかお昼寝したくなる感じ…!」
たまみさんが笑顔で周りを見渡した。
一本の大きな木の下に行き、私はその木陰に大きな布を敷いた。
「ちょっと早いですが、ここでお昼にしましょうか。」
「はい!」
たまみさんがお弁当をあけてくれた。
玉子焼きや色とりどりの野菜、お肉を炒めたものや揚げ物等、どれも美味しそうだった。
「美味しそうですね…!これだけ作るのは大変だったでしょう。」
「はりきって作りすぎちゃいました。お口にあえばいいんですけど…。」
たまみさんが照れながら微笑む。
その表情が、気持ちが嬉しくて、私も自然と微笑んだ。
まずはひとつ、甘辛く炒められたお肉を頬張ってみる。
「うん、美味しい!」
「えへへ、よかったです。」
たまみさんが嬉しそうにおにぎりも渡してくれた。
どのおかずもとても美味しくて、私はぱくぱくと勢いよく食べてしまった。
「青空のしたでこんなに美味しいご馳走が食べられるなんて幸せだな…。」
「ふふふ、頑張ったかいがあります。」
彼女が空になったお弁当箱を横において、竹筒に入った水を渡してくれた。
「土井先生のために頑張って料理を覚えたのが役にたってよかったです。」
「…私のために……?」
驚いて聞くと、彼女は頬を染めて頷いた。
「自分のためでもありますが…土井先生に美味しいご飯を作れたらいいなぁって…そう思いながら頑張ってるんです。」
たまみさんは私の腕にそっと寄り添い俯いた。
…なんて可愛いことを…。
私は彼女の手に自分の手を重ねた。
「…ありがとう。」
たまみさんは嬉しそうに微笑んで景色を眺めていた。
暫くそうして寄り添ったまま二人で佇む。
不思議と沈黙も心地いい…。
ふと、彼女はどうなのだろうと気になった。
ちらりと横顔を見てみると、彼女も微笑んでいて私と同じようにこの時間を楽しんでくれているようだった。
「土井先生の手って大きいですよね。」
ふと、たまみさんが私の手に指を絡めて言った。
「たまみさんの手が小さいんですよ。」
私は彼女の小さくて柔らかな手をぎゅっと握りしめた。
「…チョークを持つ手も、筆を持つ手も、拳を握りしめた手も、私に触れてくれる手も…全部好き…。」
甘く囁く彼女の声に胸が高鳴る。
「何だか…今日は、甘えた感じですね…。」
「…イヤですか?」
「いや…、可愛い。」
あんまり可愛くて自然と言葉が出た。
「…朝、きみを見たときからそう思ってたんだ。」
「ほんとに?」
「うん。…なかなか言えなくて…。」
「土井先生…」
「…名前。」
「え?」
「…学園の外で二人でいるときは…名前で呼んでくれるかい?」
「……半助さん…」
「…たまみ…」
私はゆっくりと彼女を抱き寄せた。
腕のなかで私に寄り添ってくる彼女が愛しくて、ぎゅっときつく抱きしめる。
そうして、私達はそのまま暫くお互いの鼓動を感じていた。
「…あ、四つ葉!」
不意に彼女が芝生に腕を伸ばして、白詰草の葉を手に取った。
その小さな掌には、四つ葉のクローバー。
「四つ葉か。珍しいね。」
たまみさんは私にその四つ葉を差し出した。
「半助さんに、幸運が訪れますように。」
眩しいくらいの優しい笑顔。
私は四つ葉を受け取ると、彼女の結い上げた髪にさした。
「…たまみにも、幸運が訪れますように。」
嬉しそうに微笑むその瞳をじっと見つめた。
彼女の頬が朱に染まっていく。
風が草原をかけぬけ、彼女の前髪を揺らす。
私だけを見つめる愛らしい彼女の頬に手を触れると、彼女はそっと目を閉じた。
二人だけの静かな時間のなか、私達はゆっくりと唇を重ねた。
補習やら残務やらで休日も忙しく実際に時間がなかったのは確かだが、中々その言葉を言い出せなかったのだ。
しかし意を決して誘ってみたら、たまみさんはとても嬉しそうに喜んでくれた。
「どこか行きたいところはありますか?」
そう聞いてみると、たまみさんは少し考えてから微笑んで言った。
「緑の綺麗なところで…二人でのんびりしたいです。」
町へ行きたいとかではなく、自然のなかでのんびりしたいというのが彼女らしく感じた。
忙しい毎日だから、ゆっくりしたいという気持ちも分かる。
さて、どこに連れていこうか…。
そんなことを考え迷う時間さえ楽しかった。
当日。
少し早目に出て木の上で待つことにした。
サワサワと風に揺れる葉の音。
まだ明るい色の緑が日に透けて綺麗だった。
気持ちよくて少しうとうとしていると、たまみさんが学園の方から歩いてきた。
にこにこと今にも歌い出しそうな雰囲気。
そんな姿に私も嬉しくなった。
彼女が木の下まで来てきょろきょろと私を探す。
「ここです。」
「土井先生!」
下に降りると、彼女はぱぁっと花が咲いたような笑顔を見せた。
「お待たせしちゃいましたか?」
「いえ、私もさっき来たところです。…持ちましょうか?」
彼女が手に持っていた大きな風呂敷包みを受け取ると、思ったよりも重かった。
「お弁当、作りすぎちゃったかもしれません。」
照れたように笑う彼女。
「楽しみです。」
朝からそんなに頑張ってくれていたのかと思うと嬉しかった。
そして彼女を見て思わず足を止めた。
いつもと違い化粧をして高い位置で髪を結い上げた彼女はとても可愛らしかった。
…しかし、「可愛いですね」という一言が中々言えない。
私は言葉を濁して歩きだした。
のどかな田園風景のなかを二人で歩く。
隣でころころと笑う彼女が可愛くて。
他愛もない話なのに、彼女と話していると楽しくて。
ただ肩を並べて歩いている、それだけで心が弾んだ。
ゆっくり休憩しながらのんびり目的地まで歩いていくと、やがて小高い丘に着いた。
そこは見渡す限り芝生が広がっていて、白詰草がたくさん白く丸い花を咲かせていた。
近くには小川もあって、微かに水音が聞こえる。
温かい陽射しが柔らかく緑を照らし、心地良い風が草を揺らしていた。
「すごい…!気持ちいいところですねぇ…何だかお昼寝したくなる感じ…!」
たまみさんが笑顔で周りを見渡した。
一本の大きな木の下に行き、私はその木陰に大きな布を敷いた。
「ちょっと早いですが、ここでお昼にしましょうか。」
「はい!」
たまみさんがお弁当をあけてくれた。
玉子焼きや色とりどりの野菜、お肉を炒めたものや揚げ物等、どれも美味しそうだった。
「美味しそうですね…!これだけ作るのは大変だったでしょう。」
「はりきって作りすぎちゃいました。お口にあえばいいんですけど…。」
たまみさんが照れながら微笑む。
その表情が、気持ちが嬉しくて、私も自然と微笑んだ。
まずはひとつ、甘辛く炒められたお肉を頬張ってみる。
「うん、美味しい!」
「えへへ、よかったです。」
たまみさんが嬉しそうにおにぎりも渡してくれた。
どのおかずもとても美味しくて、私はぱくぱくと勢いよく食べてしまった。
「青空のしたでこんなに美味しいご馳走が食べられるなんて幸せだな…。」
「ふふふ、頑張ったかいがあります。」
彼女が空になったお弁当箱を横において、竹筒に入った水を渡してくれた。
「土井先生のために頑張って料理を覚えたのが役にたってよかったです。」
「…私のために……?」
驚いて聞くと、彼女は頬を染めて頷いた。
「自分のためでもありますが…土井先生に美味しいご飯を作れたらいいなぁって…そう思いながら頑張ってるんです。」
たまみさんは私の腕にそっと寄り添い俯いた。
…なんて可愛いことを…。
私は彼女の手に自分の手を重ねた。
「…ありがとう。」
たまみさんは嬉しそうに微笑んで景色を眺めていた。
暫くそうして寄り添ったまま二人で佇む。
不思議と沈黙も心地いい…。
ふと、彼女はどうなのだろうと気になった。
ちらりと横顔を見てみると、彼女も微笑んでいて私と同じようにこの時間を楽しんでくれているようだった。
「土井先生の手って大きいですよね。」
ふと、たまみさんが私の手に指を絡めて言った。
「たまみさんの手が小さいんですよ。」
私は彼女の小さくて柔らかな手をぎゅっと握りしめた。
「…チョークを持つ手も、筆を持つ手も、拳を握りしめた手も、私に触れてくれる手も…全部好き…。」
甘く囁く彼女の声に胸が高鳴る。
「何だか…今日は、甘えた感じですね…。」
「…イヤですか?」
「いや…、可愛い。」
あんまり可愛くて自然と言葉が出た。
「…朝、きみを見たときからそう思ってたんだ。」
「ほんとに?」
「うん。…なかなか言えなくて…。」
「土井先生…」
「…名前。」
「え?」
「…学園の外で二人でいるときは…名前で呼んでくれるかい?」
「……半助さん…」
「…たまみ…」
私はゆっくりと彼女を抱き寄せた。
腕のなかで私に寄り添ってくる彼女が愛しくて、ぎゅっときつく抱きしめる。
そうして、私達はそのまま暫くお互いの鼓動を感じていた。
「…あ、四つ葉!」
不意に彼女が芝生に腕を伸ばして、白詰草の葉を手に取った。
その小さな掌には、四つ葉のクローバー。
「四つ葉か。珍しいね。」
たまみさんは私にその四つ葉を差し出した。
「半助さんに、幸運が訪れますように。」
眩しいくらいの優しい笑顔。
私は四つ葉を受け取ると、彼女の結い上げた髪にさした。
「…たまみにも、幸運が訪れますように。」
嬉しそうに微笑むその瞳をじっと見つめた。
彼女の頬が朱に染まっていく。
風が草原をかけぬけ、彼女の前髪を揺らす。
私だけを見つめる愛らしい彼女の頬に手を触れると、彼女はそっと目を閉じた。
二人だけの静かな時間のなか、私達はゆっくりと唇を重ねた。